源氏物語 第33帖 藤裏葉(11)
三条殿の夕霧と雲居雁
中納言となった夕霧は、威勢も増して、太政大臣邸の住まいでは窮屈なので、雲居雁とともに三条殿に移る。大宮の住んでいた三条殿を見事に修理し、大宮の部屋を改めて住む。昔の面影が残る住まいで、小さかった前栽の木々も茂り、薄も乱れ咲いている。美しい夕暮れに、二人は幼い頃の思い出を語り合い、雲居雁は恋しくも恥ずかしくも思い出す。古くからの女房たちも喜び合う。夕霧は「なれこそは」の歌で、遣水に大宮の行方を尋ね、雲居雁も「なき人は」と応じる。そこへ太政大臣が、紅葉の色に誘われて訪れる。太政大臣は、昔と変わらない住まいの様子に感慨深く、二人の手習いの歌を見て涙ぐみ、「そのかみの」の歌を詠む。夕霧の乳母の宰相のめのとも、得意顔で「いづれをも」と詠む。

- 1御御おん勢勢いきおいまさりまさりまさりてててかゝるかゝるかかる御御おんすまひすまひすまいももも所所ところせけれせけれせければばば三三さん條條じょう殿殿どのににに渡渡わたりりり給給たまひひいぬぬぬ。。。少少すこししし荒荒あれれれにににたるたるたるをををいといといとめでたくめでたくめでたくすりすりすりしししなしなしなしててて、、、宮宮みやのののおはしましゝおはしましゝおわしましし方方かたををを改改あらためめめしつらひしつらひしつらいててて住住すみみみ給給たまふふう。。。昔昔むかしおぼえおぼえおぼえててて哀哀あわれににに思思おもふふうさまさまさまなるなるなる御御おん住住すまひまひまいなりなりなり前前せん栽栽ざいどもどもどもなどなどなどちひさきちひさきちいさき木木きどもどもどもなりなりなりしししもももいといといと繁繁しげさささ蔭蔭かげとととなりなりなり、、、ひとひとひとむらむらむら薄薄すすきももも心心こころにににまかせまかせまかせててて亂亂みだれれれたりたりたりけるけるける。。。つくろはつくろはつくろわせせせ給給たまふふう遣遣やり水水みずのののみみみ草草くさももも搔搔かききき改改あらためめめててていといといと心心こころゆきゆきゆきたるたるたる氣色氣色けしきなりなりなり。。。
- 2をかしきをかしきおかしき夕夕ゆう暮暮ぐれののの程程ほどをををふたふたふた所所ところながめながめながめ給給たまひひいてててあさましかりあさましかりあさましかりししし世世よののの御御おんをさなさをさなさおさなさののの物語物語ものがたりなどなどなどししし給給たまふふうににに、、、戀戀こいしきしきしきことことことももも多多おおくくく人人ひとののの思思おもひひいけむけむけんことことこともももはづかしうはづかしうはずかしゅう女君女君おんなぎみはははおぼしおぼしおぼし出出いづづず。。。ふるふるふる人人びとどもどもどものののまかでまかでまかでちらちらちらずずずざうしざうしぞうしざうしざうしぞうしにににさぶらひさぶらひさぶらいけるけるけるなどなどなどまうまうもうのぼりのぼりのぼり集集あつまりまりまりててていといといと嬉嬉うれしししととと思思おもひひいあへあへあえりりり。。。男男おとこ君君きみ、、、「「「なれなれなれこそこそこそははは岩岩いわもるもるもるあるじあるじあるじ見見みししし人人ひとのののゆくへゆくへゆくえははは知知しるるるややや宿宿やどのののましみづましみづましみず」」」。。。女君女君おんなぎみ、、、「「「なきなきなき人人ひとはははかげかげかげだにだにだに見見みえええずずずつれなくつれなくつれなくててて心心こころをををやれやれやれるるるいさらゐいさらゐいさらいののの水水みず」」」などなどなどのたまふのたまふのたまうほどほどほどににに、、、
