源氏物語 第34帖 若菜上(53)
柏木の文
柏木は、太政大臣邸の東の対に独り住まいをしている。思うところがあって独り身を通してきたが、自分ほどの身でどうして思いがかなわないことがあろうかと自負していた。しかしあの夕べから、ひどく物思いに沈み、どのような折にまたあのお姿を見られるだろうか、身分の低い者なら物忌や方違えに紛れて機会もあろうが、深窓の宮に、どうしてこの深い思いを知らせることができようかと、胸を痛める。柏木は小侍従に手紙を送り、あの日風に誘われて御垣が原に分け入ったが、宮はどんなにか見下したことだろう、あの夕べから心が乱れていると書き、「よそに見て」の歌を添える。小侍従はあの日のことを知らないので、ありふれた恋の歌と思い、宮の前で、この人がいつも忘れずに便りをよこすのが煩わしいと笑って見せる。宮は無心に手紙を広げ、「見もせぬ」の所で、あの御簾の端のことを思い合わせて顔を赤らめる。源氏が夕霧に姿を見られないようにといつも戒めていたのを思い出し、夕霧が源氏に話したらどれほど叱られるかと恐れる。人に見られたことより、源氏を恐れる心は幼い。返事がないので、小侍従が代わりに、あの日のつれない顔を許しがたく思っていたが、見たというのはどういうことか、と書き、「今さらに」の歌を添える。

- 1かんかんかんののの君君きみははは猶猶なおおほいどのおほいどのおおいどのゝゝのひんがしひんがしひんがしののの對對たいにににひとりひとりひとりずみずみずみにてにてにてぞぞぞものしものしものし給給たまひひいけるけるける。。。思思おもふふう心心こころありありありてててとしとしとしごろごろごろかゝるかゝるかかるすまひすまひすまいをををするするするににに人人ひとやりやりやりならならならずずずさうざうしくさうざうしくそうぞうしく心心こころぼそきぼそきぼそきをりをりをりをりおりおりあれあれあれどどど、、、我我わががが身身みかばかりかばかりかばかりにてにてにてなどなどなどかかか思思おもふふうことことことかなはかなはかなわざらざらざらむむんとととのみのみのみ心心こころおごりおごりおごりするするするににに、、、このこのこの夕夕ゆうべべべよりよりよりくしくしくしいたくいたくいたく物物ものおもはしくおもはしくおもわしくててていかならいかならいかならむむんをりをりおりににに又又またさばかりさばかりさばかりにてにてにてもももほのかほのかほのかなるなるなる御御おんありさまありさまありさまをををだにだにだに見見みむむん、、、ともかくもともかくもともかくもかきかきかきまぎれまぎれまぎれたるたるたるきはきはきわののの人人ひとこそこそこそ、、、かりそめかりそめかりそめにににもももたはやすきたはやすきたわやすき物物ものいみいみいみ、、、かたゝがへかたゝがへかたたがえのののうつろひうつろひうつろいもももかろがろしきかろがろしきかろがろしきにににおのづからおのづからおのずからともかくもともかくもともかくも物物もののののひまひまひまをををうかゞひうかゞひうかがいつくるつくるつくるやうやうようもももあれあれあれなどなどなど、、、思思おもひひいやるやるやる方方かたなくなくなく深深ふかききき窓窓まどのののうちうちうちににに何何なににににばかりばかりばかりのののことことことにににつけつけつけてててかかかかくかくかく深深ふかききき心心こころありありありけりけりけりとととだにだにだに知知しらせらせらせ奉奉たてまつるるるべきべきべきととと、、、胸胸むねいたくいたくいたくいぶせけれいぶせけれいぶせければばば、、、小小こ侍侍じ從從じゅうがりがりがり例例れいののの文文ふみやりやりやり給給たまひひいててて、、、「「「一一ひと日日ひののの風風かぜにににさそはさそはさそわれれれててて、、、みかきみかきみかきががが原原はらをををわけわけわけ入入いりりりてててはべりはべりはべりしししににに、、、いとゞいとゞいとどいかにいかにいかに見見みおとしおとしおとし給給たまひひいけむけむけん、、、そのそのその夕夕ゆうべよりよりよりみだりみだりみだりごゝちごゝちごこちかきかきかきくらしくらしくらしあやなくあやなくあやなくけふけふきょうをををながめながめながめくらしくらしくらし侍侍はべるるる」」」などなどなど書書かきききててて、、、「「「よそよそよそににに見見みてててをらをらおらぬぬぬなげきなげきなげきはははしげけれしげけれしげけれどもどもどもなごりなごりなごり戀戀こいしきしきしき花花はなのののゆふゆふゆうかげかげかげ」」」とととあれあれあれどどど侍侍じ從從じゅうははは一一ひと日日ひののの心心こころももも知知しらららねねねばばば、、、唯唯ただ世世よののの常常つねのののながめながめながめにににこそこそこそはははととと思思おもふふう。。。
