源氏物語 第31帖 真木柱(14)
踏歌の夜の局
踏歌の人々は朱雀院から帰って、春宮の御方々を巡るうちに夜が明ける。ほのぼのとした朝ぼらけに、酔い乱れて竹河を謡う人々の中に、内大臣の君達が四、五人、声もすぐれ容貌も美しく並んでいる。内大臣の八郎君と髭黒の太郎君が並んでいるのを、玉鬘は他人とは思えず目をとめる。玉鬘の局の袖口は、ほかの御方々よりも当世風で華やかで、女房たちもしばらくはこうして過ごしたいと思う。髭黒は、今夜退出させたいと一日中せがむが、玉鬘は返事をしない。女房たちは、源氏が、まれの出仕なので帝のお気持ちのすむまで許しが出てから退出させよと言っていたのに、今夜はあまりにあっけないと言い、髭黒はつらく思う。兵部卿宮は、局のあたりが気になって落ち着かず、「深山木に」の歌を贈る。

- 1朱朱す雀雀ざく院院いんよりよりより歸歸かえりりり參參まいりりりててて、、、春宮春宮とうぐうののの御御おん方々方々かたがたにににめぐるめぐるめぐる程程ほどににに夜夜よ明明あけけけぬぬぬ。。。ほのぼのほのぼのほのぼのとととをかしきをかしきおかしき朝朝あさぼらけぼらけぼらけにににいたくいたくいたくゑひゑひえい亂亂みだれれれたるたるたるさまさまさましししててて、、、竹竹たけ謠謠うたひひいけるけるける程程ほどををを見見みれれればばば內內うちののの大殿大殿おおいとのののの君達君達きんだちははは四五人四五人しごにんばかりばかりばかり、、、殿上人殿上人てんじょうびとののの中中なかににに聲聲こえすぐれすぐれすぐれかたちかたちかたちきよげきよげきよげにてにてにて打打うちちち續續つづききき給給たまへへえるるるいといといとめでたしめでたしめでたし。。。
- 2わらはわらはわらわなるなるなる八八はち郞郞ろう君君ぎみはははむかひむかひむかいばらばらばらにてにてにていみじういみじういみじゅうかしづきかしづきかしずき給給たまふふうががが、、、いといといと美美うつくしうくしうくしゅうててて大將大將だいしょう殿殿どのののの太太た郞郞ろう君君ぎみととと立立たちちちならびならびならびたるたるたるををを、、、かんかんかんののの君君きみもももよそよそよそ人人びとととと見見み給給たまははわねねねばばば御御おん目目めとまりとまりとまりけりけりけり。。。やんごとなくやんごとなくやんごとなく交交まじらひらひらい馴馴なれれれ給給たまへへえるるる御御おん方々方々かたがたよりよりよりももも、、、このこのこの御御おん局局つぼねののの袖袖そでぐちぐちぐち大方大方おおかたのののけはひけはひけわい今今いまめかしうめかしうめかしゅう、、、同同おなじじじものものものゝゝの色色いろあひあひあいかさなりかさなりかさなりなれなれなれどどど物物ものよりよりよりことことことににに華華はなやかやかやかなりなりなり。。。
- 3さうじみさうじみそうじみももも女房女房にょうぼうたちたちたちもももかやうかやうかようににに御心御心みこころをををやりやりやりててて暫暫しばしししはははすぐいすぐいすぐい給給たまははわましましましととと思思おもひひいあへあへあえりりり皆皆みな同同おなじじじごとごとごとかづけかづけかずけわたすわたすわたすなかなかなかににに、、、綿綿わたのののさまさまさまももも匂匂におひひい殊殊ことにににらうらうしうらうらうしうろうろうしゅうしないしないしない給給たまひひいててて、、、こなたこなたこなたはははなりなりなりけれけれけれどどどけはひけはひけわいにぎはゝしくにぎはゝしくにぎわわしく人々人々びと心心こころげさうげさうげそうしししててて、、、限限かぎりあるあるあるみあるじみあるじみあるじなどなどなどのののことゞもことゞもことどもゝゝもしししたるたるたるさまさまさま殊殊ことににに用意用意よういありありありてててなむなむなん大將大將だいしょう殿殿どのせせせさせさせさせ給給たまへへえりりりけるけるける。。。
