源氏物語 第35帖 若菜下(16)
女君たちの姿
源氏が女君たちの様子をのぞくと、女三の宮は人よりいっそう小さくかわいらしく、衣ばかりがあるようで、二月中旬の青柳が枝垂れ始めたような、鶯の羽風にも乱れそうなか弱さである。明石の女御は、同じように優美な姿にもう少しつややかさが加わり、咲きこぼれる藤の花が夏にかかって並ぶ花のない朝ぼらけのようである。女御は懐妊して体がふっくらし、脇息に寄りかかっている。紫の上は、葡萄染であろうか濃い色の小袿に薄蘇芳の細長を着て、豊かな髪がたまっており、あたりに美しさが満ちあふれて、花にたとえれば桜でもなお及ばないほどである。明石の君は、このような方々の中で気後れしそうなものだが、そうでもなく、奥ゆかしく上品に見える。柳の細長に萌黄の小袿を着て、薄物の裳を掛けて謙遜しているが、侮りがたい。高麗の錦の褥に琵琶を置き、優美に撥を扱う様子は、五月を待つ花橘の香りを思わせる。夕霧は、女君たちの様子に心ひかれ、紫の上をもう一度見たいと思う。宮も、もう少し宿縁があれば自分の妻にできたのにと悔しく思うが、宮の軽さに、さほど心は動かない。紫の上は遠い存在なので、ただ好意を示したいと思うだけで、大それた心は抑えている。

- 1宮宮みやののの御御おん方方かたをををのぞきのぞきのぞき給給たまへへえれれればばば人人ひとよりよりよりけにけにけにちひさくちひさくちいさく美美うつくしげしげしげにてにてにて唯唯ただ御御おんぞぞぞのみのみのみあるあるある心心こころちちちすすす。。。にほひやかにほひやかにおいやかなるなるなる方方かたはははおくれおくれおくれててて唯唯ただいといといとあてやかあてやかあてやかにににをかしくをかしくおかしく、、、二二きさら月月ぎののの中中なかののの十十とお日日かばかりばかりばかりののの靑靑あお柳柳やぎののの僅僅わずかにににしたりしたりしたり始始はじめめめたらたらたらむむん心地心地ここちしししててて、、、鶯鶯うぐいすののの羽羽は風風かぜにににももも亂亂みだれれれぬぬぬべくべくべくあえかあえかあえかににに見見みえええ給給たまふふう。。。櫻櫻さくらのののほそながほそながほそながにににみみみぐしぐしぐしははは左左ひだりみぎみぎみぎよりよりよりこぼれこぼれこぼれかゝりかゝりかかりててて柳柳やなぎののの糸糸いとのののさまさまさましししたりたりたり。。。これこれこれこそこそこそははは限限かぎりなきなきなき人人ひとののの御御おん有樣有樣ありさまなめれなめれなめれととと見見みゆるゆるゆるににに女御女御にょうごののの君君きみははは同同おなじじじやうやうようなるなるなる御御おんなまめきなまめきなまめき姿姿すがたののの今今いま少少すこしししにほひにほひにおい加加くわはりはりわりてててもてなしもてなしもてなしけはひけはひけわい心心こころにくゝにくゝにくくよしよしよしあるあるあるさまさまさまししし給給たまひひいてててよくよくよく咲咲さきききこぼれこぼれこぼれたるたるたる藤藤ふじののの花花はなののの夏夏なつにににかゝりかゝりかかりてててかたはらかたはらかたわらににに並並ならぶぶぶ花花はななきなきなき朝朝あさぼらけぼらけぼらけののの心地心地ここちぞぞぞししし給給たまふふう。。。さるはさるはさるはいといといとふくらかふくらかふくらかなるなるなる程程ほどににになりなりなり給給たまひひいてててなやましくなやましくなやましく覺覺おぼえええ給給たまひひいけれけれければばば御御おん琴琴ことももも推推おしししやりやりやりてててけうそくけうそくきょうそくにににおしおしおしかゝりかゝりかかり給給たまへへえりりり。。。さゝやかさゝやかささやかににになよびなよびなよびかゝりかゝりかかり給給たまへへえるるるににに、、、御御おんけうそくけうそくきょうそくははは例例れいののの程程ほどなれなれなればばばおよびたるおよびたるおよびたる心地心地ここちしししててて殊殊こと更更さらにににちひさくちひさくちいさく作作つくらららばやばやばやととと見見みゆるゆるゆるぞぞぞいといといと哀哀あわれげげげにににおはしおはしおわしけるけるける。。。紅紅こう梅梅ばいののの御御おんぞぞぞににに御御おんぐしぐしぐしのののかゝりかゝりかかりはらはらはらはらはらはらととと淸淸きよらららにてにてにてほほほかげかげかげののの御御おん姿姿すがた世世よににになくなくなく美美うつくしげしげしげなるなるなるににに紫紫むらさきののの上上うえはははえびぞめえびぞめえびぞめにににやややあらあらあらむむん、、、色色いろ濃濃こきききこうちきこうちきこうちき、、、うすうすうすすはうすはうすおうののの細細ほそ長長ながににに御御おんぐしぐしぐしのののたまれたまれたまれるるるほどほどほどこちたくこちたくこちたくゆるらかゆるらかゆるらかにににおほきさおほきさおおきさなどなどなどよきよきよき程程ほどにににやうだいやうだいようだいあらまほしくあらまほしくあらまほしく、、、あたりあたりあたりにほひにほひにおい滿滿みちちちたるたるたる心地心地ここちしししててて、、、花花はなととといはいはいわゞゞば櫻櫻さくらにににたとへたとへたとえてててももも猶猶なお物物ものよりよりよりすぐれすぐれすぐれたるたるたるけはひけはひけわい殊殊ことににに物物ものししし給給たまふふう。。。
