源氏物語 第31帖 真木柱(7)
雪の夜の火取
日が暮れると、髭黒は玉鬘のもとへ出かけたくて心も上の空だが、雪が激しく降り出す。北の方がおだやかに振る舞っているので、髭黒は出かけかねて、端近くでぼんやりと眺めている。北の方は、夜も更けたので出かけるよう勧める。髭黒は、玉鬘をこちらに移せば安心だと言い、北の方は、心がよそにあるのに留まるのはかえって苦しい、思いを寄せてくれれば袖の氷も解けるだろうと、穏やかに答える。北の方は、髭黒の衣に香を焚きしめさせる。髭黒は空嘆きをしながら身支度を整える。ところが、静かに寄り臥していた北の方は、突然起き上がり、伏籠の下の火取を取って、髭黒の後ろからさっと灰を浴びせかける。髭黒は灰にむせて、衣を脱ぐしかない。

- 1暮暮くれれれぬれぬれぬればばば心心こころももも空空そらにににうきうきうきたちたちたちててて、、、いかでいかでいかで出出いでででなむなむなんとととおぼすおぼすおぼすににに雪雪ゆきかきかきかきたれたれたれてててふるふるふる。。。かゝるかゝるかかる空空そらににに降降ふりりり出出いでででむむんももも人人ひと目目めいとほしういとほしういとおしゅう、、、このこのこの御御おん氣色氣色けしきもももにくげにくげにくげにににふすべふすべふすべ恨恨うらみみみなどなどなどししし給給たまははわゞゞば、、、なかなかなかなかなかなかことつけことつけことつけででで我我われもももむかひむかひむかい火火びつくりつくりつくりてててあるあるあるべきべきべきををを、、、いといといとおいらかおいらかおいらかにににつれなうつれなうつれのうもてなしもてなしもてなし給給たまへへえるるるさまさまさまのののいといといと心心こころ苦苦ぐるしけれしけれしければばば、、、いかにいかにいかにせせせむむんととと思思おもひひい亂亂みだれれれつゝつゝつつ格子格子こうしなどなどなどもももさながらさながらさながらはしはしはし近近ちこううう打打うちちちながめながめながめててて居居い給給たまへへえりりり。。。
- 2北北きたののの方方かた氣色氣色けしきををを見見みててて「「「あやにくあやにくあやにくなななめるめるめる雪雪ゆきをををいかでいかでいかで分分わけけけ給給たまははわむむんとととすすすらむらむらん。。。夜夜よももも更更ふけけけぬぬぬめりめりめりややや」」」とととそゝのかしそゝのかしそそのかし給給たまふふう。。。今今いまははは限限かぎりりりととととゞむとゞむとどむともともともととと思思おもひひいめぐらしめぐらしめぐらし給給たまへへえるるる氣色氣色けしきいといといと哀哀あわれなりなりなり。。。「「「かゝるかゝるかかるにににはははいかでいかでいかでかかか」」」とととののの給給たまふふうものものものからからから猶猶なお「「「このこのこのごろごろごろばかりばかりばかり心心こころののの程程ほどをををしらしらしらででで、、、とかくとかくとかく人人ひとのののいひいひいいなしなしなし、、、おとゞおとゞおとどたちたちたちもももひだりひだりひだり右右みぎににに聞聞ききききおぼさおぼさおぼさむむん事事ことををを憚憚はばかりりりてててなむなむなん、、、とだえとだえとだえあらあらあらむむんはははいとほしきいとほしきいとおしき。。。思思おもひひいしづめしづめしずめててて猶猶なお見見みはてはてはて給給たまへへえ。。。こゝこゝここににになどなどなど渡渡わたしししてててははは心心こころ安安やすくくく侍侍はべりりりなむなむなん。。。かくかくかく世世よののの常常つねなるなるなる御御おん氣色氣色けしき見見みえええ給給たまふふう時時ときははは、、、ほかほかほかざまざまざまにににわくるわくるわくる心心こころもももうせうせうせてててなむなむなん哀哀あわれににに思思おもひひい聞聞きこゆるゆるゆる」」」などなどなど語語かたらひらひらい給給たまへへえばばば
