源氏物語 第36帖 柏木(5)
宮の返り事
柏木が紙燭を取り寄せて宮の返事を見ると、筆跡もはかなげで美しく、心苦しく聞きながらどうしてお見舞いできましょう、ただ推し量ってください、残るだろうとあるのは、私も一緒に煙となって消えてしまいたい、つらいことを思い乱れる煙比べに後れはしないと、それだけ書いてある。柏木は哀れで恐れ多く思い、この煙だけがこの世の思い出だろう、はかないことだと、いっそう泣いて、臥したまま休み休み返事を書く。言葉も続かず鳥の足跡のような文字で、行方もない空の煙となっても、思うあたりを離れはしない、夕べには特に空を眺めてほしい、咎める人目も今は気にせず、かいのない哀れだけでもかけてほしいと書き乱し、苦しさが増すので、小侍従に、夜が更けないうちに帰って、最期の様子だったと伝えてほしい、今さら人が怪しむのは、死後のことまで思うと苦しい、どんな前世の因縁で、このことがこんなに心にしみたのだろうと、泣く泣く奥へ入る。いつもは向かいに座らせて、たわいない話までさせたがったのに、言葉少なであるのを哀れに思い、小侍従は立ち去りかねる。乳母も柏木の様子を語って泣き惑う。大臣は、昨日今日少しよかったのに、どうしてこんなに弱って見えるのかと騒ぐが、柏木は、やはり生きとどまれそうにないと言って、自らも泣く。

- 1しそくしそくしそくめしめしめしててて御御おん返返かえりりり見見み給給たまへへえばばば、、、御御おん手手てももも猶猶なおいといといとはかなげはかなげはかなげにににをかしきをかしきおかしきほどほどほどににに書書かいいい給給たまひひいててて「「「心苦心苦こころぐるしうしうしゅうきゝきゝききながらながらながらいかでいかでいかでかかかははは、、、唯唯ただおしおしおしはかりはかりはかり、、、殘殘のこらららむむんとととあるあるあるははは、、、立立たちちちそひそひそいててて消消きえええやややしししなななましましましうきうきうきことことことををを思思おもひひいみだるゝみだるゝみだるる煙煙けぶりくらべくらべくらべにににおくるおくるおくるべうべうびょうははは」」」とととばかりばかりばかりあるあるあるををを哀哀あわれにににかたじけなしかたじけなしかたじけなしととと思思おもひひいたまふたまふたまう。。。「「「いでやいでやいでやこのこのこの煙煙けぶりばかりばかりばかりこそこそこそはははこのこのこの世世よののの思思おもひひいいでいでいでならならならめめめ。。。はかなくはかなくはかなくもももありありありけるけるけるかなかなかな」」」ととと、、、いとゞいとゞいとどなきなきなきまさりまさりまさり給給たまひひいててて御御おん返返かえりりりふしふしふしながらながらながらうちうちうちやすみやすみやすみつゝつゝつつ書書かいいい給給たまふふう。。。言言ことののの葉葉はのののつゞきつゞきつづきもももなくなくなくあやしきあやしきあやしき鳥鳥とりののの跡跡あとのののやうやうようにてにてにて、、、「「「行行ゆくくくへへへなきなきなき空空そらのののけぶりけぶりけぶりとととなりなりなりぬぬぬともともとも思思おもふふうあたりあたりあたりをををたちたちたちははははなれはなれはなれじじじ。。。夕夕ゆうべはははわきわきわきててて詠詠ながめめめさせさせさせ給給たまへへえ。。。咎咎とがめめめ聞聞きこえええさせさせさせ給給たまははわむむん人人ひとめめめをををももも今今いまははは心心こころやすくやすくやすくおぼしおぼしおぼしなりなりなりてててかひかひかいなきなきなき哀哀あわれをををだにだにだにももも絕絕たえええずずずかけかけかけさせさせさせ給給たまへへえ」」」などなどなどかきかきかきみだりみだりみだりててて心心こころちちちののの苦苦くるしさしさしさまさりまさりまさりけれけれければばば
- 2「「「よしよしよしいたういたういとう更更ふけけけぬぬぬさきさきさきににに歸歸かえりりり參參まいりりりたまひたまひたまいてててかくかくかく限限かぎりのののさまさまさまににになむなむなんとととももも聞聞きこえええ給給たまへへえ今今いま更更さらににに人人ひとあやしあやしあやしととと思思おもひひいあはせあはせあわせむむんををを、、、我我わががが世世よののの後後のちさへさへさへ思思おもふふうこそこそこそ苦苦くるしけれしけれしけれ。。。