源氏物語 第35帖 若菜下(23)
明石の君と紫の上
源氏は、今も昔も、いい加減な心の慰みから、気の毒で悔やまれることが多いと言い、明石の君については、大したことのない身分と侮っていたが、心の底が見えず、奥深いところのある人だ、表面はおっとりと人に従うように見えて、打ち解けない様子が内にこもり、何となく気後れさせるところがあると語る。紫の上は、ほかの人は知らないが、明石の君は時々様子を見ると、打ち解けにくく、気後れするほどの人だとわかる、自分のあまりの無邪気さをどう見ているかと気が引けるが、女御は許してくださるだろうと思っていると言う。源氏は、あれほど目障りに思っていた人を、今はこうして許して親しくしているのも、女御のためを思う真心からだと思い、たいそうありがたく、あなたは心に隈がないわけではないが、相手と事情に応じて、二筋に心づかいをする人だ、これほど多くの女性を見てきたが、あなたに似た人はいなかった、ただ、ちょっと嫉妬なさるところは別だとほほえむ。夕方、源氏は、宮が琴をよく弾きこなしたことを褒めに宮のもとへ行く。宮は、自分を気にかける人がいるとも思わず、ひどく子どもっぽく琴に夢中である。源氏は、もう休ませてあげよう、師匠も満足させてこそだと言って、琴を押しやって寝る。

- 1今今いまもももむかしむかしむかしもももなほざりなほざりなおざりなるなるなる心心こころのののすさびすさびすさびにににいとほしくいとほしくいとおしくくやしきくやしきくやしきことことことももも多多おおくくくなむなむなん」」」ととときしきしきし方方かたののの人人ひとののの御御おんうへうへうえ少少すこしししづゝづゝずつのたまひのたまひのたまい出出いでででゝゝて「「「內內うちののの御御おん方方かたののの御御おんうしろみうしろみうしろみははは、、、何何なにばかりばかりばかりののの程程ほどならならならずずずとととあなづりあなづりあなずりそめそめそめててて心心こころ安安やすきききものものものににに思思おもひひいしししををを、、、猶猶なお心心こころののの底底そこ見見みえええずずずきはきはきわなくなくなく深深ふかききき所所ところあるあるある人人ひとににになむなむなん。。。うはべうはべうわべははは人人ひとににになびきなびきなびきおいらかおいらかおいらかににに見見みえええながらながらながら、、、打打うちちち解解とけけけぬぬぬ氣色氣色けしきしたしたしたにににこもりこもりこもりてててそこはかとなくそこはかとなくそこはかとなく耻耻はずかしきしきしき所所ところこそこそこそあれあれあれ」」」とととののの給給のたまへへえばばば「「「ことことこと人人びとははは見見みねねねばばば知知しらららぬぬぬををを、、、これこれこれはははまほまほまほならならならねねねどどどおのづからおのづからおのずから氣色氣色けしき見見みるるる折々折々おりおりもももあるあるあるににに、、、いといといと打打うちちち解解とけけけにくゝにくゝにくく心心こころはづかしきはづかしきわずかしき有樣有樣ありさましるきしるきしるきををを、、、いといといとたとしへたとしへたとしえなきなきなきうらうらうらなさなさなさををを、、、いかにいかにいかに見見み給給たまふふうらむらむらんとととつゝましけれつゝましけれつつましけれどどど、、、女御女御にょうごはははおのづからおのづからおのずからおぼしおぼしおぼし許許ゆるすすすらむらむらんとととのみのみのみ思思おもひひいてててなむなむなん」」」とととののの給給のたまふふう。。。さばかりさばかりさばかりめざましめざましめざましととと心心こころおきおきおき給給たまへへえりりりししし人人ひとををを今今いまはははかくかくかくゆるしゆるしゆるしててて見見みえええかはしかはしかわしなどなどなどししし給給たまふふうももも、、、女御女御にょうごののの御御おんためためためのののまごゝろまごゝろまごころなるなるなるあまりあまりあまりぞぞぞかしかしかしとととおぼすおぼすおぼすににに、、、いといといとありがたけれありがたけれありがたければばば「「「君君きみこそこそこそはははさすがにさすがにさすがにくまくまくまなきなきなきにににはははあらあらあらぬぬぬものものものからからから、、、人人ひとににによりよりよりことことことににに從從したがひひいいといといとよくよくよく二二ふたすぢすぢすじににに心心こころづかひづかひずかいはははししし給給たまひひいけれけれけれ。。。更更さらにににこゝらこゝらここら見見みれれれどどど御御おん有樣有樣ありさまににに似似にたるたるたる人人ひとはははなかりなかりなかりけりけりけり。。。いといといと氣色氣色けしきこそこそこそ物物ものししし給給たまへへえ」」」とととほゝゑみほゝゑみほほえみててて聞聞きこえええ給給たまふふう。。。
