源氏物語 第35帖 若菜下(32)
葵の日の柏木
宮の具合が悪いと聞いて、源氏は紫の上の看病で心を尽くしている上に、また何事かと驚いて宮のもとへ来る。宮は特に苦しそうな様子もないが、ひどく恥じらい沈んで、源氏の顔をまともに見ない。源氏は、長く来なかったのを恨んでいるのかと気の毒に思い、紫の上の容体を話して、今が最期かもしれないので、今さら薄情なところを見せたくない、幼い頃から世話をして見放しがたいのだ、この時期が過ぎれば見直していただけるだろうと言う。宮は、源氏が何も知らずにいるのが気の毒で心苦しく、人知れず涙ぐむ。柏木は、なまじ逢ったために、いっそう思いが募り、明け暮れ嘆き暮らす。葵祭の日も、君達が見物に誘うが、具合が悪いふりをして横になって物思いにふける。妻の女二の宮には、かしこまった様子で接し、打ち解けた姿を見せない。自室にこもって物思いにふけっていると、童女が持っている葵を見て、「くやしくぞ」と、神の許さぬ葵(逢ふ日)を罪を犯して手に入れたことを悔やむ。世間の祭の騒ぎをよそに、女二の宮も夫の様子に物足りなさを感じる。女房たちが見物に出て静かな中、女二の宮が箏の琴を弾く様子は上品で優美だが、柏木は、同じことならもう一段上の方に及ばなかった宿縁よと思い、「もろかづら」と、落葉を拾ったと書きすさぶ。たいそう失礼な陰口である。

- 1「「「惱惱なやましげしげしげににになむなむなん」」」とととありありありけれけれければばばおとゞおとゞおとど聞聞きききき給給たまひひいててていみじくいみじくいみじく御心御心みこころををを盡盡つくししし給給たまふふう御御おん事事ことにににうちうちうち添添そへへえててて、、、又又またいかにいかにいかにととと驚驚おどろかかかせせせ給給たまひひいてててわたりわたりわたり給給たまへへえりりり。。。そこはかとそこはかとそこはかと苦苦くるしげしげしげなるなるなることことことももも見見みえええ給給たまははわずずず、、、いといといといたくいたくいたくはぢらひはぢらひはじらいしめりしめりしめりてててさやかさやかさやかにににももも見見み合合あわせせせ奉奉たてまつりりり給給たまははわぬぬぬををを、、、久久ひさしくしくしくなりなりなりぬるぬるぬるたえまたえまたえまをををうらめしくうらめしくうらめしくおぼすおぼすおぼすにににやややととといとほしくいとほしくいとおしくててて、、、かのかのかの御御おん心地心地ここちのののさまさまさまなどなどなど聞聞きこえええ給給たまひひいててて「「「今今いまははわのののとぢめとぢめとじめにににもももこそこそこそあれあれあれ、、、今今いまさらさらさらにににおろかおろかおろかなるなるなるさまさまさまををを見見みえええおかおかおかれれれじじじとてとてとてなむなむなんいはけなかりいはけなかりいわけなかりししし程程ほどよりよりよりあつかひあつかひあつかいそめそめそめててて見見み放放はなちちちがたけれがたけれがたければばばかうかうこう月月つき比比ごろよろづよろづよろずををを知知しらららぬぬぬさまさまさまにににすぐしすぐしすぐし侍侍はべるるるぞぞぞ、、、おのづからおのづからおのずからこのこのこの程程ほどすぎすぎすぎばばば見見みなほしなほしなおし給給たまひひいてててむむん」」」などなどなど聞聞きこえええ給給たまふふう。。。かくかくかく氣色氣色けしきももも知知しりりり給給たまははわぬぬぬもももいとほしくいとほしくいとおしく心苦心苦こころぐるしくしくしくおぼさおぼさおぼされれれててて、、、宮宮みやははは人人ひと知知しれれれずずず淚淚なみだぐましくぐましくぐましくおぼさおぼさおぼさるるる。。。
