源氏物語 第35帖 若菜下(30)
後朝の別れ
夜が明けそうになるが、柏木は出て行く気になれず、かえって苦しい。柏木は、ひどく憎まれているので、またお話しする機会もないだろうから、ただ一言お声を聞かせてほしいと言うが、宮はただ煩わしくつらくて、何も言えない。柏木は、しまいには恐ろしくさえなってきた、こんなことはまたとないだろうとつらく思い、それでは仕方がない、身を捨てることもできず、捨てがたい思いからここまで来たのに、今夜限りというのもつらい、少しでも心を許してくださるなら、それと引き換えに命を捨ててもよいと言って、宮を抱きかかえて出る。宮は、最後にはどうするつもりかと茫然とする。隅の間の屏風を広げ、戸を開けると、渡殿の南の戸が、昨夜入った時のまま開いている。まだ明け方の暗い頃である。柏木はほのかにでも宮の姿を見たいと、格子をそっと引き上げ、このようにつらいお心に正気も失せた、少しでも落ち着けとお思いなら、哀れとだけでもおっしゃってくださいと脅すように言う。宮は何か言おうとするが、震えて言葉にならず、たいそう幼い様子である。夜がすっかり明けていく中、柏木は、いずれ思い当たることもあるだろうと言って、慌ただしく立ち去る明け方の空は、秋の空よりも物思いを誘う。柏木が「起きて行く」と詠むと、宮は少し慰めるように「明けぐれの」と、はかなげに返す。

- 1明明あけけけゆくゆくゆく氣色氣色けしきなるなるなるににに出出いでででむむんかたかたかたなくなくなくなかなかなかなかなかなかなりなりなり。。。「「「いかゞいかゞいかがはははししし侍侍はべるるるべきべきべき。。。いみじくいみじくいみじくにくまにくまにくませせせ給給たまへへえばばば又又また聞聞きこえええさせさせさせむむん事事こともももありがたきありがたきありがたきををを、、、唯唯ただひとひとひとことことこと御御おん聲聲こえををを聞聞きかかかせせせ給給たまへへえ」」」ととと、、、萬萬よろずににに聞聞きこえええなやますなやますなやますもももうるさくうるさくうるさくわびしくわびしくわびしくててて物物ものののの更更さらにににいはいはいわれれれ給給たまははわねねねばばば「「「はてはてはてはてはてはてはははむくつけくむくつけくむくつけくこそこそこそなりなりなり侍侍はべりりりぬれぬれぬれ。。。又又またかゝるかゝるかかるやうやうようはははあらあらあらじじじ」」」ととといといといとうしうしうしととと思思おもひひい聞聞きこえええててて「「「さらばさらばさらばふようふようふようなめりなめりなめり。。。身身みをををいたづらいたづらいたずらにににやはやはやはなしなしなしはてはてはてぬぬぬいといといと捨捨すててて難難かたきききににによりよりよりてててこそこそこそかくかくかくまでまでまでももも侍侍はべれれれこよひこよひこよいにににかぎりかぎりかぎり侍侍はべりりりなむなむなんもももいみじくいみじくいみじくなむなむなん。。。つゆつゆつゆにてにてにてももも御心御心みこころゆるしゆるしゆるし給給たまふふうさまさまさまならならならばばば、、、それそれそれにににかへかへかへつるつるつるにてにてにてももも捨捨すててて侍侍はべりりりなななましましまし」」」とてとてとて搔搔かききき抱抱いだききき出出いづるづるずるににに、、、はてはてはてはははいかにいかにいかにしししつるつるつるぞぞぞとととあきれあきれあきれててておぼさおぼさおぼさるるる。。。すみすみすみののの間間まののの屏屏びょう風風ぶをををひきひきひき廣廣ひろげげげててて戶戶とををを押押おしししあけあけあけたれたれたればばば渡渡わた殿殿どのののの南南みなみのののとととのののよべよべよべいりいりいりしししがががまだまだまだあきあきあきながらながらながらあるあるあるににに、、、まだまだまだあけあけあけぐれぐれぐれののの程程ほどなるなるなるべしべしべし。。。
- 2ほのかほのかほのかににに見見み奉奉たてまつらららむむんののの心心こころあれあれあればばばかうしかうしこうしをををやをらやをらやおら引引ひきききあげあげあげててて「「「かうかうこういといといとつらきつらきつらき御心御心みこころにににうつしうつしうつしごゝろごゝろごころももも失失うせせせ侍侍はべりりりぬぬぬ。。。少少すこししし思思おもひひいのどめよのどめよのどめよとととおぼさおぼさおぼされれればばば哀哀あわれとととだにだにだにののの給給のたまははわせよせよせよ」」」とととおどしおどしおどし聞聞きこゆるゆるゆるをををいといといと珍珍めずららからからかなりなりなりとととおぼしおぼしおぼしててて、、、物物ものもももいはいはいわむむんとととししし給給たまへへえどどどわなゝかわなゝかわななかれれれててて、、、いといといとわかわかしきわかわかしきわかわかしき御御おんさまさまさまなりなりなり。。。たゞたゞただあけあけあけににに明明あけけけ行行ゆくくくににに、、、「「「いといといと心心こころあわたゞしくあわたゞしくあわただしくててて、、、哀哀あわれなるなるなる夢夢ゆめがたりがたりがたりももも聞聞きこえええさすさすさすべきべきべきをををかくかくかくにくまにくまにくませせせ給給たまへへえばばばこそこそこそ。。。