源氏物語 第31帖 真木柱(8)
玉鬘への文
正気でこんなことをしたのなら、二度と顧みる気にもならないだろうが、女房たちは、いつもの物の怪が人に疎ませようとしたのだと気の毒に思う。着替えても灰が鬢のあたりにまで立ちのぼるので、髭黒は玉鬘のもとへ行くことができない。髭黒は、珍しいほどひどい人だと疎ましく思うが、今事を荒立てては大変なことになると思い直し、夜中に僧を呼んで加持祈祷をさせる。北の方は一晩中、打たれ引かれて泣き惑う。翌朝、髭黒は玉鬘に、急に気を失った人がいて出かけられなかったと手紙を書き、「心さへ」の歌を添えるが、玉鬘は夜離れを何とも思わず、返事もしない。

- 1うつしうつしうつし心心こころにてにてにてかくかくかくししし給給たまふふうぞぞぞととと思思おもははわゞゞば又又またかへりみかへりみかえりみすすすべくべくべくもももあらあらあらずずず。。。あさましけれあさましけれあさましけれどどど例例れいののの御御おんものゝけものゝけもののけののの人人ひとににに疎疎うとままませせせむむんとととするするするわざわざわざとととおまへおまへおまえなるなるなる人々人々びともももいとほしういとほしういとおしゅう見見み奉奉たてまつるるる。。。立立たちちち騷騷さわぎぎぎててて御御おんぞぞぞどもどもども奉奉たてまつりりりかへかへかえなどなどなどすれすれすれどどどそこらそこらそこらののの灰灰はいののの御御おんびんびんびんのののわたりわたりわたりにににももも立立たちちちのぼりのぼりのぼり萬萬よろずののの所所ところににに滿滿みちちちたるたるたる心地心地ここちすれすれすればばば、、、淸淸きよらららををを盡盡つくししし給給たまふふうわたりわたりわたりにににさながらさながらさながらまうでまうでもうで給給たまふふうべきべきべきにににもももあらあらあらずずず。。。
- 2心心こころたがひたがひたがいとととはははいひいひいいながらながらながら猶猶なお珍珍めずらしうしうしゅう見見みあらあらあらぬぬぬ人人ひとののの御御おん有樣有樣ありさまなりなりなりやややとととつまはじきつまはじきつまはじきせせせられられられ疎疎うとましうましうましゅうなりなりなりててて哀哀あわれととと思思おもひひいつるつるつる心心こころももも殘殘のこらららねねねどどど、、、このこのこの頃頃ころあらあらあらだてだてだてゝゝてはははいみじきいみじきいみじき事事こと出出いででで來來きなむなむなんとととおぼしおぼしおぼししづめしづめしずめててて、、、夜夜よ中中なかににになりなりなりぬれぬれぬれどどどそうそうそうなどなどなど召召めしししててて加持加持かじまゐりまゐりまいりさわぐさわぐさわぐ。。。よばひよばひよばいのゝしりのゝしりののしり給給たまふふう聲聲こえなどなどなど思思おもひひいうとみうとみうとみ給給たまははわむむんにににことわりことわりことわりなりなりなり。。。
- 3夜夜よ一一ひと夜夜ようたうたうたれれれひかひかひかれれれ泣泣なききき惑惑まどひひい明明あかししし給給たまひひいててて少少すこしししうちうちうち休休やすみみみ給給たまへへえるるる程程ほどににに、、、かしこかしこかしこへへへ御御おん文文ふみ奉奉たてまつれれれ給給たまふふう。。。「「「よべよべよべにはかにはかにはかににに消消きえええいるいるいる人人ひとののの侍侍はべりりりしししににによりよりより、、、雪雪ゆきのののけしきけしきけしきもももふりふりふり出出いでででがたくがたくがたくやすらひやすらひやすらい侍侍はべりりりしししににに、、、身身みさへさへさへひえひえひえてててなむなむなん。。。御心御心みこころをををばばばさるさるさるものものものにてにてにて、、、人人ひといかにいかにいかにとりとりとりなしなしなし侍侍はべりりりけむけむけん」」」ととときすくきすくきすくににに書書かききき給給たまへへえりりり。。。
