源氏物語 第34帖 若菜上(52)
帰りの車の中で
帰りの車の中で、夕霧は、源氏が退屈な時はこの院に来て紛らわすようにと言っていたから、今月中に小弓を持って一緒に来ようと約束する。柏木は、宮のことを話したくて、源氏はやはり紫の上のもとにばかりいるようだ、帝が並ぶ者なく大切にしてきた宮が、それほどでもない扱いを受けているのは気の毒だと、筋違いなことを言う。夕霧は、とんでもない、紫の上は幼い時から育てたので親しさが違うだけで、宮のことはたいそう大切に思っていると言う。柏木は、全部聞いている、気の毒な折々もあるそうだと言い、「いかなれば」と、鶯が桜をねぐらとしないのは不思議だと口ずさむ。夕霧は、やはり思ったとおりだ、つまらないお節介だと思い、「みやま木に」と、源氏が宮を飽きることはないと返し、面倒になって話をそらす。二人はそれぞれ別れる。

- 1「「「猶猶なおこのこのこのごろごろごろのののつれづれつれづれつれずれにににはははこのこのこの院院いんににに參參まいりりりてててまぎらはすまぎらはすまぎらわすべきべきべきなりなりなり、、、今今け日日きょうのののやうやうようならならならむむんいとまいとまいとまのののひまひまひま待待まちちちつけつけつけててて花花はなのののをりをりおりすぐさすぐさすぐさずずず參參まいれれれとととののの給給のたまひひいつるつるつるををを、、、春春はるをしみをしみおしみがてらがてらがてら月月つきののの內內うちににに小小こ弓弓ゆみ持持もたたたせせせててて參參まいりりり給給たまへへえ」」」ととと語語かたらひらひらい契契ちぎりるるる。。。おのおのおのおのおのおの別別わかるゝるゝるる道道みちののの程程ほど物語物語ものがたりししし給給たもうううててて宮宮みやののの御御おん事事ことののの猶猶なおいはいはいわまほしけれまほしけれまほしければばば「「「院院いんにににははは猶猶なおこのこのこの對對たいにににのみのみのみ物物ものせせせさせさせさせ給給たまふふうなめりなめりなめりなかなかなかののの御御おん覺覺おぼえええのののことことことなるなるなるなめりなめりなめりかしかしかし。。。このこのこの宮宮みやいかにいかにいかにおぼすおぼすおぼすらむらむらん。。。みかどみかどみかどのののならびならびならびなくなくなくならはしならはしならわし奉奉たてまつりりり給給たまへへえるるるににに、、、さしもさしもさしもあらあらあらででで具具ぐししし給給たまひひいにににたらたらたらむむんこそこそこそ心苦心苦こころぐるしけれしけれしけれ」」」とととあいなくあいなくあいなくいへいへいえばばば「「「たいだいしきたいだいしきたいだいしきことことこと、、、いかでいかでいかでかかかさささはははあらあらあらむむん。。。こなたこなたこなたはははさまさまさまかはりかはりかわりててておほしおほしおおしたてたてたて給給たまへへえるるるむつびむつびむつびのののけぢめけぢめけじめばかりばかりばかりにににこそこそこそあべかめれあべかめれあべかめれ、、、宮宮みやをををばばばかたかたかたかたかたかたにににつけつけつけててて、、、いといといとやんごとなくやんごとなくやんごとなく思思おもひひい聞聞きこえええ給給たまへへえるるるものものものををを」」」ととと語語かたりりり給給たまへへえばばば「「「いでいでいであなあなあなかまかまかま給給たまへへえ。。。皆皆みな聞聞ききききててて侍侍はべるるる、、、いといといといとほしげいとほしげいとおしげなるなるなる折々折々おりおりあああなるなるなるをををやややさるはさるはさるは世世よにににおしなべおしなべおしなべたらたらたらぬぬぬ人人ひとののの御御おんおぼえおぼえおぼえをををありがたきありがたきありがたきわざわざわざなりなりなりややや」」」ととといとほしがるいとほしがるいとおしがる。。。
