源氏物語 第26帖 常夏(4)
撫子の歌と源氏の迷い
女房たちが近くにいるので、源氏は戯れ言も言えず、内大臣にもこの撫子の花園を見せたいと言い、昔内大臣が話した撫子のことを思い出す。源氏が、撫子の色を見たら、内大臣は元の垣根(母の夕顔)を尋ねるだろうと詠むと、玉鬘は、山里の垣根に育った撫子の元の根を誰が尋ねようかと泣いて返す。源氏は思いをこらえかね、頻繁に手紙を送る。源氏は、紫の上に並ぶ扱いはできない以上、玉鬘を兵部卿宮か髭黒に嫁がせようかと迷うが、玉鬘の美しさに思い切れない。玉鬘も、しだいに源氏に慣れて疎まなくなる。源氏は、玉鬘を結婚させてからも、ひそかに思いを通わせられないかと考える。

- 1人々人々びとちかうちかうちこう侍侍さぶらへへえばばば例例れいのののたはぶれごとたはぶれごとたわぶれごともももえええ聞聞きこえええ給給たまははわででで「「「なでしこなでしこなでしこをををあかあかあかでででもももこのこのこの人々人々びとのののたちたちたち去去さりりりぬるぬるぬるかなかなかな。。。いかでいかでいかでおとゞおとゞおとどにににもももこのこのこの花花はな園園ぞの見見みせせせ奉奉たてまつらららむむん、、、世世よもももいといといと常常つねなきなきなきをををととと思思おもふふうににに、、、いにしへいにしへいにしえももも物物ものののの序序ついでににに語語かたりりり出出いででで給給たまへへえりりりしししももも只只ただ今今いまのののことことことゝゝとぞぞぞ覺覺おぼゆるゆるゆる」」」とてとてとて、、、少少すこしししのたまひのたまひのたまい出出いでででたるたるたるにににもももいといといと哀哀あわれれれなりなりなり
- 2「「「なでしこなでしこなでしこのののとこなつかしきとこなつかしきとこなつかしき色色いろををを見見みばばばもともともとののの垣垣かき根根ねををを人人ひとやややたづねたづねたずねむむん。。。このこのこの事事ことののの煩煩わずらはしさはしさわしさにににこそこそこそ、、、ももも心苦心苦こころぐるしうしうしゅう思思おもひひい聞聞きこゆれゆれゆれ」」」とととのたまふのたまふのたまう。。。
- 3君君きみうちうちうちなきなきなきててて、、、「「「山山やまがつがつがつののの垣垣かき根根ねにににおひおひおいしししなでしこなでしこなでしこのののもともともとののの根根ねざしざしざしをををたれたれたれかかか尋尋たずねねねむむん」」」。。。はかなげはかなげはかなげににに聞聞きこえええないないない給給たまへへえるるるさまさまさまげにげにげにいといといと懷懷なつかしうしうしゅう若若わかやかやかやかなりなりなり。。。
- 4「「「こここざらざらざらましかましかましか」」」ととと打打うちちちずんじずんじずんじ給給たまひひいててていとゞしきいとゞしきいとどしき御心御心みこころははは苦苦くるしきしきしきまでまでまで猶猶なおえええ忍忍しのびびびはつはつはつまじうまじうまじゅうおぼさるおぼさるおぼさる。。。渡渡わたりりり給給たまふふうことことこともももあまりあまりあまりうちうちうちしきりしきりしきり人人ひとののの見見み奉奉たてまつりりり咎咎とがめめめつつつべきべきべき程程ほどははは心心こころのののおにおにおにゝゝにおぼしおぼしおぼしとゞめとゞめとどめててて、、、さるべきさるべきさるべきことことことをををししし出出いでででつゝつゝつつ御御おん文文ふみののの通通かよははわぬぬぬをりをりおりなしなしなし。。。唯唯ただこのこのこの御御おんことことことのみのみのみ明暮明暮あけくれ御心御心みこころにににかゝりかゝりかかりたりたりたり。。。
- 5なぞなぞなぞかくかくかくあいなきあいなきあいなきわざわざわざをををしししててて安安やすからからからぬぬぬ物物もの思思おもひひいをををすすすらむらむらん、、、さささ思思おもははわじじじとてとてとて心心こころのののまゝまゝままにににもももあらあらあらばばば、、、世世よののの人人ひとののの謗謗そしりりりいはいはいわむむんことことことのののかろがるしさかろがるしさかろがるしさををを我我わがががためためためはははさるさるさるものものものにてにてにて人人ひとののの御御おんためためためいとほしかるいとほしかるいとおしかるべしべしべし、、、限限かぎりなきなきなき御御おん志志こころざしととといふいふいうともともとも春春はるののの上上うえののの御御おんおぼえおぼえおぼえにににならぶならぶならぶばかりばかりばかりははは我我わががが心心こころながらながらながらえええあるあるあるまじくまじくまじく覺覺おぼししし知知しりりりたりたりたり。。。
