源氏物語 第35帖 若菜下(39)
ひぐらしの夕べ
源氏は、ここではあなたはそれほど悪くないように見えるが、紫の上はまだ頼りない様子なので、見捨てたように思われるのも気の毒だ、ひがんだことを言う人がいても気にしないように、いずれ見直していただけるだろうと言う。宮はいつもなら子どもらしい冗談なども言うのに、ひどく沈んで顔を合わせないので、源氏は、ただ自分の薄情を恨んでいるのだと思う。昼の御座所で横になって話をするうちに日が暮れる。少し眠り込んでいたが、ひぐらしの鳴き声に目を覚まし、道が暗くならないうちにと、衣を着替える。宮が、月を待って帰れとも言うそうですのにと、たいそう若々しく言うのは、憎めない。源氏が、月の出るまでの間だけでもと思っているのかと心苦しく思って立ち止まると、宮は「夕露に」と、ひぐらしの鳴くのを聞きながら起きて行くのかと詠む。未熟な心のままに詠んだのもかわいらしく、源氏はひざをついて、ああ苦しいと嘆き、「待つ里も」と詠んでためらい、やはり薄情にするのも気の毒で泊まることにする。それでも落ち着かず、物思いにふけり、果物だけを食べて休む。

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- 2「「「夕夕ゆう露露つゆににに袖袖そでぬらせぬらせぬらせとととややや日日ひぐらしぐらしぐらしののの鳴鳴なくくくをををきくきくきくきくきくきくおきおきおきてててゆくゆくゆくらむらむらん」」」。。。かたなりかたなりかたなりなるなるなる御心御心みこころにににまかせまかせまかせててていひいひいい出出いででで給給たまへへえるるるもももらうたけれらうたけれろうたければばば、、、ついついついゐゐいててて「「「あなあなあな苦苦くるしししややや」」」とととうちうちうち歎歎なげききき給給たまふふう。。。「「「まつまつまつさとさとさともももいかゞいかゞいかが聞聞きくくくらむらむらんかたがたかたがたかたがたににに心心こころさわがすさわがすさわがすひぐらしひぐらしひぐらしののの聲聲こえ」」」などなどなどおぼしおぼしおぼしやすらひやすらひやすらいででで、、、猶猶なおなさけなさけなさけなからなからなからむむんももも心苦心苦こころぐるしけれしけれしければばばとまりとまりとまり給給たまひひいぬぬぬ。。。しづしづしず心心こころなくなくなくさすがにさすがにさすがに眺眺ながめめめられられられ給給たまひひいててて御御おんくだものくだものくだものばかりばかりばかり參參まいりりりなどなどなどしししててて大大おお殿殿とのごもりごもりごもりぬぬぬ。。。
現代語訳
源氏は、「ここでは、あなたはそれほど悪くはないようにお見えになるが、あちらはまだたいそう頼りない様子だったのを、見捨てたように思われるのも今さら気の毒でね。ひがんだことを申し上げる人がいても、決して気になさいますな。今に見直してくださるでしょう」とお話しになる。宮は、いつもはどこか子どもっぽい冗談なども打ち解けて申し上げなさるのに、ひどく沈んで、はっきりとお顔を見合わせ申し上げなさらないのを、源氏は、ただ夫婦仲を恨めしく思っていらっしゃるご様子なのだとお考えになる。昼の御座所で横になられて、お話などを申し上げなさるうちに日が暮れてしまった。少し眠り込んでしまわれたが、ひぐらしが華やかに鳴くのにお目覚めになって、それでは道が暗くならないうちにと言って、御衣などを着替えなさる。宮が「『月を待って』とも言うそうですのに」と、たいそう若々しい様子でおっしゃるのは、憎めないことであるよ。源氏は、せめてその間だけでも一緒にいたいとお思いなのかと、気の毒にお思いになって、立ち止まりなさる。
宮は、「夕露に袖ぬらせとや日ぐらしの鳴くをきくきくおきてゆくらむ(夕露に私の袖を涙で濡らせというのですか。ひぐらしが鳴くのを聞きながら、起きて出ていかれるのは)」。未熟なお心のままに詠み出しなさったのもかわいらしいので、源氏はひざをついて、「ああ、苦しいことだ」とお嘆きになる。「まつさともいかゞ聞くらむかたがたに心さわがすひぐらしの聲(私を待つ里の人も、どう聞いているだろう。あちらこちらに心を騒がせるひぐらしの声よ)」などとためらいなさって、やはり薄情にするのも気の毒なので、お泊まりになった。それでも落ち着かず、さすがに物思いにふけられて、果物ばかりを召し上がりなどして、お休みになった。
意訳
源氏は紫の上のもとに戻ろうとするが、宮は「夕露に」と詠んで引き留める。
源氏は「待つ里も」と詠んでためらい、宮のもとに泊まるが、落ち着かずに物思いにふける。
語釈・文法注
文法
- 引き歌「月まちて」(月まちてともいふなるものを)
- 「夕闇は道たどたどし月待ちて帰れわが背子その間にも見む」(古今六帖)による。
- 「ついゐる」(ついゐて「あな苦しや」)
- ひざをついて座る。
- 「おぼしやすらふ」(などおぼしやすらひで)
- ためらいなさる。
解説
ひぐらしの夕べの場面は、女三の宮が珍しく源氏を引き留める、いじらしい場面である。宮の「夕露に」の歌は、未熟ながら素直な気持ちを表しており、源氏も心を動かされる。しかしこの夜、源氏が宮のもとに泊まったことで、翌朝、柏木の手紙が発見されることになる。
源氏の「まつさともいかゞ聞くらむ」という歌は、二条院の紫の上を思う心を表している。二人の妻の間で揺れる源氏の姿は、若菜上の巻以来、繰り返し描かれてきた。その揺れが、ここで決定的な結果を招く。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、698–699頁(コマ60)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日