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源氏物語 第21帖 少女(12)

雲居雁と夕霧の別れ

登場人物:雲居雁・夕霧・大宮・宰相の君(夕霧の乳母)・雲居雁の乳母・内大臣(頭中将)

雲居雁が大宮のもとを去る日、大宮は涙ながらに別れを惜しむ。夕霧の乳母の計らいで、二人は夕暮れの紛れにひそかに対面し、恋しく思ってくれるかと問う夕霧に、雲居雁は小さくうなずく。そこへ内大臣が戻り、雲居雁の乳母は、六位の夕霧では物の初めから不運だとつぶやく。それを聞いた夕霧は、位の低さを侮られたと悔しく思い、二人は歌を交わして別れる。翌朝、夕霧は霜の白い道を、涙ながらに帰っていく。

夕暮れの大宮邸で、夕霧と雲居雁が向かい合い、近づく別れに思いを沈めている場面(AI生成)
夕暮れの大宮邸で、夕霧と雲居雁が向かい合い、近づく別れに思いを沈めている場面
  1. 1宮みや宮みやみやののの御おん御おんおんふみふみふみにてにてにて、、、「「「おとゞおとゞおとどこそこそこそ恨うら恨うらうらみみみもももししし給たま給たまたまははわめめめ。。。君きみ君きみきみはははさりともさりともさりとも志こころざし志こころざしこころざしのののほどほどほどもももしりしりしり給たま給たまたまふふうらむらむらん。。。渡わた渡わたわたりりりててて見み見みみえええ給たま給たまたまへへえ」」」ととと聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまへへえれれればばばいといといとをかしげをかしげおかしげににに引ひ引ひひききき繕つくろ繕つくろつくろひひいててて渡わた渡わたわたりりり給たま給たまたまへへえりりり。。。十四じふし十四じふしじゅうしににになむなむなんおはしおはしおわしけるけるける。。。かたなりかたなりかたなりににに見み見みみえええ給たま給たまたまへへえどどどいといといとこめかしうこめかしうこめかしゅうしめやかしめやかしめやかににに美うつ美うつうつくしきくしきくしきさまさまさまししし給たま給たまたまへへえりりり。。。
  2. 2「「「傍かたはら傍かたはらかたわら避さ避ささけけけ奉たてまつ奉たてまつたてまつらららずずず明暮あけくれ明暮あけくれあけくれのののもてあそびもてあそびもてあそび物もの物ものものににに思おも思おもおもひひい聞きこ聞きこきこえええつるつるつるををを、、、さうざうしくさうざうしくそうぞうしくもももあくあくあくべきべきべきかなかなかな。。。殘のこ殘のこのこりりりすくなきすくなきすくなき齡よはひ齡よはひよわいののの程ほど程ほどほどにてにてにて御おん御おんおん有樣ありさま有樣ありさまありさまををを見み見みみはつはつわつまじきまじきまじきことことことゝゝと命いのち命いのちいのちをををこそこそこそ思おも思おもおもひひいつれつれつれ。。。今いま今いまいまさらさらさらににに見み見みみ捨す捨すすてててゝゝて移うつ移うつうつろひろひろい給たま給たまたまふふうやややいづちいづちいずちならならならむむんととと思おも思おもおもへへえばばばいといといとこそこそこそ哀あはれ哀あはれあわれなれなれなれ」」」とてとてとて泣な泣ななききき給たま給たまたまふふう。。。
  3. 3姫君ひめぎみ姫君ひめぎみひめぎみははは耻はづか耻はづかはずかしきしきしきことことことをををおぼせおぼせおぼせばばば顏かほ顏かほかおももももたげもたげもたげ給たま給たまたまははわででで唯たゞ唯たゞただなきなきなきにににのみのみのみ泣な泣ななききき給たま給たまたまふふう。。。
  4. 4をとこをとこおとこ君きみ君きみきみののの御おん御おんおんめのとめのとめのと宰相さいしやう宰相さいしやうさいしょうののの君きみ君きみきみ出い出いいででで來き來ききててて「「「同おな同おなおなじじじ君きみ君きみきみとととこそこそこそ賴たの賴たのたのみみみ聞きこ聞きこきこえええさせさせさせつれつれつれ。。。口くち口くちくちをしくをしくおしく渡わた渡わたわたらららせせせ給たま給たまたまふふうことことこと殿との殿とのとのはははことことことざまざまざまにににおぼしおぼしおぼしなるなるなることことことおはしますおはしますおわしますともともともさやうさやうさようにににおぼしおぼしおぼし靡なび靡なびなびかかかせせせ給たま給たまたまふふうななな」」」などなどなどさゝめきさゝめきささめき聞きこ聞きこきこゆれゆれゆればばば、、、いよいよいよいよいよいよ耻はづか耻はづかはずかしししとととおぼしおぼしおぼしててて物もの物ものものももものたまはのたまはのたまわずずず。。。
