源氏物語 第36帖 柏木(3)
葛城の聖の加持
父の大臣は、葛城山から招いた尊い行者を待ち受けて加持をさせようとする。修法や読経も大げさに騒ぎ立てて行われる。人の勧めるままに、世に知られず深い山に籠っている修験者なども、弟の君達を遣わして探し出させるので、無愛想で嫌な山伏たちも大勢集まる。柏木の病状は、どこということなく心細く思って、時々声を上げて泣くばかりである。陰陽師たちも多くは女の霊の祟りと占うので、大臣はそうかとも思うが、一向に物の怪は現れないので、思い悩んでこのような山奥まで探させたのである。この聖は背が高く目つきが鋭くて、荒々しく陀羅尼を読むので、柏木は、ああ嫌だ、罪深い身なのか、陀羅尼の声の高いのはたいそう恐ろしくていよいよ死にそうだと言って、そっと抜け出して小侍従と語らう。大臣はそれを知らず、休んでいると女房たちに伝えさせたので、そう思って、ひそかにこの聖と話をする。年は取っても華やかで陽気な大臣が、このような者たちと向かい合って、柏木が病みはじめた様子や、何ということもなく弱っていく様子を語り、本当にこの物の怪が現れるように祈ってほしいと、こまやかに頼む姿はたいそう哀れである。

- 1おとゞおとゞおとどはははかしこきかしこきかしこきおこなひおこなひおこない人人びと葛葛かずら城城き山山やまよりよりよりさうじさうじそうじ出出いでででたるたるたる、、、待待まちちちうけうけうけ給給たまひひいててて加加か持持じ參參まいらららせせせむむんとととししし給給たまふふう。。。みずほふみずほふみずほうどきやうどきやうどきょうなどなどなどもももいといといとおどろおどろしうおどろおどろしうおどろおどろしゅうさわぎさわぎさわぎたりたりたり。。。人人ひとののの申申もうすすすまゝまゝままにににさまざまさまざまさまざまひじりひじりひじりだつだつだつげんざげんざげんざなどなどなどののの、、、をさをさをさをさおさおさ世世よにににももも聞聞きこえええずずず深深ふかききき山山やまににに籠籠こもりりりたるたるたるなどなどなどをををももも、、、弟弟おとうとののの君君きみだちだちだちをををつかはしつかはしつかわしつゝつゝつつ尋尋たずねねねめすめすめす、、、にけにくゝにけにくゝにけにくく心心こころづきづきずきなきなきなき山山やま伏伏ぶしどもどもどもなどなどなどもももいといといと多多おおくくくまゐるまゐるまいる。。。煩煩わずらひひい給給たまふふうさまさまさまのののそこはかとそこはかとそこはかとなくなくなく物物ものををを心心こころぼそくぼそくぼそく思思おもひひいてててねねねをををのみのみのみ時々時々ときどきはははなきなきなき給給たまふふう。。。陰陰おん陽陽よう師師じなどなどなどももも多多おおくくくははは女女おんなののの靈靈りょうとととのみのみのみ占占うらなひひい申申もうしししけれけれければばばさるさるさることことこともももやややとととおぼせおぼせおぼせどどど、、、更更さらにににものものものゝゝのけけけののの顯顯あらわれれれ出出いでででくるくるくるもももなきなきなきににに、、、おもほしおもほしおもおしわづらひわづらひわずらいてててかゝるかゝるかかる隈隈くま々々ぐまをををももも尋尋たずねねね給給たまふふうなりなりなりけりけりけり。。。
- 2このこのこのひじりひじりひじりもももたけたけたけたかやかたかやかたかやかにににまぶしつべたましくまぶしつべたましくまぶしつべたましくててて、、、荒荒あららからからかにににおどろおどろしくおどろおどろしくおどろおどろしく陀陀だ羅羅ら尼尼に讀讀よむむむををを「「「いでいでいであなあなあなにくにくにくややや、、、罪罪つみののの深深ふかききき身身みにににやややあらあらあらむむん、、、陀陀だ羅羅ら尼尼にののの聲聲こえ高高たかきききはははいといといとけけけおそろしくおそろしくおそろしくててていよいよいよいよいよいよしぬしぬしぬべくべくべくこそこそこそ覺覺おぼゆれゆれゆれ」」」とてとてとて、、、やをらやをらやおらすべりすべりすべり出出いでででゝゝてこのこのこの侍侍じ從從じゅうととと語語かたらひらひらい給給たまふふう。。。