- 2かゝるかゝるかかる御御おんあたりあたりあたりににに明明あか石石しはははけけけおさるおさるおさるべきべきべきをををいといといとさしもさしもさしもあらあらあらずずずもてなしもてなしもてなしなどなどなど氣色氣色けしきばみばみばみはづかしくはづかしくはずかしく心心こころのののそこそこそこゆかしきゆかしきゆかしきさまさまさましししてててそこはかとなくそこはかとなくそこはかとなくあてあてあてににになまめかしくなまめかしくなまめかしく見見みゆゆゆ。。。柳柳やなぎののの織織おり物物ものののの細細ほそ長長ながもえぎもえぎもえぎにににやややあらあらあらむむん、、、小小こ袿袿うちき着着きてててうすものうすものうすものゝゝの物物ものはかなげはかなげはかなげなるなるなる引引ひきききかけかけかけててて、、、殊殊こと更更さらひげひげひげしししたれたれたれどどどけはひけはひけわい思思おもひなしひなしいなしももも心心こころにくゝにくゝにくくあなづらはしからあなづらはしからあなずらわしからずずず。。。こまこまこまののの靑靑あお地地じののの錦錦にしきののの端端はしさしさしさしたるたるたるしとねしとねしとねにににまほまほまほにににもももゐゐいててて琵琵び琶琶わをををうちうちうち置置おきききててて唯唯ただ氣色氣色けしきばかりばかりばかりひきひきひきかけかけかけてててたをやかたをやかたおやかにににつかひつかひつかいなしなしなしたるたるたるばちばちばちのののもてなしもてなしもてなし、、、音音ねををを聞聞きくくくよりよりよりももも又又またありがたくありがたくありがたくなつかしくなつかしくなつかしくててて五五さ月月つきまつまつまつ花花はなたちばなたちばなたちばなののの花花はなももも實實みもももくしくしくしててておしおしおしをれをれおれるるるかをりかをりかおり覺覺おぼゆゆゆ。。。
- 3これこれこれもももかれかれかれももも打打うちちち解解とけけけぬぬぬ御御おんけはひけはひけわいどもどもどもををを聞聞きききき見見み給給たまふふうににに大大だい將將しょうもももいといといと打打うちちちゆかしくゆかしくゆかしく覺覺おぼえええ給給たまふふう。。。對對たいののの上上うえののの見見みししし折折おりよりよりよりもももねびねびねびまさりまさりまさり給給たまへへえらむらむらんありさまありさまありさまゆかしきゆかしきゆかしきにににしづしづしず心心こころもももなしなしなし、、、宮宮みやをををばばば今今いま少少すこしししのののすくせすくせすくせ及及およばばばましかましかましかばばば我我わががが物物ものにてにてにてももも見見み奉奉たてまつりりりてててましましまし。。。心心こころのののいといといとぬるきぬるきぬるきぞぞぞくやしきくやしきくやしきややや、、、院院いんはははたびたびたびたびたびたびさやうさやうさようにににおもむけおもむけおもむけてててしりうしりうしりゅうごとごとごとにににももものたまはせのたまはせのたまわせけるけるけるをををととと、、、ねたくねたくねたく思思おもへへえどどど少少すこししし心心こころ安安やすききき方方かたににに見見みえええ給給たまふふう御御おんけはひけはひけわいににに、、、あなづりあなづりあなずり聞聞きこゆゆゆとととはははなけれなけれなけれどどどいといといとしもしもしも心心こころははは動動うごかかかざりざりざりけりけりけり。。。このこのこの御御おんかたかたかたをををばばば何何なにごとごとごとももも思思おもひひい及及およぶぶぶべきべきべき方方かたなくなくなくけけけ遠遠どおくくくててて年年とし比比ごろ過過すぎぎぎぬれぬれぬればばば、、、いかでいかでいかでかかか唯唯ただ大方大方おおかたににに心心こころよせよせよせあるあるあるさまさまさまをををももも見見みえええ奉奉たてまつらららむむんとととばかりばかりばかりののの口惜口惜くちおしくしくしく歎歎なげかしきしきしきなりなりなりけりけりけりあながちあながちあながちにににあるあるあるまじくまじくまじくおほけなきおほけなきおおけなき心心こころなどなどなどははは更更さらににに物物ものししし給給たまははわずずず、、、いといといとよくよくよくもてもてもてをさめをさめおさめ給給たまへへえりりり。。。
現代語訳
