源氏物語 第35帖 若菜下(19)
女楽の終わり
明石の女御は箏の琴を紫の上に譲って横になり、和琴は源氏の前に回されて、少し打ち解けた遊びになる。催馬楽の「葛城」を華やかに歌い、源氏も繰り返し歌う声は、たとえようもなく愛嬌がある。月が昇るにつれて花の色香も引き立つ。紫の上の箏は、女御のかわいらしい音色とは違い、ゆったりと趣深く、聞く人の心を揺さぶるほど愛嬌がある。律の調子に変わり、宮の琴は、五つの調べの中から必ず弾くべき五、六の撥を見事に弾き、源氏の教えをよく守っているので、源氏はかわいらしく晴れがましく思う。源氏は、笛を吹いた孫たちをねぎらい、夜更かしさせたことをわびて、笙の君に杯を与え、衣を脱いで与える。横笛の君には紫の上方から細長などが、夕霧には宮の方から杯と装束一揃いが与えられる。源氏が、師匠の自分をまずもてなすべきだと言うと、宮の方から見事な高麗笛が贈られる。源氏が少し吹き、皆が立ち去る時、夕霧が子の笛を取って見事に吹き、源氏は自分の芸がよく伝わっていることを思う。夕霧は子どもたちを車に乗せて、月の澄んだ中を帰る。道すがら紫の上の箏の音が耳について恋しく思う。自分の妻の雲居雁は、大宮に習ったが身につけないうちに別れたので、夫の前では恥じて弾かない。何事もおっとりと、子育てに追われているので、おもしろみがないと思うが、それでも嫉妬するところは、愛嬌があってかわいらしい人柄である。

- 1女御女御にょうごののの君君きみははは、、、さうさうそうののの御御おん琴琴ことをををばばば上上うえにににゆづりゆづりゆずり聞聞きこえええててて寄寄よりりりふしふしふし給給たまひひいぬれぬれぬればばばあづまあづまあずまをををおとゞおとゞおとどののの御御お前前まえににに參參まいりりりててて少少すこしししけぢかきけぢかきけじかき御御おんあそびあそびあそびににになりなりなりぬぬぬかづらきかづらきかずらきあそびあそびあそび給給たまふふう華華はなやかやかやかにににおもしろしおもしろしおもしろし。。。おとゞおとゞおとどをりをりおりかへしかへしかえし謠謠うたひひい給給たまふふう御御おん聲聲こえ譬譬たとへへえむむんかたかたかたなくなくなくあいぎやうあいぎやうあいぎょうづきづきずきめでたしめでたしめでたし。。。月月つきやうやうやうやうようようさしさしさしあがるあがるあがるまゝまゝままににに、、、花花はなのののいろいろいろかかかもてもてもてはやさはやさはやされれれてててげにげにげにいといといと心心こころにくきにくきにくき程程ほどなりなりなり。。。箏箏そうののの琴琴ことははは女御女御にょうごののの御御おんつまつまつまおとおとおとはははいといといとらうたげらうたげろうたげににになつかしくなつかしくなつかしく母母はは君君ぎみののの御御おんけはひけはひけわい加加くわはりはりわりてててゆゆゆのののねねねふかくふかくふかくいみじくいみじくいみじくすみすみすみててて聞聞きこえええつるつるつるををを、、、このこのこの御御おん手手てづかひづかひずかいははは又又またさまさまさま變變かわりりりてててゆるらかゆるらかゆるらかにににおもしろくおもしろくおもしろく聞聞きくくく人人ひとたゞたゞただならならならずずず。。。すゞろはしきすゞろはしきすずろわしきまでまでまであいぎやうあいぎやうあいぎょうづきづきずきりんりんりんのののてててなどなどなどすべてすべてすべてさらにさらにさらにいといといとかどかどかどあるあるある御御おん琴琴ことのののねねねなりなりなり。。。