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源氏物語 第22帖 玉鬘(9)

椿市の宿での再会

登場人物:右近・豊後介・三条・乳母・玉鬘

椿市の宿に、もう一組の参詣の一行がやって来る。それは、夕顔を恋い慕い続けてきた右近であった。右近は、隣の幕の陰から豊後介の顔に見覚えがあると気づき、さらに夕顔の下仕えだった三条を見つける。呼び寄せた三条は、右近と知って大喜びする。乳母も出てきて、一同は屏風を押し開けて泣き合う。乳母は夕顔の行方を問い、右近はついに、夕顔が早く亡くなったことを告げる。三人はむせび泣くが、日が暮れて慌ただしく御堂へ向かう。

椿市の宿で、右近がかつて夕顔に仕えた乳母や三条と再会し、手を取り合って喜びと悲しみを分かち合う場面(AI生成)
椿市の宿で、右近がかつて夕顔に仕えた乳母や三条と再会し、手を取り合って喜びと悲しみを分かち合う場面
  1. 1家いへ家いへいえあるじあるじあるじののの法師ほふし法師ほふしほうし「「「人ひと人ひとひとやどしやどしやどし奉たてまつ奉たてまつたてまつらららむむんとととするするする所ところ所ところところににに何なに何なになに人びと人びとびとののの物もの物ものものししし給たま給たまたまふふうぞぞぞ。。。怪あや怪あやあやしきしきしき女をんな女をんなおんなどもどもどもののの心こころ心こころこころににに任まか任まかまかせせせててて」」」とととむづかるむづかるむずかるをををめざましくめざましくめざましく聞き聞ききくくくほどほどほどにににげにげにげに人々びと人々びとびと來き來ききぬぬぬ。。。これこれこれもももかちかちかちよりよりよりなななめりめりめり。。。
  2. 2よろしきよろしきよろしき女をんな女をんなおんな二人ふたり二人ふたりふたりしもしもしも人ひと人ひとひとどもどもどもぞぞぞをとこをとこおとこ女をんな女をんなおんなかずかずかず多おほ多おほおおかかかめるめるめる。。。馬むま馬むまうま四よ四よよつつつ五いつ五いついつつつつひかひかひかせせせててていみじくいみじくいみじく忍しの忍しのしのびびびやつしやつしやつしたれたれたれどどど淸きよ淸きよきよげげげなるなるなる男をとこ男をとこおとこどもどもどもなどなどなどもももありありあり法師ほふし法師ほふしほうしはははせめてせめてせめてこゝこゝここににに宿やど宿やどやどさささまほしくまほしくまほしくしししててて、、、かしらかしらかしらかきかきかきありくありくありくいとほしけれいとほしけれいとおしけれどどど又また又またまた宿やど宿やどやどりりりかへかへかへむむんもももあさましくあさましくあさましく煩わづら煩わづらわずらはしけれはしけれわしければばば
  3. 3人々びと人々びとびとははは奧おく奧おくおくににに入い入いいりりりとととにににかくしかくしかくしなどなどなどしししてててかたへかたへかたえははは片かた片かたかたつつつ方かた方かたかたににによりよりよりぬぬぬ。。。などなどなどひきひきひき隔へだ隔へだへだてててゝゝておはしますおはしますおわします。。。このこのこのくるくるくる人ひと人ひとひとももも耻はづか耻はづかはずかしげしげしげもももなしなしなし。。。いたういたういとうかひひそめかひひそめかいひそめてててかたみかたみかたみににに心こころ心こころこころづかひづかひずかいしししたりたりたり。。。
  4. 4さるはさるはさるはかのかのかの夜よ夜よよととと共とも共ともともににに戀こ戀ここひひいなくなくなく右近うこん右近うこんうこんなりなりなりけりけりけり。。。年とし年としとし月つき月つきつきににに添そ添そそへへえてててはしたなきはしたなきはしたなきまじらひまじらひまじらいのののつきなくつきなくつきなくなりなりなり行ゆ行ゆゆくくく身み身みみををを思おも思おもおもひひい惱なや惱なやなやみみみててて、、、このこのこの御おん御おんおん寺てら寺てらてらににになむなむなん度々たびたび度々たびたびたびたびまうでまうでもうでけるけるける。。。
  5. 5れいれいれいならひならひならいにににけれけれければばばかやすくかやすくかやすく搆かま搆かまかまへへえたりたりたりけれけれけれどどどかちかちかちよりよりより步あゆ步あゆあゆみみみ堪た堪たたへへえがたくがたくがたくてててよりよりよりふしふしふしたるたるたるににに、、、このこのこの豐後ぶんご豐後ぶんごぶんごののの介すけ介すけすけ、、、隣となり隣となりとなりのののぜじやうぜじやうぜじょうのののもともともとににに寄よ寄よよりりり來き來ききててて、、、參まゐ參まゐまいりりりものものものなるなるなるべしべしべし、、、をしきをしきおしき手て手ててづからづからずから取と取ととりりりててて「「「これこれこれはははおまへおまへおまえににに參まゐ參まゐまいらららせせせ給たま給たまたまへへえ。。。御おん御おんおんだいだいだいなどなどなどうちうちうちあはあはあわでででいといといとかたはらいたしかたはらいたしかたわらいたしややや」」」ととといふいふいうををを聞き聞ききくくくににに、、、
