源氏物語 第35帖 若菜下(42)
紫の上の気づかい
源氏は平静を装うが、物思いに乱れる様子ははっきりしているので、紫の上は、自分が死にそこなったのを気の毒に思って来てくださり、自分から心苦しく宮のことを思いやっているのだろうと思う。紫の上は、自分は気分がよくなったのに、宮が具合悪いのに早く戻ってこられたのはお気の毒だと言う。源氏は、確かに普通ではないように見えたが、特に悪いところもないので、安心していた、帝からはたびたびお使いがあり、今日もお手紙があったそうだ、朱雀院が宮のことを帝に頼んでいるので、帝もこのように気にかけているのだろう、少しでもおろそかにすると、両方がどうお思いになるか気の毒だと、うめくように言う。紫の上は、帝がお聞きになることよりも、宮ご自身が恨めしくお思いになるのがお気の毒だ、宮は気にしなくても、悪く言いなす人々がきっといるだろうと思うと、たいそう苦しいと言う。源氏は、本当に深く思う人のためには面倒な縁だ、あなたは何事も深く考えて、世間の人の思うことまで思いめぐらすが、自分はただ帝のお心ばかりを気にしている、浅い心だったとほほえんで紛らわす。源氏が一緒に六条院へ帰ろうと言うと、紫の上は、しばらくここで気楽にしていたい、まず宮のもとへ行って、宮のお心が慰められた頃にと答え、そのまま日が過ぎる。宮は、源氏が来ない日々を、源氏の薄情と思っていたが、今は自分の過ちもあってこうなったと思い、朱雀院が聞いたらどう思うかと、世の中が恐ろしい。

- 1つれなしつれなしつれなしづくりづくりずくり給給たまへへえどどど、、、物物もの思思おぼししし亂亂みだるゝるゝるるさまさまさまのののしるけれしるけれしるければばば、、、女女おんな君君ぎみ消消きえええ殘殘のこりりりたるたるたるいとほしみいとほしみいとおしみにににわたりわたりわたり給給たまひひいててて、、、人人ひとやりやりやりならならならずずず心苦心苦こころぐるしうしうしゅう思思おもひやりひやりいやり聞聞きこえええ給給たまふふうにににやややとととおぼしおぼしおぼしててて「「「心地心地ここちはははよろしくよろしくよろしくなりなりなりにににててて侍侍はべるるるををを、、、かのかのかの宮宮みやののの惱惱なやましげしげしげにににおはすおはすおわすらむらむらんににに疾疾とくくく渡渡わたりりり給給たまひひいにににしししこそこそこそいとほしけれいとほしけれいとおしけれ」」」ととと聞聞きこえええ給給たまへへえばばば「「「さかしさかしさかし。。。例例れいならならならずずず見見みえええ給給たまひひいしかしかしかどどど異異ことなるなるなる心地心地ここちにににもももおはせおはせおわせねねねばばばおのづからおのづからおのずから心心こころのどかのどかのどかににに思思おもひひいてててなむなむなん。。。內內うちよりよりよりははは度度たび々々たび御御おん使使つかいありありありけりけりけり。。。今今け日日きょうももも御御おん文文ふみありありありつつつとととかかかかのかのかの院院いんのののいといといとやんどなくやんどなくやんどなく聞聞きこえええつけつけつけ給給たまへへえれれればばば上上うえもももかくかくかくおぼしおぼしおぼしたるたるたるなるなるなるべしべしべし。。。少少すこしししおろかおろかおろかににになどなどなどもももあらあらあらむむんははは、、、こなたこなたこなたかなたかなたかなたおぼさおぼさおぼさむむんことことことのののいとほしきいとほしきいとおしきぞぞぞややや」」」とてとてとてうめきうめきうめき給給たまへへえばばば「「「內內うちののの聞聞きこししし召召めさささむむんよりよりよりもももみづからみづからみずからうらめしうらめしうらめしととと思思おもひひい聞聞きこえええ給給たまははわむむんこそこそこそははは心苦心苦こころぐるしからしからしからめめめ。。。われわれわれはははおぼしおぼしおぼし咎咎とがめめめずずずともともともよからよからよからぬぬぬさまさまさまににに聞聞きこえええなすなすなす人々人々ひとびと必必かならずずずあらあらあらむむんととと思思おもへへえばばば、、、いといといと苦苦くるしくしくしくなむなむなん」」」などなどなどのたまへのたまへのたまえばばば、、、
