源氏物語 第21帖 少女(11)
雲居雁を引き取る
内大臣は、北の方には事情を明かさず、弘徽殿の女御を宮中から退出させ、その話し相手にという口実で、雲居雁を大宮のもとから自邸に引き取ろうとする。大宮は、唯一の慰めを奪われると嘆き、自分を恨んで連れ去るのだと涙を流す。内大臣は、雲居雁が成長してから夕霧の志を見定めて許してもよいと考えつつも、今は二人を引き離すことにする。

- 1北北きたののの方方かたにににははは斯斯かかるるる事事ことなむなむなんととと氣色氣色けしきももも見見みせせせ奉奉たてまつりりり給給たまははわずずず、、、唯唯ただ大方大方おおかたいといといとむづかしきむづかしきむずかしき御御おん氣色氣色けしきにてにてにて「「「中宮中宮ちゅうぐうのののよそほひよそほひよそおいことことことにてにてにて參參まいりりり給給たまへへえるるるににに女御女御にようごののの世世よののの中中なか思思おもひひいしめりしめりしめりててて物物ものししし給給たまふふうををを心苦心苦こころぐるしうしうしゅう胸胸むねいたきいたきいたきににに、、、まかでまかでまかでさせさせさせ奉奉たてまつりりりててて心心こころやすくやすくやすくうちうちうち休休やすままませせせ奉奉たてまつらららむむん。。。
- 2さすがさすがさすがににに上上うえにににつとつとつとさぶらはさぶらはさぶらわせせせ給給たもうううてててよるひるよるひるよるひるおはしますおはしますおわしますめれめれめればばばあるあるある人々人々びとももも心心こころゆるびゆるびゆるびせせせずずず苦苦くるしうしうしゅうのみのみのみわぶわぶわぶめるめるめるににに」」」とととのたまひのたまひのたまいててて俄俄にわかにににまかでまかでまかでさせさせさせ奉奉たてまつりりり給給たまふふう。。。御御おん暇暇いとまももも許許ゆるささされれれがたきがたきがたきををを、、、うちうちうちむつかりむつかりむつかり給給たもうううててて、、、上上うえはははしぶしぶしぶしぶしぶしぶにににおぼしめしおぼしめしおぼしめしたるたるたるをををしひしひしいててて御御おんむかへむかへむかえししし給給たまふふう。。。
- 3「「「つれづれつれづれつれずれにににおぼさおぼさおぼされれれむむんををを姫君姫君ひめぎみわたしわたしわたしててて諸共諸共もろともにににあそびあそびあそびなどなどなどししし給給たまへへえ。。。宮宮みやにににあづけあづけあずけ奉奉たてまつりりりたるたるたる後後うしろやすけれやすけれやすけれどどど、、、いといといとさくじりさくじりさくじりおよすけおよすけおよすけたるたるたる人人ひと立立たちちちまじりまじりまじりててておのづからおのづからおのずからけぢかきけぢかきけじかきもももあいなきあいなきあいなき程程ほどににになりなりなりにににけれけれければばばなむなむなん」」」ととと聞聞きこえええ給給たまひひいててて俄俄にわかににに渡渡わたししし聞聞きこえええ給給たまふふう。。。
- 4宮宮みやいといといとあへなしあへなしあえなしとととおぼしおぼしおぼしててて、、、「「「ひとりひとりひとり物物ものせせせられられられししし女女おんなごごごなくなくなくなりなりなり給給たまひひいててて後後のちいといといとさうざうしくさうざうしくそうぞうしく心心こころぼそかりぼそかりぼそかりしししににに嬉嬉うれしうしうしゅうこのこのこの君君きみをををえええててて生生いけけけるるる限限かぎりのののかしづきかしづきかしずきものものものととと思思おもひひいててて明暮明暮あけくれにににつけつけつけててて老老おいのののむつかしさむつかしさむつかしさももも慰慰なぐさめめめむむんとととこそこそこそ思思おもひひいつれつれつれ。。。思思おもいののの外外ほかにににへだてへだてへだてありありありててておぼしおぼしおぼしなすなすなすもももつらくつらくつらくなむなむなん」」」ととと聞聞きこえええ給給たまへへえばばば、、、
