源氏物語 第31帖 真木柱(18)
山吹とかりの子
三月になり、六条院の藤や山吹が美しく咲く夕暮れ、源氏は、玉鬘がいた頃を思い出して、春の御殿を離れて西の対に渡る。呉竹の籬に咲きかかる山吹を見て、「思はずに」の歌を口ずさむが、聞く人もいない。源氏は、かりの子(鴨の卵)がたくさんあるのを、柑子や橘のように見せかけて玉鬘に贈り、親らしい手紙に「おなじ巣に」の歌を添える。髭黒はそれを見て笑い、実の親のもとにもたやすく通えないのに、どうしてこの大臣はいつまでも恨み言を言うのかとつぶやく。玉鬘が返事を書きにくそうにしているので、髭黒が代わりに「すがくれて」の歌で返す。源氏は、この大将がこんな戯れ歌を詠むのは初めて聞いたと笑うが、内心では、玉鬘を独り占めしている髭黒を憎らしく思う。

- 1三月三月やよいににになりなりなりててて、、、六條六條ろくじょう殿殿どのののの御前御前おまえののの藤藤ふじ山山やま吹吹ぶきのののおもしろきおもしろきおもしろき夕夕ゆうばへばへばえををを見見み給給たまふふうにににつけつけつけてててももも、、、まづまづまず見見みるるるかひかひかいありありありててて居居い給給たまへへえりりりししし御御おんさまさまさまのみのみのみおぼしおぼしおぼし出出いでででらるれらるれらるればばば、、、春春はるのののおまへおまへおまえをををうちうちうちすてすてすてゝゝてこなたこなたこなたににに渡渡わたりりりててて御覽御覽ごらんずずず。。。吳吳くれ竹竹たけのののませませませにににわざとわざとわざとなうなうのう咲咲さきききかゝりかゝりかかりたるたるたるにほひにほひにおい、、、いといといと面面おも白白しろししし。。。
- 2「「「色色いろににに衣衣ころもををを」」」などなどなどのたまひのたまひのたまいててて、、、「「「思思おもははわずずずにににゐでゐでいでのののなかなかなか道道みちへだつへだつへだつともともともいはいはいわでででぞぞぞこふるこふるこうる山山やま吹吹ぶきののの花花はな。。。かほかほかおににに見見みえええつゝつゝつつ」」」などなどなどのたまふのたまふのたまうももも聞聞きくくく人人ひとなしなしなし。。。かくかくかくさすがにさすがにさすがにもてもてもてはなれはなれはなれたるたるたる事事ことはははこのこのこの度度たびぞぞぞおぼしおぼしおぼしけるけるける。。。げにげにげにあやしきあやしきあやしき御御おん心心こころのののすさびすさびすさびなりなりなりややや。。。
- 3かりかりかりののののののいといといと多多おおかかかなるなるなるををを御覽御覽ごらんじじじてててかんじかんじかんじ橘橘たちばななどなどなどやうやうようににに紛紛まぎらはしらはしらわしてててわざとわざとわざとならならならずずず奉奉たてまつりりり給給たまふふう。。。御御おん文文ふみはははあまりあまりあまり人人ひともももぞぞぞめめめだつるだつるだつるなどなどなどおぼしおぼしおぼしてててすくよかすくよかすくよかにてにてにて、、、「「「覺束覺束おぼつかなきなきなき月月つき日日ひももも重重かさなりりりぬるぬるぬるををを、、、思思おもははわずずずなるなるなる御御おんもてなしもてなしもてなしなりなりなりととと恨恨うらみみみ聞聞きこゆるゆるゆるももも御心御心みこころひとつひとつひとつにににのみのみのみはははあるあるあるまじうまじうまじゅう聞聞きききき侍侍はべれれればばば、、、ことことことなるなるなる序序ついでならならならでででははは對面對面たいめんののの難難かたからからからむむんををを口口くち惜惜おしくしくしく思思おもひひい給給たまふるふるうる」」」などなどなど親親おやめきめきめきかきかきかき給給たまひひいててて、、、「「「おなじおなじおなじ巢巢すにににかへりかへりかえりしししかひかひかいののの見見みえええぬぬぬかなかなかないかなるいかなるいかなる人人ひとかかか手手てににににぎるにぎるにぎるらむらむらん。。。などなどなどかかかさしもさしもさしもなどなどなど心心こころやましうやましうやましゅうなむなむなん」」」などなどなどあるあるあるををを、、、
- 4大將大將だいしょうももも見見み給給たまひひいててて、、、うちうちうち笑笑わらひひいててて、、、「「「女女おんなはははまことまことまことののの親親おやののの御御おんあたりあたりあたりにににもももたはやすくたはやすくたわやすくうちうちうち渡渡わたりりり見見みえええ奉奉たてまつりりり給給たまははわむむんととと、、、序序ついでなくなくなくてててあるあるあるべきべきべきことことことにににあらあらあらずずず。。。ましてましてましてなぞなぞなぞこのこのこのおとゞおとゞおとどののの折々折々おりおり思思おもひひいはなたはなたはなたずずず怨怨うらみみみ事事ごとはははししし給給たまふふう」」」とととつぶやくつぶやくつぶやくもももにくしにくしにくしととと聞聞きききき給給たまふふう。。。御御おん返返かえりりりこゝこゝここにににはははえええ聞聞きこえええじじじととと書書かきききにくゝにくゝにくくおぼいおぼいおぼいたれたれたればばば、、、「「「まろまろまろ聞聞きこえええむむん」」」とととかはるかはるかわるももも、、、かたはらいたしかたはらいたしかたわらいたしややや。。。