- 3「「「立立たちちちとまりとまりとまり給給たまひひいてててももも御心御心みこころのののほかほかほかならならならむむんはははなかなかなかなかなかなか苦苦くるしうしうしゅうこそこそこそあるあるあるべけれべけれべけれ。。。よそよそよそにてにてにてももも思思おもひひいだにだにだにおこせおこせおこせ給給たまははわゞゞば袖袖そでののの氷氷こおりももも解解とけけけなむなむなんかしかしかし」」」などなどなどなごやかなごやかなごやかにににいひいひいい居居い給給たまへへえりりり。。。御御おん火火ひとりとりとりめしめしめしててていよいよいよいよいよいよたきたきたきしめしめしめさせさせさせ奉奉たてまつりりり給給たまふふう。。。みづからみづからみずからはははなえなえなえたるたるたる御御おんぞぞぞどもどもどもにににうちとけうちとけうちとけたるたるたる御御おん姿姿すがたいとゞいとゞいとど細細ほそうううかよわげかよわげかよわげなりなりなり。。。しめりしめりしめりててておはするおはするおわするいといといと心心こころぐるしぐるしぐるし。。。
- 4御御おん目目めのののいたういたういとう泣泣なききき腫腫はれれれたるたるたるぞぞぞ少少すこしししものしものしものしけれけれけれどどど、、、いといといと哀哀あわれととと見見みるるるときときときははは、、、罪罪つみなうなうのうおぼしおぼしおぼしててて、、、いかでいかでいかで過過すぐしぐしぐしつるつるつる年年とし月月つきぞぞぞととと名殘名殘なごりなうなうのう移移うつろふろふろう心心こころののの輕輕かろきききぞぞぞやややとととはははおもふおもふおもうおもふおもふおもう猶猶なお心心こころげさうげさうげそうはははすゝみすゝみすすみてててそらそらそらなげきなげきなげきをををうちうちうちしししつゝつゝつつ猶猶なおさうさうそう束束ぞくししし給給たまひひいててて、、、ちひさきちひさきちいさき火火ひとりとりとり取取とりりりよせよせよせててて袖袖そでににに引引ひききき入入いれれれてててしめしめしめゐゐい給給たまへへえりりり。。。
- 5なつかしきなつかしきなつかしき程程ほどににになえなえなえたるたるたる御御おんさうさうそう束束ぞくにににかたちかたちかたちもももかのかのかのならびならびならびなきなきなき御御おん光光ひかりにににこそこそこそおさるれおさるれおさるれどどど、、、いといといとあざやかあざやかあざやかにににをゝしきをゝしきおおしきさまさまさましししてててたゞたゞただ人人びとととと見見みえええずずず心心こころ恥恥はずかしげしげしげなりなりなり。。。さぶらひさぶらひさぶらいににに人々人々びと聲聲こえしししててて「「「雪雪ゆきすこしすこしすこしひまひまひまありありあり。。。夜夜よははは更更ふけけけぬぬぬらむらむらんかしかしかし」」」などなどなどさすがにさすがにさすがにまほまほまほにににはははあらあらあらでででそゝのかしそゝのかしそそのかし聞聞きこえええててて、、、こわづくりこわづくりこわずくりあへあへあえりりり。。。中將中將ちゅうじょうもくもくもくなどなどなど「「「あはれあはれあわれののの世世よややや」」」などなどなどうちうちうち歎歎なげきききつゝつゝつつ語語かたらひらひらいててて臥臥ふしししたるたるたるににに、、、
- 6さうじみさうじみそうじみはははいみじういみじういみじゅう思思おもひひいしづめしづめしずめてててらうたげらうたげろうたげににに寄寄よりりり臥臥ふししし給給たまへへえりりりととと見見みるるる程程ほどににに、、、俄俄にわかににに起起おきききあがりあがりあがりててておほきなるおほきなるおおきなる下下したなりなりなりつるつるつる火火ひ取取とりををを取取とりりり寄寄よせせせててて殿殿とのののの後後うしろににによりよりよりてててざとざとざといかけいかけいかけ給給たまふふうほどほどほど、、、人人ひとのののやゝやゝやや見見みあふるあふるあうる程程ほどもももなうなうのうあさましきあさましきあさましきにににあきれあきれあきれてててものしものしものし給給たまふふう。。。さるさるさるこまかこまかこまかなるなるなる灰灰はいののの目目め鼻鼻はなにににももも入入いりりりててておぼゝれおぼゝれおぼおれててて物物ものももも覺覺おぼえええずずず「「「拂拂はらひひいすてすてすて給給たまへへえ」」」ととと立立たちちちみちみちみちたれたれたればばば、、、御御おんぞぞぞどもどもどもぬぎぬぎぬぎ給給たまひひいつつつ。。。
現代語訳
