古典ライブラリー

源氏物語 第33帖 藤裏葉(4)

夕霧と雲居雁の結婚

登場人物:夕霧・雲居雁・内大臣・柏木・弁少将

四月七日の夕月夜、池は霞み、松に咲きかかる藤の花が美しい。弁少将が催馬楽の「葦垣」を歌うと、内大臣は「年経にけるこの家の」と声を添える。夜が更けると、夕霧は気分が悪いふりをして、柏木に宿直所を譲ってほしいと訴える。内大臣は、酔ったので失礼すると言って奥に入る。柏木は、悔しい気もするが、夕霧の人柄がすばらしいので、心安く雲居雁のもとへ案内する。夕霧は夢かと思い、雲居雁は恥じらうが、成長した姿は申し分なく美しい。夕霧は、世の例になりそうだった自分を、ようやく許してもらえたと恨み言を言い、「葦垣」の歌になぞらえて戯れる。雲居雁は「あさき名を」の歌で、浮き名を漏らしたのは誰かと返し、夕霧は「もりにける」と返して、酔いにかこつけて夜が明けるのも知らないふりをする。内大臣は、得意顔の朝寝坊だと咎める。

夕月夜の内大臣邸で、霞む池のほとり、松に咲きかかる藤の花の下を、柏木が夕霧を雲居雁の部屋へと案内している場面(AI生成)
夕月夜の内大臣邸で、霞む池のほとり、松に咲きかかる藤の花の下を、柏木が夕霧を雲居雁の部屋へと案内している場面
  1. 1七なぬ七なぬなぬ日か日かかののの夕ゆふ夕ゆふゆう月づく月づくずく夜よ夜よよかげかげかげほのかほのかほのかなるなるなるににに池いけ池いけいけののの鏡かゞみ鏡かゞみかがみのどかのどかのどかにににかすみかすみかすみ渡わた渡わたわたれれれりりり。。。げにげにげにまだまだまだほのかほのかほのかなるなるなる木こ木ここずゑずゑずえどもどもどものののさうざうしきさうざうしきそうぞうしき頃ころ頃ころころなるなるなるににに、、、いといといといたういたういとう氣色けしき氣色けしきけしきばみばみばみ橫よこ橫よこよこたはれたはれたわれたるたるたる松まつ松まつまつののの木こ木ここ高だか高だかだかききき程ほど程ほどほどにににはははあらあらあらぬぬぬにににかゝれかゝれかかれるるる花はな花はなはなのののさまさまさま、、、世よ世よよののの常つね常つねつねならならならずずずおもしろしおもしろしおもしろし。。。例れい例れいれいののの辨べん辨べんべんののの少將せうしやう少將せうしやうしょうしょう聲こゑ聲こゑこえいといといと懷なつ懷なつなつかしくかしくかしくてててをををうたふうたふうたう。。。おとゞおとゞおとど「「「いといといとけやけうけやけうけやきょうももも仕つか仕つかつかうまつるうまつるうまつるかなかなかな」」」とととうちうちうち亂みだ亂みだみだれれれ給たま給たまたまひひいててて「「「年とし年としとし經へ經へへにににけるけるけるこのこのこの家いへ家いへいえののの」」」とととうちうちうちくはへくはへくわえ給たま給たまたまへへえるるる御おん御おんおん聲こゑ聲こゑこえいといといとおもしろしおもしろしおもしろし。。。をかしきをかしきおかしき程ほど程ほどほどににに亂みだ亂みだみだりがはしきりがはしきりがわしき御おん御おんおん遊あそび遊あそびあそびにてにてにて物もの物ものもの思おも思おもおもひひい殘のこ殘のこのこらららずずずなりなりなりぬぬぬめりめりめり。。。
  2. 2やうやうやうやうようよう夜よ夜よよ更ふ更ふふけけけ行ゆ行ゆゆくくく程ほど程ほどほどにににいたういたういとうそらそらそらなやみなやみなやみをををしししててて「「「みだりみだりみだり心地ここち心地ここちここちいといといと堪た堪たたへへえがたうがたうがとうてててまかでまかでまかでむむん空そら空そらそらもももほどほどしくほどほどしくほどほどしくこそこそこそ侍はべ侍はべはべりりりぬぬぬべけれべけれべけれ。。。とのゐとのゐとのい所どころ所どころどころ讓ゆづ讓ゆづゆずりりり給たま給たまたまひひいてててむむんややや」」」ととと中將ちゆうじやう中將ちゆうじやうちゅうじょうににに憂うれ憂うれうれへへえ給たま給たまたまふふう。。。おとゞおとゞおとど「「「あそんあそんあそんややや、、、御おん御おんおん休やすみ休やすみやすみ所どころ所どころどころもとめもとめもとめよよよ。。。おきなおきなおきないたくいたくいたくゑひゑひえい進すゝ進すゝすすみみみてててむらいむらいむらいなれなれなればばばまかりまかりまかり入い入いいりりりぬぬぬ」」」ととといひいひいい捨す捨すすてててゝゝて入い入いいりりり給たま給たまたまひひいぬぬぬ。。。中將ちゆうじやう中將ちゆうじやうちゅうじょう「「「花はな花はなはなのののかげかげかげののの旅たび旅たびたび寢ね寢ねねよよよ。。。いかにいかにいかにぞぞぞややや苦くる苦くるくるしきしきしきしるべしるべしるべにににぞぞぞ侍はべ侍はべはべるるるややや」」」ととといへいへいえばばば「「「松まつ松まつまつににに契ちぎ契ちぎちぎれれれるるるはははあだあだあだなるなるなる花はな花はなはなかかかははは。。。ゆゝしゆゝしゆゆしややや」」」ととと責せ責せせめめめ給たま給たまたまふふう。。。