おとゞおとゞおとどはははさささもももしりしりしり給給たまははわずずず「「「うちうちうちやすみやすみやすみたるたるたる」」」ととと人々人々ひとびとしししててて申申もうさささせせせ給給たまへへえばばば、、、さささおぼしおぼしおぼしててて忍忍しのびやかびやかびやかにににこのこのこの聖聖ひじりととと物語物語ものがたりししし給給たまふふう。。。おとなびおとなびおとなび給給たまへへえれれれどどど猶猶なお花花はなやぎやぎやぎたるたるたるところところところつきつきつきててて物物ものわらひわらひわらいししし給給たまふふうおとゞおとゞおとどののの、、、かゝるかゝるかかるものものものどもどもどもととと向向むかひひい居居いてててこのこのこの煩煩わずらひひいそめそめそめ給給たまひひいししし有有あり樣樣さま、、、何何なにととともももなくなくなくうちうちうちたゆみたゆみたゆみつゝつゝつつおもりおもりおもり給給たまへへえるるることことこと「「「誠誠まことにににこのこのこのものものものゝゝのけけけあらはるあらはるあらわるべくべくべく念念ねんじじじ給給たまへへえ」」」などなどなどこまやかこまやかこまやかににに語語かたらひらひらい給給たまふふうもももいといといと哀哀あわれれれなりなりなり。。。
現代語訳
父の大臣は、尊い行者で葛城山から招き出した者を待ち受けなさって、加持をおさせになろうとなさる。御修法や読経なども、たいそう大げさに騒ぎ立てて行われた。人の申すままに、さまざまな聖めいた修験者などで、ほとんど世にも知られず深い山に籠っているような者なども、弟の君達を遣わしては探し出してお召しになるので、無愛想で気に入らない山伏どもなども、たいそう大勢参上する。柏木の患っていらっしゃる様子は、どこということもなく、ただ何となく心細く思って、時々は声を上げて泣いてばかりいらっしゃる。陰陽師なども、多くは女の霊の祟りとばかり占い申したので、大臣もそういうこともあろうかとお思いになるが、一向に物の怪が現れ出てくることもないので、思い悩みなさって、このような山の奥々までもお探しになるのであった。
この聖も、背が高く、目つきが鋭く恐ろしげで、荒々しく大げさに陀羅尼を読むのを、柏木は「ああ、いやだ。罪の深い身なのだろうか、陀羅尼の声の高いのは、たいそう気味が悪く恐ろしくて、いよいよ死んでしまいそうに思われる」と言って、そっと寝所を抜け出して、この侍従(小侍従)と語り合いなさる。大臣はそうともご存じなく、「休んでいる」と女房たちを通じて申し上げさせなさったので、そうお思いになって、ひそやかにこの聖と話をなさる。年を取っていらっしゃるけれど、やはり華やかなところがあって、よく笑いなさる大臣が、このような者たちと向かい合って、柏木が患いはじめなさった様子や、何ということもなく次第に衰えて重くなっていらっしゃることを話し、「本当にこの物の怪が現れるように祈ってください」などと、こまやかに頼み込みなさるのも、たいそう哀れである。
意訳
父の大臣は葛城山の聖や山伏を呼び集めて加持祈祷をさせるが、物の怪は現れず、柏木はただ心細く泣いている。
柏木は聖の陀羅尼を恐れて抜け出し小侍従と語らい、何も知らない大臣は聖に熱心に祈祷を頼む。
語釈・文法注
文法
- 「げんざ」(ひじりだつげんざなどの)
- 験者。加持祈祷によって霊験を表す修行者。
- 「にけにくし」(にけにくゝ心づきなき山伏ども)
- 愛想がなく、無骨である。
- 「まぶしつべたまし」(まぶしつべたましくて)
- 目つきが鋭く恐ろしげである。
- 「陀羅尼」(おどろおどろしく陀羅尼讀むを)
- 梵語のまま唱える長い呪文。
解説
父の大臣は、息子の病を治そうと必死である。華やかで陽気な大臣が、無骨な山伏と向かい合って、こまやかに頼み込む姿は、親の情の深さを伝えている。しかし、大臣は柏木の病の本当の原因を知らない。
柏木の病は物の怪によるものではなく、罪の意識と恋の苦しみによるものである。陀羅尼の声を恐れて抜け出す柏木の姿は、罪の深さにおびえる心を表している。父の祈りと子の真実との隔たりが、この場面を一層哀れにしている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、720–721頁(コマ71)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日