かへりかへりかえり聲聲ごえににに皆皆みな調調しらべべべかはりかはりかわりてててりちりちりちののの搔搔かききき合合あわせせせどもどもども懷懷なつかしくしくしく今今いまめきめきめきたるたるたるにににきんきんきんははは五五ご箇箇かのののしらべしらべしらべあまたあまたあまたののの手手てののの中中なかににに心心こころとゞめとゞめとどめててて必必かならずずずひきひきひき給給たまふふうべきべきべき五五ご六六ろくのののはちはちはちをををいといといとおもしろくおもしろくおもしろくすましすましすましててて彈彈ひききき給給たまふふう。。。更更さらにににかたほかたほかたおならならならずずずいといといとよくよくよくすみすみすみててて聞聞きこゆゆゆ。。。春春はる秋秋あきよろづよろづよろずののの物物ものにににかよへかよへかよえるるるしらべしらべしらべにてにてにて通通かよはしはしわしわたしわたしわたしつゝつゝつつ彈彈ひききき給給たまふふう心心こころしらひしらひしらい敎敎おしへへへ聞聞きこえええ給給たまふふうさまさまさまたがへたがへたがえずずずいといといとよくよくよく辨辨わきまへへえ給給たまへへえるるるををを、、、いといといとうつくしくうつくしくうつくしくおもだゝしくおもだゝしくおもだたしく思思おもひひい聞聞きこえええ給給たまふふう。。。
- 2このこのこの君君きん達達だちのののいといといと美美うつくしくくしくくしく吹吹ふききき立立たてててゝゝてせちせちせちににに心心こころ入入いれれれたるたるたるをををらうたがりらうたがりろうたがり給給たまひひいててて、、、「「「ねぶたくねぶたくねぶたくなりなりなりにににたらたらたらむむんににに、、、こよひこよひこよいのののあそびあそびあそびははは長長ながくくくはははあらあらあらででではつかはつかはつかなるなるなる程程ほどにににととと思思おもひひいつるつるつるををを、、、とゞめとゞめとどめ難難かたききき物物もののののねねねどもどもどものののいづれいづれいずれともともともなきなきなきををを聞聞ききききわくわくわく程程ほどののの耳耳みみとからとからとからぬぬぬたどたどしさたどたどしさたどたどしさにににいたくいたくいたくふけふけふけにににけりけりけり。。。心心こころなきなきなきわざわざわざなりなりなりややや」」」とてとてとてさうさうそうののの笛笛ふえ吹吹ふくくく君君きみにににかはらけかはらけかわらけさしさしさし給給たまひひいててて御御おんぞぞぞ脫脫ぬぎぎぎてててかづけかづけかずけ給給たまふふう。。。橫橫よこ笛笛ぶえののの君君きみにににははは、、、こなたこなたこなたよりよりより織織おり物物ものののの細細ほそ長長ながににに、、、袴袴はかまなどなどなどことごとしからことごとしからことごとしからぬぬぬさまさまさまににに氣色氣色けしきばかりばかりばかりにてにてにて、、、大大だい將將しょうののの君君きみにににははは宮宮みやののの御御おん方方かたよりよりよりさかづきさかづきさかずきさしさしさし出出いでででゝゝて、、、宮宮みやののの御御おんさうぞくさうぞくそうぞくひとひとひとくだりくだりくだりかづけかづけかずけ奉奉たてまつりりり給給たまふふうををを、、、おとゞおとゞおとど「「「あやしあやしあやしややや、、、物物ものののの師師しをををこそこそこそまづまづまずははは物物ものめかしめかしめかし給給たまははわめめめ。。。うれはしきうれはしきうれわしきことことことなりなりなり」」」とととののの給給のたまふふうににに、、、宮宮みやのののおはしますおはしますおわします御御み几几き帳帳ちょうのののそばそばそばよりよりより御御おん笛笛ふえををを奉奉たてまつるるる。。。うちうちうち笑笑わらひひい給給たまひひいてててとりとりとり給給たまふふう。。。いみじきいみじきいみじきこまこまこまぶえぶえぶえなりなりなり。。。