  6. 6我わ我わわがががなみなみなみののの人ひと人ひとひとにににはははあらあらあらじじじととと思おも思おもおもひひいててて物もの物ものもののののはざまはざまはざまよりよりより覗のぞ覗のぞのぞけけけばばばこのこのこの男をとこ男をとこおとこののの顔かほ顔かほかお見み見みみししし心ここ心ここここちちちすすす。。。誰たれ誰たれたれとととはははえええ覺おぼ覺おぼおぼえええずずず、、、いといといと若わか若わかわかかりかりかりしししほどほどほどををを見み見みみしししににに、、、ふとりふとりふとり黑くろ黑くろくろみみみてててやつれやつれやつれたれたれたればばば多おほ多おほおおくくくののの年とし年としとし經へ經へへたるたるたるめめめにににはははふとふとふとしもしもしも見み見みみわかわかわかぬぬぬなりなりなりけりけりけり。。。
  7. 7「「「三條さんでう三條さんでうさんじょうこゝこゝここににに召め召めめすすす」」」ととと呼よ呼よよびびびよするよするよする女をんな女をんなおんなををを見み見みみれれればばばまたまたまた見み見みみししし人ひと人ひとひとなりなりなり。。。故こ故ここ御おん御おんおんかたかたかたににに、、、しもしもしも人ひと人ひとひとなれなれなれどどど久ひさ久ひさひさしくしくしく仕つか仕つかつかうまつりうまつりうまつりなれなれなれてててかのかのかの隱かく隱かくかくれれれ給たま給たまたまへへえりりりししし御おん御おんおんすみかすみかすみかまでまでまでありありありしししものものものなりなりなりけりけりけりととと見み見みみなしなしなしててていみじくいみじくいみじく夢ゆめ夢ゆめゆめのののやうやうようなりなりなり。。。
  8. 8しゆうしゆうしゆうととと思おぼ思おぼおぼしきしきしき人ひと人ひとひとははは、、、いといといとゆかしけれゆかしけれゆかしけれどどど見み見みみゆゆゆべくべくべくもももかまへかまへかまえずずず。。。思おも思おもおもひひいわびわびわびてててこのこのこの女をんな女をんなおんなににに問と問ととはははむむん、、、兵藤太ひやうとうだ兵藤太ひやうとうだひょうとうだととといひいひいいししし人ひと人ひとひとももも、、、これこれこれにににこそこそこそあらあらあらめめめ、、、姫君ひめぎみ姫君ひめぎみひめぎみのののおはするおはするおわするにににやややととと思おも思おもおもひひいよるよるよるににに、、、いといといと心こころ心こころこころもとなくもとなくもとなくてててこのこのこのなかなかなかへだてへだてへだてなるなるなる三條さんでう三條さんでうさんじょうをををよばよばよばすれすれすれどどどくひものくひものくいものににに心こころ心こころこころ入い入いいれれれてててとみとみとみにににもももこここぬぬぬ、、、いといといとにくしにくしにくしとととおぼゆるおぼゆるおぼゆるもももうちつけうちつけうちつけなりなりなりややや。。。
  9. 9辛から辛からからうじてうじてうじてきききててて「「「おぼえおぼえおぼえずずずこそこそこそ侍はべ侍はべはべれれれ。。。筑紫つくし筑紫つくしつくしののの國くに國くにくににににはたとせはたとせはたとせばかりばかりばかり經へ經へへにににたるたるたるげすげすげすののの身み身みみををを知し知ししらららせせせ給たま給たまたまふふうべきべきべき京きやう京きやうきょう人びと人びとびとよよよ、、、人ひと人ひとひとたがへたがへたがえにににややや侍はべ侍はべはべらららむむん」」」とてとてとて寄よ寄よよりりり來き來ききたりたりたり。。。田舍ゐなか田舍ゐなかいなかびびびたるたるたるかいねりかいねりかいねりにににきぬきぬきぬなどなどなどきききててていといといといたういたういとうふとりふとりふとりにににけりけりけり。。。
  10. 10我わ我わわがががよはひよはひよわいもももいとゞいとゞいとどおぼえおぼえおぼえててて恥はづか恥はづかはずかしけれしけれしけれどどど「「「なほなほなおさしさしさしのぞけのぞけのぞけ、、、我われ我われわれをををばばば見み見みみ知し知ししりりりたりたりたりややや」」」とてとてとて顏かほ顏かほかおをををさしさしさし出い出いいでででたりたりたり。。。このこのこの女をんな女をんなおんな手て手ててををを打う打ううちちちててて「「「あがあがあがおもとおもとおもとにににこそこそこそおはしましおはしましおわしましけれけれけれあなあなあなうれしうれしうれしともともともうれしうれしうれし。。。いづくいづくいずくよりよりより參まゐ參まゐまいりりり給たま給たまたまひひいたるたるたるぞぞぞ。。。うへうへうえはははおはしますおはしますおわしますややや」」」ととといといといとおどろおどろしくおどろおどろしくおどろおどろしくなくなくなく。。。