- 3おとゞおとゞおとど內內うちよりよりよりまかでまかでまかで給給たまひひいけるけるけるををを、、、紅葉紅葉もみじののの色色いろににに驚驚おどろかささされれれててて渡渡わたりりり給給たまへへえりりり。。。昔昔むかしおはしまいおはしまいおわしまいししし御御おん有樣有樣ありさまにににもももをさをさをさをさおさおさ變變かわるるることことことなくなくなく、、、あたりあたりあたりあたりあたりあたりいといといとおとなしくおとなしくおとなしくすまひすまひすまい給給たまへへえるるるさまさまさま、、、華華はなやかやかやかなるなるなるををを見見み給給たまふふうにににつけつけつけてててもももいといといと物物もの哀哀あわれにににおぼさおぼさおぼさるるる。。。中納言中納言ちゅうなごんももも氣色氣色けしきことことことににに顏顏かお少少すこししし赤赤あかみみみててていとゞいとゞいとどしづまりしづまりしずまりてててものしものしものし給給たまふふう。。。あらまほしくあらまほしくあらまほしく美美うつくしげくしげくしげなるなるなる御御おんあはひあはひあわいなれなれなれどどど、、、女女おんなははは又又またかゝるかゝるかかるかたちかたちかたちのののたぐひたぐひたぐいもももなどなどなどかかかなからなからなからむむんととと見見みえええ給給たまへへえりりり。。。男男おとこはははきはきはきわもももなくなくなく淸淸きよらららにににおはすおはすおわす。。。
- 4ふるふるふる人人びとどもどもどもゝゝも御御おんまへまへまえににに所所ところえええててて神神かみさびさびさびたるたるたる事事ことどもどもども聞聞きこえええ出出いづづず。。。ありつるありつるありつる御御おん手手て習習ならいどもどもどもののの散散ちりりりたるたるたるををを御覽御覽ごらんじじじつけつけつけてててうちうちうちしをれしをれしおれ給給たまふふう。。。「「「このこのこの水水みずののの心心こころ尋尋たずねねねまほしけれまほしけれまほしけれどどどおきなおきなおきなはははことことこといみいみいみしししててて」」」とととのたまふのたまふのたまう。。。「「「そのそのそのかみかみかみのののおいおいおい木木ぎはははうべうべうべももも朽朽くちちちぬぬぬらむらむらんうゑうゑうえししし小小こ松松まつももも苔苔こけ生生おひひいにににけりけりけり」」」。。。男男おとこ君君きみののの宰相宰相さいしょうのののめのとめのとめのと、、、つらかりつらかりつらかりししし御心御心みこころももも忘忘わすれれれねねねばばばしたりしたりしたりがほがほがおににに、、、「「「いづれいづれいずれをををもももかげかげかげとととぞぞぞたのむたのむたのむ二二ふた葉葉ばよりよりよりねざしねざしねざしかはせかはせかわせるるる松松まつのののすゑずゑすゑずゑすえずえ」」」。。。おいおいおい人人びとどもどもどもゝゝもかやうかやうかようのののすぢすぢすじににに聞聞きこえええあつめあつめあつめたるたるたるををを中納言中納言ちゅうなごんはははをかしをかしおかしとととおぼすおぼすおぼす。。。女君女君おんなぎみはははあいなくあいなくあいなくおもておもておもて赤赤あかみみみててて苦苦くるしししととと聞聞きききき給給たまふふう。。。
現代語訳
ご威勢がまさって、このような太政大臣邸でのお住まいも窮屈なので、夕霧は三条殿にお移りになった。少し荒れていたのを、たいそう見事に修理して、大宮のいらっしゃった方を改めて整えて、お住みになる。昔が思い出されて、しみじみと思いどおりのお住まいである。前栽なども、小さな木であったものも、たいそう茂った木陰となり、一叢の薄も心に任せて乱れていた。手入れをおさせになった遣水の水草も掻き払って改めて、たいそう気持ちよさそうな様子である。