- 4殿殿との居居い所所どころににに居居い給給たまひひいててて日日ひ一一ひと日日ひ聞聞きこえええ暮暮くらししし給給たまふふうことことことははは、、、「「「夜夜よさりさりさりまかてまかてまかてさせさせさせ奉奉たてまつりりりてててむむん。。。かゝるかゝるかかるついでついでついでにににととと覺覺おぼしししうつるうつるうつるらむらむらん。。。御御おん宮仕宮仕みやづかえなむなむなんやすからやすからやすからぬぬぬ」」」とととのみのみのみ同同おなじじじ事事ことをををせめせめせめ聞聞きこえええ給給たまへへえどどど御御おんかへりかへりかえりなしなしなし。。。さぶらふさぶらふさぶらう人々人々びとぞぞぞ「「「おとゞおとゞおとどののの心心こころ、、、あわたゞしきあわたゞしきあわただしきほどほどほどならならならででで稀々稀々まれまれののの御御おんまゐりまゐりまいりなれなれなればばば御心御心みこころゆかゆかゆかせせせ給給たまふふうばかりばかりばかりゆるされゆるされゆるされありありありてててをををまかでまかでまかでさせさせさせ給給たまへへえととと聞聞きこえええさせさせさせ給給たまひひいしかしかしかばばば、、、今宵今宵こよいはははあまりあまりあまりすがすがしうすがすがしうすがすがしゅうややや」」」ととと聞聞きこえええたるたるたるをををいといといとつらしつらしつらしととと思思おもひひいててて、、、さばかりさばかりさばかり聞聞きこえええしししものものものををを、、、さささももも心心こころにににかなはかなはかなわぬぬぬ世世よかなかなかなととと、、、うちうちうち嘆嘆なげききき居居い給給たまへへえりりり。。。
- 5兵部卿兵部卿ひょうぶきょうののの宮宮みや御前御前おまえののの遊遊あそびににに侍侍さぶらひひい給給たまひひいてててしづしづしず心心こころなくなくなくこのこのこの局局つぼねのののあたりあたりあたり思思おもひひいやらやらやられれれ給給たまへへえばばば、、、ねんじねんじねんじあまりあまりあまりててて聞聞きこえええ給給たまへへえりりり。。。大將大將だいしょうはははつかさつかさつかさののの御御おん曹曹ぞう子子しにににぞぞぞおはしおはしおわしけるけるける。。。それそれそれよりよりよりとてとてとて取取とりりり入入いれれれたれたれたればばば、、、しぶしぶしぶしぶしぶしぶににに見見み給給たまふふう。。。「「「深深み山山やま木木ぎにににはねはねはねうちうちうちかはしかはしかわしゐるゐるいる鳥鳥とりのののまたまたまたなくなくなくねたきねたきねたき春春はるにににもももあるあるあるかなかなかな。。。囀囀さえずるるる聲聲こえももも耳耳みみとゞめとゞめとどめられられられてててなむなむなん」」」とととありありあり。。。いとほしういとほしういとおしゅうおもておもておもて赤赤あかみみみててて聞聞きこえええむむん方方かたなくなくなく思思おもひひい居居い給給たまへへえるるるににに、、、
現代語訳
踏歌の人々が朱雀院から帰って参上して、春宮の御方々を巡るうちに夜が明けた。ほのぼのと趣深い夜明けに、ひどく酔い乱れた様子で、竹河を謡っているところを見ると、内大臣の君達は四、五人ほど、殿上人の中で声もすぐれ、容貌も美しく、続いていらっしゃるのが、たいそうすばらしい。
