源氏物語 第31帖 真木柱(9)
木工の君の歌と北の方の迎え
髭黒は胸がつぶれる思いで一日を過ごし、北の方のために修法を始めさせる。日が暮れると、髭黒はまた急いで出かけようとするが、装束も整わず、昨夜の衣は焼け焦げて匂いもおかしいので、着替えて湯殿で身を清める。召人の木工の君は香を焚きしめながら、「ひとり居て」の歌で北の方の嘆きを訴えるが、髭黒は、どうしてこんな女に情けをかけたのだろうと思うだけである。髭黒は「うきことを」と返して出かけ、玉鬘のもとに長く籠もって帰らない。北の方の物の怪が激しいと聞いて、恐ろしくて近寄らず、帰っても子どもたちだけを呼んで会う。姫君は十二、三歳で、その下に男の子が二人いる。父の式部卿宮は、娘の扱いを聞いて、急に迎えをよこす。北の方は、夫に捨てられるのを見届けるのも物笑いだと、実家に帰る決心をする。

- 1をとこをとこおとこ胸胸むねつぶれつぶれつぶれててて思思おもひひいくらしくらしくらし給給たまふふう。。。北北きたののの方方かたははは猶猶なおいといといと苦苦くるしげしげしげにににししし給給たまへへえばばば御御おんずずず法法ほうなどなどなど始始はじめめめさせさせさせたまふたまふたまう。。。心心こころのののうちうちうちにににももも「「「このこのこの頃頃ころばかりばかりばかりだにだにだにことことことなくなくなくうつしうつしうつし心心こころにににあらせあらせあらせ給給たまへへえ」」」ととと念念ねんじじじ給給たまふふう。。。まことまことまことののの心心こころばへばへばえののの哀哀あわれなるなるなるををを見見みしらしらしらずずずははは、、、かうまでかうまでこうまで思思おもひひい過過すぐすぐすぐすべうべうびょうもももなきなきなきけうとさけうとさきょうとさかなかなかなととと思思おもひひいゐゐい給給たまへへえりりり。。。
- 2暮暮くるれるれるればばば例例れいののの急急いそぎぎぎ出出いででで給給たまひひいててて御御おんさうさうそう束束ぞくののの事事ことなどなどなどもももめやすくめやすくめやすくもももしなししなししなし給給たまははわずずず、、、世世よににに怪怪あやしうしうしゅううちうちうちあはあはあわぬぬぬさまさまさまにににのみのみのみむつかりむつかりむつかり給給たまふふうををを、、、鮮鮮あざやかかかなるなるなる御御おん直衣直衣のうしなどなどなどもももえええとりとりとりあへあへあえ給給たまははわでででいといといと見見みぐるしぐるしぐるし。。。よべよべよべのののははは燒燒やけけけとほりとほりとおりててて疎疎うとましげましげましげににに焦焦こがれれれたるたるたる匂匂におひひいなどなどなどもももことことことやうやうようなりなりなり。。。御御おんぞぞぞどもどもどもににに移移うつりりり香香がもももしみしみしみたりたりたり。。。ふすべふすべふすべられられられけるけるける程程ほどあらはあらはあらわににに、、、人人ひともももうんじうんじうんじ給給たまひひいぬぬぬべけれべけれべければばばぬぎぬぎぬぎかへかへかえててて、、、御御おん湯湯ゆ殿殿どのなどなどなどいといといとうつくろひうつくろひうつくろい給給たまふふう。。。
- 3木工木工もくののの君君きみ御御おんたきたきたきものものものしししつゝつゝつつきこゆきこゆきこゆ。。。「「「ひとりひとりひとり居居いてててこがるゝこがるゝこがるる胸胸むねののの苦苦くるしきしきしきににに思思おもひひいあまれあまれあまれるるるほのほほのほほのおとととぞぞぞ見見みししし。。。名殘名殘なごりなきなきなき御御おんもてなしもてなしもてなしははは、、、見見み奉奉たてまつるるる人人ひとだにだにだにたゞたゞただにににやはやはやは」」」ととと口口くちおほひおほひおおいててて居居いたるたるたる、、、まみまみまみいといといといたしいたしいたし。。。されどされどされどいかなるいかなるいかなる心心こころにてにてにてかやうかやうかようののの人人ひとににに物物ものをををいひいひいいけむけむけんなどなどなどのみのみのみぞぞぞ覺覺おぼえええ給給たまひひいけるけるける。。。なさけなきなさけなきなさけなきことことことよよよ。。。「「「うきうきうきことことことををを思思おもひひいさわげさわげさわげばばばさまざまさまざまさまざまにににくゆるくゆるくゆる煙煙けぶりぞぞぞいとゞいとゞいとど立立たちちちそふそふそう。。。いといといとことことことののの外外ほかなるなるなる事事ことどもどもどもののの、、、もしもしもし聞聞きこえええあらあらあらばばばににになりなりなりぬぬぬべきべきべき身身みなななめりめりめり」」」とととうちうちうち歎歎なげきききててて出出いででで給給たまひひいぬぬぬ。。。