  3. 3中將ちゆうじやう中將ちゆうじやうちゅうじょうははは心こころ心こころこころのののうちうちうちにににねたねたねたのののわざわざわざやややととと思おも思おもおもふふう所ところ所ところところあれあれあれどどど、、、人ひと人ひとひとざまざまざまののの思おも思おもおもふふうさまさまさまにににめでたきめでたきめでたきににに、、、かうかうこうもももありありありはてはてはてなむなむなんととと心こころ心こころこころかけかけかけわたるわたるわたることことことなれなれなればばば、、、うしろやすくうしろやすくうしろやすく導みちび導みちびみちびきききつつつ。。。男をとこ男をとこおとこ君きみ君きみきみははは夢ゆめ夢ゆめゆめかかかととと覺おぼ覺おぼおぼえええ給たま給たまたまふふうにににももも我わ我わわががが身み身みみいとゞいとゞいとどいつかしういつかしういつかしゅうぞぞぞ覺おぼ覺おぼおぼえええ給たま給たまたまひひいけむけむけんかしかしかし。。。女をんな女をんなおんなはははいといといと恥はづ恥はづはずかしかしかしととと思おも思おもおもひひいしみしみしみててて物もの物ものものししし給たま給たまたまふふうももも、、、ねびねびねびまされまされまされるるる御おん御おんおん有樣ありさま有樣ありさまありさまいとゞいとゞいとどあかあかあかぬぬぬ所ところ所ところところなくなくなくめやすしめやすしめやすし。。。「「「世よ世よよのののためしためしためしにににもももなりなりなりぬぬぬべかりべかりべかりつるつるつる身み身みみををを心こころ心こころこころもてもてもてこそこそこそかくかくかくまでまでまでもももおぼしおぼしおぼし許ゆる許ゆるゆるさささるるるめれめれめれ。。。哀あはれ哀あはれあわれををを知し知ししりりり給たま給たまたまははわぬぬぬもももさまさまさまことことことなるなるなるわざわざわざかなかなかな」」」ととと恨うら恨うらうらみみみ聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまふふう。。。
  4. 4「「「少將せうしやう少將せうしやうしょうしょうののの進すゝ進すゝすすみみみ出いだ出いだいだしししつるつるつるあしがきあしがきあしがきのののおもむきおもむきおもむきははは耳みゝ耳みゝみみとゞめとゞめとどめ給たま給たまたまひひいつつつややや。。。いたきいたきいたきぬしぬしぬしかなゝかなゝかなな。。。河かは河かはかわ口ぐち口ぐちぐちのののとととこそこそこそさしさしさしいらへいらへいらえまほしかりまほしかりまほしかりつれつれつれ」」」とととのたまへのたまへのたまえばばば、、、女をんな女をんなおんないといといと聞き聞きききききにくしにくしにくしとととおぼしおぼしおぼしててて、、、「「「あさきあさきあさき名な名ななをををいひいひいいながしながしながしけるけるける河かは河かはかわぐちぐちぐちはははいかゞいかゞいかがもらしゝもらしゝもらしし關せき關せきせきのののあらあらあらがきがきがき。。。あさましあさましあさまし」」」とととのたまふのたまふのたまうさまさまさまいといといとこめきこめきこめきたりたりたり。。。
  5. 5少すこ少すこすこしししうちうちうち笑わら笑わらわらひひいててて、、、「「「もりもりもりにににけるけるけるくきだくきだくきだののの關せき關せきせきををを河かは河かはかわ口ぐち口ぐちぐちのののあさきあさきあさきにににのみのみのみはははおほせおほせおおせざらざらざらなむなむなん。。。年とし年としとし月つき月つきつきのののつもりつもりつもりもももいといといとわりなくわりなくわりなく惱なや惱なやなやましきましきましきににに物もの物ものものおぼえおぼえおぼえずずず」」」とととゑひゑひえいにににかこちかこちかこちててて苦くる苦くるくるしげしげしげにににもてなしもてなしもてなしててて明あ明ああくるくるくるももも知し知ししらららずずずがほがほがおなりなりなり。。。人々びと人々びとびと聞きこ聞きこきこえええわづらふわづらふわずらうををを、、、おとゞおとゞおとど「「「したりしたりしたり顔がほ顔がほがおなるなるなるあさいあさいあさいかなかなかな」」」ととと咎とが咎とがとがめめめ給たま給たまたまふふう。。。されどされどされど明あか明あかあかしししはてはてはてゝゝてぞぞぞ出い出いいででで給たま給たまたまふふう。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