- 4「「「心心こころさへさへさへそらそらそらにににみだれみだれみだれししし雪雪ゆきもよもよもよにににひとりひとりひとりさえさえさえつるつるつるかたかたかたしきしきしきののの袖袖そで。。。堪堪たへへえがたくがたくがたくこそこそこそ」」」とととしろきしろきしろきうすえふうすえふうすようにににづしやかづしやかずしやかににに書書かいいい給給たまへへえれれれどどど殊殊ことにににをかしきをかしきおかしき所所ところもももなしなしなし。。。手手てはははいといといと淸淸きよげげげなりなりなり。。。ざえざえざえかしこくかしこくかしこくなどなどなどぞぞぞ物物ものししし給給たまひひいけるけるける。。。かんかんかんののの君君きみよがれよがれよがれををを何何なにととともももおぼさおぼさおぼされれれぬぬぬににに、、、かくかくかく心心こころ時時ときめきめきめきししし給給たまへへえるるるををを見見みももも入入いれれれ給給たまははわねねねばばば御御おんかへりかへりかえりなしなしなし。。。
現代語訳
北の方が正気でこのようなことをなさったと思うならば、二度と顧みる気にもなれないだろう。あきれたことだけれど、いつもの御物の怪が、人に疎ませようとするしわざだと、御前の女房たちも気の毒に拝見する。大騒ぎをしてお召し物を着替えさせ申し上げなどするけれど、たくさんの灰が御鬢のあたりにも立ちのぼって、あらゆる所に満ちている気がするので、美を尽くしていらっしゃるあたり(玉鬘のもと)に、このまま参上なさるわけにもいかない。
乱心とはいいながら、やはり珍しく、見たこともない人のご様子だと、爪弾きをせずにはいられず疎ましくなって、哀れと思っていた心も残らないけれど、この頃事を荒立てては大変なことが起こるだろうと思い静めなさって、夜中になったけれど、僧などを召して加持祈祷をして騒ぐ。北の方が叫びののしりなさる声などを、大将がお疎みになるのも、もっともである。
北の方は一晩中、打たれたり引っ張られたりして泣き惑い、夜を明かしなさって、少しお休みになった頃に、大将はあちら(玉鬘)へお手紙を差し上げなさる。「昨夜、急に気を失った人がおりましたので、雪の様子も出かけにくく、ためらっておりますうちに、身まで冷えてしまいまして。あなたのお心はもちろん、人がどのように取りなしたことでしょう」と、無骨にお書きになった。
「心さへそらにみだれし雪もよにひとりさえつるかたしきの袖(心までも空に乱れた雪の夜に、ひとり冷え冷えと片袖を敷いて寝た私の袖よ)。耐えがたいことです」と、白い薄様に重々しくお書きになったけれど、特に趣のある所もない。筆跡はたいそう美しい。学才はすぐれていらっしゃった。尚侍の君(玉鬘)は、大将の夜離れを何ともお思いにならないので、このように心をときめかせていらっしゃるのを、見向きもなさらないので、お返事はない。
意訳
髭黒は灰を浴びて玉鬘のもとへ行けず、北の方を疎ましく思いながらも、夜中に僧を呼んで加持祈祷をさせる。
翌朝、髭黒は玉鬘に言い訳の手紙と歌を送るが、玉鬘は何とも思わず、返事もしない。
語釈・文法注
文法
- 仮定の「ば」(思はゞ又かへりみすべくもあらず)
- 未然形+「ば」で仮定。「正気でしたと思うならば、二度と顧みる気にもなれないだろう」。
- 推量の「けむ」(人いかにとりなし侍りけむ)
- 過去推量。「人がどのように取りなしたことでしょう」。
解説
北の方の行為は物の怪のしわざとされ、加持祈祷が行われる。一晩中「うたれひかれ」泣き惑う北の方の姿は、当時の物の怪調伏の様子を生々しく伝えている。
髭黒の歌は無骨で趣に乏しいが、筆跡は美しく、学才もすぐれていると語られる。玉鬘は髭黒の夜離れを何とも思わず、返事もしない。夫婦の心は、まだ通い合っていない。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、538–541頁(コマ274–275)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日