- 5うちうちうち畏畏かしこまりまりまりててて「「「こゝろこゝろこころににに飽飽あかかかずずず思思おもううう給給たまへへえらるゝらるゝらるることことことはははしかしかしかなむなむなん思思おもううう給給たまへへえらるゝらるゝらるるとととばかりばかりばかり聞聞きこえええさせさせさせしししににになむなむなん。。。深深ふかくくくへだてへだてへだて思思おもううう給給たまふふうことことことはははいかでいかでいかでかかか侍侍はべらららむむん。。。內內うちにににさぶらふさぶらふさぶらうががが世世よののの中中なかうらめしげうらめしげうらめしげにてにてにてこのこのこの頃頃ころまかでまかでまかではべるはべるはべるにににいといといと徒然徒然つれずれににに思思おもひひいてててくつしくつしくつし侍侍はべれれればばば心苦心苦こころぐるしうしうしゅう見見み給給たまうるうるうるををを諸共諸共もろともにににあそびあそびあそびわざわざわざをををもももしししててて慰慰なぐさめめめよよよととと思思おもひひい給給たまへへえてててなむなむなん。。。あからさまあからさまあからさまににに物物ものししし侍侍はべるるる
- 6とてとてとてはぐゝみはぐゝみはぐくみ人人ひととととなさなさなさせせせ給給たまへへえるるるをををおろかおろかおろかにににはははよもよもよも思思おもひひい聞聞きこえええさせさせさせじじじ」」」ととと申申もうししし給給たまへへえばばば、、、かうかうこうおぼしおぼしおぼし立立たちちちにににたれたれたればばば留留とどめめめきこえきこえきこえ給給たまふふうともともともおぼしおぼしおぼしかへすかへすかえすべきべきべき御心御心みこころならならならぬぬぬににに、、、いといといと飽飽あかかかずずず口惜口惜くちおしうしうしゅうおぼさおぼさおぼされれれててて
- 7「「「人人ひとののの心心こころこそこそこそうきうきうきものものものはははあれあれあれ。。。とかくとかくとかくをさなきをさなきおさなき心心こころどもどもどもにににもももわれわれわれににに隔隔へだてててゝゝて疎疎うとましかりましかりましかりけるけるけることことことよよよ。。。又又またさもさもさもこそこそこそはははあらあらあらめめめ。。。おとゞおとゞおとどののの物物ものののの心心こころををを深深ふこううう知知しりりり給給たまひひいながらながらながら我我われをををゑんじゑんじえんじてててかくかくかくゐゐいててて渡渡わたししし給給たまふふう事事こと、、、かしこかしこかしこにてにてにてこれこれこれよりよりより後後うしろ安安やすきききことことこともももあらあらあらじじじ」」」ととと打打うちちち泣泣なきききつゝつゝつつのたまふのたまふのたまう。。。
- 8折折おりしもしもしもくわざくわざかざののの君君きみ參參まいりりり給給たまへへえりりり。。。もしもしもしいさゝかいさゝかいささかのののひまひまひまもももやややとととこのこのこの頃頃ころはははしげうしげうしぎょうほのめきほのめきほのめき給給たまふふうなりなりなりけりけりけり。。。內內うちののの大臣大臣おとどののの御御おん車車くるまのののあれあれあればばば、、、心心こころのののおにおにおにゝゝにはしたなくはしたなくはしたなくてててやをらやをらやおらかくれかくれかくれててて我我わががが御御おん方方かたににに入入いりりり居居い給給たまへへえりりり。。。
- 9內內うちののの大殿大殿おおとののののきんだちきんだちきんだち、、、左左ひだりののの少將少將しょうしょう、、、少納言少納言しょうなごん、、、兵衞佐兵衞佐ひょうえのすけ、、、侍從侍從じじゅう、、、大夫大夫たいふなどなどなどいふいふいうももも皆皆みなこゝこゝここにににはははまゐりまゐりまいりつどひつどひつどいたれたれたれどどど、、、みすみすみすののの內內うちはははゆるしゆるしゆるし給給たまははわずずず。。。
- 10左衛門督左衛門督さえもんのかみ權中納言權中納言ごんちゅうなごんなどなどなどももも御御おおん腹腹はらなれなれなれどどど故故こ殿殿とのののの御御おんもてなしもてなしもてなしのののまゝまゝままににに今今いまももも參參まいりりり仕仕つかうまつりうまつりうまつり給給たまふふう事事ことねんごろねんごろねんごろなれなれなればばば、、、そのそのその御御おん子子こどもどもどもゝゝもさまざまさまざまさまざま參參まいりりり給給たまへへえどどどこのこのこの君君きみににに似似にるるるにほひにほひにおいなくなくなく見見みゆゆゆ。。。