- 6さてさてさてそのそのそのおとりおとりおとりのののつらつらつらにてにてにてははは何何なにばかりばかりばかりかかかはははあらあらあらむむん、、、我我わががが身身み一一ひとつつつこそこそこそ人人ひとよりよりよりはははことことことなれなれなれ、、、見見みむむん人人ひとのののあまたあまたあまたががが中中なかにににかゝづらはかゝづらはかかずらわむむんすゑすゑすえにてにてにてははは何何なにののの覺覺おぼえええかかかはははたけからたけからたけからむむん、、、異異ことなるなるなることことことなきなきなきなうごんなうごんのうごんのののきはきはきわののの二二ふた心心ごころなくなくなくててて思思おもははわむむんにににははは、、、劣劣おとりりりぬぬぬべきべきべきことことことぞぞぞととと、、、自自みずからららおぼしおぼしおぼししるしるしるにににいといといといとほしういとほしういとおしゅうててて
- 7宮宮みや大將大將だいしょうなどなどなどにににややや許許ゆるしししてててましましまし、、、さてさてさてもてもてもてはなれはなれはなれいざなひいざなひいざない取取とりりりてててははは思思おもひひい絕絕たえええなむなむなんややや、、、いふかひなきいふかひなきいうかいなきにてにてにてもももさささもももしししてててむむんとととおぼすおぼすおぼす折折おりもももありありあり。。。
- 8されどされどされど渡渡わたりりり給給たまひひいててて御御おんかたちかたちかたちををを見見み給給たまひひい、、、今今いまははは御御おん琴琴こと敎敎おしへへへ給給たまふふうにににさへさへさへことことことつけつけつけててて近近ちかやかやかやかににに馴馴なれれれよりよりより給給たまふふう姫君姫君ひめぎみももも初初はじめこそこそこそむくつけくむくつけくむくつけくうたてうたてうたてくくくももも覺覺おぼえええ給給たまひひいしかしかしか、、、かくかくかくてててもももなだらかなだらかなだらかににに後後うしろめたきめたきめたき御心御心みこころはははなかりなかりなかりけりけりけりととと、、、やうやうやうやうようようめめめなれなれなれててていといといとしもしもしも疎疎うとみみみ聞聞きこえええ給給たまははわずずず、、、
- 9さるべきさるべきさるべき御御おんいらへいらへいらえもももなれなれしからなれなれしからなれなれしからぬぬぬ程程ほどににに聞聞きこえええかはしかはしかわしなどなどなどししし給給たまひひいててて、、、見見みるるるまゝまゝままにににいといといとあいぎやうづきあいぎやうづきあいぎょうずきかをりかをりかおりまさりまさりまさり給給たまへへえれれればばば猶猶なおさてさてさてもももえええ過過すぐすぐすぐすまじくまじくまじくおぼしおぼしおぼしかへさかへさかえさるるる。。。
- 10さささばばばまたまたまたさてさてさて、、、こゝこゝここながらながらながらかしづきかしづきかしずきすゑすゑすえてててさるべきさるべきさるべき折々折々おりおりにににはかなくはかなくはかなくうちうちうち忍忍しのびびび物物ものをををももも聞聞きこえええててて慰慰なぐさみみみなむなむなんややや、、、かくかくかく又又また世世よ馴馴なれれれぬぬぬ程程ほどののの煩煩わずらはしさはしさわしさこそこそこそ心苦心苦こころぐるしうしうしゅうはははありありありけれけれけれ、、、おのづからおのづからおのずから關關せき守守もり强强つよくくくともともとも物物ものののの心心こころををを知知しりりりそめそめそめいとほしきいとほしきいとおしき思思おもひひいなくなくなくててて我我わががが心心こころももも思思おもひひいいりいりいりなななばばば繁繁しげくくくともともともさはらさはらさわらじじじかしかしかし、、、ととと覺覺おぼしししよるよるよるもももいといといとけしからけしからけしからぬぬぬ御心御心みこころなりなりなりややや。。。
- 11いよいよいよいよいよいよ心心こころ安安やすからからからずずず思思おもひひい渡渡わたらららむむんももも苦苦くるしからしからしからむむん、、、なのめなのめなのめににに思思おもひひい過過すぐさぐさぐさむむんことことことののの、、、とざまとざまとざまかうざまかうざまこうざまにににかたきかたきかたきぞぞぞ世世よづかづかずかずずずむつかしきむつかしきむつかしき御御おんかたらひかたらひかたらいなりなりなりけるけるける。。。
現代語訳
女房たちが近くにお仕えしているので、いつものような戯れ言も申し上げられずに、「撫子を見飽きないまま、この人たちは立ち去ってしまったね。何とかして内大臣にも、この花園をお見せしたいものだ。世の中もたいそう無常なのにと思うにつけ、昔、何かのついでにお話しになったのも、今のことのように思われる」と言って、少しおっしゃり出したのにつけても、たいそうしみじみとしている。
「撫子のいつまでも慕わしい色を見たら、内大臣は元の垣根を尋ねるでしょう。このことのわずらわしさに、あなたを繭ごもりのように隠しておくのも、気の毒に思い申し上げています」とおっしゃる。
女君は泣いて、「山里の垣根に生えた撫子の、元の根ざしを、誰が尋ねてくれるでしょうか」。はかなげに申し上げなさる様子が、本当にたいそう慕わしく若々しい。