- 2おおおまへまへまえににに人人ひとしげからしげからしげからぬぬぬ程程ほどなれなれなればばばこのこのこの文文ふみをををもてもてもて參參まいりりりててて「「「このこのこの人人ひとのののかくかくかくのみのみのみ忘忘わすれれれぬぬぬものものものにににことゝひことゝひことといものしものしものし給給たまふふうこそこそこそ煩煩わずらはしくはしくわしく侍侍はべれれれ。。。心苦心苦こころぐるしげしげしげなるなるなる有樣有樣ありさまももも見見み給給たまへへえあまるあまるあまる心心こころもももやややそひそひそい侍侍はべらららむむんととと、、、みづからみづからみずからののの心心こころながらながらながら知知しりりりがたくがたくがたくなむなむなん」」」とととうちうちうち笑笑わらひひいててて聞聞きこゆれゆれゆればばば「「「いといといとうたてうたてうたてあるあるあることことことをををもももいふいふいうかなかなかな」」」ととと何何なに心心ごころもももなげなげなげにににのたまうのたまうのたもうててて文文ふみひろげひろげひろげたるたるたるををを御覽御覽ごらんずずず。。。見見みもももせせせぬぬぬととといひいひいいたるたるたる所所ところをををあさましかりあさましかりあさましかりしししみすみすみすのののつまつまつまをををおぼしおぼしおぼし合合あわせせせらるゝらるゝらるるににに、、、御御おんおもておもておもて赤赤あかみみみててておとゞおとゞおとどのののさばかりさばかりさばかりことことことのののついでついでついでごとごとごとににに大大だい將將しょうににに見見みえええ給給たまふふうななな、、、いはけなきいはけなきいわけなき御御おん有樣有樣ありさまなめれなめれなめればばばおのづからおのづからおのずからとりとりとりはづしはづしはずしててて見見み奉奉たてまつるるるやうやうようもももありありありなむなむなんととと、、、いましめいましめいましめ聞聞きこえええ給給たまふふうをををおぼしおぼしおぼし出出いづるづるずるににに、、、大大だい將將しょうのののさるさるさることことことありありありしししととと語語かたりりり聞聞きこえええたらたらたらむむん時時ときいかにいかにいかにあばめあばめあばめ給給たまははわむむんととと、、、人人ひとののの見見み奉奉たてまつりりりけむけむけん事事ことをををばばばおぼさおぼさおぼさででで、、、えええはゞかりはゞかりはばかり聞聞きこえええ給給たまふふう心心こころのののうちうちうちぞぞぞをさなかりをさなかりおさなかりけるけるける。。。
- 3常常つねよりよりよりももも御御おんさしさしさしいらへいらへいらえなけれなけれなければばばすさまじくすさまじくすさまじくしひしひしいててて聞聞きこゆゆゆべきべきべきことことことにににもももあらあらあらねねねばばばひきひきひき忍忍しのびびびててて例例れいのののかくかくかく「「「一一ひと日日ひはははつれなしつれなしつれなし顏顏がおをををなむなむなん、、、めざましうめざましうめざましゅうとととゆるしゆるしゆるし聞聞きこえええざりざりざりしししををを、、、見見みずずずもももあらあらあらぬぬぬやややいかにいかにいかにあなあなあなかけかけしかけかけしかけかけしややや」」」とととはやりかはやりかはやりかににに走走はしりりり書書かきききててて、、、「「「今今いまさらさらさらにににいろいろいろにににななないでいでいでそそそ山山やま櫻櫻ざくらおよばおよばおよばぬぬぬ枝枝えだにににこゝろこゝろこころかけかけかけきききととと。。。かひかひかいなきなきなきことことことををを」」」とととありありあり。。。
現代語訳
