源氏物語 第35帖 若菜下(4)
蛍兵部卿宮の不満
蛍兵部卿宮は、亡き北の方を慕い続け、その面影に似た人をと思っていたが、真木柱は悪くはないが違う感じの人だったので、通うのも気が進まない様子である。大宮は不満に思い、真木柱の母も正気に戻った時は嘆く。鬚黒も、色好みの宮をと、初めから気に入らなかったので不愉快に思う。玉鬘は、かつて自分も宮と結婚していたらどうなっていただろうかと、おかしくも哀れにも思い出す。宮が昔、情け深く言い寄ってくれたのに、自分が軽々しく鬚黒に嫁いだと思っているだろうかと恥ずかしく、真木柱のことにも心を配る。玉鬘の子どもたちも真木柱に親しくする。宮は真木柱に心を寄せないわけではないが、大宮が、親王たちはせめて浮気をせずに暮らすのが慰めだと、いつも厳しく恨み言を言う。宮はそれを漏れ聞いて、昔の北の方の時もこれほどの嫉妬はなかったのにと不快に思い、ますます昔を恋しく思って、自邸で物思いにふけってばかりいる。

- 1宮宮みやはははうせうせうせ給給たまひひいにににけるけるける北北きたののの方方かたををを世世よととと共共ともににに戀戀こひひい聞聞きこえええ給給たまひひいててて唯唯ただむかしむかしむかしののの御御おん有樣有樣ありさまににに似似に奉奉たてまつりりりたらたらたらむむん人人ひとををを見見みむむんとととおぼしおぼしおぼしけるけるけるににに、、、惡惡あしくしくしくはははあらあらあらねねねどどどさまさまさまかはりかはりかわりてててぞぞぞ物物ものししし給給たまひひいけるけるけるとととおぼすおぼすおぼすににに、、、口惜口惜くちおしくしくしくやややありありありけむけむけん通通かよひひい給給たまふふうさまさまさまいといといと物物ものうげうげうげなりなりなり。。。大大おお宮宮みやいといといと心心こころづきなきづきなきずきなきわざわざわざかなかなかなとととおぼしおぼしおぼし歎歎なげきききたりたりたり。。。母母はは君君ぎみもももさささこそこそこそひがみひがみひがみ給給たまひひいつれつれつれどどどうつしうつしうつしごゝろごゝろごころ出出いでででくるくるくる時時ときははは口惜口惜くちおしくしくしくうきうきうき世世よととと思思おもひひいはてはてはて給給たまふふう。。。大大だい將將しょうののの君君きみもももさればよさればよさればよいといといといたくいたくいたく色色いろめきめきめき給給たまへへえるるる御御み子子こをををととと、、、初初はじめよりよりより我我わががが御心御心みこころにににゆるしゆるしゆるし給給たまははわざりざりざりしししことことことなれなれなればばばにににやややものしものしものしととと思思おもひひい給給たまへへえりりり。。。かんかんかんののの君君きみもももかくかくかくたのもしげたのもしげたのもしげなきなきなき御御おんさまさまさまををを近近ちかくくく聞聞きききき給給たまふふうにににははは、、、さやうさやうさようなるなるなる世世よののの中中なかををを見見みましかましかましかばばばこなたこなたこなたかなたかなたかなたいかにいかにいかにおぼしおぼしおぼし見見み給給たまははわましましましなどなどなどなまなまなまをかしくをかしくおかしくももも哀哀あわれにににもももおぼしおぼしおぼし出出いでででけるけるける。。。そのそのそのかみかみかみもももけぢかくけぢかくけじかく見見み聞聞きこえええむむんとととははは思思おもひひいよらよらよらざりざりざりきききかしかしかし、、、唯唯ただなさけなさけしうなさけなさけしうなさけなさけしゅう心心こころ深深ふかきききさまさまさまにににのたまひのたまひのたまいわたりわたりわたりしししををを、、、あへなくあへなくあえなくあはつけきあはつけきあわつけきやうやうようにににややや聞聞ききききおとしおとしおとし給給たまひひいけむけむけんととといといといとはづかしくはづかしくはずかしく、、、年年とし比比ごろもももおぼしおぼしおぼしわたるわたるわたることことことなれなれなればばば、、、かゝるかゝるかかるあたりあたりあたりにてにてにて聞聞きききき給給たまははわむむんことことことももも心心こころづかひづかひずかいせせせらるらるらるべくべくべくなどなどなどおぼすおぼすおぼす。。。これこれこれよりよりよりもももさるべきさるべきさるべきことことことはははあつかひあつかひあつかいきこえきこえきこえ給給たまふふう。。。せうとせうとしょうとののの君君きんだちだちだちなどなどなどしししてててかゝるかゝるかかる御御おん氣色氣色けしきももも知知しらららずずずがほがほがおににににくからにくからにくからずずずきこえきこえきこえまつはしまつはしまつわしなどなどなどするするするににに心苦心苦こころぐるしくしくしくもてもてもてはなれはなれはなれたるたるたる御心御心みこころはははなきなきなきにににおほおほおお北北きたののの方方かたととといふいふいうさがなさがなさがなものものものぞぞぞ常常つねににに許許ゆるしししなくなくなく怨怨えんじじじ聞聞きこえええ給給たまふふう。。。