  11. 11わかものわかものわかものにてにてにて見み見みみなれなれなれししし世よ世よよををを思おも思おもおもひひい出い出いいづるづるずるににに、、、隔へだ隔へだへだてててきききにににけるけるける年とし年としとし月つき月つきつき數かぞ數かぞかぞへへへられられられててていといといとあはれあはれあわれなりなりなり。。。「「「まづまづまずおとゞおとゞおとどはははおはすおはすおわすややや。。。若君わかぎみ若君わかぎみわかぎみはははいかゞいかゞいかがなりなりなり給たま給たまたまひひいにににししし。。。あてきあてきあてきととと聞きこ聞きこきこえええしししははは」」」とてとてとて君きみ君きみきみののの御おん御おんおんことことことははははかなきはかなきはかなき世よ世よよををを思おも思おもおもふふうにににあへなくあへなくあえなくもももやややいはいはいわむむんとてとてとてかけかけかけむむんもももゆゝしくゆゝしくゆゆしくててて言い言いいひひい出い出いいでででずずず。。。
  12. 12「「「皆みな皆みなみなおはしますおはしますおわします。。。姫君ひめぎみ姫君ひめぎみひめぎみもももおとなおとなおとなににに成な成ななりりりててておはしますおはしますおわします。。。まづまづまずおとゞおとゞおとどにににかくかくかくなむなむなんととと聞きこ聞きこきこえええむむん」」」とてとてとて入い入いいりりりぬぬぬ。。。
  13. 13皆みな皆みなみな驚おどろ驚おどろおどろきききててて、、、「「「夢ゆめ夢ゆめゆめののの心地ここち心地ここちここちもももするするするかなかなかな。。。いといといとつらくつらくつらくいはいはいわむむんかたかたかたなくなくなく思おも思おもおもひひい聞きこ聞きこきこゆるゆるゆる人ひと人ひとひとにににたいめんたいめんたいめんしししぬぬぬべきべきべきことことことよよよ」」」とてとてとてこのこのこのへだてへだてへだてににによりよりよりきききたりたりたり。。。けどほくけどほくけどおくへだてへだてへだてつるつるつる屏風びやうぶ屏風びやうぶびょうぶだつだつだつものものもの名殘なごり名殘なごりなごりなくなくなくおしおしおしあけあけあけてててまづまづまずいひいひいいやるやるやるべきべきべきかたかたかたなくなくなく泣な泣ななきききかはすかはすかわす。。。
  14. 14おいびとおいびとおいびとはははたゞたゞただ我わ我わわががが君きみ君きみきみはははいかゞいかゞいかがなりなりなり給たま給たまたまひひいにににししし。。。こゝらこゝらここらののの年とし年としとし比ごろ比ごろごろ夢ゆめ夢ゆめゆめにてにてにてもももおはしまさおはしまさおわしまさむむん所ところ所ところところををを見み見みみむむんととと大だい大だいだい願ぐわん願ぐわんがんををを立た立たたつれつれつれどどど遙はるか遙はるかはるかなるなるなる世界せかい世界せかいせかいにてにてにて風かぜ風かぜかぜののの音おと音おとおとにてにてにてもももえええ聞き聞ききききき傳つた傳つたつたへへえ奉たてまつ奉たてまつたてまつらららぬぬぬをををいみじくいみじくいみじく悲かな悲かなかなしししととと思おも思おもおもふふうににに、、、老おい老おいおいののの身み身みみののの殘のこ殘のこのこりりりとゞまりとゞまりとどまりたるたるたるもももいといといと心こころ心こころこころ憂う憂ううけれけれけれどどどうちうちうち捨す捨すすててて奉たてまつ奉たてまつたてまつりりり給たま給たまたまへへえるるる若君わかぎみ若君わかぎみわかぎみのののらうたくらうたくろうたくあはれあはれあわれにてにてにておはしますおはしますおわしますをををよみぢよみぢよみじのののほだしほだしほだしにににもてもてもて煩わづら煩わづらわずらひひい聞きこ聞きこきこえええてててなむなむなんまたゝきまたゝきまたたき侍はべ侍はべはべるるる」」」ととといひいひいいつゞくれつゞくれつづくればばば、、、
  15. 15昔むかし昔むかしむかしそのそのそのをりをりおりいふかひなかりいふかひなかりいうかいなかりしししことことことよりよりよりもももいらへいらへいらえむむんかたかたかたなくなくなく煩わづら煩わづらわずらはしはしわしととと思おも思おもおもへへえどもどもども「「「いでいでいでややや聞きこ聞きこきこえええてててもももかひかひかいなしなしなし。。。御おん御おんおんかたかたかたははは早はや早はやはよううううせうせうせ給たま給たまたまひひいにににききき」」」ととといふいふいうまゝまゝままににに三み三みみ人たり人たりたりながらながらながらむせかへりむせかへりむせかえりいといといとむつかしくむつかしくむつかしくせきせきせきかねかねかねたりたりたり。。。日ひ日ひひ暮く暮くくれれれぬぬぬととと急いそ急いそいそぎぎぎたちたちたちてててみあかしみあかしみあかしのののことことことゞゞどもももしたゝめしたゝめしたため出い出いいでででゝゝて急いそ急いそいそがががせせせばばば、、、なかなかなかなかなかなかいといといと心こころ心こころこころあわたゞしくあわたゞしくあわただしく立た立たたちちちわかるわかるわかる。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