- 2「「「いかなれいかなれいかなればばば花花はなににに木木こづたふづたふずたう鶯鶯うぐいすのののさくらさくらさくらをををわきわきわきてててねぐらねぐらねぐらとととはははせせせぬぬぬ。。。春春はるののの鳥鳥とりののの櫻櫻さくらひとつひとつひとつにににとまらとまらとまらぬぬぬ心心こころよよよ、、、あやしあやしあやしととと覺覺おぼゆるゆるゆることことことぞぞぞかしかしかしととと」」」口口くちずさびずさびずさびにににいへいへいえばばば、、、いでいでいであなあなあなあぢきなあぢきなあじきなのののものものものあつかひあつかひあつかいややや、、、さればよさればよさればよととと思思おもふふう。。。「「「みみみやまやまやま木木ぎにににねぐらねぐらねぐらさだむるさだむるさだむるはこはこはこ鳥鳥どりもももいかでいかでいかでかかか花花はなののの色色いろにににあくあくあくべきべきべき。。。わりなきわりなきわりなきことことことひたおもむきひたおもむきひたおもむきにににのみのみのみやややははは」」」ととといらへいらへいらえててて、、、煩煩わずらしけれしけれしければばばことことことにににいはいはいわせせせずずずなりなりなりぬぬぬ。。。ことごとことごとことごとにににいひいひいいまぎらはしまぎらはしまぎらわしててておのおのおのおのおのおのわかれわかれわかれぬぬぬ。。。
現代語訳
夕霧が、「やはり、この頃の退屈な折には、この院に参上して紛らわすのがよいのだ。『今日のような暇な折を待ち受けて、花の時期を逃さずに参れ』とおっしゃったので、春を惜しみがてら、今月のうちに小弓を持たせて参上なさい」と、約束し合う。それぞれが別れる道までの間、話をなさって、柏木は、宮のことがやはり話したいので、「院(源氏)は、やはりこの対の方(紫の上)にばかりいらっしゃるようですね。あちらへのご寵愛が格別なのでしょう。この宮はどのようにお思いでしょう。帝(朱雀院)が並ぶものもなく大切にお育て申し上げなさっていたのに、それほどでもなく、源氏に連れ添っていらっしゃるのは、お気の毒です」と、筋違いなことを言うので、夕霧は、「とんでもないことだ。どうしてそんなことがあろうか。こちら(紫の上)は、普通とは違って、幼い頃から育て上げなさった親しさの違いだけであろう。宮のことは、何かにつけて、たいそう大切にお思い申し上げていらっしゃるのに」とお話しになると、柏木は、「いや、もうおっしゃいますな。皆聞いております。たいそうお気の毒な折々があるそうですよ。それにしても、あれほど並々でない宮のご寵愛がそれほどでもないとは、めったにないことですね」と、お気の毒がる。
「いかなれば花に木づたふ鶯のさくらをわきてねぐらとはせぬ(どうして、花から花へと木を伝う鶯が、桜を特別にねぐらとしないのだろう)。春の鳥が桜ひとつにとまらない心よ。不思議に思われることですよ」と口ずさむように言うので、夕霧は、「いやもう、何とつまらないお節介だろう。やはり思ったとおりだ」と思う。「みやま木にねぐらさだむるはこ鳥もいかでか花の色にあくべき(深山の木にねぐらを定めるはこ鳥でも、どうして美しい花の色に飽きることがあろうか)。無理なことを、一方的にばかり言ってよいものか」と答えて、面倒なので、それ以上は言わせなかった。ほかのことに言い紛らして、それぞれ別れた。
意訳
帰りの車で、柏木は宮が源氏に冷遇されていると言い、夕霧はそれを否定する。
柏木は鶯が桜をねぐらとしないと詠み、夕霧ははこ鳥も花の色に飽きないと返して、話をそらす。
語釈・文法注
文法
- 「たいだいし」(たいだいしきこと)
- もってのほかだ、とんでもない。
- 「あなかま」(いであなかま給へ)
- 「あな、かまびすし」の略で、「静かに」「黙って」の意。「もうおっしゃいますな」。
- 「はこ鳥」(ねぐらさだむるはこ鳥も)
- 未詳の鳥。郭公(かっこう)の類とも、呼子鳥とも言われる。ここでは紫の上をねぐらとする源氏をたとえる。
解説
柏木の「いかなれば」の歌は、源氏(鶯)が宮(桜)をねぐらとしないことを嘆き、宮への同情を装いながら、自分の宮への思いを漏らしたものである。夕霧はその意図を察して、「さればよ」と思う。
夕霧の返歌の「はこ鳥」は紫の上をねぐらとする源氏、「花の色」は宮をたとえ、源氏が宮を軽んじているわけではないと、柏木をたしなめる。親友でありながら、二人の間には宮をめぐる微妙な緊張が生まれている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、648–651頁(コマ35–36)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日