源氏物語 第26帖 常夏(9)
近江の君の振る舞い
四位や五位の人々に大切に送られて帰っていく内大臣の威勢を見送り、近江の君は、こんな立派な父の子なのに、卑しい小家で育ったものだと言う。五節の君が、あまりに立派すぎて、ほどほどの親に引き取られたほうがよかったと言うと、近江の君は腹を立てる。近江の君は、愛嬌があって憎めないが、卑しい者の中で育ったので話し方を知らず、乳母の膝で覚えた品のない口ぶりで、本末の合わない歌をすらすら詠む。近江の君は、女御のもとに行くのに渋っては機嫌を損ねるので、今夜参上しよう、父がいくら大切にしても、女御たちに冷たくされたらこの邸にはいられないと言う。

- 1よきよきよき四位四位しい五位五位ごいたちたちたちのののいつきいつきいつき聞聞きこえええてててうちうちうちみじろぎみじろぎみじろぎ給給たまふふうにににもももいといといといかめしきいかめしきいかめしき御御おんいきほひいきほひいきおいなるなるなるををを見見み送送おくりりり聞聞きこえええててて、、、「「「いでいでいであなあなあなめでためでためでたののの我我わががが御御おんおやおやおやゝゝやかゝりかゝりかかりけるけるける種種たねながらながらながら怪怪あやしきしきしきこここ家家いえにににおひおひおい出出いでででけるけるけるととと」」」とととのたまへのたまへのたまえばばば、、、
- 2五節五節ごせち「「「あまりあまりあまりことごとしうことごとしうことごとしゅう恥恥はずかしげしげしげにににぞぞぞおはするおはするおわする。。。よろしきよろしきよろしき親親おやののの思思おもひひいかしづかかしづかかしずかむむんにににぞぞぞ尋尋たずねねね出出いでででられられられ給給たまははわましましまし」」」ととといふいふいうもももわりなしわりなしわりなしややや。。。
- 3「「「例例れいののの君君きみののの、、、人人ひとのののいふいふいう事事こと破破やぶりりり給給たまひひいてててめざましめざましめざまし。。。今今いまはははひとつひとつひとつくちくちくちににに詞詞ことばなななまぜまぜまぜられられられそそそあるあるあるやうやうようあるあるあるべきべきべき身身みにににこそこそこそあああめれめれめれ」」」ととと腹腹はら立立だちちち給給たまふふうかほかほかおやうやうよう、、、けけけ近近じこううう愛敬愛敬あいきょうづきづきずきててて打打うちちち解解とけけけそぼれそぼれそぼれたるたるたるははは、、、さるさるさる方方かたにににをかしうをかしうおかしゅう罪罪つみ許許ゆるささされれれたりたりたり。。。
- 4唯唯ただいといといとひなびひなびひなびあやしきあやしきあやしきしもしもしも人人ひとののの中中なかにににおひおひおい出出いででで給給たまへへえれれればばば物物ものいふいふいうさまさまさまももも知知しらららずずず、、、殊殊ことなるなるなる故故ゆえなきなきなき詞詞ことばをををももものどやかのどやかのどやかにににおしおしおししづめしづめしずめててていひいひいい出出いだしししたるたるたるははは打打うちちち聞聞きくくく耳耳みみ異異ことににに覺覺おぼえええ、、、
- 5をかしからをかしからおかしからぬぬぬ歌歌うたがたりがたりがたりをををするするするもももこわづかひこわづかひこわずかいつきづきしくつきづきしくつきずきしくててて、、、殘殘のこりりりおもはせおもはせおもわせもともともとすゑすゑすえ惜惜おしみみみたるたるたるさまさまさまににに打打うちちちずじずじずじたるたるたるははは、、、深深ふかきききすぢすぢすじ覺覺おぼえええぬぬぬ程程ほどののの打打うちちち聞聞ききききにににはははをかしかをかしかおかしかなりなりなりととと耳耳みみにににとまるとまるとまるかしかしかし
- 6心心こころ深深ふかくくくよしよしよしあるあるある事事ことをををいひいひいい居居いたりたりたりともともともよろしきよろしきよろしき心心こころあらあらあらむむんとととももも聞聞きこゆゆゆべくべくべくもももあらあらあらずずず。。。あはつけきあはつけきあわつけきこわざまこわざまこわざまにににのたまひのたまひのたまい出出いづるづるずることことことはははこはごはしくこはごはしくこわごわしく詞詞ことばだみだみだみててて我我わがががまゝまゝままににに誇誇ほこりりりならひならひならいたるたるたるめのとめのとめのとのののふところふところふところににに習習ならひひいたるたるたるさまさまさまににに、、、もてなしもてなしもてなしいといといと怪怪あやしきしきしきにににやつるゝやつるゝやつるるなりなりなりけりけりけり。。。
