古典ライブラリー

源氏物語 第35帖 若菜下(27)

小侍従への懇願

登場人物:柏木・小侍従・女三の宮・光源氏

柏木は、ただこのめったにない機会に、近くで心の内の一端だけでも申し上げられるよう取り計らってほしい、大それた心はまったくないと頼む。小侍従は、これ以上大それた心があろうか、恐ろしいことを考えたものだ、何のために参ったのかと口をとがらせる。柏木は、世の中は定めないもので、女御や后でも事情があって男と関わる例はある、まして宮は、院(朱雀院)の多くの子の中で並ぶ者なく育てられたのに、身分の低い方々に立ち混じって、不愉快なこともあるだろうと言う。小侍従は、人に劣る扱いを受けているからといって、ほかの男に改めるべきだろうか、宮は普通の結婚とは違い、後見のないまま頼りなくいるよりはと、親代わりとして源氏に譲られたのだと、腹を立てる。柏木はあれこれなだめて、宮が自分の取るに足りない姿を見てくださるとは思っていない、ただ一言、物越しに思いを伝えるだけなら、宮の身の汚れにはならない、神仏にも思いを申し上げるのは罪ではないと、誓いを立てて言う。思慮の浅い若い小侍従は、柏木が身にかえて思いつめているのを断りきれず、もし隙があれば取り計らうが、源氏のいない夜も御帳のまわりには人が多く、機会はないだろうと困りながら帰る。柏木は毎日のように責め立て、小侍従はついにしかるべき折を見つけて知らせる。柏木は喜び、ひどく姿をやつして忍んでいく。柏木自身も、けしからぬことだと思うので、近づいてかえって思いが乱れるとまでは思わず、ただあの春の夕べにほのかに見た御衣の端の面影を、もう少し近くで見て、思いを伝え、一行の返事でももらえるか、哀れと思ってもらえるかとだけ思っていた。