趣深い夕暮れのころを、お二人で眺めなさって、あきれるほど幼かった頃の思い出話などをなさると、女君(雲居雁)は、恋しいことも多く、人がどう思っただろうかということも恥ずかしく思い出しなさる。古くからの女房たちで、退出して散り散りにならずに、それぞれの曹司にお仕えしていた者などが、参上して集まって、たいそううれしいと思い合っている。男君(夕霧)が、「なれこそは岩もるあるじ見し人のゆくへは知るや宿のましみづ(お前こそは、岩を守るこの家の主だ。昔見た人〈大宮〉の行方は知っているか、この家の清水よ)」。女君が、「なき人はかげだに見えずつれなくて心をやれるいさらゐの水(亡き人は影さえ映らず、素知らぬ顔で心地よさそうに流れている、浅い泉の水よ)」などとおっしゃっているところへ、
大臣(太政大臣)が宮中から退出なさったが、紅葉の色に心を動かされて、お渡りになった。大宮が昔いらっしゃった頃のご様子にも、ほとんど変わることなく、あちこちたいそう落ち着いた様子で住んでいらっしゃる様子が、華やかであるのをご覧になるにつけても、たいそうしみじみとお思いになる。中納言も、改まった様子で、顔を少し赤らめて、いっそう落ち着いていらっしゃる。申し分なく美しいご夫婦であるけれど、女君の方は、このような容貌の人もほかにいないことはないだろうと見えなさる。男君は、限りなく清らかでいらっしゃる。
古くからの女房たちも、御前でわが物顔に、昔の古めかしいことなどを申し上げる。大臣は、さっきの二人の御手習いの歌などが散らかっているのをお見つけになって、しんみりとなさる。「この水の心を尋ねたいけれど、年寄りは縁起でもないことは慎んで」とおっしゃる。「そのかみのおい木はうべも朽ちぬらむうゑし小松も苔生ひにけり(その昔の老木〈大宮〉が朽ちてしまったのも当然だろう。植えた小松〈二人〉も苔が生えるほど成長したのだから)」。男君の乳母の宰相の乳母は、つらかった太政大臣のお心も忘れないので、得意顔で、「いづれをもかげとぞたのむ二葉よりねざしかはせる松のすゑずゑ(どちらをも頼りにいたします。二葉の頃から根を交わし合った松の末々を)」。老いた女房たちが、このような筋の歌を詠み集めたのを、中納言はおもしろいとお思いになる。女君は、わけもなく顔を赤らめて、つらいとお聞きになる。
意訳
夕霧と雲居雁は、大宮の住んでいた三条殿に移り住み、幼い頃の思い出を語り合って、大宮を偲ぶ歌を交わす。
太政大臣が訪れて、昔と変わらない住まいに感慨を深め、歌を詠む。夕霧の乳母も得意顔で歌を詠む。
語釈・文法注
文法
- 係り結び「こそ…」(なれこそは岩もるあるじ)
- 「お前こそは、岩を守るこの家の主だ」。呼びかけの歌。
- 推量の「らむ」(うべも朽ちぬらむ)
- 現在推量。「朽ちてしまったのも当然だろう」。
解説
三条殿は、夕霧と雲居雁が幼い頃に大宮のもとでともに育った場所である。少女の巻で引き裂かれた二人が、ここに戻って夫婦として暮らすことは、物語の大きな円環を閉じるものである。
太政大臣の歌の「おい木」は大宮を、「小松」は夕霧と雲居雁を指す。かつて二人の仲を裂いた太政大臣が、今は二人の成長を感慨深く見つめている。宰相の乳母の得意顔の歌は、長年の苦労が報われた喜びである。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、580–583頁(コマ295–296)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日