- 4一一ひと夜夜よばかりばかりばかりののの隔隔へだてててだにだにだに又又また珍珍めずらしうしうしゅうをかしさをかしさおかしさまさりまさりまさりててて覺覺おぼえええ給給たまふふう有樣有樣ありさまにににいとゞいとゞいとど心心こころをををわくわくわくべくべくべくもももあらあらあらずずず覺覺おぼえええててて心心こころうけれうけれうければばば久久ひさしうしうしゅう籠籠こもりりり居居い給給たまへへえりりり。。。修修ず法法ほうなどなどなどししし騷騷さわげげげどどど御御おんものゝけものゝけもののけこちたくこちたくこちたくおこりおこりおこりてててのゝしるのゝしるののしるををを聞聞きききき給給たまへへえばばば、、、あるあるあるまじきまじきまじききずきずきずもももつきつきつきはぢがましきはぢがましきはじがましき事事こと必必かならずずずありありありなむなむなんととと恐恐おそろしうしうしゅうてててよりよりよりつきつきつき給給たまははわずずず。。。殿殿とのににに渡渡わたりりり給給たまふふう時時ときもももことことこと方方かたににに離離はなれれれ居居い給給たまひひいててて、、、君達君達きんだちばかりばかりばかりをををぞぞぞ呼呼よびびびはなちはなちはなちててて見見み奉奉たてまつりりり給給たまふふう。。。
- 5女女おんなひとひとひと所所ところ十十じゅう二二に三三さんばかりばかりばかりにてにてにてまたまたまたつぎつぎつぎつぎつぎつぎ男男おとこ二人二人ふたりなむなむなんおはしおはしおわしけるけるける。。。近近ちかききき年年とし頃頃ごろとととなりなりなりてててははは御御おん中中なかもももへだゝりへだゝりへだたりがちがちがちにてにてにて習習ならはしはしわし給給たまへへえれれれどどどやんごとなうやんごとなうやんごとのう立立たちちちならぶならぶならぶ方方かたなくなくなくてててならひならひならい給給たまへへえれれればばば、、、今今いまははは限限かぎりりりととと見見み給給たまふふうににに侍侍さぶらふふう人々人々びともももいみじういみじういみじゅう悲悲かなしししととと思思おもふふう。。。
- 6父父ちち宮宮みや聞聞きききき給給たまひひいててて「「「今今いまはははしかしかしかかけかけかけはなれはなれはなれてててもてもてもて出出いででで給給たまふふうらむらむらんににに、、、さてさてさて心心こころ强强つよくくくものしものしものし給給たまふふういといといとおもなうおもなうおものう人人ひと笑笑わらへへえなるなるなることことことなりなりなり。。。おのおのおのがががあらあらあらむむん世世よののの限限かぎりりりはははひたぶるひたぶるひたぶるにににしもしもしもなどなどなどかかか隨隨したがひひいくづほれくづほれくずおれ給給たまははわむむん」」」ととと聞聞きこえええ給給たまひひいててて俄俄にわかににに御御おんむかへむかへむかえありありあり北北きたののの方方かた御御おん心地心地ここち少少すこししし例例れいににになりなりなりててて世世よののの中中なかをををあさましうあさましうあさましゅう思思おもひひい歎歎なげききき給給たまふふうににに、、、かくかくかくととと聞聞きこえええ給給たまへへえれれればばばしひしひしいててて立立たちちちとまりとまりとまりててて、、、人人ひとののの絕絕たえええはてはてはてむむんさまさまさまををを見見みはてはてはてゝゝて思思おもひひいとぢめとぢめとじめむむんももも今今いま少少すこししし人人ひと笑笑わらへへえにににこそこそこそあらあらあらめめめなどなどなどおぼしおぼしおぼしたつたつたつ。。。
現代語訳
男君(髭黒)は胸がつぶれる思いで、一日を過ごしていらっしゃる。北の方はなおもたいそう苦しそうになさっているので、御修法などを始めさせなさる。心の中でも、「この頃だけでも、何事もなく正気でいさせてください」と念じていらっしゃる。北の方の本当の心ばえの哀れなのを知らなかったら、これほどまでに我慢して過ごすこともできない、気味の悪さであることよと思っていらっしゃった。