「来ざらましかば」と口ずさみなさって、いっそうつのるお心は、苦しいほど、やはりこらえきれそうにないとお思いになる。お出でになることも、あまり度重なって、人が見咎め申し上げそうなほどは、良心の呵責からお控えになって、しかるべき用事を作り出しては、お手紙の通わない時はない。ただこの方のことばかりが、朝夕お心にかかっている。
どうしてこのようにつまらないことをして、心安らかでない物思いをするのだろう。そうは思うまいとして、心のままにふるまったら、世の人が非難するであろうことの軽々しさは、自分のためにはもちろん、あの人のためにも気の毒だろう。限りないご愛情といっても、春の上(紫の上)へのご寵愛に並ぶほどには、自分の心ながらできそうにないと、お分かりになっている。
さて、その下の列では、どれほどのことがあろう。自分の身一つは人より格別だけれど、多くの妻の中の一人として関わる末では、何の名誉があろうか。格別のこともない納言の身分の者が、二心なく思うのには、劣るに違いないことだと、ご自分でもおわかりになるので、たいそう気の毒で、
兵部卿宮か大将などに許してしまおうか、そうして遠ざけて、連れて行かれてしまえば、思い切れるだろうか、言うかいのないことでもそうしようか、とお思いになる折もある。
けれど、おいでになってご容貌をご覧になり、今は御琴を教えなさることにまでかこつけて、近々と慣れ寄っていらっしゃるので、姫君も、初めこそ気味悪くいやにも思われなさったけれど、こうしていても穏やかで、心配なお心はなかったのだと、だんだん見慣れて、それほどお疎み申し上げなさらず、
しかるべきお返事も、なれなれしくない程度に交わしなどなさって、見るにつけてたいそう愛嬌があり、美しさがまさっていらっしゃるので、源氏はやはりそのままでは過ごせそうにないと、お考え直しになる。
それならまた、こうして、ここで大切にお世話して住まわせて、しかるべき折々に、ちょっと忍んで思いを申し上げて慰めようか。このようにまだ世慣れないうちのわずらわしさこそ気の毒なのだ。夫がいて、自然と関守が強くても、男女の情を知り始め、自分に対して気の毒な思いもなく、自分の心も深く思い込んだなら、人目が多くても妨げにはなるまいよ、とお思いつきになるのも、たいそうけしからぬお心であるよ。
いよいよ心穏やかでなく思い続けるのも苦しいだろう。いいかげんに思って過ごすことが、あれこれと難しいのは、普通でない、面倒なお仲なのであった。
意訳
源氏は、撫子を見たら内大臣は元の垣根を尋ねるだろうと詠み、玉鬘は、山里の撫子の元の根を誰が尋ねようかと泣いて返す。源氏は思いをこらえかね、頻繁に手紙を送る。
源氏は、紫の上に並ぶ扱いはできない以上、玉鬘を兵部卿宮か髭黒に嫁がせようかと迷うが、玉鬘の美しさに思い切れない。玉鬘を結婚させてからも、ひそかに思いを通わせられないかと考える源氏を、語り手はけしからぬ心だと批判する。
語釈・文法注
- まゆごもり
- 繭籠り。蚕が繭にこもるように、娘を家の奥深くに隠しておくこと。「たらちねの親の飼ふ蚕の繭ごもりいぶせくもあるか妹に逢はずして」(拾遺集)による。
- こざらましかば
- 「来ざらましかば」。「いにしへの野中の清水見るからにさしぐむものは涙なりけり」などの歌の一句か。玉鬘がもし自分のもとに来なかったら、と思う気持ち。
文法
- 反実仮想の「まし」(宮大將などにや許してまし)
- 「兵部卿宮か大将などに許してしまおうか」。ためらいの意。
- 草子地(いとけしからぬ御心なりや)
- 語り手の批評。「たいそうけしからぬお心であるよ」。
和歌
なでしこのとこなつかしき色を見ばもとの垣根を人やたづねむ
- 詠者
- 光源氏
- 状況
- 玉鬘に詠みかけた歌。撫子のいつまでも慕わしい色(あなた)を見たら、内大臣は元の垣根(母の夕顔)を尋ねるでしょう。
修辞
- 掛詞
- 「とこなつかしき」に「常夏(撫子)」と「とこ(常に)なつかしき」をかける。
山がつの垣根におひしなでしこのもとの根ざしをたれか尋ねむ
- 詠者
- 玉鬘
- 状況
- 源氏への返歌。山里の垣根に生えた撫子の、元の根ざしを、誰が尋ねてくれるでしょうか。
解説
撫子の贈答は、帚木の巻で頭中将が夕顔を「撫子」「常夏」と詠んだことを踏まえている。玉鬘は、自分を顧みる人はいないと嘆き、実父に知られない身の上を悲しむ。
源氏の心の迷いは、玉鬘を嫁がせて思い切ろうとする理性と、手元に置いておきたい恋心との葛藤である。結婚後も思いを通わせようという考えに対し、語り手は「けしからぬ御心」と厳しく批判している。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、482–483頁(コマ246)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日