- 11大宮大宮おおみやののの御御おん志志こころざしもももなずらひなずらひなずらいなくなくなくおぼしおぼしおぼしたるたるたるををを、、、唯唯ただこのこのこの姫君姫君ひめぎみをををぞぞぞけぢかうけぢかうけじこうらうたきらうたきろうたきものものものにににおぼしおぼしおぼしかしづきかしづきかしずきててて御御おんかたはらかたはらかたわら避避さけけけずずずうつくしきうつくしきうつくしきものものものにににおぼしおぼしおぼしたりたりたりつるつるつるををを、、、かくかくかくててて渡渡わたりりり給給たまひひいなむなむなんがががいといといとさうざうしきさうざうしきそうぞうしきことことことををを覺覺おぼすすす。。。
- 12殿殿とのははは「「「今今いまののの程程ほどにににうちうちうちににに參參まいりりり侍侍はべりりりててて夕夕ゆうつつつ方方かた迎迎むかへへえににに參參まいりりり侍侍はべらららむむん」」」とてとてとて出出いででで給給たまひひいぬぬぬ。。。いふかひなきいふかひなきいうかいなきことことことをををなだらかなだらかなだらかにににいひいひいいなしなしなしててて、、、さてさてさてもももやややあらあらあらましましましととと覺覺おぼせせせどどど猶猶なおいといといと心心こころやましけれやましけれやましければばば、、、
- 13人人ひとののの御御おん程程ほどののの少少すこしししものものしくものものしくものものしくなりなりなりなむなむなんにににかたはかたはかたわならならならずずず見見みなしなしなしててて、、、そのそのそのほどほどほど志志こころざしののの深深ふかさささ淺淺あささささのののおもむきおもむきおもむきをををももも見見み定定さだめめめてててゆるすゆるすゆるすともともとも殊殊こと更更さらなるなるなるやうやうようにににもてもてもてなしなしなしてててこそこそこそあらあらあらめめめ、、、制制せいししし諫諫いさむむむともともとも一一ひと所所ところにてにてにてはははをさなきをさなきおさなき心心こころのののまゝまゝままににに見見み苦苦ぐるしうしうしゅうこそこそこそあらあらあらめめめ、、、
- 14宮宮みやもももよもよもよもあながちあながちあながちににに制制せいしししのたまふのたまふのたまうことことことあらあらあらじじじとととおぼせおぼせおぼせばばば、、、女御女御にようごののの御御おん徒然徒然つれずれにににことことことつけつけつけてててこゝこゝここにににもももかしこかしこかしこにににもももおいらかおいらかおいらかにににいひいひいいなしなしなしててて渡渡わたししし給給たまふふうなりなりなりけりけりけり。。。
現代語訳
内大臣は、北の方にはこのようなことがあったとも様子もお見せにならず、ただおおよそたいそう不機嫌なご様子で、「中宮が格別な装いで参内なさったのに、女御が世の中を沈んだ気持ちで過ごしていらっしゃるのが気の毒で胸が痛いので、退出させ申し上げて、気楽に休ませ申し上げよう。
さすがに帝がずっとおそばにお仕えさせなさって、昼夜おいでになるようなので、仕えている女房たちも気が休まらず、苦しいとばかりこぼしているようだから」とおっしゃって、急に退出させ申し上げなさる。お暇もなかなか許されないのを、不満そうになさって、帝はしぶしぶお許しになったのを、無理にお迎えなさる。
「退屈にお思いになるでしょうから、姫君を呼んで一緒に遊びなどなさい。大宮にお預け申し上げているのは安心だけれど、たいそうこざかしく大人びた人が入りまじっていて、自然と近しくしているのも、よくない年頃になってしまったので」と、女御に申し上げなさって、急に姫君をお移し申し上げなさる。
大宮はたいそうがっかりなさって、「一人娘(葵の上)が亡くなりなさってから、たいそう寂しく心細かったのに、嬉しくもこの君を得て、生きている限りの大切な宝と思って、朝夕につけて老いのわずらわしさも慰めようと思っていたのに。思いのほかに隔てがあるとお思いになるのもつらくて」と申し上げなさると、