日が暮れると、いつものように急いでお出かけになるが、ご装束のことなども、見苦しくないようにも整えておやりにならず、まったく妙に合わない様子だとばかりご機嫌が悪いのを、鮮やかな御直衣なども用意することができないで、たいそう見苦しい。昨夜のは焼け通って、疎ましく焦げた匂いなども異様である。お召し物に移り香もしみ込んでいる。嫉妬されたことがあらわで、相手もお嫌いになるだろうから、脱ぎ替えて、御湯殿でたいそう身づくろいをなさる。
木工の君が、御薫物を焚きしめながら申し上げる。「ひとり居てこがるゝ胸の苦しきに思ひあまれるほのほとぞ見し(ひとり残されて思い焦がれる胸の苦しさのあまり、燃え上がった炎と見ました)。名残もないお扱いは、拝見する者でさえ、平気でいられましょうか」と、口を覆って座っている目元が、たいそう美しい。けれども大将は、どういうつもりで、このような女に情けをかけたのだろうなどとばかり思われなさった。情けないことよ。「うきことを思ひさわげばさまざまにくゆる煙ぞいとゞ立ちそふ(つらいことを思い騒ぐと、さまざまにくすぶる煙〈後悔〉が、いっそう立ち加わることだ)。まったく思いのほかのことが、もし世に聞こえたら、中途半端な身になってしまうだろう」と嘆いてお出かけになった。
一晩だけの隔たりでさえ、また珍しく、玉鬘の美しさがまさって思われなさるご様子に、ますます心を分けることもできないと思われて、北の方のことがつらいので、長く玉鬘のもとに籠もっていらっしゃった。邸では修法などをして騒ぐけれど、御物の怪がひどく起こって叫ぶのをお聞きになると、あってはならない疵もつき、恥ずかしいことがきっと起こるだろうと恐ろしくて、近寄りなさらない。邸にお帰りになる時も、別の所に離れていらっしゃって、君達だけを呼び出してお会いになる。
女君がお一人、十二、三歳ほどで、その下に次々に男君が二人いらっしゃった。近年は、ご夫婦の仲も隔たりがちでいらっしゃったけれど、正妻として並ぶ者もなく過ごしていらっしゃったので、今はもう終わりだとご覧になるにつけて、お仕えする女房たちも、ひどく悲しいと思う。
父宮がお聞きになって、「今はそのように疎遠になって、新しい妻を連れ出して大事にしているというのに、それでも我慢して過ごしていらっしゃるのは、たいそう面目なく物笑いになることだ。私が生きている限りは、どうしてひたすら従ってくじけていらっしゃることがあろう」と申し上げなさって、急にお迎えがある。北の方は、ご気分が少し普段どおりになって、夫婦の仲をあきれたことと思い嘆いていらっしゃったが、このようにと申し上げなさったので、無理に留まって、夫がすっかり離れていく有様を最後まで見届けてから思い切るのも、もう少し物笑いになるだろうなどと、決心なさる。
意訳
木工の君は、香を焚きしめながら北の方の嘆きを歌で訴えるが、髭黒は取り合わずに玉鬘のもとへ出かけ、長く帰らない。
式部卿宮は、娘の扱いを聞いて急に迎えをよこし、北の方は実家に帰る決心をする。
語釈・文法注
- ちうげん
- 中間。どっちつかずの中途半端な状態。髭黒は、北の方の騒ぎが世間に知られたら、玉鬘との仲も北の方との仲も、どちらも中途半端になると心配している。
文法
- 反実仮想に近い「ずは…べうもなき」(見しらずは…思ひ過ぐすべうもなき)
- 「知らなかったら、これほど我慢して過ごすこともできない」。
- 反語の「やは」(見奉る人だにたゞにやは)
- 「拝見する者でさえ、平気でいられましょうか、いや、いられません」。
解説
木工の君は髭黒の召人で、北の方に仕えながら髭黒の寵愛も受けていた。木工の君の歌は、北の方の嫉妬の炎を詠むが、そこには自分自身の嫉妬も込められているのだろう。
髭黒は、木工の君に情けをかけたことさえ後悔する。玉鬘に夢中になった髭黒には、ほかの女性はもう目に入らない。語り手の「なさけなきことよ」という批判が、髭黒の身勝手さを際立たせる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、540–543頁(コマ275–276)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日