源氏物語 第36帖 柏木(6)
薫の誕生
女三の宮はその日の夕方から産気づき、お産の兆しと気づいた人々が騒いで源氏に知らせたので、源氏は驚いて渡ってくる。源氏は心の内で、ああ残念だ、疑いの交じらない思いでお世話するのなら珍しく嬉しいことだろうにと思うが、人には気配を漏らすまいと、験者を召し、修法を絶え間なく行わせたので、験のある僧たちが皆参って加持をする。宮は一晩中苦しんで、日が昇る頃に男子が生まれる。男君と聞いて、源氏は、こうした秘密の子があいにくはっきりした顔つきで生まれたら困ったことだ、女なら紛れて人に見られないので安心なのにと思うが、また、このような疑いの交じった子なら、手のかからない男の子でよかったとも思う。それにしても不思議なことだ、自分が一生恐ろしいと思っていたことの報いなのだろう、この世でこのような思いがけないことで報いを受けたのだから、来世の罪も少し軽くなるだろうかと思う。人々はそんな事情を知らないので、このように格別な母宮から晩年に生まれた子への源氏の寵愛は、さぞ大きいだろうと思って、心を込めてお仕えする。

- 1宮宮みやはははこのこのこのくれくれくれつつつ方方かたよりよりより惱惱なやましうましうましゅうししし給給たまひひいけるけるけるをををそのそのその御御おん氣色氣色けしきととと見見み奉奉たてまつりりりしりしりしりたるたるたる人々人々ひとびとさわぎさわぎさわぎみちみちみちててておとゞおとゞおとどにににももも聞聞きこえええたりたりたりけれけれければばば驚驚おどろきききててて渡渡わたりりり給給たまへへえりりり。。。御心御心みこころのののうちうちうちにににははは、、、あなあなあなくちをしくちをしくちおしややや、、、思思おもひひいまじるまじるまじる方方かたなくなくなくててて見見み奉奉たてまつらららましかましかましかばばば珍珍めずらしくしくしく嬉嬉うれしからしからしからましましましとととおぼせおぼせおぼせどどど、、、人人ひとにににははは氣色氣色けしき漏漏もらさらさらさじじじとととおぼせおぼせおぼせばばば、、、げんざげんざげんざなどなどなどめしめしめしみずほふみずほふみずほうはははいついついつとととなくなくなく不不ふ斷斷だんにににせせせらるれらるれらるればばば、、、僧僧そうどもどもどもののの中中なかにににげんげんげんあるあるあるかぎりかぎりかぎり皆皆みな參參まいりりりててて加加か持持じまゐりまゐりまいりさわぐさわぐさわぐ。。。夜夜よひとひとひと夜夜よ惱惱なやみみみあかさあかさあかさせせせ給給たまひひいててて日日ひさしさしさしあがるあがるあがる程程ほどににに生生うまれれれ給給たまひひいぬぬぬ。。。
- 2男男おとこ君君ぎみととときゝきゝきき給給たまふふうににに、、、かくかくかく忍忍しのびびびたるたるたることことことのののあやにくあやにくあやにくにににいちじるきいちじるきいちじるき顏顏かおつきつきつきにてにてにてさしさしさしいでいでいで給給たまへへえらむらむらんこそこそこそ苦苦くるしかるしかるしかるべけれべけれべけれ、、、女女おんなこそこそこそ何何なにとととなくなくなくまぎれまぎれまぎれ、、、數數あま多多たののの人人ひとののの見見みぬぬぬものものものなれなれなればばばやすけれやすけれやすけれとととおぼすおぼすおぼすににに、、、又又またかくかくかく心苦心苦こころぐるしきしきしきうたがひうたがひうたがいまじりまじりまじりたるたるたるにににてててははは心心こころやすきやすきやすき方方かたににに物物ものししし給給たまふふうもももいといといとよしよしよしかしかしかし、、、さてもさてもさてもあやしあやしあやしややや、、、我我わががが世世よととと共共ともににに恐恐おそろしししととと思思おもひひいししし事事ことのののむくいむくいむくいなななめりめりめりこのこのこの世世よにてにてにてかくかくかく思思おもひひいかけかけかけぬぬぬことことことにににむかはりむかはりむかわりぬれぬれぬればばば後後のちののの世世よののの罪罪つみももも少少すこしししかろみかろみかろみなななむむんやややとととおぼすおぼすおぼす。。。人人ひとはははたたたあらあらあらぬぬぬことことことなれなれなればばばかくかくかく心心こころことことことなるなるなる御御おんはらはらはらにてにてにて末末すえににに出出いでででおはしおはしおわしたるたるたるおぼえおぼえおぼえ、、、いみじかりいみじかりいみじかりなななむむんととと思思おもひひいいとなみいとなみいとなみ仕仕つかうまつるうまつるうまつる。。。
現代語訳
宮はこの日の夕方からお苦しみになっていたのを、そのお産の兆候と拝見して気づいた人々が騒ぎ立てて、源氏にも申し上げたので、源氏は驚いてお渡りになった。お心の内では、ああ残念なことだ、疑いの思いの交じることなくお世話申し上げるのであったら、珍しく嬉しいことであろうに、とお思いになるけれど、人には様子を漏らすまいとお思いになるので、験者などを召し、御修法はいつと限らず絶え間なく行わせなさるので、僧たちの中で験のある者は皆参上して、加持をして騒ぐ。宮は一晩中苦しみ明かしなさって、日が昇る頃にお生まれになった。
源氏は男君とお聞きになると、このように秘密にしていることの子が、あいにくはっきりと父親に似た顔つきで出ていらっしゃったら、困ったことになるだろう、女なら何となく紛れて、大勢の人が見るものでもないので安心なのだが、とお思いになるが、また、このように気がかりな疑いの交じった子では、世話の手のかからない男の子でいらっしゃるのも、たいそうよいことだ、それにしても不思議なことだ、自分が生涯にわたって恐ろしいと思っていたことの報いなのだろう、この世でこのように思いがけないことで報いを受けたのだから、来世の罪も少しは軽くなるだろうか、とお思いになる。人々は、また、そのような事情があるとは知らないことなので、このように格別なご身分の母宮から、源氏の晩年にお生まれになった子へのご寵愛は、さぞたいへんなものだろうと思って、心を込めてお仕えする。
意訳
女三の宮は一晩苦しんで男子(薫)を産む。源氏は疑いを抱きながらも、人には気配を漏らさない。
源氏は、これはかつて藤壺と犯した罪の報いだろうと思い、来世の罪が少しは軽くなるかと考える。
語釈・文法注
文法
- 「いちじるき顏つき」(あやにくにいちじるき顏つきにて)
- はっきりとした顔つき。父親の柏木に似ていることがはっきり分かる顔つき。
- 「我が世と共に恐しと思ひし事」(我が世と共に恐しと思ひし事のむくい)
- 源氏が生涯恐れてきたこと。藤壺との密通と、冷泉帝の誕生を指す。
- 「むかはる」(思ひかけぬことにむかはりぬれば)
- 報いを受ける。代償となる。
解説
薫の誕生の場面である。源氏は、生まれた子が男であることを、秘密が顔つきで露見しかねないと恐れる一方、世話の手のかからない男でよかったとも思う。源氏の心の複雑さが、冷静に描かれている。
源氏は、この出来事をかつて自分が藤壺と犯した罪の報いと受け止める。父桐壺帝を裏切った源氏が、今度は若い妻に裏切られる。因果応報の構図が、源氏自身の口から語られることで、物語の主題が鮮明になる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、722–723頁(コマ72)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日