源氏物語 第22帖 玉鬘(5)
大夫監の来訪と歌
大夫監は少弐の次男を味方につけて、春の夕暮れに自ら乗り込んでくる。乳母が応対すると、大夫監は、姫君を后の位にも劣らぬほど大切にすると、なまりのある言葉でまくしたてる。乳母が、姫君には障りがあると断っても、大夫監は国中の神仏は自分になびいていると豪語する。乳母は、今月は季の果てだと言い逃れる。大夫監は帰り際に、鏡の神にかけて誓う歌を詠み、乳母は震えながら返歌する。その歌を聞きとがめられて乳母は青ざめるが、娘たちがとりなす。

- 1みづからみづからみずからもももこのこのこの家家いえののの次郞次郞じろうをををかたらひかたらひかたらいとりとりとりてててうちうちうちつれつれつれててて來來きたりたりたり。。。年年とし三十三十みそじばかりばかりばかりなるなるなるをのこをのこおのこのののたけたけたけ高高たかくくくものものしくものものしくものものしくふとりふとりふとりててて穢穢きたなげげげなけれなけれなけれどどど、、、思思おもひなしひなしいなし疎疎うとましくましくましく荒荒あららからからかなるなるなるふるまひふるまひふるまい見見みるるるもももゆゝしくゆゝしくゆゆしくおぼゆおぼゆおぼゆ。。。
- 2色色いろあひあひあい心心ここちちちよげよげよげににに聲聲こえいたういたういとう枯枯かれれれてててさへづりさへづりさえずり居居いたりたりたり。。。けさうけさうけそう人人ひとははは夜夜よににに隱隱かくれれれたるたるたるをををこそこそこそよばひよばひよばいとととはははいひいひいいけれけれけれ。。。さまさまさまかへかへかへたるたるたる春春はるののの夕暮夕暮ゆうぐれなりなりなり。。。秋秋あきならならならねねねどもどもどもあやしかりあやしかりあやしかりととと見見みゆゆゆ。。。
- 3心心こころををを破破やぶらららじじじとてとてとてをばをばをばおとゞおとゞおとど出出いででであふあふあう。。。
- 4「「「故故こ少貳少貳しょうにのののいといといとなさけびなさけびなさけびきらきらしくきらきらしくきらきらしく物物ものししし給給たまひひいしししをををいかでいかでいかでかかかあひあひあい語語かたらひらひらい申申もうさささむむんととと思思おもひひい給給たまへへえしかしかしかどもどもどもさるさるさる心心こころざしざしざしをををももも見見みせせせ聞聞きこえええずずず侍侍はべりりりしししほどほどほどにににいといといと悲悲かなしくしくしくててて隱隱かくれれれ給給たまひひいにににしししををを、、、そのそのそのかはりかはりかわりにににゐくわうゐくわういかうににに仕仕つかうまつるうまつるうまつるべくべくべくなむなむなん心心こころざしざしざしをををはげましはげましはげましててて今日今日きょうはははいといといとひたぶるひたぶるひたぶるにににえええひひひてててさぶらひさぶらひさぶらいつるつるつる。。。
- 5このこのこのおはしますおはしますおわしますらむらむらん女君女君おんなぎみすぢすぢすじことことことにににうけうけうけ給給たまはれはれわればばばいといといとかたじけなしかたじけなしかたじけなし。。。唯唯ただなにがしなにがしなにがしらららががが私私わたくしののの君君きみととと思思おもひひい申申もうしししててていたゞきいたゞきいただきににになむなむなん捧捧ささげげげ奉奉たてまつるるるべきべきべき。。。