- 2「「「御御み子子こ達達たちはははのどかのどかのどかにににふたふたふたごゝろごゝろごころなくなくなくててて見見み給給たまははわむむんをををだにだにだにこそこそこそ華華はなやかやかやかならならならぬぬぬ慰慰なぐさめめめにににははは思思おもふふうべけれべけれべけれ」」」とととむつかりむつかりむつかり給給たまふふうををを宮宮みやももも漏漏もりりり聞聞きききき給給たまひひいてててははは、、、いといといと聞聞ききききならはならはならわぬぬぬことことことかなかなかな、、、昔昔むかしいといといと哀哀あわれととと思思おもひひいししし人人ひとをををおきおきおきてててももも猶猶なおはかなきはかなきはかなき心心こころのののすさびすさびすさびははは絕絕たえええざりざりざりしかしかしかどどどかうかうこうきびしききびしききびしき物物ものえんじえんじえんじははは殊殊ことににになかりなかりなかりしししものものものををを、、、心心こころづきなくづきなくずきなくいとゞいとゞいとど昔昔むかしををを戀戀こひひい聞聞きこえええ給給たまひひいつゝつゝつつふるさとふるさとふるさとにににうちうちうちながめながめながめがちがちがちにににのみのみのみおはしますおはしますおわします。。。
現代語訳
宮(蛍兵部卿宮)は、亡くなってしまった北の方を、いつまでも恋い慕い申し上げなさって、ただ昔のご様子に似申し上げているような人を妻にしようとお思いになっていたが、真木柱は悪くはないけれど、様子が違っていらっしゃったとお思いになると、残念だったのであろうか、お通いになる様子はたいそう気が進まないようである。大宮は、たいそう気に入らないことだとお嘆きになった。母君(鬚黒の前の北の方)も、あれほどひがんでいらっしゃったけれど、正気が戻る時には、残念でつらい夫婦仲だと思い込みなさる。大将の君(鬚黒)も、「やはりそうだ、たいそうひどく浮気な親王を」と、初めからご自分のお心には許していらっしゃらなかったことなので、不愉快だとお思いになっていた。尚侍の君(玉鬘)も、このように頼りない宮のご様子を身近に聞きなさると、「もしそのような夫婦仲を自分が見ていたら、どちらも(源氏も父大臣も)どのようにお思いになり、ご覧になっただろうか」などと、何となくおかしくも、しみじみとも、お思い出しになる。「あの頃も、親しく結婚しようとは思いもよらなかったのに、宮はただ情け深く心深い様子でお便りをくださっていたのを、私が張り合いもなく軽々しく鬚黒に嫁いだと、軽蔑してお聞きになっただろうか」と、たいそう恥ずかしく、長年お思いになっていたことなので、このようなあたり(宮の新しい縁組)で宮がお聞きになるようなことにも気を遣わずにいられないなどとお思いになる。こちらからも、しかるべきことはお世話申し上げなさる。兄弟の君達(玉鬘の子)などを通じて、このような事情も知らない顔で、親しく申し上げてまとわりついたりするので、宮は気の毒で、真木柱を見放したお心はないのに、大北の方(大宮)という口うるさい人が、いつも容赦なく恨み言を申し上げなさる。
「親王たちは、せめてのんびりと浮気心もなく妻をお世話なさるのを、華やかでない暮らしの慰めとは思うべきですのに」と、ぶつぶつ言いなさるのを、宮も漏れ聞きなさっては、「まったく聞き慣れないことだ。昔たいそういとしいと思った人(亡き北の方)がいながらも、やはりちょっとした浮気心の慰みは絶えなかったが、このように厳しい嫉妬は特になかったのに」と、不愉快で、いっそう昔を恋い慕い申し上げなさりながら、自邸で物思いにふけってばかりいらっしゃる。
意訳
蛍兵部卿宮は亡き北の方を慕い続け、真木柱に心が向かず、周囲の人々も不満に思う。
大宮が宮の浮気を責めるので、宮はますます昔を恋しく思い、真木柱のもとから遠ざかる。
語釈・文法注
文法
- 反実仮想「ましかば…まし」(さやうなる世の中を見ましかば…いかにおぼし見給はまし)
- 「もしそのような夫婦仲を見ていたら、どのようにお思いになっただろうか」。玉鬘がかつて蛍兵部卿宮と結婚していたらと想像している。
- 「さがなもの」(おほ北の方といふさがなものぞ)
- 口やかましい人、意地の悪い人。
- 「ものえんじ」(かうきびしき物えんじは殊になかりしものを)
- 物怨じ。嫉妬、恨み言。
解説
蛍兵部卿宮は、かつて玉鬘に熱心に求婚した人である。玉鬘を鬚黒に奪われ、今度はその鬚黒の娘真木柱と結婚することになった。宮の不満と、玉鬘の複雑な思いとが、この縁組を取り巻いている。
大宮の厳しい言葉は、娘(鬚黒の前の北の方)の不幸を孫娘に繰り返させたくないという思いから出たものである。しかしその言葉が、かえって宮を遠ざけてしまう。親心の行き違いが、真木柱の結婚を不幸なものにしていく。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、656–657頁(コマ39)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日