童である八郎君は、正妻腹で、たいそう大切にお育てになっているが、たいそうかわいらしくて、大将殿の太郎君と並んでいるのを、尚侍の君も他人とはお思いにならないので、お目がとまった。高貴で宮仕えに慣れていらっしゃる御方々よりも、この御局の袖口や、全体の様子は当世風で、同じ色合いや重ねであるけれど、ほかよりも格別に華やかである。
正身(玉鬘)も女房たちも、このように心を晴らして、しばらくは過ごしていたいものだと思い合っている。皆同じように禄の綿を被け渡す中に、綿の様子も匂いも格別に洗練させていらっしゃって、こちらは水駅であったけれど、様子は賑やかで、女房たちも心づかいをして、決まりのある饗応などのことも、したさまが格別に行き届いていて、大将殿がおさせになったのであった。
大将は宿直所にいらっしゃって、一日中申し上げ続けていらっしゃることは、「今夜退出させ申し上げよう。このついでにと、お心が移っているのだろう。宮仕えは気が気でない」とばかり、同じことをせがみ申し上げなさるけれど、お返事はない。お仕えする女房たちが、「大臣(源氏)が、慌ただしくない程度で、まれのご出仕なので、帝がご満足なさるほどにお許しがあってから退出させなさいと申し上げなさったので、今夜はあまりにあっけないのでは」と申し上げたのを、大将はたいそうつらいと思って、あれほど申し上げたのに、思いどおりにならない世の中だなあと、嘆いていらっしゃった。
兵部卿宮は、御前の管弦の遊びにお仕えしていらっしゃって、落ち着いた心もなく、この局のあたりが思いやられなさるので、こらえきれずにお便りを差し上げなさった。大将は、近衛府の御曹司にいらっしゃった。そちらからと言って取り次いだので、玉鬘は気が進まないままにご覧になる。「深山木にはねうちかはしゐる鳥のまたなくねたき春にもあるかな(深山の木に羽を交わしている鳥のように、あなたが大将と仲睦まじくしているのが、またとなく妬ましい春であることよ)。さえずる声も耳にとまりまして」とある。玉鬘は気の毒で顔を赤らめて、お返事の申し上げようもなく思っていらっしゃると、
意訳
踏歌の夜明け、玉鬘は、内大臣の八郎君と髭黒の太郎君が並んでいるのに目をとめる。玉鬘の局は華やかで、女房たちもしばらくはこうして過ごしたいと思う。
髭黒は、今夜退出させたいとせがむが、玉鬘は返事をしない。兵部卿宮は、妬ましい思いを歌にして贈る。
語釈・文法注
- 竹河
- 催馬楽の曲名。「竹河の橋のつめなるや、花園に、はれ、花園に、我をば放てや、少女たぐへて」と歌う。男踏歌で歌われた。
- みづうまや
- 水駅。男踏歌の一行が立ち寄って、湯漬けなどの簡単な饗応を受ける所。正式な饗応を受ける「飯駅」に対していう。
文法
- 反実仮想の「まし」(暫しはすぐい給はまし)
- 「しばらくは過ごしていたいものだ」。実現しない願望を表す。
- 意志の「てむ」(まかてさせ奉りてむ)
- 強意の「つ」+意志の「む」。「退出させ申し上げよう」。
解説
踏歌の夜明けの華やかな場面の中で、玉鬘は内大臣の八郎君(異母弟)と髭黒の太郎君(継子)が並ぶのを見て、目をとめる。玉鬘の新しい家族関係が、さりげなく描かれている。
兵部卿宮の歌の「羽うち交はしゐる鳥」は、比翼の鳥を思わせ、玉鬘と髭黒の仲を妬むものである。玉鬘は、かつて心を寄せた宮の歌に、顔を赤らめるしかない。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、548–549頁(コマ279)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日