源氏物語 第32帖 梅枝(4)
梅花の宴
月が出ると、源氏と兵部卿宮は酒を酌み交わして昔話をする。霞んだ月の光の中、雨の名残の風に花の香が漂い、あたり一面に薫物の香りが満ちて、たいそう優艶である。内大臣の子息の頭中将(柏木)や弁少将が挨拶だけして帰ろうとするのを引き留め、楽器を取り寄せる。宮は琵琶、源氏は箏、柏木は和琴、夕霧は横笛を奏で、弁少将が拍子をとって催馬楽の「梅が枝」を歌う。宮、源氏、柏木、夕霧、弁少将が、鶯や梅の花を詠み込んで歌を交わし、明け方になって宮は帰る。源氏は、自分の直衣と薫物を贈り物として宮の車に入れ、宮は、移り香を妻にとがめられるだろうと詠んで、源氏を笑わせる。

- 1月月つきさしさしさし出出いでででぬれぬれぬればばば大大おおみきみきみきなどなどなど參參まいりりり給給たまひひいててて昔昔むかしののの物語物語ものがたりなどなどなどししし給給たまふふう。。。かすめかすめかすめるるる月月つきのののかげかげかげ心心こころにくきにくきにくきををを、、、雨雨あめののの名殘名殘なごりののの風風かぜ少少すこししし吹吹ふきききててて花花はなののの香香かなつかしきなつかしきなつかしきににに、、、おとゞおとゞおとどのののあたりあたりあたりいひいひいいしらしらしらずずず匂匂におひひい滿滿みちちちててて人人ひとののの御御おん心地心地ここちいといといとえんえんえんなりなりなり藏藏くろ人人うど所所どころののの方方かたにににももも明日明日あすののの御御おんあそびあそびあそびのののうちうちうちならしならしならしににに御御おん琴琴ことどもどもどものののさうぞくさうぞくそうぞくなどなどなどしししててて殿上人殿上人てんじょうびとなどなどなどあまたあまたあまた參參まいりりりてててをかしきをかしきおかしき笛笛ふえののの音音ねどもどもども聞聞きこゆゆゆ。。。
- 2內內うちのののおほいおほいおおいとのとのとのゝゝの頭頭とう中將中將ちゅうじょう辨辨べん少將少將しょうしょうなどなどなどもももけざんけざんけざんばかりばかりばかりにてにてにてまかづるまかづるまかずるをををとゞめとゞめとどめさせさせさせ給給たまひひいててて御御おんことゞもことゞもことどもめすめすめす。。。宮宮みやののの御前御前おまえににに琵琵び琶琶わ、、、おとゞおとゞおとどににに箏箏そうののの御御おん琴琴こと參參まいりりりててて、、、頭頭とう中將中將ちゅうじょう和和わ琴琴ごんたまはりたまはりたまわりててて華華はなやかやかやかににに搔搔かきききたてたてたてたるたるたる程程ほどいといといとおもしろくおもしろくおもしろく聞聞きこゆゆゆ。。。宰相宰相さいしょうののの中將中將ちゅうじょう橫橫よこ笛笛ぶえふきふきふき給給たまふふう、、、折折おりにににあひあひあいたるたるたる調調ちょう子子し雲雲くも井井いとほるとほるとおるばかりばかりばかり吹吹ふきききたてたてたてたりたりたり。。。辨辨べん少將少將しょうしょう拍子拍子ひょうしとりとりとりててて梅梅うめいだしいだしいだしたるたるたる程程ほどいといといとをかしをかしおかし。。。わらはわらはわらわにてにてにて韻韻いんふたぎふたぎうたぎののの折折おり高高たか砂砂さごうたひうたひうたいししし君君きみなりなりなり。。。宮宮みやもももおとゞおとゞおとどもももさしさしさしいらへいらへいらえししし給給たまひひいててて、、、ことごとしからことごとしからことごとしからぬぬぬものものものからからからをかしきをかしきおかしき夜夜よののの御御おんあそびあそびあそびなりなりなり。。。