- 2かんかんかんののの君君きみはははましてましてましてなかなかなかなかなかなかなるなるなる心地心地ここちのみのみのみ增增まさりりりててて起起おききき臥臥ふししし明明あかししし暮暮くらししし侘侘わびびび給給たまふふう。。。祭祭まつりののの日日ひなどなどなどははは物物もの見見みににに爭爭あらそひひい行行ゆくくく君君きん達達だちかきかきかきつれつれつれててていひいひいいそゝのかせそゝのかせそそのかせどどど、、、なやましげなやましげなやましげにににもてなしもてなしもてなしてててながめながめながめ臥臥ふししし給給たまへへえりりり。。。女女おんな宮宮みやをををばばばかしこまりかしこまりかしこまりおきおきおきたるたるたるさまさまさまにににもてなしもてなしもてなし聞聞きこえええててて、、、をさをさをさをさおさおさ打打うちちち解解とけけけてててももも見見みえええ奉奉たてまつりりり給給たまははわずずず。。。我我わ方方かたににに離離はなれれれ居居いててていといといとつれづれつれづれつれずれににに心心こころぼそくぼそくぼそくながめながめながめ給給たまへへえるるるににに、、、わらはわらはわらわべべべのののもたもたもたるるるあふひあふひあおいををを見見み給給たまひひいててて、、、「「「くやしくくやしくくやしくぞぞぞつみつみつみをかしをかしおかしけるけるけるあふひあふひあおい草草ぐさ神神かみのののゆるせゆるせゆるせるるるかざしかざしかざしならならならぬぬぬににに」」」ととと思思おもふふうもももいといといとなかなかなかなかなかなかなりなりなり。。。世世よののの中中なか靜靜しずかならならならぬぬぬ車車くるまののの音音おとなどなどなどをををよそよそよそののの事事ことににに聞聞ききききててて人人ひとやりやりやりならならならぬぬぬつれづれつれづれつれずれににに暮暮くらししし難難かたくくくおぼゆるおぼゆるおぼゆる、、、女女おんな宮宮みやもももかゝるかゝるかかる氣色氣色けしきのののすさまじさすさまじさすさまじさももも見見み知知しららられれれ給給たまへへえばばば、、、何事何事なにごととととははは知知しりりり給給たまははわねねねどどど耻耻はずかしくしくしくめざましきめざましきめざましきににに物物もの思思おもはしくはしくわしくぞぞぞおぼさおぼさおぼされれれけるけるける。。。女房女房にょうぼうなどなどなど物物もの見見みににに皆皆みな出出いでででゝゝて人人ひとずくなずくなずくなにににのどやかのどやかのどやかなれなれなればばば打打うちちちながめながめながめててて、、、箏箏そうののの琴琴ことなつかしくなつかしくなつかしくひきひきひきまさぐりまさぐりまさぐりててておはするおはするおわするけはひけはひけわいももも、、、さすがにさすがにさすがにあてあてあてににになまめかしけれなまめかしけれなまめかしけれどどど、、、同同おなじくじくじくばばば今今いまひとひとひときはきはきわ及及およばばばざりざりざりけるけるけるすくせすくせすくせよよよとととなほなほなおおぼゆおぼゆおぼゆ。。。「「「もろもろもろかづらかづらかずら落落おち葉葉ばををを何何なににににひろひひろひひろいけむけむけんなななはははむつまじきむつまじきむつまじきかざしかざしかざしなれなれなれどもどもども」」」ととと書書かきききすさびすさびすさび居居いたるたるたるいといといとなめげるなめげるなめげるしりうしりうしりゅうごとごとごとなりなりなりかしかしかし。。。
現代語訳