源氏が宮の御方をおのぞきになると、宮は人よりもいっそう小さくかわいらしくて、ただ御衣ばかりがあるような感じがする。つややかな美しさの方は劣っていて、ただたいそう上品で愛らしく、二月の中の十日ごろの青柳が、わずかに枝垂れ始めたような感じがして、鶯の羽風にも乱れそうなほど、か弱くお見えになる。桜の細長に、御髪は左右からこぼれかかって、柳の糸のような様子をしている。これこそはこの上ない身分の方のご様子なのだろうと見えるが、女御の君(明石の女御)は、同じような優美なお姿に、もう少しつややかさが加わって、振る舞いや雰囲気が奥ゆかしく、たしなみのある様子をしていらっしゃって、よく咲きこぼれている藤の花が夏にかかって、そばに並ぶ花もない朝ぼらけのような感じがなさる。実は、たいそうふっくらとしたお体になられて、気分が悪くお思いになったので、御琴も押しやって、脇息に寄りかかっていらっしゃった。小柄でなよなよと寄りかかっていらっしゃるのに、御脇息は普通の大きさなので、背伸びしているような感じがして、ことさら小さく作ってさしあげたいと見えるのが、たいそういじらしくいらっしゃった。紅梅の御衣に御髪がはらはらとかかって美しく、灯影のお姿が世にないほどかわいらしいが、紫の上は、葡萄染であろうか、色の濃い小袿に、薄蘇芳の細長を着て、御髪がたまっているところがふさふさとゆったりとして、背丈なども程よく、姿かたちが申し分なく、あたりに美しさが満ちあふれている感じがして、花にたとえるなら、桜にたとえてもなお、ものよりも優れた雰囲気を格別にお持ちである。
このような方々の中では、明石の君は圧倒されてしまいそうなものだが、まったくそうでもなく、振る舞いなどにはたしなみがあって、こちらが気後れするほど、心の奥を知りたくなるような様子をして、どことなく上品で優美に見える。柳の織物の細長に、萌黄であろうか、小袿を着て、薄物の裳の頼りなげなのを引き掛けて、ことさら謙遜しているけれど、雰囲気も、その身分を思って見ることも、奥ゆかしく侮りがたい。高麗の青地の錦の縁をつけた褥に、まともには座らず、琵琶を前に置いて、ほんの形ばかり弾きかけて、しなやかに扱っている撥の扱い方は、音色を聞くよりもまためったになく心ひかれて、五月を待つ花橘の、花も実も具わって押し折った香りが思われる。
どなたも打ち解けないご様子を、大将(夕霧)は聞いたり見たりなさるにつけて、たいそう知りたく思われる。「対の上を見た時よりも、さらに年を重ねて美しくなっていらっしゃるだろうご様子が見たい」と思うと、落ち着いた心もない。「宮をも、もう少し宿縁があったら、自分の妻としてお世話できただろうに。心がたいそうのんびりしていたのが悔しいことよ。院(朱雀院)はたびたびそのようにほのめかして、陰でもおっしゃっていたのに」と、残念に思うけれど、少し軽々しい方にお見えになるご様子に、侮り申し上げるというのではないが、それほど心は動かなかった。この御方(紫の上)については、何事も思い及ぶべき手だてもなく、遠いまま年月が過ぎたので、何とかしてただ一通りの好意がある様子だけでもお見せ申し上げたいと思うだけが、残念で嘆かわしいのだった。むやみにあってはならない大それた心などは、まったくお持ちにならず、たいそうよく抑えていらっしゃった。
意訳
女君たちの姿は、宮は青柳、女御は藤、紫の上は桜、明石の君は花橘にたとえられ、それぞれに美しい。
夕霧は紫の上に心ひかれ、宮を妻にできなかったことを悔やむが、大それた心は抑えている。
語釈・文法注
文法
- 反実仮想「ましかば…まし」(今少しのすくせ及ばましかば我が物にても見奉りてまし)
- 「もう少し宿縁があったら、自分の妻としてお世話できただろうに」。
- 引き歌「五月まつ花たちばな」(五月まつ花たちばなの花も實もくしておしをれるかをり)
- 「五月待つ花橘の香をかげば昔の人の袖の香ぞする」(古今集・読人知らず)による。
- 「けうそく」(けうそくにおしかゝり給へり)
- 脇息。座る時にひじを掛けて寄りかかる道具。
解説
女楽の場面で、四人の女君は花にたとえられる。女三の宮は二月の青柳、明石の女御は夏にかかる藤、紫の上は桜、明石の君は五月の花橘である。季節の順に並べられた花のたとえは、女君たちの年齢や個性、それぞれの美しさを見事に表している。
紫の上は「花といはゞ櫻にたとへても猶物よりすぐれたるけはひ」と、最高の賛辞で描かれる。しかしこの美しさの絶頂のすぐ後に、紫の上は病に倒れる。夕霧が紫の上をひそかに慕うのは、野分の巻で垣間見て以来のことである。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、670–673頁(コマ46–47)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日