- 7いといといといふかひなくいふかひなくいうかいなくはははあらあらあらずずず文字文字もじあまりあまりあまり、、、本本もと末末すえあはあはあわぬぬぬ歌歌うた口口くち疾疾とくくくうちうちうち續續つづけけけなどなどなどししし給給たまふふう。。。
- 8「「「さてさてさて女御女御にようご殿殿どのににに參參まいれれれとととのたまへのたまへのたまえるるるをををしぶしぶしぶしぶしぶしぶなるなるなるさまさまさまならならならばばばものしうものしうものしゅうもももこそこそこそ思思おぼせせせ。。。よさりよさりよさりまうでまうでもうでむむん。。。おとゞおとゞおとどののの君君きみ天下天下てんがににに覺覺おぼすすすともともともこのこのこの御御おん方々方々かたがたのののすげなうすげなうすげのうもてもてもてなしなしなし給給たまははわむむんにににははは、、、殿殿とのののの中中なかにににはははたてりたてりたてりなむなむなんややや」」」とととののの給給たまふふう。。。御御おんおぼえおぼえおぼえののの程程ほど輕輕かろらからからかなりなりなりややや。。。
現代語訳
立派な四位や五位の人々が大切にお仕えして、ちょっと身動きなさるのにもたいそういかめしいご威勢なのをお見送り申し上げて、近江の君は「ああ、なんとすばらしい私の御親であることよ。このような方の種でありながら、みすぼらしい小家で育ったものだ」とおっしゃると、
五節の君が「あまりに仰々しく、こちらが気後れするほど立派でいらっしゃいます。ほどほどの親で、大切にしてくれるような方に探し出されなさったらよかったのに」と言うのも、無茶なことであるよ。
「いつものように、あなたは人の言うことをぶち壊しなさって、心外だわ。今はもう、私と同じ口をきいて言葉を交ぜなさいますな。私はわけがあって身分の高くなるはずの身なのですから」と腹を立てなさる顔つきは、親しみやすく愛嬌があって、くつろいではしゃいでいるのは、それなりに面白く、罪も許される。
ただ、たいそう田舎びていやしい下々の中で育ちなさったので、ものの言い方も知らない。特に意味のない言葉でも、ゆったりと落ち着いて言い出すと、聞く耳にも格別に思われ、
面白くもない歌語りをするのも、声づかいがふさわしくて、余韻を感じさせ、上の句と下の句を惜しむように口ずさむのは、深い意味がわからない程度の聞き方では、面白いようだと耳にとまるものなのだ。
心が深く趣のあることを言っていても、たいした心があるとも聞こえるはずもない。軽々しい声の調子でおっしゃることは、ごつごつとして言葉がなまっていて、わがままに得意になっていた乳母の懐で覚えた様子で、ふるまいがたいそうおかしいので、見劣りするのであった。
まったく言いようもないほどではなく、三十一文字の、上の句と下の句の合わない歌を、すらすらと詠み続けたりなさる。
「さて、女御殿に参上せよとおっしゃったのに、渋るような様子をしたら、不愉快にお思いになるでしょう。今夜参上しましょう。大臣の君が天下一とお思いになっても、この御方々が冷たくお扱いになったら、この邸の中にはいられないでしょう」とおっしゃる。ご信望のほどが軽いことよ。
意訳
近江の君は、内大臣の威勢を見送って、こんな立派な父の子なのに卑しい小家で育ったと言う。五節の君の言葉に腹を立てるが、愛嬌があって憎めない。
近江の君は、卑しい者の中で育ったので話し方を知らず、品のない口ぶりで、本末の合わない歌をすらすら詠む。女御に冷たくされたら邸にはいられないと、今夜参上しようと言う。
語釈・文法注
- 三十文字あまり
- 三十一文字。和歌のこと。近江の君は歌をすらすら詠むが、上の句と下の句がかみ合わない。
文法
- 反実仮想の「まし」(尋ね出でられ給はまし)
- 「探し出されなさったらよかったのに」。
- 反語の「や」(たてりなむや)
- 「いられるでしょうか、いや、いられない」。
解説
近江の君は、愛嬌があって憎めない人物として描かれる一方で、育ちの卑しさから、言葉づかいや振る舞いが場違いになってしまう。語り手は、話し方や声の調子が、同じ内容でも聞く人の印象を大きく変えることを指摘している。
近江の君の「この御方々のすげなうもてなし給はむには、殿の中にはたてりなむや」という言葉は、自分の立場を意外に冷静に見ていることを示している。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、488–491頁(コマ249–250)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日