源氏物語 第23帖 初音(2)
子の日と明石の姫君
元日は子の日に当たっていた。源氏が明石の姫君のもとへ行くと、女童たちが築山の小松を引いて遊んでいる。北の町の明石の君から、髭籠や檜破子が届き、五葉の松の枝に作り物の鶯をとまらせて、娘の初音を聞かせてほしいという歌が添えられている。源氏は、母と離れて暮らす姫君を不憫に思い、自ら返事を書かせる。姫君は幼い筆で、育ててくれた母を忘れはしないと詠む。

- 1今日今日きょうははは子子ねのののなりなりなりけりけりけり。。。げにげにげに千千ち年年とせののの春春はるをををかけかけかけててて祝祝いわははわむむんにににことわりことわりことわりなるなるなる日日ひなりなりなり。。。姫君姫君ひめぎみののの御御おん方方かたににに渡渡わたりりり給給たまへへえれれればばば、、、わらはわらはわらわしもづかへしもづかへしもづかえなどなどなどおまへおまへおまえののの山山やまののの小小こ松松まつひきひきひき遊遊あそぶぶぶ。。。若若わかききき人々人々びとののの心地心地ここちどもどもども置置おききき所所ところなくなくなく見見みゆゆゆ。。。
- 2北北きたのののおとゞおとゞおとどよりよりより、、、わざとがましくわざとがましくわざとがましくししし集集あつめめめたるたるたるひげこひげこひげこどもどもどもひわりごひわりごひわりごなどなどなど奉奉たてまつれれれ給給たまへへえりりり。。。えならえならえならぬぬぬ五葉五葉ごようののの枝枝えだにににうつれうつれうつれるるる鶯鶯うぐいすももも思思おもふふう心心こころあらあらあらむむんかしかしかし。。。
- 3「「「年年とし月月つきををを松松まつにににひかひかひかれれれてててふるふるふる人人ひとにににけふけふきょううぐひすうぐひすうぐいすののの初初はつ音音ねきかせよきかせよきかせよ。。。音音おとせせせぬぬぬさとさとさとののの」」」ととと聞聞きこえええ給給たまへへえるるるををを、、、げにげにげにあはれあはれあわれとととおぼしおぼしおぼし知知しるるる。。。こといみこといみこといみもももえええししし給給たまははわぬぬぬ氣色氣色けしきなりなりなり。。。
- 4「「「このこのこの御御おんかへりかへりかえりはははみづからみづからみずから聞聞きこえええたまへたまへたまえ。。。初初はつ音音ね惜惜おしみみみ給給たまふふうべきべきべき方方かたにににもももあらあらあらずずずかしかしかし」」」とてとてとて御御おん硯硯すずり取取とりりりまかなひまかなひまかない書書かかかかせせせ奉奉たてまつらららせせせたまふたまふたまう。。。
- 5いといといとうつくしげうつくしげうつくしげにてにてにて明暮明暮あけくれ見見み奉奉たてまつるるる人人ひとだにだにだに飽飽あかかかずずず思思おもひひい聞聞きこゆるゆるゆる御御おん有樣有樣ありさまををを、、、今今いままでまでまで覺束覺束おぼつかなきなきなき年年とし月月つきのののへだゝりへだゝりへだたりけるけるけるももも罪罪つみえがましくえがましくえがましく心苦心苦こころぐるしししとととおぼすおぼすおぼす。。。「「「ひきひきひきわかれわかれわかれ年年としはははふれふれふれどもどもども鶯鶯うぐいすのののすだちすだちすだちしししまつまつまつのののねねねをををわすれわすれわすれめめめややや」」」。。。幼幼おさなききき御心御心みこころにににまかせまかせまかせてててくだくだしくくだくだしくくだくだしくぞぞぞあああめるめるめる。。。
現代語訳
今日は子の日であった。本当に、千年の春をかけて祝うのにふさわしい日である。姫君の御方においでになると、女童や下仕えなどが、御前の築山の小松を引いて遊んでいる。若い女房たちの気持ちも、落ち着かないほど浮き立って見える。
北の御殿(明石の君)から、ことさらに趣向をこらして集めた髭籠や檜破子などを差し上げなさっていた。見事な五葉の松の枝に移っている作り物の鶯も、思う心があるのだろう。
「長い年月、子の成長を待ち続けて過ごしてきた私に、今日こそ鶯の初音を聞かせてください。音も聞こえない里に住む者に」と申し上げなさっているのを、源氏は、本当にしみじみとお感じになる。正月なのに涙をこらえることもおできにならないご様子である。
「このお返事は、自分で申し上げなさい。初音を惜しみなさるはずの相手でもないのだから」と言って、御硯を用意して書かせ申し上げなさる。
たいそうかわいらしくて、朝夕お見申し上げている人でさえ、見飽きることなく思い申し上げるご様子を、今まで明石の君に会わせずに年月を隔ててきたことも、罪作りで気の毒だとお思いになる。「引き離されて年はたったけれど、鶯が巣立った松の根を忘れることがありましょうか」。幼いお心のままに、くどくどと書いてあるようだ。
意訳
元日は子の日に当たっていた。明石の姫君のもとでは、女童たちが小松を引いて遊んでいる。明石の君から、五葉の松の枝に作り物の鶯をとまらせて、娘の初音を聞かせてほしいという歌が届く。
源氏は、母と離れて暮らす姫君を不憫に思い、自ら返事を書かせる。姫君は幼い筆で、生みの母を忘れはしないと詠む。
語釈・文法注
- 子の日
- 正月の最初の子の日。野に出て小松を引き、若菜を摘んで長寿を祈る行事があった。この年は元日が子の日に当たっていた。
文法
- 反語の「めや」(わすれめや)
- 「忘れることがありましょうか、いや、忘れない」。
- 推定の「める」(くだくだしくぞあめる)
- 「くどくどと書いてあるようだ」。語り手の推定。
和歌
年月を松にひかれてふる人にけふうぐひすの初音きかせよ
- 詠者
- 明石の君
- 状況
- 娘の明石の姫君に贈った歌。長い年月、子の成長を待ち続けて過ごしてきた私に、今日こそ鶯の初音(あなたの便り)を聞かせてください。
修辞
- 掛詞
- 「松」に「待つ」、「ふる」に「経る」と「古る」をかける。「初音」に「鶯の初音」と「年初の便り」をかける。
ひきわかれ年はふれども鶯のすだちしまつのねをわすれめや
- 詠者
- 明石の姫君
- 状況
- 母への返歌。引き離されて年はたったけれど、鶯が巣立った松の根(生みの母)を忘れることがありましょうか。
修辞
- 掛詞
- 「まつ」に「松」と「待つ」、「ね」に「根」と「音」をかける。
解説
明石の君の歌は、娘と引き離された母の切ない思いを、初音を待つ心に託している。巻名の「初音」は、この歌に由来する。
源氏は、実の母と娘を引き離したことを「罪えがましく」と感じている。紫の上の養女として育つ明石の姫君と、北の町に住む明石の君との関係は、六条院の中の微妙な緊張をはらんでいる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、442–443頁(コマ225)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日