源氏物語 第35帖 若菜下(28)
柏木の忍び入り
四月十日過ぎ、賀茂の御禊の前日で、斎院に奉る女房十二人や、若い女房、童女たちは、それぞれ衣を縫ったり化粧をしたりして、見物の準備に忙しく、宮の御前はひっそりと人が少ない。近くに仕える按察使の君も、時々通う源中将に呼び出されて下がっていて、小侍従だけが近くにいた。小侍従はよい折だと思い、柏木をそっと御帳台の東面の御座の端に座らせる。宮は無心に眠っていたが、近くに男の気配がするので、源氏が来たと思っていると、男はかしこまった様子で宮を床の下に抱き下ろす。物の怪に襲われたのかと見上げると、源氏ではない人であった。宮はあきれて恐ろしくなり、人を呼ぶが、誰も近くにおらず、聞きつけて来る者もない。宮が震え、水のように汗を流して正気もない様子は、たいそう哀れでかわいらしい。柏木は、昔から大それた心があり、院にも求婚の意を伝え、望みをかけたが、身分の低さゆえにかなわず、年月とともに思いが深まり、抑えきれずにこのような姿をお目にかけた、これ以上の罪深い心はないと言い続ける。宮は、この人だったのかと気づく。

- 1四四う月月ずき十十じゅう餘餘よ日日にちばかりばかりばかりのののことことことなりなりなり、、、みそぎみそぎみそぎあすあすあすとてとてとて齋齋さい院院いんににに奉奉たてまつりりり給給たまふふう女房女房にょうぼう十十じゅう二二に人人にん、、、ことことことににに上上じょう臈臈ろうにににはははあらあらあらぬぬぬわかわかわかびとびとびとわらはわらはわらわべべべなどなどなど、、、おのおのおのがががじゝじゝじし物物もの縫縫ぬひひいけさうけさうけそうなどなどなどしししつゝつゝつつ、、、物物もの見見みむむんととと思思おもひひい設設もうくるくるくるもももとりどりとりどりとりどりににに暇暇いとまなげなげなげにてにてにて、、、御御お前前まえのののかたかたかたしめやかしめやかしめやかににに人人ひとしげからしげからしげからぬぬぬ折折おりなりなりなりけりけりけり。。。近近ちかくくく侍侍さぶらふふうあぜちあぜちあぜちののの君君きみももも時時とき々々どきかよふかよふかよう、、、源源げん中中ちゅう將將じょうせめてせめてせめて呼呼よびびびいださいださいださせせせけれけれければばば、、、おりおりおりたるたるたるまままににに、、、唯唯ただこのこのこの侍侍じ從從じゅうばかりばかりばかり近近ちかくくくはははさぶらふさぶらふさぶらうなりなりなりけりけりけり。。。善善よきききをりをりおりととと思思おもひひいててて、、、やをらやをらやおら御御み帳帳ちょうのののひんがしひんがしひんがしおもておもておもてののの、、、おましおましおましののの端端はしにににすゑすゑすえつつつ。。。宮宮みやははは何何なに心心ごころもももなくなくなく大大おお殿殿とのごもりごもりごもりにににけるけるけるををを、、、近近ちかくくく男男おとこのののけはひけはひけわいのののすれすれすればばば院院いんのののおはするおはするおわするとととおぼしおぼしおぼしたるたるたるににに、、、打打うちちちかしこまりかしこまりかしこまりたるたるたる氣色氣色けしき見見みせせせてててゆかゆかゆかのののしもしもしもににに抱抱いだきききおろしおろしおろし奉奉たてまつるるるににに、、、物物ものにににおそはおそはおそわるゝるゝるるかかかととと、、、せめてせめてせめて見見み上上あげげげ給給たまへへえれれればばばあらあらあらぬぬぬ人人ひとなりなりなりけりけりけり。。。怪怪あやしくしくしくももも知知しらららぬぬぬ事事ことどもどもどもをををぞぞぞ聞聞きこゆるゆるゆるやややあさましくあさましくあさましくむくつけくむくつけくむくつけくなりなりなりててて人人ひと召召めせせせどどど近近ちかくくくもももさぶらはさぶらはさぶらわねねねばばば聞聞ききききつけつけつけててて參參まいるるるもももなしなしなし。。。わなゝきわなゝきわななき給給たまふふうさまさまさま、、、水水みずのののやうやうようににに汗汗あせもももながれながれながれててて物物ものももも覺覺おぼえええ給給たまははわぬぬぬ氣色氣色けしきいといといと哀哀あわれにににらうたげらうたげろうたげなりなりなり。。。
- 2「「「數數かずならならならねねねどどどいといといとかうかうこうしもしもしもおぼしおぼしおぼし召召めさささるるるべきべきべき身身みとととははは思思おもうううたまへたまへたまえられられられずずずなむなむなん。。。昔昔むかしよりよりよりおほけなきおほけなきおおけなき心心こころののの侍侍はべりりりしししをををひたぶるひたぶるひたぶるににに籠籠こめめめててて止止やみみみ侍侍はべりりりなななましかましかましかばばば、、、心心こころののの中中なかにににくたしくたしくたしてててすぎすぎすぎぬぬぬべかりべかりべかりけるけるけるををを、、、なかなかなかなかなかなか漏漏もらししし聞聞きこえええさせさせさせててて、、、院院いんにににももも聞聞きこししし召召めささされれれにににしししをををこよなくこよなくこよなくもてもてもて離離はなれれれてててももも、、、のたまはせのたまはせのたまわせざりざりざりけるけるけるにににたのみたのみたのみをををかけかけかけそめそめそめ侍侍はべりりりててて、、