源氏物語 第31帖 真木柱(3)
源氏、玉鬘を訪ねる
源氏は玉鬘への思いを断ち切れず、髭黒のいない昼に西の対を訪れる。玉鬘はしおれていたが、少し起き上がって几帳の陰に隠れる。無骨な髭黒に慣れた玉鬘は、源氏の優雅な様子に改めて気づき、思いがけない身の上を恥じて涙をこぼす。源氏は、面やせした玉鬘をいとしく思い、他人に渡したことを悔やんで、三途の川を渡る時は自分が手を引くつもりだったのにと詠む。玉鬘は、三途の川を渡る前に涙の泡と消えたいと返す。源氏は、帝が残念がっているので、少しの間でも出仕させようと言い、内大臣は満足しているようだと慰める。玉鬘はただ涙にくれている。

- 1今今いま更更さらににに人人ひとののの心心こころぐせぐせぐせもももこそこそこそとととおぼしおぼしおぼしながらながらながら物物ものののの苦苦くるしうしうしゅうおぼさおぼさおぼされれれししし時時とき、、、さてさてさてもももやややとととおぼしおぼしおぼしよりよりより給給たまひひいしししことことことなれなれなればばば猶猶なおおぼしおぼしおぼしももも絕絕たえええずずず、、、大將大將だいしょうのののおはせおはせおわせぬぬぬ晝晝ひるつかたつかたつかた渡渡わたりりり給給たまへへえりりり。。。女君女君おんなぎみあやしうあやしうあやしゅう惱惱なやましげましげましげにににのみのみのみもてないもてないもてない給給たまひひいてててすくよかすくよかすくよかなるなるなる折折おりもももなくなくなくしをれしをれしおれ給給たまへへえるるるををを、、、かくかくかく渡渡わたりりり給給たまへへえれれればばば少少すこししし起起おきききあがりあがりあがり給給たまひひいててて御御おん几帳几帳きちょうにににはたはたはた隱隱かくれれれててておはすおはすおわす。。。
- 2殿殿とのももも用意用意よういことことことににに少少すこしししけゝしきけゝしきけけしきさまさまさまにににもてないもてないもてない給給たまひひいててて大方大方おおかたののの事事ことどもどもどもなどなどなど聞聞きこえええ給給たまふふう。。。すくよかすくよかすくよかなるなるなる世世よののの常常つねののの人人ひとにににならひならひならいてててはははましてましてましていふいふいうかたかたかたなきなきなき御御おんけはひけはひけわいありさまありさまありさまををを見見みしりしりしり給給たまふふうにににももも、、、思思おもいののの外外ほかなるなるなる身身みののの置置おききき所所どころなくなくなくはづかしきはづかしきはずかしきにににももも淚淚なみだぞぞぞこぼれこぼれこぼれけるけるける。。。やうやうやうやうようようこまやかこまやかこまやかなるなるなる御御おん物語物語ものがたりににになりなりなりててて近近ちかききき御御おん脇息脇息きょうそくににによりよりよりかゝりかゝりかかりててて少少すこしししのぞきのぞきのぞきつゝつゝつつ聞聞きこえええ給給たまふふう。。。
- 3いといといとをかしげをかしげおかしげにににおもおもおもやせやせやせ給給たまへへえるるるさまさまさまののの見見みまほしうまほしうまほしゅうらうたいとのらうたいとのろうたいとの添添そひひい給給たまへへえるるるにににつけつけつけてててももも、、、よそよそよそににに見見み放放はなつつつもももあまりあまりあまりなるなるなる心心こころのののすさびすさびすさびぞぞぞかしかしかしととと、、、くちをしくちをしくちおし。。。「「「おりおりおりたちたちたちてててくみくみくみははは見見みねねねどもどもどもわたりわたりわたり川川がわ人人ひとのののせせせとととはははたたた契契ちぎらららざりざりざりしししををを。。。思思おもいののの外外ほかなりなりなりややや」」」とてとてとて鼻鼻はなうちうちうちかみかみかみ給給たまふふうけはひけはひけわいなつかしうなつかしうなつかしゅう哀哀あわれなりなりなり。。。
- 4女女おんなははは顏顏かおかくしかくしかくしててて、、、「「「みつせみつせみつせ渡渡わたらららぬぬぬさきさきさきにににいかでいかでいかでなほなほなお淚淚なみだのののみをみをみおののの泡泡あわととと消消きえええなむなむなん」」」。。。「「「心心こころ幼幼おさなななののの御御おんきえきえきえ所所どころややや。。。さてもさてもさてもかのかのかの瀨瀨せはははよきよきよきみちみちみち無無なかかかなるなるなるををを、、、御御おん手手てのののさきさきさきばかりばかりばかりはははひきひきひきたすけたすけたすけ聞聞きこえええてててむむんややや」」」とととほゝゑみほゝゑみほほえみ給給たまひひいててて「「「まめやかまめやかまめやかにににはははおぼしおぼしおぼし知知しるるることことこともももあらあらあらむむんかしかしかし。。。世世よににになきなきなきしれじれしさしれじれしさしれじれしさももも又又またうしろやすさうしろやすさうしろやすさもももこのこのこの世世よにににたぐひたぐひたぐいなきなきなき程程ほどををを、、、さりともさりともさりともとととなむなむなん賴賴たのもしきもしきもしき」」」ととと聞聞きこえええ給給たまふふうををを、、、