宿の主人の法師が、「お泊めしようとする所に、どなたがいらっしゃるのか。怪しげな女どもが勝手なことをして」と不平を言うのを、心外に聞いているうちに、本当に人々がやって来た。この人たちも徒歩のようである。

身分のありそうな女が二人と、下仕えの者たちが、男女大勢いるようだ。馬を四、五頭引かせて、たいそう目立たないように身をやつしているけれど、こざっぱりした男たちなどもいる。法師は、ぜひともこちらの一行をここに泊めたくて、頭をかきながら歩き回っているのが気の毒だけれど、また宿を替えるのも体裁が悪く面倒なので、

人々は奥に入り、外から見えないように隠したりして、一部の者は片側に寄った。幕などを引いて隔てていらっしゃる。この来た人々も、気の置ける様子でもない。たいそう控えめにして、互いに気を使っている。

実は、あの夜も昼も夕顔を恋い慕って泣いている右近なのであった。年月がたつにつれて、きまりの悪い宮仕えも似つかわしくなくなっていく身を思い悩んで、この御寺にたびたび参詣していたのである。

いつも慣れていたので、気軽に支度していたけれど、徒歩で歩くのがつらくて横になっていると、この豊後介が、隣の幕のもとに寄ってきて、食事であろう、折敷を手ずから持って、「これはお前(姫君)に差し上げてください。お膳なども揃わなくて、まったく恐縮です」と言うのを聞くと、

自分たちと同じ身分の人ではないだろうと思って、物の隙間からのぞくと、この男の顔を見たことがある気がする。誰とは思い出せない。たいそう若かったころを見たのに、太って黒くなって、みすぼらしくなっているので、長い年月を隔てた目には、すぐには見分けられないのだった。