、身身みののの數數かずならならならぬぬぬひとひとひときはきはきわににに、、、人人ひとよりよりより深深ふかききき志志こころざしををを空空むなしくしくしくなしなしなし侍侍はべりりりぬるぬるぬることことことゝゝと動動うごかししし侍侍はべりりりにににししし心心こころなむなむなん、、、よろづよろづよろず今今いまはははかひかひかいなきなきなき事事ことととと思思おもううう給給たまへへえ返返かえせせせどどど、、、いかばかりいかばかりいかばかりしみしみしみ侍侍はべりりりにににけるけるけるにににかかか、、、年年とし月月つきにににそへそへそえててて口惜口惜くちおしくしくしくもももつらくつらくつらくもももむくつけくむくつけくむくつけくももも哀哀あわれにににもももいろいろいろいろいろいろににに深深ふかくくく思思おもううう給給たまへへえまさるまさるまさるににに、、、せきせきせきかねかねかねてててかくかくかくおほけなきおほけなきおおけなきさまさまさまををを御覽御覽ごらんぜぜぜられられられぬるぬるぬるもももかつはかつはかつはいといといと思思おもひやりひやりいやりなくなくなくはづかしけれはづかしけれはずかしければばば、、、罪罪つみ重重おもききき心心こころももも更更さらににに侍侍はべるるるまじまじまじ」」」ととといひいひいいもてもてもてゆくゆくゆくににに、、、このこのこの人人ひとなりなりなりけりけりけりとととおぼすおぼすおぼすににに、、、
現代語訳
四月十日過ぎのことである。御禊は明日ということで、斎院に差し上げなさる女房十二人や、特に上臈ではない若い女房や童女などが、それぞれ物を縫ったり化粧をしたりしながら、見物しようと準備するのも、それぞれに暇がなさそうで、宮の御前の方はひっそりとして、人の少ない折であった。近くにお仕えする按察使の君も、時々通ってくる源中将が無理に呼び出させたので、下がっている間に、ただこの侍従(小侍従)だけが近くにお仕えしているのだった。小侍従はよい折だと思って、そっと御帳台の東面の、御座所の端に柏木を座らせた。宮は何心もなくお休みになっていたが、近くに男の気配がするので、院(源氏)がいらっしゃったとお思いになっていると、男はかしこまった様子を見せて、宮を床の下にお抱き下ろし申し上げるので、物の怪に襲われたのかと、無理に見上げなさると、源氏ではない人であった。わけのわからないことなどを申し上げるではないか。宮はあきれて恐ろしくなって、人をお呼びになるけれど、近くにも控えていないので、聞きつけて参る者もいない。震えていらっしゃる様子、水のように汗も流れて正気も失っていらっしゃる様子は、たいそう哀れで、かわいらしい。
柏木は、「人数にも入らない身ですが、まさかこれほどまでにお嫌いになられるはずの身とは存じませんでした。昔から大それた心がございましたのを、ひたすら心に秘めて終わっておりましたら、心の中で朽ちさせて過ぎてしまったでしょうに、なまじ漏らし申し上げて、院(朱雀院)にもお聞きいただいたのを、まったく問題外だともおっしゃらなかったので、望みをかけ始めまして、身分の低い、ただそれだけのことで、人より深い志をむなしくしてしまったことよと、心を動かしてしまいましたその心が、何事も今はかいのないことと思い返しますけれど、どれほど深く心にしみてしまったのでしょうか、年月とともに、残念にも、つらくも、恐ろしくも、哀れにも、さまざまに深く思いがまさっていきますので、抑えきれずに、このように大それた姿をお目にかけてしまったのも、一方ではたいそう思慮がなく恥ずかしいことですので、これ以上の罪深い心は決してございますまい」と言い続けていくので、宮は、この人だったのかとお気づきになると、
意訳
四月、賀茂の御禊の準備で人が少ない折に、小侍従は柏木を宮の御帳台に導き入れる。宮は源氏ではない男に驚き、震えおののく。
柏木は、昔からの思いを抑えきれずにこのような姿をお目にかけたと訴え、宮は相手が柏木だと気づく。
語釈・文法注
文法
- 「みそぎ」(みそぎあすとて)
- 御禊。賀茂祭の前に、斎院が賀茂川で身を清める儀式。
- 「あぜち」(近く侍ふあぜちの君も)
- 按察使。ここでは女房の呼び名。
- 反実仮想「なましかば…べかりける」(ひたぶるに籠めて止み侍りなましかば…すぎぬべかりけるを)
- 「もしひたすら秘めて終わっていたら、心の中で朽ちさせて過ぎてしまったでしょうに」。
解説
柏木が女三の宮のもとに忍び入る場面は、源氏物語の中でも最も重大な転換点の一つである。賀茂の御禊の前日という、女房たちが見物の準備に忙しい日が選ばれている。宮の周囲の人々の不用意さが、この事態を招いたのである。
宮は、源氏が来たと思っていたところ、見知らぬ男に驚き、「水のやうに汗もながれて」震える。柏木の長い訴えは、身分の低さゆえに望みを果たせなかった男の、積年の思いの吐露である。この夜の出来事が、柏木と女三の宮の運命を決定的に変えてしまう。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、686–689頁(コマ54–55)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日