源氏物語 第35帖 若菜下(54)
落葉の宮との別れ
柏木が父の邸に移されることになり、妻の女二の宮(落葉の宮)の嘆く様子が、また心苦しい。柏木は、何事もなく過ごしていた月日は、のんびりとあてにして、それほど深い愛情でもなかったが、今はこれが永遠の別れの門出かと思うと、哀れで悲しく、後に残されて嘆くだろう宮のことが恐れ多く、いたましく思う。宮の母の一条御息所もひどく嘆き、親はともかく、夫婦は何があっても離れないのが普通なのに、このように別れて、回復するまで過ごすのは心配だろうから、しばらくここで養生してほしいと言って、几帳だけを隔てて看病する。柏木は、もっともです、人数にも入らない身で、及びがたいご縁を許されたしるしには、長生きして、取るに足りない身分も少しは人並みになるところをお見せしたいと思っていたが、こうなってしまっては、深い志さえ見届けていただけないのではと思うと、行く気になれないと言い、互いに泣いて、すぐには移れない。父邸の母北の方は心配して、どうしてまず私に会おうとは思わないのか、自分は気分が少し悪く心細い時は、大勢の子の中でまずあなたに会いたく、頼もしく思うのに、こんなに気がかりなことをと恨むのも、またもっともである。柏木は長男なので特別にかわいがられてきて、今もなお、少しの間会わないのもつらいとされているので、柏木も、命の限りと思われる時に、母に会わないのは罪深く、気が晴れないだろうと思う。

- 1女女おんな宮宮みやのののおぼしおぼしおぼしたるたるたるさまさまさま又又またいといといと心心こころぐるしぐるしぐるし。。。事事ことなくなくなくてててすぐすすぐすすぐす月月つき日日ひははは心心こころのどかのどかのどかにににあいなあいなあいなだのみだのみだのみしししててていといといとしもしもしもあらあらあらぬぬぬ御御おん志志こころざしなれなれなれどどど今今いまはははととと別別わかれれれ奉奉たてまつるるるべきべきべきかどかどかどでででにににやややととと思思おもふふうははは哀哀あわれににに悲悲かなしくしくしく、、、後後おくれれれててて思思おぼししし歎歎なげかかかむむんことことことのののかたじけなきかたじけなきかたじけなきをををいみじいみじいみじととと思思おもふふう。。。母母はは御御み息息やす所所どころもももいといといといみじくいみじくいみじく歎歎なげききき給給たまひひいててて「「「世世よののの事事こととしてとしてとして親親おやをををばばばなほなほなおさるさるさるものものものにににおきおきおき奉奉たてまつりりりてててかゝるかゝるかかる御御おんなからひなからひなからいはははとととあるあるあるをりをりおりもももかゝるかゝるかかるをりをりおりももも離離はなれれれ給給たまははわぬぬぬこそこそこそ例例れいのののことことことなれなれなれ。。。かくかくかく引引ひききき別別わかれれれてててたひらかたひらかたいらかににに物物ものししし給給たまふふうまでまでまでもももすぐしすぐしすぐし給給たまははわむむんががが心心こころづくしづくしずくしなるなるなるべきべきべきことことことををを、、、暫暫しばしししこゝこゝここにてにてにてかくかくかくててて試試こころみみみ給給たまへへえ」」」ととと御御おん傍傍かたわらににに御御み几几き帳帳ちょうばかりばかりばかりををを隔隔へだてててゝゝて見見み奉奉たてまつりりり給給たまふふう。。。「「「ことわりことわりことわりややや、、、數數かずならならならぬぬぬ身身みにてにてにて及及およびびび難難かたききき御御おんなからひなからひなからいににになまじひなまじひなまじいににに許許ゆるささされれれ奉奉たてまつりりりてててさぶらふさぶらふさぶらうしるししるししるしにににははは長長ながくくく世世よににに侍侍はべりりりてててかひかひかいなきなきなき身身みののの程程ほどももも少少すこししし人人ひととととひとしくひとしくひとしくなるなるなるけぢめけぢめけじめをををもももややや御覽御覽ごらんぜぜぜらるゝらるゝらるるとととこそこそこそ思思おもううう給給たまへへえつれつれつれいといといといみじくいみじくいみじくかくかくかくさへさへさへなりなりなり侍侍はべれれればばば深深ふかききき志志こころざしをををだにだにだに御覽御覽ごらんじじじはてはてはてられられられずずずやややなりなりなり侍侍はべりりりなむなむなんととと思思おもううう給給たまふるふるうるににになむなむなん、、、とまりとまりとまりがたきがたきがたき心地心地ここちにににもももえええゆきゆきゆきやるやるやるまじくまじくまじく思思おもひひい給給たまへへえらるゝらるゝらるる」」」などなどなど、、、かたみかたみかたみににになきなきなき給給たまひひいてててとみとみとみにににもももえええわたりわたりわたり給給たまははわねねねばばば、、、
