源氏物語 第26帖 常夏(5)
内大臣と玉鬘の噂
内大臣は、引き取った娘(近江の君)が世間で笑い者にされていると聞いているところに、弁の少将から、源氏が皮肉を言っていたと聞かされる。内大臣は、源氏こそ素性の知れない山里の娘を引き取ってもてはやしていると笑う。少将が、西の対の姫君は兵部卿宮も心を寄せる立派な人だと言うと、内大臣は、源氏の娘だというだけで評判になっているのだろう、本当の娘かどうかも怪しいとけなす。内大臣は、雲居雁を源氏の娘のように大切に育てて人々をやきもきさせたかったと悔しがり、夕霧が出世するまでは結婚を許すまいと思う。源氏が熱心に頼めば折れてもよいと思うが、夕霧は少しも焦る様子がない。

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現代語訳
内大臣は、この新しい御娘(近江の君)のことを、邸内の人も認めず軽んじて言い、世間でもばかげたことと非難していると聞いていらっしゃるところに、弁の少将が、話のついでに、太政大臣がそんなことがあるかとお尋ねになったことをお話し申し上げたので、
お笑いになって、「そうだろうよ。あちらこそ、長年噂にも聞こえなかった山里の者の子を迎え取って、ひとかどの者のように仕立てているではないか。めったに人のことを非難なさらない大臣が、こちらのこととなると、耳をとめて悪く言いなさるのだね。これで自分も評判になったような気がするよ」とおっしゃる。
少将は「あの西の対に住まわせていらっしゃる人は、まったく申し分のない様子に見えるあたりでございます。兵部卿宮などが、たいそう心をとめて言い寄って困っていらっしゃるとか。並一通りの方ではあるまいと、人々は推し量っているようでございます」と申し上げなさると、
「いや、それは、あの大臣の御娘だと思うだけの評判がたいそうなのだよ。人の心は皆そのようなものの世の中だ。必ずしもそれほどすぐれていらっしゃるまい。人並みの身分の者なら、長年噂にもなっていただろう。
惜しいことに、あの大臣は、塵ひとつつかず、この世に過ぎるほどのご身分のご評判やご様子なのに、晴れがましい母親の腹に娘を大切に育てて、なるほど傷もないだろうと思いやられるほどすばらしい娘がいらっしゃらないのは、おおよそ子が少なくて心細いようだね。劣った腹ではあるけれど、明石の御方が産んだ娘は、世にまたとない宿縁で、何かわけがあるのだろうと思われるよ。
その新しい姫君は、悪くすると実の御子でもないだろうよ。さすがにたいそう癖のあるところがおありの方なので、もてはやしていらっしゃるのだろう」とけなしなさる。「さて、誰にお決めになるのだろう。親王こそ、うまくものになさるだろう。もともと特にお仲もよく、人柄も申し分なく、お似合いの二人だろうね」とおっしゃっては、
やはり姫君(雲居雁)のことが不満で残念で、このように奥ゆかしく扱って、どのように身を固めさせるのだろうと、人々を心穏やかでなく気をもませたかったのにと、悔しいので、夕霧の位がそれほどになったと見ない限りは、結婚を許しがたくお思いになるのであった。
大臣(源氏)も熱心に口添えして、繰り返しお頼みになるなら、負けたようにしてでもなびこうとお思いになるのに、男の方(夕霧)は、また少しも焦っていらっしゃらないので、じれったいことである。
意訳
内大臣は、近江の君が世間で笑い者にされていると聞いているところに、源氏の皮肉を聞かされ、源氏こそ素性の知れない娘を引き取っていると笑う。玉鬘の評判を聞いても、源氏の娘だというだけで評判になっているのだろうとけなす。
内大臣は、雲居雁を大切に育てて人々をやきもきさせたかったと悔しがり、夕霧が出世するまでは結婚を許すまいと思う。源氏が熱心に頼めば折れてもよいと思うが、夕霧は少しも焦る様子がない。
語釈・文法注
- 今姫君
- 新しく引き取った姫君。ここでは源氏が引き取った玉鬘をさす。内大臣は、源氏の実子ではないだろうと疑っている。
文法
- 反実仮想の「まし」(年頃聞えなまし)
- 「長年噂にもなっていただろう」。
- 「ばこそ…め」(かへさひ給はゞこそは…靡かめ)
- 「繰り返しお頼みになるなら、なびこう」。
解説
内大臣が「ようせずはじちの御子にもあらじかし」と言うのは、皮肉にも真実を言い当てている。実の娘である玉鬘を、それと知らずにけなす内大臣の姿には、物語の皮肉が効いている。
内大臣と源氏の張り合いは、互いの娘の評判をめぐる応酬となる。夕霧と雲居雁の恋も、二人の父の意地の張り合いのために、いっそう遠のいていく。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、482–485頁(コマ246–247)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日