  5. 5「「「いでいでいでむつかしきむつかしきむつかしきことことことななな聞きこ聞きこきこえええられられられそそそ。。。人ひと人ひとひとののの御おん御おんおんすくせすくせすくせすくせすくせすくせのののいといといと定さだ定さださだめめめ難がた難がたがたくくく」」」とととのたまふのたまふのたまう。。。「「「いでやいでやいでやものげなしものげなしものげなしとととあなづりあなづりあなずり聞きこ聞きこきこえええさせさせさせ給たま給たまたまふふうににに侍はべ侍はべはべるるるめりめりめりかしかしかし。。。さりともさりともさりともげにげにげにわがわがわが君きみ君きみきみややや人ひと人ひとひとににに劣おと劣おとおとりりり聞きこ聞きこきこえええさせさせさせ給たま給たまたまふふうととと聞きこ聞きこきこしめししめししめしあはせあはせあわせよよよ」」」とととなまなまなま心こころ心こころこころやましきやましきやましきまゝまゝままにににいふいふいう。。。
  6. 6くわざくわざかざののの君きみ君きみきみ物もの物ものものののの後うしろ後うしろうしろにににいりいりいり居ゐ居ゐいててて見み見みみ給たま給たまたまふふうににに人ひと人ひとひとののの咎とが咎とがとがめめめむむんもももよろしきよろしきよろしき時とき時ときときこそこそこそ苦くる苦くるくるしかりしかりしかりけれけれけれ。。。いといといと心こころ心こころこころ細ぼそ細ぼそぼそくくくててて淚なみだ淚なみだなみだおしおしおしのごひのごひのごいつゝつゝつつおはするおはするおわするけしきけしきけしきををを御おん御おんおん乳母めのと乳母めのとめのといといといと心苦こころぐる心苦こころぐるこころぐるしうしうしゅう見み見みみててて宮みや宮みやみやにににとかくとかくとかく聞きこ聞きこきこえええたばかりたばかりたばかりててて、、、夕ゆふ夕ゆふゆうまぐれまぐれまぐれののの人ひと人ひとひとのののまよひまよひまよいにににたいめんたいめんたいめんせせせさせさせさせ給たま給たまたまへへえりりり。。。
  7. 7かたみかたみかたみににに物もの物ものもの耻はづ耻はづはずかしくかしくかしく胸むね胸むねむねつぶれつぶれつぶれててて物もの物ものものもももいはいはいわででで泣な泣ななききき給たま給たまたまふふう。。。「「「大臣おとゞ大臣おとゞおとどののの御心みこころ御心みこころみこころのののいといといとつらけれつらけれつらければばば、、、さばれさばれさばれ思おも思おもおもひひい止や止ややみみみなむなむなんととと思おも思おもおもへへえどどど戀こひ戀こひこいしうしうしゅうおはせおはせおわせむむんこそこそこそわりなかるわりなかるわりなかるべけれべけれべけれ。。。などなどなどててて少すこ少すこすこしししひまひまひまありありありぬぬぬべかりべかりべかりつるつるつる日頃ひごろ日頃ひごろひごろよそよそよそににに隔へだ隔へだへだてててつつつらむらむらん」」」とととのたまふのたまふのたまうさまさまさまもももいといといと若わか若わかわこううう哀あはれ哀あはれあわれげげげなれなれなればばば
  8. 8「「「まろまろまろもももさささこそこそこそはははあらあらあらめめめ」」」とととのたまふのたまふのたまう。。。「「「戀こひ戀こひこいしししとととはははおぼしおぼしおぼしなむなむなんややや」」」とととのたまへのたまへのたまえばばば、、、少すこ少すこすこしししうなづきうなづきうなずき給たま給たまたまふふうさまさまさまもももをさなげをさなげおさなげなりなりなり。。。
  9. 9おほとなぶらおほとなぶらおおとなぶらまゐりまゐりまいり殿との殿とのとのまかでまかでまかで給たま給たまたまふふうけはひけはひけわいこちたくこちたくこちたく、、、おひおひおいのゝしるのゝしるののしるみさきみさきみさきののの聲こゑ聲こゑこえににに人々びと人々びとびと「「「そゝやそゝやそそや」」」などなどなどおぢおぢおじさわげさわげさわげばばばいといといと恐おそろ恐おそろおそろしししとととおぼしおぼしおぼしてててわなゝきわなゝきわななき給たま給たまたまふふう。。。男をとこ男をとこおとこはははさもさもさもさわがさわがさわがれれればばばとととひたぶるひたぶるひたぶるににに許ゆる許ゆるゆるししし聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまははわずずず。。。