少少すこししし吹吹ふきききならしならしならし給給たまへへえばばば皆皆みな立立たちちち出出いででで給給たまふふうほどほどほどににに、、、大大だい將將しょう立立たちちちとまりとまりとまり給給たまひひいててて、、、御御み子子こののの持持もちちち給給たまへへえるるる笛笛ふえををを取取とりりりててていみじくいみじくいみじくおもしろくおもしろくおもしろく吹吹ふききき立立たててて給給たまへへえるるるがががいといといとめでたくめでたくめでたく聞聞きこゆれゆれゆればばば、、、いづれいづれいずれもももいづれいづれいずれももも皆皆みな御御おん手手てをををはなれはなれはなれぬぬぬものものものゝゝのつたへつたへつたえつたへつたへつたえ、、、いといといとににになくなくなくのみのみのみあるあるあるにてにてにてぞぞぞ、、、我我わががが御御おんざえざえざえのののほどほどほどありがたくありがたくありがたくおぼしおぼしおぼし知知しららられれれけるけるける。。。
- 3大大だい將將しょう殿殿どのははは、、、君君きん達達だちををを御御おん車車くるまににに乘乘のせせせててて月月つきののの澄澄すめめめるるるにににまかでまかでまかで給給たまふふう。。。道道みちすがらすがらすがら箏箏そうののの琴琴ことのののかはりかはりかわりててていみじかりいみじかりいみじかりつるつるつる音音ねももも耳耳みみにににつきつきつきててて戀戀こいしくしくしく覺覺おぼえええ給給たまふふう。。。我我わががが北北きたののの方方かたははは、、、故故こ大大おお宮宮みやののの敎敎おしへへへ聞聞きこえええ給給たまひひいしかしかしかどどど、、、心心こころにににもももえええしめしめしめ給給たまははわざりざりざりしししほどほどほどにににわかれわかれわかれ奉奉たてまつりりり給給たまひひいにににしかしかしかばばばゆるらかゆるらかゆるらかにににももも引引ひききき取取とりりり給給たまははわででで男男おとこ君君ぎみののの御御お前前まえにてにてにてははは耻耻はぢぢじててて更更さらにににひきひきひき給給たまははわずずず。。。何事何事なにごとももも唯唯ただおいらかおいらかおいらかににに打打うちちちおほどきおほどきおおどきたるたるたるさまさまさましししててて子子こどもどもどもあつかひあつかひあつかいをををいとまいとまいとまなくなくなくつぎつぎつぎつぎつぎつぎししし給給たまへへえばばば、、、をかしきをかしきおかしき所所ところもももなくなくなく覺覺おぼゆゆゆ。。。さすがにさすがにさすがに腹腹はら惡惡あしくしくしくててて物物ものねたみねたみねたみ打打うちちちしししたるたるたる、、、あいぎやうあいぎやうあいぎょうづきづきずきててて美美うつくしきしきしき人人ひとざまざまざまにににぞぞぞ物物ものししし給給たまふふうめるめるめる。。。
現代語訳
女御の君は、箏の御琴を上(紫の上)にお譲り申し上げて、横におなりになったので、和琴を大臣(源氏)の御前に回して、少し打ち解けた御遊びになった。催馬楽の「葛城」をお謡いになるのが、華やかで趣深い。大臣が繰り返してお謡いになるお声は、たとえようもなく愛嬌があってすばらしい。月がだんだん昇るにつれて、花の色も香りも引き立てられて、本当にたいそう奥ゆかしい頃である。箏の琴は、女御の爪音は、たいそうかわいらしく親しみやすく、母君(明石の君)の御気配も加わって、揺の音が深く、たいそう澄んで聞こえたが、この紫の上の手さばきは、また趣が違って、ゆったりと趣深く、聞く人は平静ではいられない。心が揺さぶられるほど愛嬌があって、輪の手など、すべてまったくたいそう才気のある御琴の音である。返り声で皆調子が変わって、律の掻き合わせなどが親しみやすく当世風であるところに、琴(きん)は、五つの調べの多くの手の中で、心をとどめて必ずお弾きになるべき五、六の撥を、たいそう趣深く澄ませてお弾きになる。まったく未熟なところがなく、たいそうよく澄んで聞こえる。春秋すべての楽器に通じる調べで、通わせ渡しながらお弾きになる心づかいを、源氏がお教え申し上げなさったとおりに違えず、たいそうよくわきまえていらっしゃるのを、源氏は、たいそうかわいらしく、晴れがましくお思い申し上げなさる。