宮が「ご気分が悪そうで」ということだったので、大臣(源氏)はお聞きになって、たいそうお心を尽くしていらっしゃる紫の上のご病気に加えて、またどうしたのかと驚きなさって、お越しになった。宮は、どこがどうと苦しそうな様子もお見えにならず、たいそうひどく恥じらって沈んでいて、はっきりとお顔を見合わせ申し上げなさらないのを、源氏は、長く途絶えていたのを恨めしくお思いなのだろうかと気の毒で、あの紫の上のご容体などを申し上げなさって、「今が最期かもしれないので、今さら薄情な様子を見せておくまいと思って。幼かった頃から世話をし始めて、見放しがたいので、このように何か月も、何もかも知らないようにして過ごしているのです。自然とこの時期が過ぎたら、見直してくださるでしょう」などと申し上げなさる。このように様子もご存じないのも、気の毒で心苦しくお思いになって、宮は人知れず涙ぐましくお思いになる。
督の君(柏木)は、まして、なまじ逢ったためにかえって苦しい気持ちばかりが募って、起きても寝ても、明かし暮らしかねて嘆いていらっしゃる。葵祭の日などは、見物に競って出かける君達が連れ立って誘うけれど、具合が悪そうにふるまって、物思いにふけりながら横になっていらっしゃった。女宮(落葉の宮)には、かしこまって距離をおいた様子でお扱い申し上げて、ほとんど打ち解けた姿もお見せ申し上げなさらない。自分の部屋に離れていて、たいそう退屈で心細く物思いにふけっていらっしゃると、童女が持っている葵をご覧になって、「くやしくぞつみをかしけるあふひ草神のゆるせるかざしならぬに(悔しいことに、罪を犯して葵〈逢ふ日〉を手にしてしまった。神の許した挿頭ではないのに)」と思うのも、たいそうかえってつらいことである。世間の静かでない車の音などをよそごとに聞いて、自分から求めたことながら、退屈で日を過ごしがたく思われるが、女宮も、このような様子の興ざめなことも見て取っていらっしゃるので、何事とはわからないけれど、恥ずかしく心外で、物思いがちにお思いになった。女房なども見物に皆出かけて、人が少なくのんびりしているので、女宮は物思いにふけって、箏の琴を親しみやすく弾きまさぐっていらっしゃる様子も、さすがに上品で優美だけれど、柏木は、同じことなら、もう一段上の方(女三の宮)に及ばなかった宿縁よと、やはり思われる。「もろかづら落葉を何にひろひけむなはむつまじきかざしなれども(同じ二葉葵のうち、どうして落葉の方を拾ったのだろう。名は親しい挿頭であるけれど)」と書きすさんでいるのは、たいそう失礼な陰口であるよ。
意訳
源氏は宮を見舞い、紫の上の看病で来られなかったことをわびる。宮は何も知らない源氏に涙ぐむ。
柏木は葵祭にも出かけず、罪を悔やむ歌を詠み、妻の女二の宮を「落葉」とおとしめる歌を書きすさぶ。
語釈・文法注
文法
- 掛詞「あふひ」(くやしくぞつみをかしけるあふひ草)
- 「葵」と「逢ふ日」を掛ける。
- 「もろかづら」(もろかづら落葉を何にひろひけむ)
- 双葉葵と桂の枝を組み合わせた葵祭の挿頭。姉妹の女二の宮と女三の宮をたとえ、女二の宮を「落葉」と呼ぶ。これにより女二の宮は「落葉の宮」と呼ばれる。
- 「しりうごと」(いとなめげるしりうごとなりかし)
- 陰口。語り手が柏木の無礼さを批判している。
解説
柏木の「もろかづら」の歌によって、女二の宮は「落葉の宮」と呼ばれるようになる。同じ姉妹でありながら、手の届かない女三の宮に比べて、手に入れた女二の宮を「落葉」とおとしめるのは、語り手の言うとおり「なめげるしりうごと」である。落葉の宮の不幸は、この歌に始まる。
源氏は宮の異変に気づかず、紫の上のことで来られなかったことをわびる。宮は何も知らずに優しくする源氏に涙ぐむ。この源氏の無知と、宮の罪の意識とのずれが、やがて源氏が真相を知る場面で、大きな衝撃へと変わっていく。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、690–691頁(コマ56)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日