  10. 10御おん御おんおん乳母めのと乳母めのとめのと參まゐ參まゐまいりりりててて求もと求もともとめめめ奉たてまつ奉たてまつたてまつるるるににに氣色けしき氣色けしきけしきををを見み見みみてててあなあなあな心こころ心こころこころづきなづきなずきなややや、、、げにげにげに宮みや宮みやみやしらしらしらせせせ給たま給たまたまははわぬぬぬことことことにににはははあらあらあらざりざりざりけりけりけりととと思おも思おもおもふふうにににいといといとつらくつらくつらく「「「いでやいでやいでやうかりうかりうかりけるけるける世よ世よよかなかなかな。。。殿との殿とのとののののおぼしおぼしおぼしのたまふのたまふのたまうことことことははは更さら更さらさらにににももも聞きこ聞きこきこえええずずず、、、大納言だいなごん大納言だいなごんだいなごん殿どの殿どのどのにににもももいかにいかにいかに聞き聞ききかかかせせせ給たま給たまたまははわむむん。。。めでたくめでたくめでたくともともとも物もの物ものものののの初はじめ初はじめはじめのののすくせすくせすくせよよよ」」」とととつぶやくつぶやくつぶやくもももほのほのほのきこゆきこゆきこゆ。。。唯たゞ唯たゞただこのこのこの屏風びやうぶ屏風びやうぶびょうぶのののうしろうしろうしろににに尋たづ尋たづたずねねねきききててて歎なげ歎なげなげくくくなりなりなりけりけりけり。。。
  11. 11をとこをとこおとこ君きみ君きみきみ、、、我われ我われわれをををばばば位くらゐ位くらゐくらいなしなしなしとてとてとてはしたなむるはしたなむるはしたなむるなりなりなりけりけりけりとととおぼすおぼすおぼすににに、、、世よ世よよののの中なか中なかなかうらめしけれうらめしけれうらめしければばば哀あはれ哀あはれあわれももも少すこ少すこすこしししさむるさむるさむる心ここ心ここここちちちしししてててめざましめざましめざまし。。。
  12. 12「「「かれかれかれ聞き聞ききききき給たま給たまたまへへえくれなゐくれなゐくれなゐくれなゐくれないののの淚なみだ淚なみだなみだににに深ふか深ふかふかききき袖そで袖そでそでののの色いろ色いろいろををを淺綠あさみどり淺綠あさみどりあさみどりとととやややいひいひいいしをるしをるしおるべきべきべき。。。はづかしはづかしはずかし」」」とととのたまへのたまへのたまえばばば、、、「「「いろいろいろいろいろいろににに身み身みみのののうきうきうきほどほどほどののの知し知ししらるゝらるゝらるるはははいかにいかにいかに染そ染そそめめめけるけるける中なか中なかなかののの衣ころも衣ころもころもぞぞぞ」」」とととのたまひのたまひのたまいはてはてはてぬぬぬににに、、、殿との殿とのとの入い入いいりりり給たま給たまたまへへえりりり。。。わりなくわりなくわりなくててて渡わた渡わたわたりりり給たま給たまたまひひいぬぬぬ。。。
  13. 13をとこをとこおとこ君きみ君きみきみははは立た立たたちちちとまりとまりとまりたるたるたる心地ここち心地ここちここちもももいといといと人ひと人ひとひとわろくわろくわろく胸むね胸むねむねふたがりふたがりふたがりててて我わ我わわががが御おん御おんおんかたかたかたにににふしふしふし給たま給たまたまひひいぬぬぬ。。。御おん御おんおん車くるま車くるまくるま三み三みみつつつばかりばかりばかりにてにてにて忍しの忍しのしのびやかびやかびやかににに急いそ急いそいそぎぎぎ出い出いいででで給たま給たまたまふふう。。。けはひけはひけわいををを聞き聞ききくくくもももしづしづしず心ごころ心ごころごころなけれなけれなければばば宮みや宮みやみやののの御おん御おんおんまへまへまえよりよりより參まゐ參まゐまいりりり給たま給たまたまへへえとととあれあれあれどどど寢ね寢ねねたるたるたるやうやうようにてにてにて動うご動うごうごきききもももししし給たま給たまたまははわずずず。。。
  14. 14淚なみだ淚なみだなみだのみのみのみとゞまらとゞまらとどまらねねねばばば嘆なげ嘆なげなげきききあかしあかしあかしててて霜しも霜しもしものののいといといと白しろ白しろしろきききににに急いそ急いそいそぎぎぎ出い出いいででで給たま給たまたまふふう。。。うちうちうちはれはれはれたるたるたるまみまみまみももも人ひと人ひとひとににに見み見みみえええむむんがががはづかしきはづかしきはずかしきににに宮みや宮みやみやはははためしためしためしまつはすまつはすまつわすべかべかべかめれめれめればばば心こころ心こころこころやすきやすきやすき所ところ所ところところにににとてとてとて急いそ急いそいそぎぎぎ出い出いいででで給たま給たまたまふふうなりなりなりけりけりけり。。。
  15. 15道みち道みちみちのののほどほどほど人ひと人ひとひとやりやりやりならならならずずず心こころ心こころこころ細ぼそ細ぼそぼそくくく思おも思おもおもひひい續つゞ續つゞつづくるくるくるににに空そら空そらそらののの氣色けしき氣色けしきけしきもももいたういたういとう曇くも曇くもくもりりりてててまだまだまだくらかりくらかりくらかりけりけりけり。。。「「「霜しも霜しもしも氷ごほり氷ごほりごおりうたてうたてうたてむすべむすべむすべるるる明あけ明あけあけくれくれくれののの空そら空そらそらかきかきかきくらしくらしくらし降ふ降ふふるるるなみだなみだなみだかなかなかな」」」。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