- 6おとゞおとゞおとどもももしぶしぶしぶしぶしぶしぶにににおはしおはしおわしげげげなるなるなることことことははは善善よからからからぬぬぬ女女おんななどなどなどもももあまたあまたあまたあひあひあい知知しりりりててて侍侍はべるるるををを聞聞きこしめししめししめし疎疎うとむむむなななゝりゝりなりさりともさりともさりともすやつばらすやつばらすやつばらをををひとしなみひとしなみひとしなみにににはははししし侍侍はべりりりなむなむなんややや。。。わがわがわが君君きみをををばばばきさききさききさきののの位位くらいにににおとしおとしおとし奉奉たてまつらららじじじものものものをををややや」」」などなどなどいといといとよげよげよげにににいひいひいいつゞくつゞくつづく。。。
- 7「「「いかゞいかゞいかがははは、、、かくかくかくのたまふのたまふのたまうをををいといといとさいはひさいはひさいわいありありありととと思思おもひひい給給たまふるふるうるををを、、、すくせすくせすくせつたなきつたなきつたなき人人ひとにににややや侍侍はべらららむむん、、、思思おもひひい憚憚はばかるるることことこと侍侍はべりりりててていかでいかでいかでかかか人人ひとににに御覽御覽ごらんぜぜぜられられられむむんととと人人ひと知知しれれれずずず歎歎なげききき侍侍はべるるるめれめれめればばば心苦心苦こころぐるしうしうしゅう見見み給給たまへへえ煩煩わずらひひいぬるぬるぬる」」」ととといふいふいう。。。
- 8「「「更更さらににになななおぼしおぼしおぼし憚憚はばかりりりそそそ。。。天下天下てんがににに目目めつぶれつぶれつぶれ足足あしをれをれおれ給給たまへへえりりりともともともなにがしなにがしなにがしははは仕仕つかうまつりうまつりうまつりやめやめやめてててむむん。。。國國くにのののうちうちうちののの佛佛ほとけ神神かみははは、、、おのれおのれおのれににになむなむなん靡靡なびききき給給たまへへえるるる」」」などなどなどほこりほこりほこり居居いたりたりたり。。。
- 9「「「そのそのその日日ひばかりばかりばかり」」」ととといふいふいうににに、、、「「「このこのこの月月つきはははきききのののはてはてはてなりなりなり」」」などなどなど田舍田舍いなかびびびたるたるたることことことをををいひいひいいのがるのがるのがるおりおりおりててていくいくいくきはきはきわににに歌歌うたよまよまよままほしかりまほしかりまほしかりけれけれければばば、、、やゝやゝやや久久ひさしうしうしゅう思思おもひひいめぐらしめぐらしめぐらしててて、、、
- 10「「「君君きみにににもしもしもしこゝろこゝろこころたがはたがはたがわゞゞば松浦松浦まつらなるなるなるかゞみかゞみかがみのののをををかけかけかけててて誓誓ちかははわむむん。。。このこのこの和歌和歌わかははは仕仕つかうまつりうまつりうまつりたりたりたりとととなむなむなん思思おもひひい給給たまふるふるうる」」」とととうちうちうち笑笑えみみみたるたるたるももも世世よづかづかずかずずずうひうひしうひうひしういういしややや。。。
- 11あれあれあれにににもももあらあらあらねねねばばば返返かえしししすすすべくべくべくももも思思おもははわねねねどどど、、、むすめむすめむすめどもどもどもににによまよまよますれすれすれどどど「「「まろまろまろはははましてましてまして物物ものもももおぼえおぼえおぼえずずず」」」とてとてとて居居いたれたれたればばばいといといと久久ひさしきしきしきににに思思おもひひい煩煩わずらひひいてててうちうちうち思思おもひひいけるけるけるまゝまゝままににに、、、「「「年年としををを經經へててていのるいのるいのる心心こころのののたがひたがひたがいなななばばばかゞみかゞみかがみののの神神かみをををつらしつらしつらしとととややや見見みむむん」」」とととわなゝかしわなゝかしわななかし出出いでででたるたるたるををを、、、
