源氏物語 第23帖 初音(1)
元旦の六条院と紫の上
元旦の空はうららかに晴れ、六条院はいっそう美しく、紫の上の住む春の町は、梅の香が満ちて仏の国のようである。女房たちが鏡餅を取り寄せて祝い事をしているところに源氏がのぞき、皆の願いを聞いて祝ってやろうと笑う。夕方、源氏は紫の上と、互いの変わらぬ契りを祝う歌を詠み交わす。

- 1年年とし立立たちちちかへるかへるかえるあしたあしたあしたののの空空そらののの氣色氣色けしき名殘名殘なごりなくなくなく曇曇くもらららぬぬぬうらゝかうらゝかうららかげさげさげさにににははは、、、數數かずならならならぬぬぬ垣垣かき根根ねののの內內うちだにだにだに雪雪ゆき間間まののの草草くさ若若わかやかやかやかににに色色いろづきづきずきそめそめそめ、、、いつしかいつしかいつしかととと氣色氣色けしきだつだつだつ霞霞かすみににに木木このののめめめもももうちうちうちけぶりけぶりけぶり、、、おのづからおのづからおのずから人人ひとののの心心こころももものびらかのびらかのびらかにににぞぞぞ見見みゆるゆるゆるかしかしかし。。。
- 2ましてましてましていとゞいとゞいとど玉玉たまををを敷敷しけけけるるるおまへおまへおまえははは庭庭にわよりよりより始始はじめめめ見見み所所どころおほくおほくおおく、、、みがきみがきみがきましましまし給給たまへへえるるる御御おんかたがたかたがたかたがたののの有樣有樣ありさま、、、まねびまねびまねびたてたてたてむむんももも言言ことののの葉葉はたるたるたるまじくまじくまじくなむなむなん。。。春春はるのののおとゞおとゞおとどのののおまへおまへおまえ取取とりりり分分わきききててて梅梅うめののの香香かももも御簾御簾みすののの內內うちのののにほひにほひにおいににに吹吹ふきききまがひまがひまがいててて生生いけけけるるる佛佛ほとけののの御御おん國國くにとととおぼゆおぼゆおぼゆ。。。さすがさすがさすがににに打打うちちち解解とけけけてててやすらかやすらかやすらかににに住住すみみみなしなしなし給給たまへへえりりり。。。
- 3侍侍さぶらふふう人々人々びとももも若若わかやかやかやかにににすぐれすぐれすぐれたるたるたるををを姫君姫君ひめぎみののの御御おん方方かたにににとととえらえらえらせせせ給給たまひひいててて、、、少少すこしししおとなびおとなびおとなびたるたるたるかぎりかぎりかぎりなかなかなかなかなかなかよしよしゝくよしよしゝくよしよししくさうさうそう束束ぞく有樣有樣ありさまよりよりよりはじめはじめはじめてててめやすくめやすくめやすくもてもてもてつけつけつけててて、、、此處此處ここ彼處彼處かしこにににむれむれむれ居居いつゝつゝつつのののいはひいはひいわいしししててて、、、もちひもちひもちい鏡鏡かがみをををさへさへさへ取取とりりりよせよせよせててて千千ち年年とせのののかげかげかげにににしるきしるきしるき年年としののの內內うちののの祝祝いわい事事ごとどもどもどもしししてててそぼれそぼれそぼれあへあへあえるるるににに、、、
- 4おとゞおとゞおとどののの君君きみさしさしさしのぞきのぞきのぞき給給たまへへえれれればばばふところでふところでふところでひきひきひきなほしなほしなおしつゝつゝつつ、、、「「「いといといとはしたなきはしたなきはしたなきわざわざわざかなかなかな」」」とととわびわびわびあへあへあえりりり「「「いといといとしたゝかしたゝかしたたかなるなるなるみづからみづからみずからののの祝祝いわい事事ごとどもどもどもかなかなかな。。。皆皆みな各々各々おのおの思思おもふふうことことことののの道々道々みちみちあらあらあらむむんかしかしかし。。。少少すこししし聞聞きかかかせよせよせよややや。。。われわれわれことぶきことぶきことぶきせせせむむん」」」とととうちうちうち笑笑わらひひい給給たまへへえるるる御御おん有樣有樣ありさまををを年年としのののはじめはじめはじめのののさかえさかえさかえににに見見み奉奉たてまつるるる。。。
- 5われわれわれはははととと思思おもひひいあがれあがれあがれるるる中將中將ちゅうじょうののの君君きみぞぞぞ「「「かねてかねてかねてぞぞぞゆるゆるゆるなどなどなどこそこそこそ鏡鏡かがみののの影影かげにににももも語語かたらひらひらい侍侍はべりりりつれつれつれ。。。私私わたくしのののいのりいのりいのりははは何何なにばかりばかりばかりのののことことことをををかかか」」」などなどなど聞聞きこゆるゆるゆる。。。
- 6あしたあしたあしたのののほどほどほどははは人々人々びと參參まいりりりこみこみこみててて物物もの騷騷さわがしかりがしかりがしかりけるけるけるををを、、、夕夕ゆうつつつ方方かた御御おんかたがたかたがたかたがたののの參座參座さんざししし給給たまははわむむんとてとてとて心心こころことことことににに引引ひきききつくろひつくろひつくろいけさうじけさうじけそうじ給給たまふふう御御おん蔭蔭かげこそこそこそげにげにげに見見みるるるかひかひかいあああめれめれめれ。。。