夜の六条院の渡殿で、柏木が人目を避けて訪れ、小侍従が戸口に控えている場面(AI生成)
夜の六条院の渡殿で、柏木が人目を避けて訪れ、小侍従が戸口に控えている場面
  1. 1唯ただ唯ただただかくかくかくありがたきありがたきありがたきものものものゝゝのひまひまひまににに氣け氣けけ近ぢか近ぢかじかきききほどほどほどにてにてにて、、、このこのこの心こころ心こころこころののの中なか中なかなかににに思おも思おもおもふふうことことことのののはしはしはし少すこ少すこすこししし聞きこ聞きこきこえええさせさせさせ給たま給たまたまふふうべくべくべくたばかりたばかりたばかり給たま給たまたまへへえ。。。いといといとおほけなきおほけなきおおけなき心こころ心こころこころはははすべてすべてすべてよしよしよし見み見みみ給たま給たまたまへへえ。。。いといといと恐おそろ恐おそろおそろしけれしけれしければばば思おも思おもおもひひい離はな離はなはなれれれててて侍はべ侍はべはべりりり」」」とととののの給のたま給のたまのたまへへえばばば「「「これこれこれよりよりよりおほけなきおほけなきおおけなき心こころ心こころこころはははいかゞいかゞいかがはははあらあらあらむむん。。。いといといとむくつけきむくつけきむくつけき事こと事ことことをををもももおぼしおぼしおぼしよりよりよりけるけるけるかなかなかな。。。何なに何なになにしししににに參まゐ參まゐまいりりりつつつらむらむらん」」」とととはちぶくはちぶくはちぶく。。。「「「いでいでいであなあなあな聞き聞きききききにくにくにく、、、あまりあまりあまりこちたくこちたくこちたく物もの物ものものをををこそこそこそいひいひいいなしなしなし給たま給たまたまふふうべけれべけれべけれ。。。世よ世よよはははいといといと定さだめ定さだめさだめなきなきなきものものものををを女御にようご女御にようごにょうご后きさき后きさききさきもももあるあるあるやうやうようありありありててて物もの物ものものししし給たま給たまたまふふうたぐひたぐひたぐいなくなくなくやはやはやは。。。ましてましてましてそのそのその御おん御おんおん有樣ありさま有樣ありさまありさまよよよ、、、思おも思おもおもへへえばばばいといといとたぐひたぐひたぐいなくなくなくめでたけれめでたけれめでたけれどどどうちうちうちうちうちうちははは心こころ心こころこころやましきやましきやましきことことことももも多おほ多おほおおかるかるかるらむらむらん。。。院ゐん院ゐんいんのののあまたあまたあまたののの御おん御おんおん中なか中なかなかににに又また又またまたならびならびならびなきなきなきやうやうようにににならはしならはしならわし聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまひひいしししににに、、、さしもさしもさしもひとしからひとしからひとしからぬぬぬきはきはきわののの御おん御おんおん方かた方かたかた々がた々がたがたにににたちたちたちまじりまじりまじり、、、めざましげめざましげめざましげなるなるなることことこともももありありありぬぬぬべくべくべくこそこそこそ。。。いといといと善よ善よよくくく聞き聞ききききき侍はべ侍はべはべりりりややや。。。世よ世よよののの中なか中なかなかはははいといといと常つね常つねつねなきなきなきものものものをををひとひとひときはきはきわににに思おも思おもおもひひい定さだ定さださだめめめてててはしたなくはしたなくはしたなくつきゞりつきゞりつきぎりなるなるなることことことなななのたまひのたまひのたまいそそそよよよ」」」とととのたまへのたまへのたまえばばば
  2. 2「「「人ひと人ひとひとにににおとさおとさおとされれれ給たま給たまたまへへえるるる御おん御おんおん有樣ありさま有樣ありさまありさまとてとてとてめでたきめでたきめでたき方かた方かたかたににに改あらた改あらたあらためめめ給たま給たまたまふふうべきべきべきにににやはやはやは侍はべ侍はべはべらららむむん。。。これこれこれははは世よ世よよののの常つね常つねつねののの御おん御おんおん有樣ありさま有樣ありさまありさまにににももも侍はべ侍はべはべらららざめりざめりざめり。。。唯ただ唯ただただ御おん御おんおんうしろみうしろみうしろみなくなくなくててて、、、たゞよはしくたゞよはしくただよわしくおはしまさおはしまさおわしまさむむんよりよりよりははは、、、おやおやおやざまざまざまにににととと讓ゆづ讓ゆづゆずりりり聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまひひいしかしかしかばばばかたみかたみかたみにににさささこそこそこそ思おも思おもおもひひいかはしかはしかわし聞きこ聞きこきこえええさせさせさせ給たま給たまたまひひいためためためれれれ。。。