源氏物語 第33帖 藤裏葉(10)
源氏、准太上天皇となる
翌年、源氏は四十歳になるので、朝廷をはじめ世を挙げて四十の賀の準備をする。その秋、源氏は太上天皇に準ずる位を得て、御封が加わり、院司なども任じられる。源氏の威厳がいっそう増したので、気軽に宮中に参内できなくなるのを、源氏は残念にも思う。冷泉帝は、それでもなお物足りず、世間をはばかって譲位できないことを、朝夕の嘆きの種にしている。内大臣は太政大臣に、夕霧は中納言に昇進する。夕霧の輝くばかりの姿を見て、太政大臣(旧内大臣)も、雲居雁を宮仕えに出すよりよかったと思い直す。夕霧は、かつて雲居雁の乳母が六位の宿世とつぶやいたことを折々に思い出し、色の変わった菊を乳母に与えて、浅緑の若葉の菊が濃い紫になるとは思わなかっただろうと詠む。乳母は恥じ入りながらも、二葉の頃から名高い菊なので、浅い色と見分ける者はいなかったと苦しげに返す。

- 1明明あけけけむむん年年としよそぢよそぢよそじににになりなりなり給給たまふふうべけれべけれべければばば御御おん賀賀がのののことことことをををおほやけおほやけおおやけよりよりよりはじめはじめはじめ奉奉たてまつりりりててておほきなるおほきなるおおきなる世世よのののいそぎいそぎいそぎなりなりなり。。。そのそのその秋秋あき太太だい上上じょう天天てん皇皇のうににになずらふるなずらふるなずらうる御御おん位位くらい得得え給給たまひひいてててみみみふふふくはゝりくはゝりくわわりつかさつかさつかさかうぶりかうぶりこうぶりなどなどなど皆皆みな添添そひひい給給たまふふう。。。かゝらかゝらかからでででももも世世よののの御心御心みこころにににかなはかなはかなわぬぬぬことことことなけれなけれなけれどどど、、、猶猶なお珍珍めずらしかりしかりしかりつるつるつる昔昔むかしののの例例れいををを改改あらためめめででで院院いんつかさつかさつかさどもどもどもなどなどなどなりなりなり。。。さまさまさまいつくしくいつくしくいつくしくなりなりなり添添そひひい給給たまへへえばばば、、、內內うちににに參參まいりりり給給たまふふうべきべきべきことことこと難難かたかるかるかるべきべきべきをををぞぞぞかつかつかつはははおぼしおぼしおぼしけるけるける。。。
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現代語訳
翌年、源氏は四十歳におなりになるはずなので、御賀のことを、朝廷をはじめとして、世を挙げての大がかりな準備である。その秋、源氏は太上天皇に準ずる御位をお得になって、御封が加わり、院司や年官年爵などもすべてお加えになる。そうでなくても、世のことで源氏のお心にかなわないことはないけれど、やはり珍しい昔の例を改めずに、院司などが任じられたのである。様子がたいそう威厳を増しなさったので、宮中に参内なさることが難しくなるだろうことを、一方では残念にお思いになった。
こうなっても、帝はなお物足りなくお思いになって、世間をはばかって、位をお譲り申し上げなさらないことを、朝夕のお嘆きの種にしていらっしゃった。内大臣は太政大臣に昇進なさって、宰相中将(夕霧)は中納言におなりになった。お礼の挨拶に出かけなさる。輝きがいっそうまさっていらっしゃる様子は、容貌をはじめとして、足りないところがないので、主人の大臣(太政大臣)も、かえって人に圧倒されて興ざめな宮仕えよりは、この縁組がよかったと、お考え直しになる。
夕霧は、女君(雲居雁)の乳母の大輔の乳母が、「六位の宿世」とつぶやいたあの夜のことを、何かの折々にお思い出しになったので、菊がたいそう趣深く色が移ろっているのをお与えになって、「あさみどりわか葉の菊をつゆにてもこき紫の色とかけきや(浅緑の若葉の菊が、濃い紫の色になろうとは、露ほども思ったでしょうか)。つらかった折の一言こそ忘れられません」と、たいそうつややかにほほえんでお与えになった。乳母は恥ずかしく気の毒なものの、かわいらしいと拝見する。「ふた葉よりなだゝるそのゝ菊なればあさき色わく露もなかりき(二葉の頃から名高い園の菊なので、浅い色と見分ける露もありませんでした)。どのようにお心をお置きになったのでしょうか」と、たいそう馴れ馴れしく、苦しがって申し上げる。
意訳
源氏は太上天皇に準ずる位を得て、内大臣は太政大臣に、夕霧は中納言に昇進する。
夕霧は、かつて自分を六位とあざけった雲居雁の乳母に、菊を与えて歌を詠みかけ、乳母は恥じ入りながら返歌する。
語釈・文法注
文法
- 反語の「や」(こき紫の色とかけきや)
- 「濃い紫の色になろうとは思ったでしょうか、いや、思わなかったでしょう」。
- 係り結び「こそ…ね」(ひとことばこそ忘られね)
- 「こそ」に応じて已然形「ね」で結ぶ。「一言こそ忘れられません」。
解説
源氏が准太上天皇となったことは、桐壺院が臣籍に降した源氏が、ついに天皇に準ずる地位に至ったことを意味する。冷泉帝が実の父である源氏に譲位できないことを嘆くのは、二人の秘密の親子関係を踏まえたものである。
夕霧が乳母に菊を与えて歌を詠む場面は、少女の巻で「浅緑」とあざけられた屈辱を晴らすものである。六位の浅緑から、中納言の濃い紫へと昇った夕霧の誇りと、ほほえみながら許す余裕とが描かれている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、580–581頁(コマ295)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日