- 7「「「今今け朝朝さこのこのこの人々人々びとののの戯戯たわぶれぶれぶれかはしかはしかはしつるつるつるいといといと羨羨うらやましうましうましゅう見見みえええつるつるつるををを、、、うへうへうえにににはははわれわれわれ見見みせせせ奉奉たてまつらららむむん」」」とてとてとて亂亂みだれれれたるたるたる事事ことどもどもども少少すこしししうちうちうちまぜまぜまぜつゝつゝつつ祝祝いわひひい聞聞きこえええたまふたまふたまう。。。「「「うすうすうす氷氷ごおりとけとけとけぬるぬるぬる池池いけのののかゞみかゞみかがみにににははは世世よにににたぐひたぐひたぐいなきなきなきかげかげかげぞぞぞならべならべならべるるる」」」。。。げにげにげにめでたきめでたきめでたき御御おんあはひあはひあわいどもどもどもなりなりなり。。。
- 8「「「くもりくもりくもりなきなきなき池池いけののの鏡鏡かがみににによろづよろづよろず代代よをををすむすむすむべきべきべきかげかげかげぞぞぞしるくしるくしるく見見みえええけるけるける」」」。。。何事何事なにごとにににつけつけつけてててももも末末すえ遠遠とおききき御御おん契契ちぎりをををあらまほしくあらまほしくあらまほしく聞聞きこえええかはしかはしかわし給給たまふふう。。。
現代語訳
年が改まった元旦の朝の空の様子は、少しの曇りもなくうららかなので、人数にも入らない者の垣根の内でさえ、雪間の草が若々しく色づき始め、早くも春めく霞に木の芽も萌え出し、自然と人の心ものびやかに見えることよ。
まして、いっそう玉を敷いたような御前は、庭をはじめ見どころが多く、磨き立てていらっしゃる御方々のご様子は、まねて語ろうとしても言葉が足りないだろう。春の御殿の御前は格別で、梅の香も御簾の内の薫物の香と吹き混じって、生きている仏の御国かと思われる。それでも、くつろいで穏やかにお住まいになっていらっしゃる。
お仕えする女房たちも、若々しくすぐれた者は姫君(明石の姫君)の御方にとお選びになって、少し年配の者ばかりが、かえって由緒ありげに、装束や様子をはじめとして見苦しくなく整えて、あちらこちらに集まって、歯固めの祝いをして、鏡餅までも取り寄せて、千年の幸いが目に見えるような年内の祝い事などをして、ふざけ合っているところに、
大臣の君がのぞきなさったので、懐手を直しながら、「まあ、きまりの悪いこと」と困り合っている。源氏は「たいそうしっかりした自分たちの祝い事だね。皆それぞれ思うことの願いがあるだろう。少し聞かせなさい。私が祝ってあげよう」とお笑いになるご様子を、年の初めの栄えとしてお見申し上げる。
我こそはと自負している中将の君が、「『かねてぞ見ゆる』などと、鏡の影にも語りかけておりました。私の祈りは何ほどのことを」などと申し上げる。
朝のうちは人々が参り込んで騒がしかったが、夕方、御方々に年賀の挨拶をなさろうとして、格別に身なりを整え、化粧をなさるお姿こそ、本当に見るかいがあるようだ。
「今朝、この女房たちがふざけ合っていたのが、たいそううらやましく見えたので、上には私がお見せ申し上げよう」と言って、冗談などを少し交えながら、お祝いを申し上げなさる。「薄氷の解けた池の鏡には、世に比べるもののない二人の姿が並んで映っていることよ」。本当にすばらしいお似合いのお二人である。
「曇りのない池の鏡に、万代までも住み続けるはずの二人の姿が、はっきりと見えたことです」。何事につけても、末長いご縁を理想的に申し交わしなさる。
意訳
元旦の六条院はいっそう美しく、紫の上の住む春の町は、梅の香が満ちて仏の国のようである。女房たちが鏡餅を取り寄せて祝い事をしているところに源氏がのぞき、皆の願いを聞いて祝ってやろうと笑う。
夕方、源氏は紫の上と、互いの変わらぬ契りを祝う歌を詠み交わす。
語釈・文法注
- はがため
- 歯固め。正月三が日に、餅や大根、押鮎などを食べて長寿を祈る儀式。「歯」は「齢」に通じる。
- かねてぞ見ゆる
- 「近江のや鏡の山を立てたればかねてぞ見ゆる君が千年は」(古今集)による。鏡餅に、主人の長寿がかねて見えるという祝いの言葉。
文法
- 「だに」(數ならぬ垣根の內だに)
- 「人数にも入らない者の垣根の内でさえ」。程度の軽いものを挙げて、重いものを類推させる。
- 推定の「めれ」(見るかひあめれ)
- 「見るかいがあるようだ」。「あるめれ」の撥音便「あんめれ」の撥音無表記。
和歌
うす氷とけぬる池のかゞみには世にたぐひなきかげぞならべる
- 詠者
- 光源氏
- 状況
- 元旦の夕方、紫の上に詠みかけた歌。薄氷の解けた池の鏡には、世に比べるもののない二人の姿が並んで映っていることよ。
くもりなき池の鏡によろづ代をすむべきかげぞしるく見えける
- 詠者
- 紫の上
- 状況
- 源氏への返歌。曇りのない池の鏡に、万代までも住み続けるはずの二人の姿が、はっきりと見えたことです。
修辞
- 掛詞
- 「すむ」に「(池の水が)澄む」と「住む」をかける。
解説
初音の巻は、六条院で迎える初めての正月を描く。四季の町に女君たちが住まう六条院の栄華が、正月の華やかさとともに描かれる。
源氏と紫の上の贈答は、薄氷の解けた池に二人の姿が映るという、新春にふさわしい祝いの歌である。二人の仲がもっとも安定した時期の、穏やかな幸福がうかがえる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、440–443頁(コマ224–225)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日