日が暮れると、大将は心も上の空に浮き立って、何とかして出かけたいとお思いになるが、雪がひどく降り出した。このような空模様の中を出かけるのも人目が悪く、この北の方のご様子も、憎らしく嫉妬して恨みなどなさるならば、かえってそれを口実にして、自分も向かい火を作って出かけられるのに、たいそうおっとりと平気な顔をしていらっしゃる様子がたいそう気の毒なので、どうしようかと思い乱れながら、格子なども上げたまま、端近くでぼんやりと眺めて座っていらっしゃった。
北の方はその様子を見て、「あいにくの雪を、どうやって分けて行かれるのでしょう。夜も更けたようですよ」とお勧めになる。今はもう終わりだ、引き留めても無駄だと、思いめぐらしていらっしゃる様子が、たいそう哀れである。大将は「このような雪の中を、どうして」とおっしゃるものの、やはり「この頃だけは、私の心の程も知らずに、あれこれと人が言い立て、大臣たちも左右から聞いてお思いになることをはばかって、途絶えがあっては気の毒なのです。心を静めて、やはり最後まで見ていてください。こちらになど移したら、安心でしょう。このように普通のご様子でいらっしゃる時は、よそに分ける心もなくなって、しみじみといとしく思い申し上げます」などとお話しになると、
北の方は「お留まりになっても、お心がよそにあるのでは、かえって苦しいでしょう。よそにいても、思いだけでも寄せてくださるなら、涙に凍った袖の氷も解けるでしょう」などと、穏やかに言っていらっしゃった。御火取を取り寄せて、いっそう念入りに大将のお召し物に香を焚きしめさせなさる。ご自身は、着古して柔らかくなったお召し物で、くつろいだお姿が、いっそう細くか弱げである。沈み込んでいらっしゃるのが、たいそう痛々しい。
お目がひどく泣き腫れているのが少し見苦しいけれど、たいそう哀れだと見る時は、罪のないこととお思いになって、どうして長年を過ごしてきたのだろう、すっかり心変わりする自分の心の軽さよとは思いながらも、やはり懸想の心は進んで、空嘆きをしながら、なおも装束を整えなさって、小さな火取を取り寄せて、袖に引き入れて、香を焚きしめていらっしゃった。
ちょうどよく柔らかくなったご装束で、容貌も、あの比類ない源氏の御光には圧倒されるけれど、たいそうはっきりとして男らしい様子で、普通の人とは見えず、立派である。侍所で人々の声がして、「雪が少しやみました。夜は更けたでしょう」などと、さすがにはっきりとではなく、お促し申し上げて、咳払いをし合っている。中将や木工などは「ああ、つらい仲だこと」などと嘆きながら話し合って臥していると、
正身(北の方)は、たいそう心を静めて、いじらしく物に寄り臥していらっしゃると見るうちに、急に起き上がって、大きな伏籠の下にあった火取を取り寄せて、殿の後ろに寄って、さっと浴びせかけなさる。人が少しも見とがめる間もないほどで、あまりのことに大将はあきれていらっしゃる。あのように細かい灰が目や鼻にも入って、ぼうっとして何も分からない。払い捨てなさるけれど、あたり一面に立ち込めているので、お召し物を脱ぎなさった。
意訳
雪の夜、玉鬘のもとへ出かけたい髭黒に、北の方は穏やかに出かけるよう勧め、衣に香を焚きしめさせる。
髭黒が身支度を整えると、北の方は突然起き上がり、火取の灰を髭黒に浴びせかける。
語釈・文法注
- この下
- 「籠の下」。伏籠(ふせご)の下。伏籠は、香炉(火取)の上にかぶせて、衣に香を焚きしめるための籠。
文法
- 反実仮想に近い「べき」(我もむかひ火つくりてあるべきを)
- 「自分も向かい火を作って出かけられるのに」。そうはならない現実を嘆く。
- 強意の「なむ」(袖の氷も解けなむかし)
- 強意の「ぬ」の未然形+推量の「む」。「きっと解けるでしょう」。
解説
雪の夜の火取の場面は、源氏物語の中でも特に劇的な場面である。穏やかに夫を送り出そうとしていた北の方が、突然灰を浴びせかける。物の怪のしわざとされるが、その行動には、抑えきれない嫉妬と絶望が表れている。
北の方が香を焚きしめさせ、髭黒が空嘆きをしながら身支度をする描写は、二人の心のすれ違いを鮮やかに描いている。北の方の「袖の氷も解けなむ」という言葉の哀れさが、直後の激しい行動との対比で際立つ。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、538–539頁(コマ274)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日