大宮のお手紙で、「大臣こそ恨みもなさるでしょう。あなたはそれでも、私の愛情の深さもご存じでしょう。こちらに来てお顔をお見せなさい」と申し上げなさったので、姫君はたいそうかわいらしく身なりを整えて、こちらにいらっしゃった。十四歳でいらっしゃった。まだ子どもっぽくお見えになるけれど、たいそうおっとりと、しとやかで、かわいらしい様子をしていらっしゃる。

「おそばを離し申し上げず、朝夕の慰めとお思い申し上げてきたのに、寂しくなることでしょう。残り少ない年齢なので、あなたのご将来を見届けられないだろうと、命のことを思っていたのに、今さら私を見捨てて移っていかれるのは、どちらへなのだろうと思うと、たいそう悲しいことです」と言ってお泣きになる。

姫君は、恥ずかしいことをお思いになるので、顔も上げなさらず、ただ泣いてばかりいらっしゃる。

男君(夕霧)の御乳母、宰相の君が出てきて、「同じご主人とお頼み申し上げておりましたのに、残念にもお移りになることです。殿が別の縁組をお考えになることがおありになっても、そのようにお心をなびかせなさいますな」などとささやき申し上げるので、いよいよ恥ずかしいとお思いになって、何もおっしゃらない。

大宮は「さあ、面倒なことを申し上げなさいますな。人の宿縁というものは、たいそう定めがたくて」とおっしゃる。宰相の君は「いいえ、一人前でないと軽んじ申し上げなさっているのでございましょう。それでも本当に、わが君が人にお劣り申し上げなさるかどうか、お聞き合わせください」と、少し腹立たしいままに言う。

冠者の君は物陰に入って見ていらっしゃると、人に咎められるのも、普通の時ならつらいだろうが、たいそう心細くて、涙をぬぐいながらいらっしゃる様子を、御乳母がたいそう気の毒に思って、大宮にあれこれと申し上げて取り計らって、夕暮れの人の出入りの紛れに、対面させなさった。

互いに何となく恥ずかしく胸がつぶれて、何も言わずにお泣きになる。「大臣のお心がたいそう恨めしいので、ままよ、思い切ってしまおうと思うけれど、恋しくお思いするだろうことが、どうにもならないだろう。どうして、少し会える隙のありそうだった日ごろを、よそよそしく隔てて過ごしたのだろう」とおっしゃる様子も、たいそう若々しくいじらしいので、

雲居雁は「私もそうでしょう」とおっしゃる。「恋しいとお思いになるでしょうか」とおっしゃると、少しうなずきなさる様子も幼げである。

灯火をおともしし、殿(内大臣)が宮中から退出なさる気配が仰々しく、大声で追い払う前駆の声に、女房たちが「それっ」などと恐れて騒ぐので、姫君はたいそう恐ろしいとお思いになって震えていらっしゃる。男君は、騒がれるなら騒がれよと、ひたすら姫君をお放し申し上げなさらない。