この君達が、たいそうかわいらしく笛を吹き立てて、一生懸命に心を入れていたのを、源氏はかわいがりなさって、「眠くなってしまっただろうに。今夜の遊びは、長くはせずに、ほんの少しの間でと思っていたのに、とどめがたい楽の音どもが、どれも優劣のないのを聞き分けるほどに耳が鋭くないたどたどしさのせいで、たいそう夜が更けてしまった。思いやりのないことをしたね」と言って、笙の笛を吹く君に杯をおさしになって、御衣を脱いでお与えになる。横笛の君には、こちら(紫の上)から、織物の細長に袴などを、仰々しくない様子で形ばかり与え、大将の君には、宮の御方から杯を差し出して、宮の御装束一揃いをお与え申し上げなさるのを、大臣は「おかしいね。師匠の私をこそ、まずもてなしてくださるべきなのに。うらめしいことだ」とおっしゃると、宮のいらっしゃる御几帳のそばから、御笛を差し上げる。源氏はお笑いになってお受け取りになる。すばらしい高麗笛である。少し吹き鳴らしなさると、皆が立ち出でなさる時に、大将が立ち止まりなさって、御子が持っていらっしゃる笛を取って、たいそう趣深く吹き立てなさったのが、たいそうすばらしく聞こえるので、どの人もどの人も皆、源氏のお手を離れないものの伝えが、たいそう比類なくばかりあることで、ご自分の才のほどが、めったにないものだとお思い知りになった。
大将殿は、君達を御車に乗せて、月の澄んでいる中を退出なさる。道すがら、紫の上の箏の琴の、変わってすばらしかった音も耳について、恋しく思われなさる。自分の北の方(雲居雁)は、故大宮がお教え申し上げなさったけれど、心に身につけなさらないうちにお別れ申し上げなさったので、ゆったりとも弾きこなしなさらず、夫の前では恥ずかしがってまったくお弾きにならない。何事もただおっとりと、のんびりとした様子をして、子どもの世話を休む暇もなく次々となさっているので、夕霧は趣のあるところもないと思う。それでもやはり、腹を立てやすくて嫉妬をなさるところは、愛嬌があってかわいらしい人柄でいらっしゃるようだ。
意訳
紫の上の箏と宮の琴が見事に響き、源氏は孫たちや夕霧に禄を与え、宮からは高麗笛が贈られる。
夕霧は帰り道、紫の上の箏の音を恋しく思い、音楽をたしなまない妻の雲居雁と比べる。
語釈・文法注
文法
- 「かづらき」(かづらきあそび給ふ)
- 葛城。催馬楽の曲名。
- 「りんのて」(りんのてなどすべてさらにいとかどある)
- 輪の手。箏の奏法の一つ。
- 「こまぶえ」(いみじきこまぶえなり)
- 高麗笛。高麗楽に用いる、細く短い横笛。
解説
女楽の締めくくりで、紫の上の箏と女三の宮の琴が改めて描かれる。紫の上の演奏は、聞く人の心を揺さぶるほどの深みを持ち、宮の琴は源氏の教えを忠実に守った端正なものである。二人の演奏の違いは、そのまま二人の人柄の違いでもある。
夕霧が帰り道に紫の上の箏を恋しく思い、妻の雲居雁と比べるのは、夕霧の心の奥に潜む紫の上への憧れを示している。雲居雁は、才気はないが、嫉妬深くもかわいらしい人として描かれる。この夫婦の関係は、のちの夕霧の巻で、落葉の宮をめぐって大きく揺れることになる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、674–677頁(コマ48–49)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日