「三条、ここに召していらっしゃる」と呼び寄せる女を見ると、これも見たことのある人である。亡き御方(夕顔)に、下仕えではあったが長くお仕えし慣れて、あのお隠れになったお住まいまで付き従っていた者だったと見て取って、まるで夢のようである。

主人と思われる人は、たいそう見たいけれど、見えるようにもしていない。思いあまって、この女に尋ねよう、兵藤太といった人も、これに違いない、姫君がいらっしゃるのだろうかと思いつくと、たいそうじれったくて、この仕切りの向こうの三条を呼ばせるけれど、食べ物に夢中になって、すぐにも来ない。たいそう憎らしく思われるのも、いかにもせっかちなことよ。

やっと来て、「心当たりがございません。筑紫の国に二十年ほど過ごした下賤の身を、ご存じのはずの都の方とは、人違いではございませんか」と言って寄って来た。田舎びた掻練に衣などを着て、たいそうひどく太っていた。

右近は自分の年齢もいっそう思われて恥ずかしいけれど、「もっとよくのぞいてごらん。私を見知っているか」と言って顔を差し出した。この女は手を打って、「あなた様でいらっしゃいましたか。ああ、うれしい、うれしい。どちらから参詣なさったのですか。ご主人(夕顔)はいらっしゃいますか」と、たいそう大げさに泣く。

若い娘として見慣れていた昔を思い出すにつけ、隔たってきた年月が数えられて、たいそう感慨深い。右近は「まず乳母殿はいらっしゃるか。若君はどうおなりになった。あてきと申した人は」と言って、ご主人のことは、はかない世の中を思うと、あっけなく言ってしまうのかと、口にするのも不吉で、言い出さない。

「皆いらっしゃいます。姫君も大人になっていらっしゃいます。まず乳母殿にこうこうと申し上げましょう」と言って入った。

皆驚いて、「夢のような気持ちがすることよ。たいそう恨めしく、言いようもなく思い申し上げていた人に、お会いすることになるとは」と言って、この仕切りに寄って来た。よそよそしく隔てていた屏風のようなものをすっかり押し開けて、まず何とも言いようもなく泣き交わす。

老人(乳母)はただ、「わが君はどうおなりになったのですか。長年、夢にでもいらっしゃる所を見たいと大願を立てたけれど、遠い土地で風の便りにもお聞きすることができないのを、たいそう悲しいと思っておりましたが、老いの身が生き残っているのもたいそうつらいけれど、お残しになった若君がかわいらしく、いじらしくていらっしゃるのを、冥土への足かせとして、もてあまし申し上げて、生き長らえております」と言い続けるので、

昔あの時、言いようもなかったことよりも、答えようもなく困ったと思うけれど、「さあ、申し上げてもかいのないことです。ご主人は早くお亡くなりになりました」と言うやいなや、三人ともむせ返り、たいそう困ったことに、涙をこらえきれない。日が暮れたと急いで支度をして、御明かしのことなどを整えて急がせるので、かえってたいそう慌ただしく別れる。

意訳

椿市の宿に、夕顔を恋い慕い続けてきた右近の一行がやって来る。右近は、豊後介の顔に見覚えがあると気づき、さらに夕顔の下仕えだった三条を見つける。呼び寄せた三条は、右近と知って大喜びする。

乳母も出てきて、一同は屏風を押し開けて泣き合う。乳母が夕顔の行方を問うと、右近はついに、夕顔が早く亡くなったことを告げる。三人はむせび泣くが、日が暮れて慌ただしく御堂へ向かう。

語釈・文法注

ぜじやう
軟障。幕の一種。宿などで部屋を仕切るために用いた。

文法

「さるは」(さるはかの夜と共に戀ひなく右近なりけり)
「実は」。前の内容について、その事情を明かす。
過去の「き」(うせ給ひにき)
「お亡くなりになりました」。完了の「ぬ」と過去の「き」で、すでに亡くなったことを告げる。

解説

椿市の宿での再会は、偶然の重なりによる奇跡的な出会いである。姫君が初瀬の観音に祈った願いが、母の侍女であった右近との再会という形でかなえられる。

右近にとっても、夕顔の死以来、行方を気にかけていた姫君との再会であった。十八年前の秘密を抱えてきた右近が、ついに夕顔の死を告げる場面は、長い年月の重みを感じさせる。

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出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、422–425頁(コマ215–216)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日