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源氏物語 第35帖 若菜下(34)

六条御息所の死霊

登場人物:六条御息所・光源氏・紫の上・秋好中宮

物の怪は、ひどく調伏されて、人は皆去れ、院お一人のお耳に申し上げたいと言う。月ごろ自分を調伏して苦しめるのが情けなくつらいので、思い知らせようと思ったが、源氏が命も絶えそうなほど身を砕いて惑うのを見ると、今はこのような浅ましい身になったが、昔の心が残っていればこそ、ここまで来たのだから、心苦しさを見過ごせずに、とうとう現れてしまった、決して知られまいと思っていたのにと、髪を振りかけて泣く。その様子は、昔見た六条御息所の物の怪そのものである。源氏は、あきれて恐ろしいと身にしみて思ったことが変わらないのも不吉で、童の手を捕らえて、本当にその人か、悪い狐などがふざけているのではないか、確かな名を名乗れ、人の知らないことで、はっきり思い当たることを言えと言う。物の怪は、ほろほろと泣いて、「わが身こそ」と詠み、自分はこのような姿になったが、空とぼける君は昔のままだ、つらいと泣き叫ぶ。それでも恥じらう気配は昔のままで、源氏はかえって疎ましく、物を言わせまいと思う。物の怪は、中宮の後見をありがたく思っているが、死後は道が違うので、それほど深くは思わない、自分をつらいと思った執着が残るのだ、とりわけ、生前におとしめられたことよりも、紫の上との語らいの中で、自分の嫌な様子を語ったのが恨めしいと言う。紫の上を深く憎んではいないが、守りが強くて近づけず、源氏の声だけをほのかに聞いている、今は自分の罪が軽くなる供養をしてほしい、修法や読経の声も自分には炎のようで苦しい、中宮にも、宮仕えの間に人と張り合い妬む心を持たないよう伝えてほしい、斎宮であった頃の罪を軽くする功徳を必ず行ってほしいと語る。