- 2宮宮みやにににいといといとよくよくよくひきひきひき取取とりりり給給たまへへえりりりしししことことことののの悅悅よろこびびび聞聞きこえええむむんとてとてとて夕夕ゆうつつつかたかたかたわたりわたりわたり給給たまひひいぬぬぬ。。。我我わににに心心こころおくおくおく人人ひとやややあらあらあらむむんととともももおぼしおぼしおぼしたらたらたらずずず、、、いといといといたくいたくいたく若若わかびびびてててひとへひとへひとえににに御御おんことことことににに心心こころ入入いれれれててておはすおはすおわす。。。「「「今今いまはははいとまいとまいとまゆるしゆるしゆるしててて打打うちちち休休やすままませせせ給給たまへへえかしかしかし。。。物物ものののの師師しははは心心こころゆかゆかゆかせせせてててこそこそこそ。。。いといといと苦苦くるしかりしかりしかりつるつるつる日日ひ比比ごろのののしるししるししるしありありありててて、、、うしろうしろうしろ安安やすくくくなりなりなり給給たまひひいにににけりけりけり」」」とてとてとて御御おんことことことゞもゞもどもおしおしおしやりやりやりててて、、、大大おお殿殿とのごもりごもりごもりぬぬぬ。。。
現代語訳
「今も昔も、いい加減な心の慰みから、気の毒で悔やまれることも多い」と、過去の人々のことを少しずつお話しになって、「内裏の御方(明石の女御)の後見(明石の君)は、それほどの身分でもないと侮り始めて、気楽な人と思っていたが、やはり心の底が見えず、際限なく奥深いところのある人だ。表面は人に従っておっとりと見えながら、打ち解けない様子が内にこもっていて、何となく気後れさせるところがある」とおっしゃると、紫の上は、「ほかの人は見たことがないのでわかりませんが、この方は、はっきりとではないけれど、自然と様子を見る折々もあるので、たいそう打ち解けにくく、こちらが気後れするような様子がはっきりしていますのに、私のたいそうたとえようもない無邪気さを、どうご覧になっているだろうと気が引けますが、女御は自然とお許しくださるだろうとばかり思っておりまして」とおっしゃる。あれほど目障りだと隔て心をお持ちだった人を、今はこのように許して顔を合わせなどなさるのも、女御のための真心が余ってのことだと源氏はお思いになると、たいそうありがたいので、「あなたこそは、さすがに心に隈がないわけではないものの、人によって、事情に応じて、たいそうよく二筋に心づかいをなさる。まったく、これほど多くの人を見てきたけれど、あなたのご様子に似た人はいなかった。ただ、たいそうご機嫌を悪くなさるところは別だが」とほほえんで申し上げなさる。
源氏は、宮が琴をたいそうよく弾きこなしなさったことのお祝いを申し上げようと、夕方お越しになった。宮は、自分に隔て心を置く人がいようともお思いにならず、たいそうひどく子どもっぽくて、ひたすら御琴に心を入れていらっしゃる。源氏は、「今はもう暇をあげてお休みなさい。師匠は満足させてこそ。たいそう苦しかったこの頃の稽古のかいがあって、安心できるほどになられた」と言って、御琴類を押しやって、お休みになった。
意訳
源氏は明石の君を奥深い人と評し、紫の上もそれを認め、源氏は紫の上の心づかいの見事さをたたえる。
源氏は女三の宮の琴をねぎらいに行き、宮は無邪気に琴に夢中である。
語釈・文法注
文法
- 「二すぢに心づかひ」(人によりことに從ひいとよく二すぢに心づかひはし給ひけれ)
- 相手と事情によって、表と裏の二筋に心を使い分けること。
- 「うらなさ」(いとたとしへなきうらなさを)
- 心に隔てのないこと、無邪気さ。
- 「いと氣色こそ物し給へ」(いと氣色こそ物し給へ)
- 「ご機嫌を悪くなさることがある」。嫉妬することを冗談めかしていう。
解説
源氏の明石の君評と、紫の上の応答は興味深い。かつて紫の上は明石の君に強い嫉妬を抱いていたが、今は女御のために互いを認め合う関係となっている。源氏は紫の上の「二すぢに心づかひ」をたたえるが、それは紫の上が本心を隠して周囲に気を配り続けてきたことでもある。
紫の上と語り合った後、源氏は女三の宮のもとへ行く。宮は「我に心おく人やあらむともおぼしたらず」、無邪気に琴を弾いている。紫の上の深い心づかいと、宮の無邪気さとの対照が、この直後の紫の上の発病をいっそう痛ましいものにしている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、680–681頁(コマ51)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日