- 5「「「すすすがくれがくれがくれててて數數かずにににもももあらあらあらぬぬぬかりかりかりののの子子こをををいづいづいず方方かたにににかかかはははとりとりとりかくすかくすかくすべきべきべき。。。よろしからよろしからよろしからぬぬぬ御御おん氣色氣色けしきににに驚驚おどろきききてててすきずきしすきずきしすきずきしややや」」」ととと聞聞きこえええ給給たまへへえりりり。。。「「「このこのこの大將大將だいしょうのののかゝるかゝるかかるはかなしはかなしはかなしごとごとごといひいひいいたるたるたるもももまだまだまだこそこそこそ聞聞きかかかざりざりざりつれつれつれ。。。珍珍めずらしうしうしゅう」」」とてとてとて笑笑わらひひい給給たまふふう。。。心心こころのののうちうちうちにににはははかくかくかくらうじらうじろうじたるたるたるをををいといといとにくしにくしにくしとととおぼすおぼすおぼす。。。
現代語訳
三月になって、六条殿の御前の藤や山吹が趣深い夕映えをご覧になるにつけても、まず、見がいのある様子で座っていらっしゃった玉鬘のご様子ばかりが思い出されなさるので、春の御殿をうち捨てて、こちら(西の対)にお渡りになってご覧になる。呉竹の籬に、わざとらしくなく咲きかかっている色つやは、たいそう趣深い。
「色に衣を」などとおっしゃって、「思はずにゐでのなか道へだつともいはでぞこふる山吹の花(思いがけず、井手の中道が隔てるように、あなたと隔てられてしまっても、口には出さずに恋しく思っている山吹の花よ)。顔に見えながら」などとおっしゃるのも、聞く人はいない。このように、さすがにすっかり離れてしまったことは、今度初めてお思いになったのであった。本当に妙なお心の慰みであることよ。
かりの子(鴨の卵)がたいそう多いのをご覧になって、柑子や橘などのように見せかけて、さりげなく玉鬘に差し上げなさる。お手紙は、あまり人目に立ってもと思って、きまじめに、「気がかりな月日も重なってしまいましたが、思いがけないお扱いだとお恨み申し上げるのも、あなたのお心ひとつだけのことではないと聞いておりますので、特別な機会でなければ対面も難しいことを、残念に存じます」などと、親らしくお書きになって、「おなじ巣にかへりしかひの見えぬかないかなる人か手ににぎるらむ(同じ巣で孵った卵〈あなた〉の姿が見えないことよ。どのような人が手に握っているのだろう)。どうしてそれほどまでにと、心穏やかでなくて」などとあるのを、
大将もご覧になって、笑って、「女は、実の親のもとにも、たやすく出かけてお目にかかりなさるのは、しかるべき機会がなくてはあってはならないことだ。まして、どうしてこの大臣は、折々思い離れずに恨み言をおっしゃるのか」とつぶやくのも、玉鬘は憎らしいとお聞きになる。お返事は、私からは申し上げられないと、書きにくそうにお思いになっているので、大将が「私が申し上げよう」と代わるのも、聞き苦しいことよ。
「すがくれて數にもあらぬかりの子をいづ方にかはとりかくすべき(巣に隠れて、数にも入らないかりの子を、どこに取り隠すことがありましょう)。思わしくないご様子に驚いて、色めいたことを申しました」と申し上げなさった。源氏は「この大将がこのような戯れ言を言ったのは、まだ聞いたことがなかった。珍しい」と言ってお笑いになる。心の中では、このように玉鬘を独り占めしているのを、たいそう憎らしいとお思いになる。
意訳
源氏は、山吹の咲く夕暮れに玉鬘を偲び、かりの子に添えて親らしい手紙と歌を贈る。
髭黒は笑って、代わりに戯れの歌を返す。源氏は笑いながらも、内心では髭黒を憎らしく思う。
語釈・文法注
- かりの子
- 鴨(かる)の卵。「かり」は「仮」にも通じ、源氏の歌では、仮の子(養女)である玉鬘をたとえる。
文法
- 危惧の「もぞ」(人もぞめだつる)
- 「人目に立っては困る」。
- 反語の「かは…べき」(いづ方にかはとりかくすべき)
- 「どこに取り隠すことがあろうか、いや、ない」。
解説
源氏が山吹を見て玉鬘を偲ぶのは、野分の巻で夕霧が玉鬘を八重山吹にたとえたことと響き合う。「くちなし」の色の山吹に、口に出せない恋心を重ねている。
髭黒の代筆の歌は、無骨な髭黒らしからぬ戯れ歌である。源氏は笑いながらも、玉鬘を完全に髭黒に奪われたことを思い知らされる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、552–555頁(コマ281–282)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日