- 2「「「實實げにににあながちあながちあながちににに思思おもふふう人人ひとのののためためためにににははは煩煩わずらはしきはしきわしきよすがよすがよすがなれなれなれどどど、、、萬萬よろずにににたどりたどりたどり深深ふかきききことことこととととやかくやかくやかくやややとととおほよそおほよそおおよそ人人ひとののの思思おもははわむむん心心こころさへさへさへ思思おもひひいめぐらさめぐらさめぐらさるゝるゝるるををを、、、これこれこれはははたゞたゞただ國國こか王王おうののの御心御心みこころやややおきおきおき給給たまははわむむんとととばかりばかりばかりををを、、、はゞからはゞからはばからむむんははは淺淺あさききき心地心地ここちぞぞぞしししけるけるける」」」とととほゝゑみほゝゑみほほえみてててのたまひのたまひのたまいまぎらはすまぎらはすまぎらわす。。。「「「渡渡わたりりり給給たまははわむむんことことことははは諸諸もろ共共ともにににかへりかへりかえりてててををを、、、心心こころのどかのどかのどかにににあらあらあらむむん」」」とととのみのみのみ聞聞きこえええ給給たまふふうををを「「「こゝこゝここにににははは暫暫しばししし心心こころ安安やすくくくててて侍侍はべらららむむん。。。まづまづまず渡渡わたりりり給給たまひひいててて人人ひとののの御心御心みこころももも慰慰なぐさみみみなむなむなん程程ほどにににををを」」」ととと聞聞きこえええかはしかはしかわし給給たまふふう程程ほどににに日日ひごろごろごろ經經へぬぬぬ。。。姫姫ひめ宮宮みやはははかくかくかく渡渡わたりりり給給たまははわぬぬぬ日日ひ比比ごろのののふるふるふるももも人人ひとののの御御おんつらさつらさつらさにににのみのみのみおぼすおぼすおぼすををを、、、今今いまははは我我わががが御御おんをこたりをこたりおこたりうちうちうちまぜまぜまぜてててかくかくかくなりなりなりぬるぬるぬるとととおぼすおぼすおぼすににに、、、院院いんももも聞聞きこししし召召めしししつけつけつけててていかにいかにいかにおぼしおぼしおぼし召召めさささむむんととと世世よののの中中なかつゝましくつゝましくつつましくなむなむなん。。。
現代語訳
源氏は平気な顔をつくっていらっしゃるけれど、物思いに乱れていらっしゃる様子がはっきりしているので、女君(紫の上)は、消え残った自分を気の毒に思ってお戻りになって、ご自身から心苦しく宮のことを思いやり申し上げていらっしゃるのだろうかとお思いになって、「私の気分はよくなりましたのに、あの宮がご気分が悪くていらっしゃるだろうに、早くお戻りになったのは、お気の毒です」と申し上げなさると、源氏は、「そうだね。いつもと違うようにお見えになったけれど、特に悪いご気分でもいらっしゃらないので、自然と安心してね。帝からはたびたびお使いがあった。今日もお手紙があったとか。あの院(朱雀院)がたいそう大切にお頼み申し上げていらっしゃるので、帝もこのように気にかけていらっしゃるのだろう。少しでもおろそかにすることがあれば、あちらこちらがどうお思いになるかが気の毒なのだよ」と言ってうめきなさるので、紫の上は、「帝がお聞きになることよりも、宮ご自身が恨めしいとお思い申し上げなさるのこそ、お気の毒でしょう。宮はお咎めにならなくても、よくない様子に申し上げなす人々がきっといるだろうと思うと、たいそう心苦しくて」などとおっしゃるので、
源氏は、「本当に、深く思う人のためには面倒な縁だけれど、あなたは何事にも思慮深いことと、あれこれと世間一般の人の思うような心まで思いめぐらしなさるが、私は、ただ国王(帝)のお心が隔てを置かれるだろうかとばかりを気にしているのは、浅い心であった」と、ほほえんで紛らわしなさる。「六条院へお帰りになることは、一緒に帰って、のんびりしよう」とばかり申し上げなさるのを、紫の上は、「ここでしばらく気楽にしておりましょう。まずお帰りになって、宮のお心も慰められた頃に」と申し上げ交わしなさるうちに、日数が経った。姫宮は、このようにお越しにならない日々が過ぎるのも、源氏の薄情さのせいとばかりお思いになっていたが、今は自分の過ちもまじってこうなったのだとお思いになると、院(朱雀院)もお聞きになったらどうお思いになるだろうと、世の中が恐ろしい。
意訳
紫の上は源氏の物思いに気づき、宮を気づかうよう勧めるが、源氏は帝の思惑ばかり気にしていると紛らわす。
紫の上は二条院に留まり、宮は自分の過ちのために源氏が来ないのだと思い、朱雀院の思いを恐れる。
語釈・文法注
文法
- 「つれなしづくり」(つれなしづくり給へど)
- 平気な顔をつくること。
- 「うめく」(とてうめき給へば)
- うなる、ため息をつく。
- 「國王」(これはたゞ國王の御心やおき給はむとばかりを)
- 帝。今上帝を指す。
解説
紫の上は、源氏の物思いを、自分を気づかってのことと思い、宮を気づかうよう勧める。真相を知らない紫の上の思いやりは、かえって源氏の苦しみを深くする。源氏は「國王の御心」ばかり気にしていると言って紛らわすが、本当の悩みは誰にも言えない。
紫の上と源氏の会話は、すれ違いながらも互いを思いやるものである。一方、宮は、源氏の来ない理由が自分の過ちにあると知って、ますます追いつめられていく。三人の心はそれぞれに孤立している。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、702–703頁(コマ62)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日