あいなきあいなきあいなき御おん御おんおんおとしめおとしめおとしめごとごとごとににになむなむなん」」」とととはてはてはてはてはてはてははははらだつはらだつはらだつををを萬よろづ萬よろづよろずにににいひいひいいこしらへこしらへこしらえててて「「「誠まこと誠まことまことはははさばかりさばかりさばかり世よ世よよににになきなきなき御おん御おんおん有樣ありさま有樣ありさまありさまををを見み見みみ奉たてまつ奉たてまつたてまつりりりなれなれなれ給たま給たまたまへへえるるる御心みこころ御心みこころみこころににに、、、數かず數かずかずにににもももあらあらあらずずず怪あや怪あやあやしきしきしきなれなれなれすがたすがたすがたををを、、、打う打ううちちち解と解ととけけけててて御覽ごらん御覽ごらんごらんぜぜぜられられられむむんとととははは更さら更さらさらににに思おも思おもおもひひいかけかけかけぬぬぬことことことなりなりなり。。。唯ただ唯ただただひとひとひとことことことものものものごしごしごしにてにてにて聞きこ聞きこきこえええ知し知ししらすらすらすばかりばかりばかりははは、、、何なに何なになにばかりばかりばかりののの御おほん御おほんおん身み身みみのののやつれやつれやつれにににかはかはかはあらあらあらむむん。。。神かみ神かみかみ佛ほとけ佛ほとけほとけにににももも思おも思おもおもふふう事こと事ことこと申まう申まうもうすすすははは罪つみ罪つみつみあるあるあるわざわざわざかはかはかは」」」ととといみじきいみじきいみじきちかちかちかごとごとごとをををしししつゝつゝつつののの給のたま給のたまのたまへへえばばば、、、暫しば暫しばしばしししこそこそこそいといといとあるあるあるまじきまじきまじきことことことにににいひいひいいかへしかへしかえしけれけれけれ、、、物もの物ものもの深ふか深ふかふかからからからぬぬぬ若わか若わかわか人うど人うどうどははは人ひと人ひとひとのののかくかくかく身み身みみにににかへかへかへててていみじくいみじくいみじく思おも思おもおもひひいののの給のたま給のたまのたまふふうををを、、、えええいなびいなびいなびはてはてはてゞゞで「「「もしもしもしさりぬべきさりぬべきさりぬべき隙ひま隙ひまひまあらあらあらばばばたばかりたばかりたばかり侍はべ侍はべはべらららむむん。。。院ゐん院ゐんいんののの坐おは坐おはおわしまさしまさしまさぬぬぬ夜よ夜よよははは御み御みみ帳ちやう帳ちやうちょうのののまはりまはりまわりににに人ひと人ひとひと多おほ多おほおおくくく侍さぶ侍さぶさぶらひらひらいててて、、、おましおましおましのののほとりほとりほとりにににさるべきさるべきさるべき人ひと人ひとひと必かなら必かならかならずずずさぶらひさぶらひさぶらい給たま給たまたまへへえばばば、、、いかなるいかなるいかなる折をり折をりおりをををかはかはかはひまひまひまををを見み見みみつけつけつけ侍はべ侍はべはべるるるべからべからべからむむん」」」ととと侘わ侘わわびびびつゝつゝつつ參まゐ參まゐまいりりりぬぬぬ。。。
  3. 3いかにいかにいかにいかにいかにいかにととと日ひ日ひひ々び々びびににに責せ責せせめめめられられられこうじこうじこうじてててさるべきさるべきさるべき折をり折をりおり伺うかゞ伺うかゞうかがひひいつけつけつけててて、、、せうそこせうそこしょうそこしししおこせおこせおこせたりたりたり。。。悅よろこ悅よろこよろこびびびながらながらながらいみじくいみじくいみじくやつれやつれやつれ忍しの忍しのしのびびびててておはしおはしおわしぬぬぬ誠まこと誠まことまことににに我わ我わわががが心こころ心こころこころにににもももいといといとけしからけしからけしからぬぬぬことことことなれなれなればばば、、、氣け氣けけ近ぢか近ぢかじかくくくなかなかなかなかなかなか思おも思おもおもひひい亂みだ亂みだみだるゝるゝるることことこともももまさるまさるまさるべきべきべきまでまでまでははは思おも思おもおもひひいもももよらよらよらずずず。。。唯ただ唯ただただいといといとほのかほのかほのかににに御おん御おんおんぞぞぞのののつまつまつまばかりばかりばかりををを見み見みみ奉たてまつ奉たてまつたてまつりりりししし春はる春はるはるののの夕ゆふべ夕ゆふべゆうべののの飽あ飽ああかかかずずず世よ世よよととと共とも共ともともににに思おも思おもおもひひい出い出いいでででられられられ給たま給たまたまふふう御おん御おんおん有樣ありさま有樣ありさまありさまををを少すこ少すこすこししし氣け氣けけ近ぢか近ぢかじかくくくててて見み見みみ奉たてまつ奉たてまつたてまつりりり、、、思おも思おもおもふふう事こと事ことことをををももも聞きこ聞きこきこえええ知し知ししらせらせらせてててはははひとひとひとくだりくだりくだりののの御おん御おんおん返かへ返かへかえしししなどなどなどもももややや見み見みみせせせ給たま給たまたまひひい、、、哀あはれ哀あはれあわれとととやややおぼしおぼしおぼし知し知ししるるるとととぞぞぞ思おも思おもおもひひいけるけるける。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