督の君(柏木)は、やはり太政大臣邸の東の対に、独り住まいをしていらっしゃった。思うところがあって、長年このような住まいをしているので、自分から求めたこととはいえ、物足りなく心細い折々もあるけれど、「自分ほどの身で、どうして思うことがかなわないことがあろうか」とばかり自負していたのに、あの夕べから、ひどくふさぎこんで物思いに沈み、「どのような折に、またあれほどでも、ほのかなご様子だけでも見られるだろうか。何にしても、目立たない身分の人なら、かりそめにでも気軽な物忌や方違えの移動も軽々しくできるので、自然と何とかして物のすき間をうかがい見つける機会もあるだろうが」などと、思いを晴らすすべもなく、「深い窓の中にいらっしゃる宮に、どのようなことにつけて、このように深い思いがあったということだけでも、お知らせ申し上げられようか」と、胸が痛んで晴れないので、小侍従のもとにいつものように手紙をお送りになって、「先日、風に誘われて、御垣が原に分け入りましたが、宮はますますどんなにか私を見下しなさったことでしょう。その夕べから気分が乱れて真っ暗になり、わけもなく今日も物思いに沈んで過ごしております」などと書いて、「よそに見てをらぬなげきはしげけれどもなごり戀しき花のゆふかげ(よそながら見るばかりで、手折ることのできない嘆きは深いけれど、それでも名残恋しい夕暮れの花の姿よ)」とあるけれど、侍従はあの日のことも知らないので、ただ世間並みの恋の物思いだろうと思う。
宮の御前に人が少ない時だったので、侍従はこの手紙を持って参上して、「この人が、このようにいつも忘れずに便りをよこしなさるのは、煩わしいことでございます。お気の毒な様子も、見ていられなくなるような気持ちが加わりそうで、自分の心ながらわからないのです」と笑って申し上げると、宮は「たいそういやなことを言うのね」と、無心なご様子でおっしゃって、手紙を広げたのをご覧になる。「見もせぬ」と言っているところを、あのあきれた御簾の端のことを思い合わせなさると、お顔が赤くなって、大臣(源氏)が、あれほど何かの折ごとに、「大将に見られなさいますな。幼いご様子のようだから、自然と油断して、大将がお見かけ申し上げることもあるだろう」と戒め申し上げなさっていたのをお思い出しになると、大将がそういうことがあったと源氏に話し申し上げたら、どんなにお叱りになるだろうと、人が見申し上げたであろうことはお思いにならないで、源氏をはばかり申し上げなさる心の内は、幼いことであった。
いつもよりもお返事がないので、侍従は張り合いがなく、無理に申し上げるべきことでもないので、そっといつものように書く。「先日は、素知らぬ顔をなさったのを、目障りだと思ってお許し申し上げなかったのに、『見もせぬ』とは、どういうことでしょう。まあ、思わせぶりなこと」と、さらさらと走り書きして、「今さらにいろにないでそ山櫻およばぬ枝にこゝろかけきと(今さら顔色に出しなさいますな。手の届かない山桜の枝に心をかけたなどと)。かいのないことですのに」とある。
意訳
柏木は宮の姿を忘れられず、小侍従に手紙を送り、「よそに見て」の歌で宮への思いを訴える。
宮は手紙を見て、御簾の端のことを思い合わせて顔を赤らめ、源氏に叱られることを恐れる。小侍従は、およばぬ恋だと返事を書く。
語釈・文法注
文法
- 「くしいたく」(この夕べよりくしいたく物おもはしくて)
- 「屈し」。気がふさぐこと。「いたく」は程度のはなはだしいこと。
- 「みかきが原」(みかきが原をわけ入りてはべりしに)
- 御垣が原。宮中や貴人の邸の垣根のあたり。六条院の庭に入ったことをいう。
- 禁止の「な…そ」(いろにないでそ)
- 「顔色に出しなさいますな」。
解説
柏木の手紙と小侍従の返事で、若菜上の巻は閉じられる。柏木は「よそに見てをらぬなげき」と、手の届かない宮への恋を訴え、小侍従は「およばぬ枝」と、身分違いの恋をたしなめる。しかし柏木の思いは、この拒絶によっても止まることはない。
女三の宮は、柏木の手紙を見て顔を赤らめるが、それは柏木への関心からではなく、源氏に叱られることへの恐れからであった。語り手は「心のうちぞをさなかりける」と評する。宮の幼さと、柏木の情熱との隔たりが、続く若菜下の巻で、取り返しのつかない悲劇を生むことになる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、650–651頁(コマ36)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日