夜の二条院で、物の怪の言葉に源氏が耳を傾け、僧たちが祈祷している場面(AI生成)
夜の二条院で、物の怪の言葉に源氏が耳を傾け、僧たちが祈祷している場面
  1. 1いみじくいみじくいみじくてうぜてうぜちょうぜられられられててて「「「人ひと人ひとひとははは皆みな皆みなみなさりさりさりねねね院ゐん院ゐんいん一ひと一ひとひとところところところののの御おん御おんおん耳みみ耳みみみみににに聞きこ聞きこきこえええむむん。。。おのれおのれおのれををを月つき月つきつき比ごろ比ごろごろてうじてうじちょうじ侘わ侘わわびびびさせさせさせ給たま給たまたまふふうがががなさけなくなさけなくなさけなくつらけれつらけれつらければばば、、、同おな同おなおなじくじくじくはははおぼしおぼしおぼし知し知ししらせらせらせむむんととと思おも思おもおもひひいつれつれつれどどど、、、さすがにさすがにさすがに命いのち命いのちいのちもももたふたふたうまじくまじくまじく身み身みみををを碎くだ碎くだくだきききててておぼしおぼしおぼし惑まど惑まどまどふふうををを見み見みみ奉たてまつ奉たてまつたてまつれれればばば、、、今いま今いまいまこそこそこそかくかくかくいみじきいみじきいみじき身み身みみをををうけうけうけたれたれたれ、、、いにしへいにしへいにしえののの心こころ心こころこころののの殘のこ殘のこのこりりりてててこそこそこそかくかくかくまでまでまでももも參まゐ參まゐまいりりり來き來ききたるたるたるなれなれなればばば、、、物もの物ものものののの心苦こころぐる心苦こころぐるこころぐるしさしさしさをををえええ見み見みみすぐさすぐさすぐさででで遂つひ遂つひついににに現あらは現あらはあらわれれれぬるぬるぬることことこと更さら更さらさらににに知し知ししららられれれじじじととと思おも思おもおもひひいつるつるつるものものものををを」」」とてとてとて、、、髮かみ髮かみかみををを振ふ振ふふりりりかけかけかけててて泣な泣ななくくくけはひけはひけわい、、、唯ただ唯ただただ昔むかし昔むかしむかし見み見みみ給たま給たまたまひひいしししものものものゝけゝけのけのののさまさまさまととと見み見みみえええたりたりたり。。。あさましくあさましくあさましくむくつけしむくつけしむくつけしとととおぼしおぼしおぼししみしみしみにににしししことことことののの變かは變かはかわらららぬぬぬもももゆゝしけれゆゝしけれゆゆしければばば、、、このこのこの童わらは童わらはわらわののの手て手ててをををとらへとらへとらえててて引ひ引ひひきききすゑすゑすえてててさまさまさま惡あ惡ああしくしくしくもももせせせさせさせさせ給たま給たまたまははわずずず、、、「「「誠まこと誠まことまことにににそのそのその人ひと人ひとひとかかか。。。善よ善よよからからからぬぬぬ狐きつね狐きつねきつねなどなどなどいふいふいうなるなるなるものものものゝゝのたはぶれたはぶれたわぶれたるたるたるかかか。。。なきなきなき人ひと人ひとひとのののおもておもておもてぶせぶせぶせなるなるなることことこといひいひいい出い出いいづるづるずるもももあああなるなるなるををを、、、たしかたしかたしかなるなるなるなのりなのりなのりせよせよせよ。。。又また又またまた人ひと人ひとひとののの知し知ししらららざらざらざらむむんことことことののの心こころ心こころこころにににしるくしるくしるく思おも思おもおもひひい出い出いいでででられられられぬぬぬべからべからべからむむんをををいへいへいえ。。。さてさてさてなむなむなんいさゝかいさゝかいささかにてにてにてももも信しん信しんしんずずずべきべきべき」」」とととのたまへのたまへのたまえばばば、、、ほろほろほろほろほろほろととといたくいたくいたくなきなきなきててて、、、「「「我わ我わわががが身み身みみこそこそこそあらあらあらぬぬぬさまさまさまなれなれなれそれそれそれながらながらながらそらそらそらおぼれおぼれおぼれするするする君きみ君きみきみははは君きみ君きみきみなりなりなり。。。いといといとつらしつらしつらしつらしつらしつらし」」」ととと泣な泣ななきききさけぶさけぶさけぶものものものからからから、、、さすがにさすがにさすがに物もの物ものものはぢはぢわじしししたるたるたるけはひけはひけわい變かは變かはかわらららずずず、、、なかなかなかなかなかなかいといといと疎うと疎うとうとましくましくましく心こころ心こころこころうけれうけれうければばば、、、物もの物ものものいはいはいわせせせじじじとととおぼすおぼすおぼす。。。
