源氏物語 第31帖 真木柱(15)
帝、玉鬘を訪ねる
兵部卿宮の歌に困っているところへ、冷泉帝が玉鬘の局を訪れる。月の光の中の帝の容貌は言いようもなく美しく、源氏とまったく同じである。源氏の懸想はつらいものだったが、帝の場合はそうではない。帝は親しげに、思いがかなわなかった恨みを口にし、玉鬘は顔を隠して答えられない。帝は、尚侍に任じた喜びも分かってくれないのかと言い、「などてかく」の歌で、どうしてこんなに逢いがたい人を深く思い初めたのかと詠む。玉鬘は、今年加階したことへの礼として「いかならむ」の歌を返す。帝は、今から思い初めても仕方ないと恨むが、玉鬘がまじめな態度を崩さないので、乱れたことも口にせず、だんだん慣れていくだろうと思う。

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現代語訳
帝がお渡りになる。月の明るい中で、ご容貌は言いようもなく美しくて、ただあの大臣(源氏)のご様子に違う所もなくていらっしゃる。このような方が、またもいらっしゃったのだと、玉鬘は拝見なさる。あの方(源氏)のお心づかいは浅くはなかったけれど、嫌な物思いが加わったが、この方はどうしてそのように思われなさろうか。たいそう親しげに、思っていたことが違ってしまった恨みをおっしゃるので、顔の置き所もないように思われなさることよ。
玉鬘が顔を隠して、お返事も申し上げなさらないので、帝は「妙にはっきりしないことだね。尚侍に任じた喜びなども分かっていらっしゃるだろうと思うことがあるのに、聞き入れなさらない様子ばかりなのは、このようなお癖なのだったのだね」とおっしゃって、「などてかくはひあひがたき紫を心に深く思ひそめけむ(どうしてこのように、灰を合わせても色の出にくい紫のように、逢いがたいあなたを、心に深く思い初めたのだろう)。濃くはなりきらないのだろうか」とおっしゃる様子が、たいそう若々しく清らかで、気後れするほどであるのを、源氏と違っていらっしゃる所があろうかと、心を慰めてお返事申し上げなさる。
宮仕えの功労もなくて、今年加階なさったことへのお礼の気持ちからであろうか、「いかならむ色ともあらぬ紫を心してこそ人はそめけれ(どのような色とも分からない紫〈三位の位〉を、お心にかけてこそ、私に染めてくださったのでしょう)。今からは、ありがたさを思い知りましょう」と申し上げなさると、帝はほほえんで、「その、今から染めなさるというのこそ、かいのないことだ。訴えるべき人がいるならば、道理を聞きたいものだ」と、たいそう恨みなさる。
そのご様子が本気でわずらわしいので、玉鬘はたいそう嫌なことだと思われて、愛想のよい様子もお見せ申し上げまい、わずらわしい世の男の癖だったのだと思うので、まじめな態度でお仕えしていらっしゃるので、帝もお思いのままの乱れた言葉も口にお出しになれず、だんだん慣れていくだろうとお思いになった。
意訳
冷泉帝が玉鬘の局を訪れ、思いがかなわなかった恨みを口にして、「などてかく」の歌を詠む。玉鬘は、加階への礼として歌を返す。
帝はなおも恨むが、玉鬘がまじめな態度を崩さないので、だんだん慣れていくだろうと思う。
語釈・文法注
文法
- 推量の「けむ」(心に深く思ひそめけむ)
- 過去の原因推量。「どうして心に深く思い初めたのだろう」。
- 係り結び「こそ…けれ」(心してこそ人はそめけれ)
- 「こそ」に応じて已然形「けれ」で結ぶ。
解説
冷泉帝が源氏に生き写しであることは、行幸の巻でも語られていた。源氏の懸想に悩まされた玉鬘は、同じ顔の帝にも言い寄られることになる。
帝の歌の「はひあひがたき紫」は、紫の染料を作るのに灰汁を加えることを踏まえ、「逢ひがたき」を掛ける。玉鬘の返歌の「紫」は、三位の位の衣の色を指し、加階への礼を述べて、帝の恋をかわしている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、548–551頁(コマ279–280)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
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