内大臣はかしこまって、「心に不満に存じられることは、そのように存じられますとだけ申し上げたのです。深く隔てを置くことなど、どうしてございましょう。宮中にお仕えしております娘が、世の中を恨めしそうにして、このころ退出しておりますが、たいそう所在なく思ってふさぎこんでおりますので、気の毒に見ておりまして、一緒に遊びなどもして慰めよと存じまして。ほんのしばらくのことでございますので、
育てて一人前にしてくださったご恩を、おろそかにはまさか思い申し上げますまい」と申し上げなさるので、こうお思い立ってしまったからには、お引き止め申し上げなさっても、思い直すようなお心ではないので、たいそう物足りなく残念にお思いになって、
「人の心こそ、つらいものです。あれこれと幼い心どうしでも、私に隠しだてをして、うとましいことよ。また、そうでもあろう。大臣が物事の道理を深くご存じでありながら、私を恨んで、こうして連れてお移しになることよ。あちらで、これから先、安心なこともないでしょう」と、泣きながらおっしゃる。
ちょうどその時、冠者の君が参上なさった。もしかしたら少しの隙もあろうかと、このころはしきりにお顔を見せていらっしゃるのであった。内大臣の御車があるので、良心の呵責にきまり悪くて、そっと隠れてご自分の部屋に入っていらっしゃった。
内大臣の御子息たち、左少将、少納言、兵衛佐、侍従、大夫などという方々も、皆こちらに参り集まっているけれど、御簾の内に入ることはお許しにならない。
左衛門督や権中納言なども、別の母君のお生まれだけれど、故殿(太政大臣)のお扱いのままに、今も参上してお仕え申し上げなさることが熱心なので、そのお子たちもさまざまに参上なさるけれど、この君(夕霧)に似る美しさはないように見える。
大宮のご愛情も比べるものもなくお思いになっているが、ただこの姫君だけを、身近にかわいいものとして大切にお世話なさって、おそばを離さず、かわいいものとお思いになっていたのに、こうしてお移りになってしまうのが、たいそう寂しいことだとお思いになる。
殿(内大臣)は、「今のうちに宮中に参上いたしまして、夕方に迎えに参りましょう」と言ってお出になった。言ってもしかたのないことを穏やかに言いつくろって、そのままにしておこうかともお思いになるけれど、やはりたいそう不愉快なので、
夕霧の身分が少し重々しくなったら、不体裁でないと見なして、その間に愛情の深さ浅さの様子をも見定めて、許すにしても、改まった形で取り計らってこそよいだろう、制し諫めても、一つ所にいては、幼い心のままに見苦しいことになるだろう、
大宮もまさか無理に制しておっしゃることはあるまいとお思いになるので、女御の所在なさにかこつけて、こちらにもあちらにも穏やかに言いなして、お移しになるのであった。
意訳
内大臣は、北の方には事情を明かさず、弘徽殿の女御を宮中から退出させ、その話し相手にという口実で、雲居雁を自邸に引き取ろうとする。大宮は、唯一の慰めを奪われると嘆き、自分を恨んで連れ去るのだと涙を流す。
夕霧は内大臣の車を見て、気まずく自室に隠れる。内大臣は、夕霧が成長してから志を見定めて許してもよいと考えつつも、今は二人を引き離すことにする。
語釈・文法注
- 異御腹
- 別の母君のお生まれ。左衛門督や権中納言は、故太政大臣の子で、内大臣とは母が違う兄弟。大宮の実子ではない。
文法
- 「こそ…已然形」(人の心こそうきものはあれ)
- 強調の係り結び。「人の心こそ、つらいものです」。
- 打消推量の「じ」(よも思ひ聞えさせじ)
- 「よも…じ」で「まさか…ないだろう」。
解説
内大臣は、娘の女御の退出を口実にして、雲居雁を大宮のもとから引き離す。大宮にとって、雲居雁は亡き葵の上に代わる慰めであり、その喪失は大きい。
内大臣が、夕霧が成長したら許してもよいと考えている点は注目される。内大臣の反対は絶対的なものではなく、源氏への対抗意識と世間体からくるものであることがうかがえる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、398–399頁(コマ203)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日