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現代語訳
女宮(落葉の宮)のお嘆きになる様子が、またたいそう心苦しい。柏木は、何事もなく過ごしていた月日は、のんびりとわけもなくあてにして、それほど深くもないご愛情であったけれど、今はこれが最後とお別れ申し上げる門出なのだろうかと思うと、しみじみと悲しく、後に残されて嘆きなさるだろうことが恐れ多く、いたましいと思う。母御息所(一条御息所)もたいそうひどくお嘆きになって、「世の常として、親はやはりそれはそれとしておき申し上げて、このような夫婦の間柄は、どのような時でも離れないのが普通のことです。このように引き別れて、回復なさるまで過ごしなさるのは、気がもめることでしょうから、しばらくここで、このようにして養生してごらんなさい」と、おそばに御几帳だけを隔てて看病申し上げなさる。柏木は、「ごもっともです。人数にも入らない身で、及びがたいご縁に、なまじ許されてお仕えしているしるしには、長く生きて、かいのない身の程も、少しは人並みになるところをご覧いただけるかと思っておりましたのに、たいそうひどく、このようにまでなってしまいましたので、深い志さえ見届けていただけなくなってしまうのではないかと存じまして、とどまりがたい気持ちの中でも、行く気にもなれないように思われます」などと言って、互いにお泣きになって、すぐにはお移りになれないので、
また母北の方(柏木の母)は気がかりにお思いになって、「どうして、まず私に会おうとはお思いにならないのですか。私は気分も少しいつもと違って心細い時には、大勢の子の中でも、まず取り分けて会いたくも、頼もしくも思われますのに。このようにたいそう気がかりなことを」と恨み申し上げなさるのも、またたいそうもっともなことである。人より先に生まれた長男だったからであろうか、取り分けてかわいがり慣れていらっしゃったのを、今もなお、いとおしくなさって、少しの間でも会わないのをつらいものとなさっているので、柏木も、気分がこのように最期と思われる時に、母にお会いしないのは、罪深く、気が晴れないことだろう。
意訳
柏木は、妻の落葉の宮との別れを悲しみ、一条御息所はここで養生するよう勧め、柏木もすぐには移れない。
柏木の母は、まず自分に会いに来ないことを恨み、柏木も、最期かもしれない時に母に会わないのは罪深いと思う。
語釈・文法注
文法
- 「あいなだのみ」(心のどかにあいなだのみして)
- あてにならないことを、わけもなくあてにすること。
- 「かどで」(今はと別れ奉るべきかどでにや)
- 門出。出発。ここでは死出の旅立ちを暗示する。
- 「心づくし」(すぐし給はむが心づくしなるべきことを)
- 心を尽くすこと、気をもむこと。
解説
柏木は、これまでそれほど深く愛していなかった落葉の宮との別れに、初めて深い悲しみを感じる。死を意識した柏木は、妻への愛情を改めて自覚するが、それはあまりに遅い。落葉の宮とその母一条御息所の嘆きは、次の柏木の巻、そして夕霧の巻へと続いていく。
柏木の母の「などかまづ見えむとは思ひ給ふまじき」という恨み言は、子を思う母の痛切な言葉である。柏木は、妻と母との間で引き裂かれる。この場面は、柏木の死の予感に満ちている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、716–717頁(コマ69)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日