さりともさりともさりとも今今いまおぼしおぼしおぼしあはするあはするあわする事事ことももも侍侍はべりりりなむなむなん」」」とてとてとてのどかのどかのどかならならならずずず立立たちちち出出いづるづるずる明明あけけけくれくれくれ、、、秋秋あきののの空空そらよりよりよりももも心心こころづくしづくしずくしなりなりなり。。。「「「おきおきおきててて行行ゆくくく空空そらももも知知しららられれれぬぬぬあけくれあけくれあけくれにににいづくいづくいずくののの露露つゆのののかゝるかゝるかかる袖袖そでなりなりなり」」」。。。ひきひきひき出出いでででゝゝてうれへうれへうれえ聞聞きこゆれゆれゆればばば、、、出出いでででなむなむなんとととするするするににに少少すこししし慰慰なぐさめめめ給給たまひひいててて、、、「「「あけくれあけくれあけくれののの空空そらにににうきうきうき身身みははは消消きえええなゝむなゝむななむ夢夢ゆめなりなりなりけりけりけりととと見見みてててもももやむやむやむべくべくべく」」」とととはかなげはかなげはかなげにににののの給給のたまふふう。。。
現代語訳
夜が明けていく様子なのに、柏木は出ていく気になれず、かえってつらい。「どういたしたらよいでしょう。ひどく憎んでいらっしゃるので、またお話し申し上げることもめったにできないでしょうから、ただ一言、お声をお聞かせください」と、何かとお悩ませ申し上げるのも、宮は煩わしくつらくて、何もまったくおっしゃれないので、柏木は「しまいには恐ろしくさえなってまいりました。またこのようなことはないでしょう」と、たいそうつらいとお思い申し上げて、「それでは、もう無用のようです。身をむなしく捨ててしまえましょうか。たいそう捨てがたい思いのために、ここまでまいったのです。今夜限りで終わってしまうのも、たいそうつらいことです。少しでもお心を許してくださるご様子なら、それと引き換えに命を捨ててもよいのですが」と言って、宮を抱きかかえて出ていくので、宮は、最後にはどうするつもりなのかと、茫然とお思いになる。隅の間の屏風を引き広げて戸を押し開けると、渡殿の南の戸が、昨夜入った時のまま、まだ開いているところに、まだ明け方の暗い頃であろう。
ほのかにでも宮のお姿を拝見したいという気持ちがあるので、柏木は格子をそっと引き上げて、「このようにたいそうつらいお心に、正気も失せてしまいました。少しでも心を落ち着けよとお思いなら、せめて哀れとだけでもおっしゃってください」と脅すように申し上げるのを、宮はたいそう思いもよらないことだとお思いになって、何か言おうとなさるけれど、震えてしまって、たいそう幼いご様子である。ただ夜がどんどん明けていくので、「たいそう心が慌ただしくて、しみじみとした夢の話も申し上げたかったのに、このようにお憎みになるので。それでも、いずれお思い当たりになることもございましょう」と言って、落ち着かず立ち去る明け方は、秋の空よりも物思いを尽くさせる。「おきて行く空も知られぬあけくれにいづくの露のかゝる袖なり(起きて帰っていく空もわからない明け方に、どこの露がかかってこのように袖が濡れるのでしょう)」。袖を引き出して嘆き申し上げるので、柏木が出ていこうとするのに、宮は少しお慰めになって、「あけくれの空にうき身は消えなゝむ夢なりけりと見てもやむべく(明け方の空に、このつらい身は消えてしまいたい。夢だったと思って終われるように)」と、はかなげにおっしゃる。
意訳
夜明けが近づき、柏木は一言だけでも声を聞かせてほしいと宮に迫り、宮を抱きかかえて渡殿へ出る。
柏木は、いずれ思い当たることもあると言って立ち去り、二人は後朝の歌を交わす。
語釈・文法注
文法
- 「ふようなめり」(さらばふようなめり)
- 不用なるめり。「それではもう無用のようです」。
- 「あけぐれ」(まだあけぐれの程なるべし)
- 明け暗れ。夜明け前の、まだ暗い頃。
- 願望の「なゝむ」(うき身は消えなゝむ)
- 完了の「ぬ」の未然形+願望の終助詞「なむ」。「消えてしまいたい」。
解説
柏木が「さりとも今おぼしあはする事も侍りなむ」と言うのは、猫の夢を踏まえ、宮の懐妊を予感した言葉である。宮はその意味もわからず、ただ震えているばかりである。
宮の返歌「あけくれの空にうき身は消えなゝむ」は、この一夜を夢として消えてしまいたいという、宮の深い悲しみと恐れを表している。後朝の歌という形式でありながら、愛の歌ではなく、消え去りたいという願いの歌である。この歌の悲痛さが、宮のその後の運命を予感させる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、688–691頁(コマ55–56)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日