- 3御御おんかはらけかはらけかわらけまゐるまゐるまいるににに、、、宮宮みや、、、「「「鶯鶯うぐいすのののこゑこゑこえにににやややいとゞいとゞいとどあくがれあくがれあくがれむむん心心こころしめしめしめつるつるつる花花はなのののあたりあたりあたりににに。。。千千ち代代よももも經經へぬぬぬべしべしべし」」」ととときこえきこえきこえ給給たまへへえばばば、、、「「「色色いろももも香香かもももうつるうつるうつるばかりばかりばかりにににこのこのこの春春はるははは花花はなさくさくさく宿宿やどをををかれかれかれずずずもももあらあらあらなむなむなん」」」。。。頭頭とう中將中將ちゅうじょうにににたまへたまへたまえばばば、、、とりとりとりててて宰相宰相さいしょう中將中將ちゅうじょうにににさすさすさす「「「鶯鶯うぐいすのののねぐらねぐらねぐらののの枝枝えだもももなびくなびくなびくまでまでまでなほなほなおふきふきふきとほせとほせとおせよはよはよわののの笛笛ふえたけたけたけ」」」。。。宰相宰相さいしょう中將中將ちゅうじょう、、、「「「心心こころありありありててて風風かぜのののよくよくよくめるめるめる花花はなののの木木きにににとりとりとりあへあへあえぬぬぬまでまでまで吹吹ふきききやややよるよるよるべきべきべき」」」。。。「「「なさけなくなさけなくなさけなく」」」ととと皆皆みなうちうちうち笑笑わらひひい給給たまふふう。。。辨辨べん少將少將しょうしょう、、、「「「霞霞かすみだにだにだに月月つきととと花花はなとととをををへたてへたてへたてずずずばばばねぐらねぐらねぐらののの鳥鳥とりもももほころびほころびほころびなななましましまし」」」。。。
- 4まことにまことにまことに明明あけけけがたがたがたににになりなりなりてててぞぞぞ宮宮みやかへりかへりかえり給給たまふふう。。。御御おん贈贈おくり物物ものにににみづからみづからみずからののの御御おん料料りょうののの御御おん直衣直衣のうしののの御御おんよそひよそひよそい一一ひとくだりくだりくだり、、、手手てふれふれふれ給給たまははわぬぬぬたきたきたきものものもの二二ふた壺壺つぼそへそへそえててて御御おん車車くるまににに奉奉たてまつらららせせせたまふたまふたまう。。。宮宮みや、、、「「「花花はなののの香香かをををえならえならえならぬぬぬ袖袖そでににに移移うつしししもてもてもてことことことあやまりあやまりあやまりととといもいもいもやややとがめとがめとがめむむん」」」とととあれあれあればばば、、、「「「いといといとくしくしくしたりたりたりややや」」」ととと笑笑わらひひい給給たまふふう。。。御御おん車車くるまかくるかくるかくるほどほどほどににに追追おひひいててて、、、「「「めづらしめづらしめずらしととと故故ふる里里さと人人びとももも待待まちちちぞぞぞ見見みむむん花花はなのののにしきにしきにしきををを着着きてててかへるかへるかえるきみきみきみ。。。又又またなきなきなきことことことゝゝとおぼさおぼさおぼさるるるらむらむらん」」」とととあれあれあればばばいといといといとういとういとうからがりからがりからがり給給たまふふう。。。次々次々つぎつぎののの君君きみだちだちだちにににもももことごとしからことごとしからことごとしからぬぬぬさまさまさまににに細細ほそ長長なが小袿小袿こうちきなどなどなどかづけかづけかずけさせさせさせたまふたまふたまう。。。
現代語訳
月が出たので、大御酒などを召し上がって、昔の話などをなさる。霞んだ月の光が奥ゆかしいところに、雨の名残の風が少し吹いて、花の香が慕わしく、大臣(源氏)のあたりには言いようもない匂いが満ちて、人々のお気持ちもたいそう優艶である。蔵人所の方でも、明日の管弦の遊びの下稽古に、御琴などの装束を整えて、殿上人などが大勢参上して、趣深い笛の音などが聞こえる。