姫君の御乳母が参上してお探し申し上げると、様子を見て、まあいやなこと、本当に大宮がご存じないことではなかったのだと思うと、たいそう恨めしくて、「ああ、つらい世の中ですね。殿がお考えになっておっしゃることは言うまでもなく、大納言殿にもどのようにお聞かせしたらよいでしょう。立派な方であっても、物の初めが六位という宿縁ですよ」とつぶやくのも、かすかに聞こえる。ちょうどこの屏風の後ろに探しに来て嘆くのであった。

男君は、自分を位がないといって侮るのであったよとお思いになると、世の中が恨めしいので、恋しさも少し冷める気がして、心外である。

「あれをお聞きなさい。血の涙で深く染まった私の袖の色を、浅緑だと言って、けなしてよいものでしょうか。恥ずかしい」とおっしゃると、雲居雁が「さまざまに、わが身のつらさが思い知らされるのは、どのように染めた二人の仲の衣だからでしょうか」と言い終わらないうちに、殿がお入りになった。しかたなくあちらへお移りになった。

男君は、取り残された気持ちもたいそうみっともなく、胸がふさがって、ご自分の部屋に横になってしまわれた。御車三台ほどで、ひそやかに急いでお出になる。その気配を聞くのも落ち着かないので、大宮の御前から参上なさいと言ってくるけれど、寝ているふりをして身動きもなさらない。

涙ばかりが止まらないので、嘆きながら夜を明かして、霜がたいそう白いうちに急いでお出になる。泣きはらした目元も人に見られるのが恥ずかしいうえに、大宮はきっと呼び寄せて離さないだろうから、気楽な所へと、急いでお出になるのであった。

道中、誰のせいでもなく心細く思い続けると、空の様子もたいそう曇って、まだ暗かった。「霜や氷がいやに固く結んでいる夜明けの、暗い空をかき曇らせるように降る涙であることよ」。

意訳

雲居雁が大宮のもとを去る日、大宮は涙ながらに別れを惜しむ。夕霧の乳母の計らいで、二人は夕暮れの紛れにひそかに対面し、恋しく思ってくれるかと問う夕霧に、雲居雁は小さくうなずく。

内大臣が戻ってきたとき、雲居雁の乳母が六位の夕霧では不運だとつぶやくのを聞き、夕霧は悔しく思う。二人は歌を交わして別れ、翌朝、夕霧は霜の白い道を涙ながらに帰っていく。

語釈・文法注

六位すくせ
六位の身分の宿縁。夕霧が元服のときに六位に叙されたことを、乳母は侮っている。六位の袍は浅緑(浅葱)で、夕霧の歌の「淺綠」はこれを受ける。

文法

禁止の「な…そ」(な聞えられそ)
「申し上げなさいますな」。穏やかな禁止。
反語の「や…べき」(淺綠とやいひしをるべき)
「浅緑だと言ってけなしてよいものでしょうか、いや、よくない」。

和歌

くれなゐの淚に深き袖の色を淺綠とやいひしをるべき

詠者
夕霧
状況
雲居雁の乳母が六位の位を侮ったのを聞いて、雲居雁に詠みかけた歌。血の涙で深く染まった私の袖の色を、浅緑(六位の袍の色)だと言って、けなしてよいものでしょうか。

修辞

対比
「くれなゐ(紅)」の涙の深い色と、六位の袍の「淺綠」とを対比させ、思いの深さと位の低さを対照させる。

いろいろに身のうきほどの知らるゝはいかに染めける中の衣ぞ

詠者
雲居雁
状況
夕霧への返歌。さまざまに、わが身のつらさが思い知らされるのは、どのように染めた二人の仲の衣だからでしょうか。

修辞

掛詞
「中の衣」に「(二人の)仲」と「中に着る衣」をかける。

霜氷うたてむすべる明くれの空かきくらし降るなみだかな

詠者
夕霧
状況
雲居雁と別れた翌朝、霜の白い道を帰りながら詠んだ歌。霜や氷がいやに固く結んでいる夜明けの、暗い空をかき曇らせるように降る涙であることよ。

解説

幼い恋人たちの別れは、乳母の「六位すくせ」という心ない言葉によって、いっそう痛ましいものとなる。夕霧は、この屈辱を胸に刻み、学問と出世への決意を新たにしていく。

夕霧の歌の「くれなゐの淚」と「淺綠」の対比は、恋の深さと身分の低さという、夕霧の抱える葛藤を鮮やかに表している。

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出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、398–403頁(コマ203–205)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日