いかなるいかなるいかなる昔昔むかしののの契契ちぎりにてにてにていといといとかゝるかゝるかかることことことしもしもしも心心こころにににしみしみしみけむけむけん」」」とととなくなくなくなくなくなくゐざりゐざりいざり出出いででで給給たまひひいぬれぬれぬればばば、、、例例れいはははむごむごむごにににむかへむかへむかえすゑすゑすえてててすゞろすゞろすずろごとごとごとをををさへさへさへいはいはいわせせせまほしうまほしうまほしゅうししし給給たまふふうをををことことことずくなずくなずくなにてにてにてもももととと思思おもふふうががが哀哀あわれなるなるなるににに、、、えええもももいでいでいでやらやらやらずずず。。。御御おん有有あり樣樣さまをををめのとめのとめのとももも語語かたりりりててていみじういみじういみじゅう泣泣なきききまどふまどふまどう。。。おとゞおとゞおとどなどなどなどののの覺覺おぼしししたるたるたる氣色氣色けしきぞぞぞいみじきいみじきいみじきややや。。。「「「昨日昨日きのう今今け日日きょう少少すこししし宜宜よろしかりしかりしかりつるつるつるをををなどなどなどかかかいといといと弱弱よわげげげにににははは見見みえええ給給たまふふう」」」とととさわぎさわぎさわぎ給給たまふふう。。。「「「何何なにかかか猶猶なおとまりとまりとまり侍侍はべるるるまじきまじきまじきなななめりめりめり」」」ととと聞聞きこえええ給給たまひひいてててみづからみづからみずからもももないないない給給たまふふう。。。
現代語訳
柏木が紙燭を取り寄せて宮のお返事をご覧になると、ご筆跡もやはりたいそうはかなげで、美しい程度にお書きになって、「お気の毒にお聞きしながら、どうしてお見舞いなどできましょう。ただお察しください。『残るだろう』とおっしゃるのは、私もあなたに立ち添って、煙となって消えてしまいたいものです。つらいことを思い乱れる、その煙比べに、私も後れはしないでしょう」とだけあるのを、哀れに恐れ多いとお思いになる。「いやもう、この煙のことだけが、この世の思い出なのだろう。はかないことであったよ」と、いっそう泣きまさりなさって、お返事を、臥したまま休み休みお書きになる。言葉の続きもなく、奇妙な鳥の足跡のような筆跡で、「行方もない空の煙となってしまっても、思うあなたのあたりを離れはしないでしょう。夕べには特に空を眺めてください。お咎め申し上げなさるだろう人目をも、今はもう気楽にお思いになって、かいのない哀れだけでも、絶えずかけてください」などと書き乱して、気分の苦しさがまさったので、
「もうよい。たいそう夜が更けないうちに帰参なさって、このように最期の様子でしたとも宮に申し上げてください。今さら人が怪しいと思い合わせるだろうことを、自分の死後のことまで思うのが苦しいのだ。どのような前世の因縁で、たいそうこのようなことが、これほど心にしみたのだろう」と、泣く泣く奥へいざって入っていらっしゃったので、小侍従は、いつもは自分を向かいに座らせて、とりとめのない話までさせたがりなさるのに、言葉少なであることだと思うのが哀れで、立ち去ることもできない。柏木のご様子を、乳母も語って、ひどく泣き惑う。父の大臣などがお嘆きになっている様子は、ひどいものだ。「昨日今日は少しよかったのに、どうしてたいそう弱々しくお見えになるのか」と騒ぎなさる。柏木は「いえ何、やはり生きとどまれそうにないようです」と申し上げなさって、ご自分もお泣きになる。
意訳
宮の返事を見た柏木は、臥したまま、死んで空の煙となっても宮のあたりを離れないという返事を書く。
柏木は小侍従に最期の様子を宮に伝えるよう頼み、言葉少なに奥へ入る。父の大臣は柏木の衰えに騒ぐ。
語釈・文法注
文法
- 「煙くらべ」(思ひみだるゝ煙くらべに)
- どちらの思いの煙がまさるかを競うこと。柏木の「もえむ煙」の歌を受ける。
- 「鳥の跡」(あやしき鳥の跡のやうにて)
- 鳥の足跡のように乱れた筆跡。
- 「むご」(例はむごにむかへすゑて)
- 底本の表記。向かいに迎え座らせて、の意とされる。
解説
女三の宮の返事は、柏木の「煙」の歌に応えて、自分も煙となって消えたいと詠む。宮が柏木に初めて心を寄せたかのような言葉であり、柏木はそれを「この世の思ひいで」とする。柏木の返事は乱れた筆跡で、死後も宮のそばを離れないと誓う。
小侍従は、いつもは饒舌な柏木が言葉少なであることに、別れの近さを感じる。柏木の最期の文のやりとりは、二人の恋の結末を象徴している。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、720–723頁(コマ71–72)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日