ただこのようにめったにない人目のすき間に、近い所で、この心の中に思うことの一端を少しだけでも申し上げられるように、取り計らってください。たいそう大それた心は、まったくないとご覧なさい。たいそう恐ろしいので、思い離れております」とおっしゃると、小侍従は「これより大それた心が、ほかにありましょうか。たいそう恐ろしいことを思いつかれたものですね。何のために参上したのでしょう」と口をとがらせる。柏木は、「いや、何と聞きにくい。あまりにも大げさに物をおっしゃるものだね。世の中はたいそう定めないもので、女御や后でも、事情があって男と関わりをお持ちになる例がないわけではあるまい。まして宮のご様子よ。思えば、たいそう比類なくすばらしいけれど、内々はご不満なことも多いだろう。院(朱雀院)が大勢の御子の中で、またとないようにお育て申し上げなさったのに、それほど身分の等しくない方々に立ち混じって、不愉快そうなこともきっとあるだろう。たいそうよく聞いておりますよ。世の中はたいそう無常なものなのだから、一途に思い決めて、きまりの悪い、そっけないことをおっしゃいますな」とおっしゃると、

小侍従は、「人に劣る扱いを受けていらっしゃるご様子だからといって、ほかのすばらしい方に改めなさるべきでしょうか。これは世間並みのご結婚でもございませんようです。ただご後見もなく、頼りなくいらっしゃるよりはと、親代わりとしてお譲り申し上げなさったので、お互いにそのようにお思い合い申し上げていらっしゃるようです。つまらない悪口でございます」と、しまいには腹を立てるのを、柏木は何かとなだめて、「本当は、あれほど世にまたとない院のご様子を見慣れていらっしゃるお心に、人数にも入らない、みすぼらしく着慣れた私の姿を、打ち解けてご覧いただこうとは、まったく思いもよらないことだ。ただ一言、物越しに申し上げて思いをお知らせするだけなら、何ほどの御身の汚れになろうか。神仏にも思うことを申し上げるのは、罪のあることだろうか」と、ひどい誓いを立てながらおっしゃるので、小侍従はしばらくは、たいそうあってはならないことと言い返していたが、思慮の浅い若い女房は、人がこのように身にかえてひどく思いつめておっしゃるのを、断りきることができず、「もしかるべき隙があったら、取り計らいましょう。院がいらっしゃらない夜は、御帳台のまわりに人が大勢お仕えしていて、御座所のそばには、しかるべき人が必ずお仕えしていらっしゃるので、どのような折に隙を見つけられましょうか」と困りながら帰っていった。

どうだ、どうだと毎日のように責め立てられて困りはてて、小侍従はしかるべき折をうかがい見つけて、知らせをよこした。柏木は喜びながら、ひどく姿をやつして忍んでいらっしゃった。本当に、自分の心でもたいそうけしからぬことなので、近づいたらかえって思い乱れることもまさるだろうとまでは思いもよらない。ただ、たいそうほのかに御衣の端だけを拝見した春の夕べの、いつまでも名残惜しく、いつも思い出されなさるご様子を、少し近くで拝見して、思うことも申し上げて知っていただいたら、一行のお返事でも見せてくださるか、哀れとお思いになるかとだけ思っていた。

意訳

柏木は、ただ物越しに一言思いを伝えたいだけだと小侍従に誓い、小侍従は断りきれずに取り計らうと約束する。

小侍従はついに機会を見つけて知らせ、柏木は姿をやつして宮のもとへ忍んでいく。

語釈・文法注

文法

「はちぶく」(とはちぶく)
口をとがらせる、不満そうにする。
反語の「やは」(めでたき方に改め給ふべきにやは侍らむ)
「ほかのすばらしい方に改めなさるべきでしょうか、いや、そうではない」。
「こうず」(日々に責められこうじて)
困じる。困りはてる。

解説

柏木は「ただ一言、物越しに」と言って小侍従を説得する。しかしそれは、宮に近づくための口実にすぎなかった。小侍従は「物深からぬ若人」と語られ、柏木の熱意に押されて手引きを約束してしまう。朱雀院が恐れた「これかれの心にまかせて」の事態が、ここに現実となる。

柏木が「女御后もあるやうありて物し給ふたぐひなくやは」と言うのは、帝の妃でさえ密通の例があるということで、桐壺帝の后藤壺と源氏との関係を暗示するかのようである。源氏がかつて犯した罪が、今度は源氏自身の妻をめぐって繰り返されようとしている。

関連

出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、684–687頁(コマ53–54)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日