七日の夕月夜で、月の光がほのかなところに、池の水面はのどかに霞みわたっている。本当に、まだほのかな若葉の梢などの物足りない頃に、たいそう趣ありげに横たわった松の、それほど高くない木にかかっている藤の花の様子は、世の常ではなく趣深い。例の弁少将が、声もたいそう親しみやすく、催馬楽の「葦垣」を歌う。大臣は「たいそう際立ったことを歌うものだ」とくつろいで、「年経にけるこの家の」と声を添えなさったお声が、たいそう趣深い。ほどよく打ち解けた管弦の遊びで、わだかまりも残らずなくなったようだ。

だんだん夜が更けていく頃に、夕霧はひどく気分が悪いふりをして、「乱れ心地がたいそう耐えがたくて、帰る道もおぼつかなくなりそうです。宿直所をお譲りくださいませんか」と、中将(柏木)に訴えなさる。大臣は「朝臣よ、御休み所を探しなさい。年寄りはひどく酔って無礼になったので、失礼して入ります」と言い捨てて、奥にお入りになった。中将が「花の陰の旅寝ですね。どうしたものでしょう、つらい案内役でございますよ」と言うと、夕霧は「松に契った藤の花は、浮気な花でしょうか。縁起でもない」と責めなさる。

中将は、心の中では悔しいことだと思う所もあるけれど、夕霧の人柄が思いどおりにすばらしいので、このように結ばれてほしいと心にかけ続けていたことなので、安心して案内した。男君は、夢かと思われなさるにつけても、我が身がいっそう立派に思われなさったことだろう。女君はたいそう恥ずかしいと深く思っていらっしゃるけれど、成長なさったご様子は、いっそう申し分なく美しい。夕霧は「世の例にもなりそうだった私の身を、自分の心からこそ、ここまで辛抱して、お許しいただけたようです。私の思いをお分かりにならないのも、格別なことですね」とお恨み申し上げなさる。

「少将が歌い出した葦垣の趣は、お聞きになりましたか。ひどい主人だなあ。『河口の』とこそ、言い返したかったのですよ」とおっしゃると、女君はたいそう聞きにくいとお思いになって、「あさき名をいひながしける河ぐちはいかゞもらしゝ關のあらがき(浅い浮き名を言い流した河口は、どのように、関の荒垣から漏らしたのでしょう)。あきれたこと」とおっしゃる様子は、たいそうおっとりとしている。

夕霧は少し笑って、「もりにけるくきだの關を河口のあさきにのみはおほせざらなむ(漏れてしまった岫田の関を、河口の浅さのせいだけにはしないでください)。長年の思いの積もりも、たいそうひどく苦しいので、何も分かりません」と、酔いにかこつけて苦しそうに振る舞って、夜が明けるのも知らないふりである。女房たちが申し上げかねていると、大臣は「得意顔の朝寝坊だね」とお咎めになる。けれども、夜が明けきらないうちにお出になる。

意訳

藤の宴の夜、夕霧は気分が悪いふりをして泊まり、柏木の案内で雲居雁のもとへ行き、ついに結ばれる。

夕霧と雲居雁は、催馬楽「葦垣」にちなむ歌を交わし、夕霧は夜が明けるまで留まる。

語釈・文法注

あしがき
催馬楽「葦垣」。葦垣を越えて女を盗み出した男のことを、「誰か、この事を親に申しよこし申しし」と歌う。弁少将はこの歌で、夕霧と雲居雁の過去の恋をからかった。夕霧の「河口の」は、催馬楽「河口」の「河口の関の荒垣や」を踏まえる。

文法

推量の「けむ」(いつかしうぞ覺え給ひけむかし)
過去推量。語り手が夕霧の心中を推し量る。
願望の「なむ」(おほせざらなむ)
他者への願望。「せいにしないでください」。

解説

六年に及ぶ夕霧と雲居雁の恋は、ついに実を結ぶ。柏木が「つらいしるべ」と言いながら夕霧を案内する場面には、親友であり義兄となる柏木の複雑な心情がうかがえる。

雲居雁の歌は、かつて二人の恋が漏れて引き裂かれたことを、「河口」の催馬楽になぞらえて恨むものである。夕霧の返歌は、それを自分たちだけのせいにしないでほしいと応じる。二人の歌の応酬には、苦しかった過去を振り返る余裕が生まれている。

関連

出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、572–575頁(コマ291–292)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日