内大臣の頭中将(柏木)や弁少将なども、挨拶だけして退出するのを引き留めさせなさって、御琴などをお取り寄せになる。宮の御前に琵琶、大臣に箏の御琴を差し上げて、頭中将は和琴をいただいて、華やかにかき鳴らしたのが、たいそう趣深く聞こえる。宰相の中将(夕霧)が横笛をお吹きになる。季節に合った調子で、雲居を通るほどに吹き立てた。弁少将が拍子をとって、「梅が枝」を歌い出したのが、たいそう趣深い。童であった時、韻塞ぎの折に「高砂」を歌った君である。宮も大臣も、声を合わせてお歌いになって、大げさでないものの、趣深い夜の管弦の遊びである。
御杯を差し上げる時に、宮が「鶯のこゑにやいとゞあくがれむ心しめつる花のあたりに(鶯の声に、いっそう心がさまよい出るでしょう。心をしみつけたこの花のあたりで)。千年も過ごしてしまいそうです」と申し上げなさると、源氏は「色も香もうつるばかりにこの春は花さく宿をかれずもあらなむ(色も香も移るほどに、この春は、花咲く宿を離れずにいてほしい)」。頭中将に杯をお与えになると、受け取って宰相中将に差す。「鶯のねぐらの枝もなびくまでなほふきとほせよはの笛たけ(鶯のねぐらの枝もなびくほどに、さらに吹き通しなさい、夜半の笛竹を)」。宰相中将は、「心ありて風のよくめる花の木にとりあへぬまで吹きやよるべき(心あって風も避けて吹くという花の木に、無遠慮なほど吹き寄ってよいものでしょうか)」。「情けないこと」と皆お笑いになる。弁少将は、「霞だに月と花とをへたてずばねぐらの鳥もほころびなまし(霞さえ、月と花とを隔てなかったならば、ねぐらの鳥も鳴き出すでしょうに)」。
本当に明け方になって、宮はお帰りになる。御贈り物として、ご自分の御料の御直衣の装束一揃いと、手もお触れにならない薫物二壺を添えて、御車にお入れ申し上げなさる。宮は「花の香をえならぬ袖に移しもてことあやまりといもやとがめむ(花の香を、このすばらしい袖に移して帰ったら、浮気をしたと妻がとがめるでしょうか)」とあるので、源氏は「たいそう気弱なことを」とお笑いになる。御車に牛をかける時に追いかけて、「めづらしと故里人も待ちぞ見む花のにしきを着てかへるきみ(珍しいと、故郷の人も待ち受けて見るでしょう。花の錦を着て帰るあなたを)。またとないこととお思いになるでしょう」とあるので、宮はたいそうつらがりなさる。それ以下の君達にも、大げさでない程度に、細長や小袿などを禄としてお与えになる。
意訳
月の夜、源氏と兵部卿宮は、柏木、夕霧、弁少将らを交えて管弦の遊びをし、梅や鶯を詠み込んで歌を交わす。
明け方、源氏は宮に直衣と薫物を贈り、宮は、移り香を妻にとがめられるだろうと詠んで、源氏を笑わせる。
語釈・文法注
- 梅がえ
- 催馬楽「梅が枝」。「梅が枝に来居る鶯や、春かけて、はれ、春かけて、鳴けどもいまだや、雪は降りつつ」と歌う。巻名はこれによる。
文法
- 願望の「なむ」(花さく宿をかれずもあらなむ)
- 他者への願望の終助詞。「離れずにいてほしい」。
- 反実仮想の「ずば…まし」(へたてずば…ほころびなまし)
- 「隔てなかったならば、鳴き出すでしょうに」。
解説
梅花の宴は、薫物合わせに続く華やかな場面である。源氏、兵部卿宮という年長者と、柏木、夕霧、弁少将という若い世代が、ともに管弦と歌を楽しむ。弁少将は、かつて賢木の巻の韻塞ぎの折に「高砂」を歌った童であり、時の流れが感じられる。
兵部卿宮の歌の「いも」は、宮の新しい妻(真木柱の姫君との縁談は後のこと)を指すとも、一般に妻を指すともいう。源氏の返事は、宮の照れを冷やかすものである。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、558–561頁(コマ284–285)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日