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現代語訳
源氏は、今さら人の浮気な癖が出ても困るとお思いになりながら、恋しさが苦しく思われた時には、そうなってもよいとまで思い寄りなさったことなので、やはり思い切ることがおできにならず、大将のいらっしゃらない昼頃に、西の対にお渡りになった。女君は、妙に気分が悪そうにばかりしていらっしゃって、しゃんとしている時もなく、しおれていらっしゃったが、源氏がこのようにお渡りになったので、少し起き上がりなさって、御几帳に半ば隠れていらっしゃる。
殿も心づかいを格別にして、少しよそよそしい様子に振る舞いなさって、一通りのことなどを申し上げなさる。玉鬘は、無骨な普通の人(髭黒)に慣れてみると、なおさら言いようもないほどすばらしい源氏のご様子を思い知りなさるにつけても、思いがけない身の上が、身の置き所もなく恥ずかしいにつけても、涙がこぼれた。だんだん細やかなお話になって、源氏は近くの御脇息に寄りかかって、少しのぞきながら申し上げなさる。
たいそう美しく面やせしていらっしゃる様子が、見ていたいほどかわいらしさも加わっていらっしゃるにつけても、他人に任せて見放してしまったのも、あまりに気まぐれな心だったことよと、残念である。「おりたちてくみは見ねどもわたり川人のせとはた契らざりしを(自分から深く関わったことはないけれど、三途の川を渡る時に、ほかの人に背負われて渡るとは、約束しなかったのに)。思いのほかのことでした」と言って、鼻をかみなさる様子が、親しみやすくしみじみとしている。
女君は顔を隠して、「みつせ川渡らぬさきにいかでなほ涙のみをの泡と消えなむ(三途の川を渡る前に、何とかしてやはり、涙の川の水脈の泡となって消えてしまいたい)」。源氏は「子どもっぽい消え場所ですね。それにしても、あの瀬はよい道もないそうですから、お手の先ぐらいは、引いてお助け申し上げましょうか」とほほえみなさって、「本当のところは、お分かりになっていることもあるでしょう。世に例のない私の愚かさも、また安心できることも、この世に比べるもののないほどであることを、それでもと頼もしく思っております」と申し上げなさるのを、
玉鬘がたいそう困って聞き苦しいとお思いになっているので、源氏は気の毒に思って、話を紛らわしながら、「帝がおっしゃることが気の毒なので、やはりちょっとだけでも出仕させましょう。大将が自分のものとして独り占めしてしまったら、そのような宮仕えも難しいでしょう。初めにお考え申し上げていた心とは違うようですが、二条の大臣(内大臣)は満足していらっしゃるそうなので、安心です」などと細やかに申し上げなさる。玉鬘は、しみじみとも恥ずかしくもお聞きになることが多いけれど、ただ涙にくれていらっしゃる。
意訳
源氏は髭黒のいない昼に玉鬘を訪れ、他人に渡したことを悔やんで、三途の川の歌を詠む。玉鬘は、涙の泡と消えたいと返す。
源氏は、帝のために少しの間でも出仕させようと言い、内大臣は満足しているようだと慰めるが、玉鬘はただ涙にくれる。
語釈・文法注
- みつせ川
- 三途の川。女性は死後、初めて契った男に背負われてこの川を渡るという俗信があった。源氏の歌は、自分が玉鬘を背負って渡るつもりだったのにという意。
文法
- 願望の「なむ」(淚のみをの泡と消えなむ)
- 強意の「ぬ」の未然形+意志の「む」。「消えてしまいたい」。
- 婉曲の「めり」(かたげなめるよなめり)
- 「難しそうな世のようです」。
解説
源氏の歌は、三途の川を渡る時は初めて契った男が背負うという俗信を踏まえて、玉鬘と契らなかったことを悔やむものである。玉鬘への未練を、冗談めかして打ち明けている。
髭黒と比べることで、玉鬘は初めて源氏のすばらしさを思い知る。しかし、もう取り返しはつかない。二人の歌のやりとりには、かなわなかった恋の哀しさが漂っている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、534–535頁(コマ272)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日