  2. 2「「「中ちゆう中ちゆうちゅう宮ぐう宮ぐうぐうののの御おん御おんおん事こと事ことことにてにてにてもももいといといと嬉うれ嬉うれうれしくしくしくかたじけなしかたじけなしかたじけなしとととなむなむなん天あま天あまあまかけりかけりかけりてててももも見み見みみ奉たてまつ奉たてまつたてまつれれれどどど、、、道みち道みちみちことことことににになりなりなりぬれぬれぬればばばこのこのこの上うへ上うへうえまでまでまでももも深ふか深ふかふかくくく覺おぼ覺おぼおぼえええぬぬぬにににやややあらあらあらむむん。。。猶なほ猶なほなおみづからみづからみずからつらしつらしつらしととと思おも思おもおもひひい聞きこ聞きこきこえええししし心こころ心こころこころのののしふしふしゅうなむなむなんとまるとまるとまるものものものなりなりなりけるけるける。。。そのそのその中なか中なかなかにににももも生い生いいきききてててののの世よ世よよににに人ひと人ひとひとよりよりよりおとしおとしおとしててておぼしおぼしおぼし捨す捨すすてててしししよりよりよりももも、、、思おも思おもおもふふうどちどちどちののの御おん御おんおん物語ものがたり物語ものがたりものがたりのののついでついでついでににに心こころ心こころこころよからよからよからずずずにくかりにくかりにくかりししし有樣ありさま有樣ありさまありさまをををのたまひのたまひのたまいいでいでいでたりたりたりしししなむなむなんいといといとうらめしくうらめしくうらめしく、、、今いま今いまいまはははたゞたゞただなきなきなきにににおぼしおぼしおぼし許ゆる許ゆるゆるしししててて、、、ことことこと人びと人びとびとのののいひいひいいおとしめおとしめおとしめむむんをををだにだにだに省はぶ省はぶはぶききき隱かく隱かくかくししし給たま給たまたまへへえとととこそこそこそ思おも思おもおもへへえどどど、、、うちうちうち思おも思おもおもひひいしししばかりばかりばかりにににかくかくかくいみじきいみじきいみじき身み身みみのののけはひけはひけわいなれなれなればばばかくかくかく所ところ所ところところせきせきせきなりなりなり。。。
  3. 3このこのこの人ひと人ひとひとををを深ふか深ふかふかくくく憎にく憎にくにくしししととと思おも思おもおもひひい聞きこ聞きこきこゆるゆるゆることことことはははなけれなけれなけれどどど、、、まもりまもりまもりつよくつよくつよくいといといと御おん御おんおんあたりあたりあたり遠とほ遠とほとおききき心地ここち心地ここちここちしししてててえええ近ちか近ちかちかづきづきずきまゐらまゐらまいらずずず、、、御おん御おんおん聲こゑ聲こゑこえをををだにだにだにほのかほのかほのかににに聞き聞ききききき侍はべ侍はべはべるるる。。。よしよしよし今いま今いまいまはははこのこのこの罪つみ罪つみつみかろむかろむかろむばかりばかりばかりのののわざわざわざをををせせせさせさせさせ給たま給たまたまへへえずずずほふほふほうどどどきやうきやうきょうとととのゝしるのゝしるののしることことことももも身み身みみにににははは苦くる苦くるくるしくしくしくわびしきわびしきわびしきほのほほのほほのおとととのみのみのみまつはれまつはれまつわれててて更さら更さらさらににに尊たふと尊たふととうときききことことことももも聞きこ聞きこきこえええねねねばばばいといといと悲かな悲かなかなしくしくしくなむなむなん。。。中ちゆう中ちゆうちゅう宮ぐう宮ぐうぐうにににもももこのこのこのよしよしよしををを傳つた傳つたつたへへえ聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまへへえ。。。ゆめゆめゆめ御おん御おんおん宮仕みやづかへ宮仕みやづかへみやずかえのののほどほどほどににに人ひと人ひとひとととときしろひきしろひきしろいそねむそねむそねむ心こころ心こころこころつかひつかひつかい給たま給たまたまふふうななな。。。齋さい齋さいさい宮ぐう宮ぐうぐうにににおはしましゝおはしましゝおわしましし比ころ比ころころほひほひおいののの御おん御おんおん罪つみ罪つみつみかろむかろむかろむべからべからべからむむんくどくくどくくどくのののことことことををを必かなら必かならかならずずずせせせさせさせさせ給たま給たまたまへへえ。。。いといといとくやしきくやしきくやしきことことことににになむなむなんありありありけるけるける」」」