- 12「「「いでいでいでやややこここはははいかにいかにいかにおぼさるゝおぼさるゝおぼさるる」」」とととゆくりかゆくりかゆくりかににによりよりより來來きたるたるたるけはひけはひけわいにににおびえおびえおびえててておとゞおとゞおとど色色いろもももなくなくなくなりなりなりぬぬぬ。。。むすめむすめむすめたちたちたちはははさささはははいへいへいえどどど心心こころ强强ずよくくく笑笑わらひひいててて「「「このこのこの人人ひとのののさまさまさまことことことににに物物ものししし給給たまふふうをををひきひきひきたがへたがへたがえ侍侍はべらららばばばつらくつらくつらく思思おもははわれれれむむんををを、、、なほなほなおぼけぼけしきぼけぼけしきぼけぼけしき人人ひとのののかみかみかみかけかけかけててて聞聞きこえええひがめひがめひがめ給給たまふふうなななめりめりめりややや」」」とととときときとき聞聞きかすかすかす。。。
- 13「「「おいおいおい、、、さりさりさりさりさりさり」」」とととうなづきうなづきうなずきててて「「「をかしきをかしきおかしき御御おん口口くちつきつきつきかなかなかな。。。なにがしなにがしなにがしららら田舍田舍いなかびびびたりたりたりととといふいふいう名名なこそこそこそ侍侍はべれれれ、、、口惜口惜くちおしきしきしき民民たみにににははは侍侍はべらららずずず。。。都都みやこののの人人ひととてとてとてももも何何なにばかりばかりばかりかかかあらあらあらむむん、、、皆皆みな知知しりりりててて侍侍はべりりり。。。なななおぼしおぼしおぼしあなづりあなづりあなずりそそそ」」」とてとてとて又又またよまよまよまむむんととと思思おもへへえれれれどもどもども堪堪たへへえずずずやややありありありけむけむけんいぬいぬいぬめりめりめり。。。
現代語訳
大夫監は自分でも、この家の次男を味方に引き入れて、連れ立ってやって来た。年は三十ほどの男で、背が高く、堂々として太っていて、汚らしくはないけれど、そう思って見るせいか、うとましく、荒々しい振る舞いは見るのも恐ろしく思われる。
顔色はつやつやとしていて、声はひどくしわがれて、早口にしゃべっている。懸想する人は、夜に隠れて通うのをこそ「夜這ひ」とはいうのだが、これは様子の変わった春の夕暮れである。秋でもないのに妙なことだと見える。
機嫌を損ねまいとして、祖母にあたる乳母が出て応対する。
「故少弐が、たいそう情け深く立派でいらっしゃったので、何とかしてお付き合いさせていただきたいと思っておりましたが、そのような気持ちもお見せ申し上げないうちに、たいそう悲しいことにお亡くなりになったので、その代わりに、ご威光のためにお仕えしようと、心を奮い立たせて、今日はたいそうひたすらに思い切って参上いたしました。
こちらにいらっしゃるという女君は、格別なお血筋とうかがっておりますので、たいそうもったいない。ただ私どもの主君とお思い申し上げて、頭の上に捧げ持つように大切にいたします。
お祖母さまも気が進まないご様子なのは、よくない女どもを大勢知っておりますのをお聞きになって、お嫌いになるのでしょう。それでも、あんなやつらと同列に扱いましょうか。わが君を、后の位にも劣らないようにお扱い申し上げますものを」などと、たいそう調子よく言い続ける。
「どうしてそのようなことが。こうおっしゃっていただけるのを、たいそう幸運と存じますのに、宿縁のつたない人なのでしょうか、気がかりなことがございまして、どうして人にお見せできようかと、人知れず嘆いておりますようなので、気の毒に見て困っております」と言う。
「決してご心配なさいますな。たとえ目がつぶれ、足が折れていらっしゃっても、私はお仕えして治してさしあげましょう。国中の仏や神は、私になびいていらっしゃるのです」などと得意になっている。
