源氏物語 第30帖 藤袴(3)
藤袴の歌
夕霧は、この機会にと思ったのか、美しい藤袴の花を御簾の端から差し入れ、これもご覧になるべきわけがあると言って、玉鬘が手に取ろうとすると、その袖を引き動かす。夕霧は「同じ野の露にやつるゝ藤袴」と、同じ大宮の孫として、せめて哀れと思ってほしいと詠む。玉鬘は気づかぬふりをして奥へ引き下がりながら、「尋ぬるに」の歌で、遠い縁ならば薄紫の縁もあろうが、これ以上の深いわけがあろうかと返す。夕霧は、思いを抑えきれないと打ち明け、柏木は実の兄弟として近くにいられるのがうらやましいと言うが、玉鬘は気分が悪いと言って奥に入ってしまう。夕霧はひどく嘆いて立ち去る。

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- 2「「「同同おなじじじ野野のののの露露つゆにににやつるゝやつるゝやつるる藤藤ふじ袴袴ばかま哀哀あわれれれはははかけよかけよかけよかごとかごとかごとばかりばかりばかりももも。。。みちみちみちのののはてはてはてなるなるなるとととかかかややや」」」。。。ととと心心こころづきづきずき無無なくくくうたてうたてうたてなりなりなりぬれぬれぬれどどど、、、見見み知知しらららぬぬぬさまさまさまにににやをらやをらやおら引引ひききき入入いりりりててて、、、「「「尋尋たずぬるぬるぬるににに遙遙はるけきけきけき野野の邊邊べののの露露つゆならならならばばば薄薄うす紫紫むらさきやややかごとかごとかごとならならならましましまし。。。かやうかやうかようににに聞聞きこゆるゆるゆるよりよりより深深ふかききき故故ゆえはははいかゞいかゞいかが」」」とととののの給給たまへへえばばば、、、
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現代語訳
このような機会にと思いついたのだろうか、藤袴の花のたいそう美しいのを持っていらっしゃったのを、御簾の端から差し入れて、「これもご覧になるべきわけがあるのです」と言って、すぐには手放さずに持っていらっしゃるので、玉鬘が、まさかそんなこととは思いもよらずにお取りになろうとすると、そのお袖を引き動かした。
「同じ野の露にやつるゝ藤袴哀れはかけよかごとばかりも(同じ野の露に濡れてしおれている藤袴のように、同じ祖母の喪に服している私に、せめて申し訳ばかりにでも、哀れとお思いください)。『道の果てなる』とか言いますね」。玉鬘は、不愉快で嫌なことになったけれど、気づかないふりをして、そっと奥へ引き下がって、「尋ぬるに遙けき野邊の露ならば薄紫やかごとならまし(尋ねてみて、遠い野辺の露であったならば、薄紫の縁も口実になるでしょうが)。このように申し上げる以上に深いわけは、どうしてありましょう」とおっしゃると、
夕霧は少し笑って、「浅いのも深いのも、お分かりになっていらっしゃるだろうと存じます。本当は、たいそう恐れ多い帝の筋のことを思い知りながら、静めることのできない心の中を、どうしてお分かりいただけましょう。かえってお疎みになるのがつらいので、ひどく抑えておりましたが、今はもう同じことだと思い悩みまして。
頭中将(柏木)の様子はご存じでしたか。人の身の上のことだと、どうして思っていたのでしょう。わが身のこととなって、たいそう愚かしく、一方では思い知らされました。かえってあの君は、思いを冷まして、最後まであなたのおそばを離れることのない縁を頼みに、心を慰めている様子などを見ますにつけても、たいそううらやましく妬ましいので、せめて哀れとだけでもお心にとめておいてください」などと、細やかに申し上げなさることが多いけれど、聞き苦しいので書かないのである。
尚侍の君(玉鬘)が、だんだん奥へ引き下がりながら、わずらわしいとお思いになっているので、夕霧は「つれないご様子ですね。過ちなどするはずのない私の心のほどは、自然とお分かりいただけることもありましょうに」と言って、この機会にもう少し思いを漏らしたいけれど、玉鬘は「妙に気分が悪いので」と言って、すっかり奥へお入りになってしまったので、夕霧はたいそうひどくため息をついてお立ちになった。
意訳
夕霧は藤袴の花を差し入れて玉鬘の袖を引き、同じ大宮の孫として、せめて哀れと思ってほしいと歌で思いを打ち明ける。玉鬘は、気づかぬふりをして歌を返す。
夕霧は思いを抑えきれないと訴えるが、玉鬘は気分が悪いと言って奥に入ってしまい、夕霧は嘆いて立ち去る。
語釈・文法注
- らにの花
- 蘭の花。ここでは藤袴(キク科の秋の草花)を指す。薄紫色の花で、よい香りがある。
文法
- 願望の「だに」(哀とだに覺し置けよ)
- 最小限の願望。「せめて哀れとだけでもお心にとめておいてください」。
- 反実仮想の「ならば…まし」(露ならば…かごとならまし)
- 「遠い野辺の露であったならば、縁も口実になるでしょうが」。
解説
巻名の「藤袴」は、夕霧の歌による。藤袴は紫色の花で、紫は縁(ゆかり)の色とされた。「同じ野の露」は同じ大宮の孫であることを、「かごと」は申し訳、口実の意を表す。
語り手は、夕霧の言葉を「傍ら痛ければ書かぬなり」と省略する。まじめな夕霧の恋の告白を、あえて詳しく書かないことで、かえって夕霧の切実な思いが伝わる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、524–525頁(コマ267)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日