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

物の怪は、ひどく調伏されて、「人は皆去れ。院お一人のお耳に申し上げよう。私を何か月も調伏して苦しめなさるのが情けなくつらいので、同じことなら思い知らせてさしあげようと思ったけれど、さすがに命も絶えてしまいそうなほど、身を砕いてお思い惑いになるのを拝見すると、今こそこのようなひどい身を受けているが、昔の心が残っているからこそ、このようにまで参ってきたのだから、お気の毒さを見過ごすことができずに、とうとう現れてしまったのだ。決して知られまいと思っていたのに」と言って、髪を振りかけて泣く様子は、ただ昔ご覧になった物の怪の様子と見えた。源氏は、あきれるほど恐ろしいと身にしみてお思いになったことが変わらないのも不吉なので、この童の手を捕らえて引き据えて、見苦しいこともおさせにならず、「本当にその人か。よくない狐などというものがふざけているのか。亡き人の不面目になることを言い出すこともあるそうだから、はっきりと名乗れ。また、人の知らないようなことで、心にはっきりと思い出されるようなことを言え。そうしたら、少しでも信じよう」とおっしゃると、物の怪はほろほろとひどく泣いて、「我が身こそあらぬさまなれそれながらそらおぼれする君は君なり(わが身こそ、このように変わり果てた姿になったけれど、昔のまま空とぼけるあなたは、あなたのままだ)。たいそうつらい、つらい」と泣き叫ぶものの、さすがに恥じらっている気配は昔と変わらず、源氏はかえってたいそう疎ましく情けないので、物を言わせまいとお思いになる。

「中宮(秋好中宮)のことでも、たいそううれしく、ありがたいと、天を翔りながらも拝見しているが、生死の道が別になってしまったので、子の身の上のことまでも、深くは思われないのであろうか。やはり、自分がつらいと思い申し上げた心の執着こそ、残るものなのだった。その中でも、生きていた世に、人よりも軽く扱ってお見捨てになったことよりも、仲のよい方(紫の上)とのお話のついでに、気立てがよくなく、憎らしかった私の様子を、お話しになったのが、たいそう恨めしく、今はただ亡き者として許してくださって、ほかの人が悪く言うのさえ、取りなして隠してくださいと思うのに、ふと思っただけで、このようなひどい身の様子なので、このように仰々しく現れたのだ。

この人(紫の上)を深く憎いとお思い申し上げることはないけれど、守りが強くて、たいそうおそば遠い気がして近寄ることができず、あなたのお声さえも、ほのかに聞いております。よい、今はこの罪が軽くなるようなことをしてください。修法や読経とやかましく騒ぐことも、私の身には苦しくつらい炎となってまとわりつくばかりで、まったく尊いことも聞こえないので、たいそう悲しい。中宮にも、このことをお伝え申し上げてください。決して宮仕えの間に、人と張り合い妬む心をお持ちになりますな。斎宮でいらっしゃった頃の御罪が軽くなるような功徳のことを、必ずなさってください。たいそう悔しいことでありました」

意訳

六条御息所の死霊が童に乗り移り、源氏の深い嘆きを見て現れたと言い、源氏は正体を問いただす。

死霊は、源氏が紫の上に自分を悪く言ったことを恨み、自分の罪を軽くする供養と、中宮への伝言を頼む。

語釈・文法注

文法

「てうず」(いみじくてうぜられて)
調ず。加持祈祷によって物の怪を調伏すること。
「そらおぼれ」(そらおぼれする君は君なり)
空とぼけること。
「しふ」(心のしふなむとまるものなりける)
執。執着。

解説

六条御息所の死霊が現れる場面は、葵の巻の生霊の場面と響き合う。かつて葵の上を取り殺した生霊が、死後もなお源氏の妻を苦しめる。死霊が恨むのは、源氏が若菜下の巻の初めの方で紫の上に語った、六条御息所への評価である。源氏が「あの世ながらも見なほされぬらむ」と思った、まさにその言葉が、死霊を呼び寄せたのである。

死霊は紫の上を「深く憎しと思ひ聞ゆることはなけれど」と言う。死霊が紫の上を苦しめたのは、紫の上への憎しみではなく、源氏への執着からであった。死霊の「髪を振りかけて泣く」姿と、それでも恥じらう気配は、生前の六条御息所の誇り高さと哀れさとを、ともに思い起こさせる。

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出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、692–695頁(コマ57–58)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日