「その日取りは」と言うので、「この月は季節の終わりですので」などと田舎びたことを言って逃れる。大夫監は、縁から下りて行くときに歌を詠みたかったので、しばらく思いめぐらして、
「あなたにもし心変わりしたら、松浦の鏡の神にかけて誓いましょう。この和歌は、うまく詠めたと存じます」とほほえんでいるのも、世慣れず不器用である。
乳母は気も動転しているので、返歌をしようとも思わないけれど、娘たちに詠ませようとすると、「私はなおさら何もわかりません」と言って座っているので、たいそう時間がたつのに困って、思いついたままに、「長年祈ってきた願いがかなわなかったら、鏡の神を恨めしく思うことでしょう」と震え声で詠み出したのを、
「さて、これはどういう意味でおっしゃるのか」と、だしぬけに近寄ってきた様子におびえて、乳母は顔色もなくなってしまった。娘たちは、そうはいっても気丈に笑って、「この人(姫君)が普通と違うご様子でいらっしゃるので、お約束にそむくことがありましたら、つらく思われるでしょうから、やはりぼけた年寄りが、神にかけて言い間違えなさったのでしょう」と説明して聞かせる。
「おお、そうそう」とうなずいて、「面白いお歌いぶりですな。私どもは田舎者だという評判こそありますが、つまらない民ではございません。都の人といっても、何ほどのことがありましょう、皆知っております。お見くびりなさるな」と言って、また詠もうと思ったけれど、詠めなかったのだろうか、帰って行ったようだ。
意訳
大夫監は春の夕暮れに自ら乗り込んできて、姫君を后の位にも劣らぬほど大切にすると、なまりのある言葉でまくしたてる。乳母が障りがあると断っても、国中の神仏は自分になびいていると豪語する。
大夫監は帰り際に鏡の神にかけて誓う歌を詠み、乳母は震えながら返歌する。その意味を聞きとがめられて乳母は青ざめるが、娘たちがとりなし、大夫監は満足して帰っていく。
語釈・文法注
- 秋ならねどもあやしかりけり
- 「いつとても恋しからずはあらねども秋の夕べはあやしかりけり」(古今集)をふまえる。恋の思いは秋の夕べに募るものなのに、春の夕暮れに求婚に来たことを皮肉っている。
- 松浦なるかゞみの神
- 肥前国松浦郡(佐賀県唐津市)の鏡神社の神。大夫監は、この土地の神に誓いを立てる。
文法
- 禁止の「な…そ」(な おぼし憚りそ)
- 「ご心配なさいますな」。
- 反語の「や」(ひとしなみにはし侍りなむや)
- 「同列に扱いましょうか、いや、扱わない」。
和歌
君にもしこゝろたがはゞ松浦なるかゞみの神をかけて誓はむ
- 詠者
- 大夫監
- 状況
- 乳母のもとを辞する際に詠んだ歌。あなたにもし心変わりしたら、どんな罰でも受けると、松浦の鏡の神にかけて誓いましょう。
年を經ていのる心のたがひなばかゞみの神をつらしとや見む
- 詠者
- 乳母
- 状況
- 大夫監への返歌。長年祈ってきた願い(姫君を都へ上らせること)がかなわなかったら、鏡の神を恨めしく思うことでしょう。
修辞
- 掛詞
- 大夫監の「心たがはば」を受けて、「祈る心のたがひなば」と返す。表向きは結婚への誓いに応じるようで、実は姫君の上京の願いをいう。
解説
大夫監の求婚の場面は、源氏物語の中でも珍しい喜劇的な場面である。荒々しい武士が、都の作法をまねて歌を詠もうとする姿が、滑稽に描かれている。
乳母の返歌は、大夫監の誓いに応じるように見せながら、実は姫君の上京の願いを込めたものであった。それを見とがめられそうになった危機を、娘たちの機転が救う。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、418–421頁(コマ213–214)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日