古典ライブラリー

源氏物語 第21帖 少女(6)

大宮邸の琴の夕べ

登場人物:内大臣(頭中将)・大宮・雲居雁・夕霧

時雨の降る秋の夕暮れ、内大臣は大宮のもとを訪れ、娘の雲居雁に琴を弾かせる。内大臣は明石の君の琵琶の腕前を話題にし、弘徽殿の女御が立后できなかった無念を語って、せめて雲居雁を東宮に入内させたいと願う。夕霧も訪れて笛を吹き、内大臣は拍子をとって謡う。内大臣は、雲居雁を夕霧から遠ざけて奥へ移し、年老いた女房たちは、困ったことが起こりそうだとささやき合う。

時雨の降る秋の夕暮れ、大宮邸で、少女の雲居雁が箏の琴を弾き、内大臣が和琴を引き寄せ、御簾越しに少年の夕霧が笛を手にしている場面(AI生成)
時雨の降る秋の夕暮れ、大宮邸で、少女の雲居雁が箏の琴を弾き、内大臣が和琴を引き寄せ、御簾越しに少年の夕霧が笛を手にしている場面
  1. 1所々ところどころ所々ところどころところどころのののだいきやうだいきやうだいきょうどもどもどもゝゝもはてはてはてゝゝて世よ世よよののの中なか中なかなかののの御おん御おんおんいそぎいそぎいそぎもももなくなくなくのどやかのどやかのどやかににになりなりなりぬるぬるぬる頃ころ頃ころころ時雨しぐれ時雨しぐれしぐれうちうちうちしししててて荻をぎ荻をぎおぎのののうはうはうわ風かぜ風かぜかぜもももたゞたゞただならならならぬぬぬ夕暮ゆふぐれ夕暮ゆふぐれゆうぐれににに大宮おほみや大宮おほみやおおみやののの御おん御おんおん方かた方かたかたににに內うち內うちうちのののおとゞおとゞおとど參まゐ參まゐまいりりり給たま給たまたまひひいててて姫君ひめぎみ姫君ひめぎみひめぎみわたしわたしわたし聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまひひいててて御おん御おんおん琴こと琴ことことなどなどなど彈ひ彈ひひかかかせせせ奉たてまつ奉たてまつたてまつりりり給たま給たまたまふふう。。。宮みや宮みやみやははは萬よろづ萬よろづよろずののの物もの物ものものののの上手じやうず上手じやうずじょうずにににおはすれおはすれおわすればばばいづれいづれいずれももも傳つた傳つたつたへへえ奉たてまつ奉たてまつたてまつりりり給たま給たまたまふふう。。。
  2. 2「「「琵琶びは琵琶びはびわこそこそこそをんなをんなおんなのののしししたるたるたるににににくきにくきにくきやうやうようなれなれなれどどどらうらうじきらうらうじきろうろうじきものものものににに侍はべ侍はべはべれれれ。。。今いま今いまいまののの世よ世よよにににまことしうまことしうまことしゅう傳つた傳つたつたへへえたるたるたる人ひと人ひとひとをさをさをさをさおさおさ侍はべ侍はべはべらららずずずなりなりなりにににたりたりたり」」」何なに何なになにのののみこみこみこくれくれくれののの源氏げんじ源氏げんじげんじなどなどなど數かぞ數かぞかぞへへへ給たま給たまたまひひいててて「「「をんなをんなおんなののの中なか中なかなかにににはははおほきおほきおおきおとゞおとゞおとどののの山里やまざと山里やまざとやまざとにににこめこめこめ置お置おおききき給たま給たまたまへへえるるる人ひと人ひとひとこそこそこそいといといと上手じやうず上手じやうずじょうずととと聞き聞ききききき侍はべ侍はべはべれれれ。。。
  3. 3物もの物ものものののの上手じやうず上手じやうずじょうずののの後のち後のちのちにににははは侍はべ侍はべはべれれれどどど末すゑ末すゑすえににになりなりなりててて山賤やまがつ山賤やまがつやまがつにてにてにて年とし年としとし經へ經へへたるたるたる人ひと人ひとひといかでいかでいかでさしもさしもさしも引ひ引ひひききき勝すぐ勝すぐすぐれれれけむけむけん、、、かのかのかのおとゞおとゞおとどいといといと心こころ心こころこころことことことにににこそこそこそ思おも思おもおもひひいてててのたまふのたまふのたまう折々をりをり折々をりをりおりおりはべれはべれはべれ、、、異こと異ことこと事ごと事ごとごとよりよりよりはははあそびあそびあそびののの方かた方かたかたのののさえさえさえははは猶なほ猶なほなおひろうひろうひろうあはせあはせあわせ彼此かれこれ彼此かれこれかれこれににに通かよ通かよかよはしはしわし侍はべ侍はべはべるるるこそこそこそかしこけれかしこけれかしこけれ。。。ひとりごとひとりごとひとりごとにてにてにて上手じやうず上手じやうずじょうずとととなりなりなりけむけむけんこそこそこそ珍めづら珍めづらめずらしきしきしきことことことなれなれなれ」」」などなどなどのたまひのたまひのたまいててて宮みや宮みやみやにににそゝのかしそゝのかしそそのかし聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまへへえばばば
  4. 4「「「ぢうぢうじゅうさすさすさすことことことうひうひしくうひうひしくういういしくなりなりなりにににけりけりけりややや」」」とととのたまへのたまへのたまえどどどおもしろうおもしろうおもしろう彈ひ彈ひひききき給たま給たまたまふふう。。。「「「幸さいはひ幸さいはひさいわいにににうちうちうち添そ添そそへへえててて猶なほ猶なほなお怪あや怪あやあやしうしうしゅうめでたかりめでたかりめでたかりけるけるける人ひと人ひとひとなりなりなりややや。。。をひをひおいののの世よ世よよにににもももたまへたまへたまえらららぬぬぬをんなごをんなごおんなごををを設まう設まうもうけけけさせさせさせ奉たてまつ奉たてまつたてまつりりりててて身み身みみににに添そ添そそへへえてててもももやつしやつしやつし居ゐ居ゐいたらたらたらずずず。。。やんごとなきやんごとなきやんごとなきににに讓ゆづ讓ゆづゆずれれれるるる心こころ心こころこころおきておきておきて事こと事ことこともももなかるなかるなかるべきべきべき人ひと人ひとひとなりなりなりとととぞぞぞ聞き聞ききききき侍はべ侍はべはべるるる」」」などなどなどかつかつかつ御おん御おんおん物語ものがたり物語ものがたりものがたり聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまふふう。。。
  5. 5「「「をんなをんなおんなははは唯たゞ唯たゞただ心こころ心こころこころばせばせばせよりよりよりこそこそこそ、、、世よ世よよににに用もち用もちもちゐゐいらるゝらるゝらるるものものものににに侍はべ侍はべはべりりりけれけれけれ」」」などなどなど人ひと人ひとひとののの上うへ上うへうえのたまひのたまひのたまい出い出いいでででゝゝて「「「女御にようご女御にようごにようごをををけしうけしうけしゅうはははあらあらあらずずず何事なにごと何事なにごとなにごとももも人ひと人ひとひとににに劣おと劣おとおとりりりてててはははおひおひおい出い出いいでででずずずかしかしかしととと思おも思おもおもひひい給たま給たまたまひひいしかしかしかどどど、、、思おも思おもおもははわぬぬぬ人ひと人ひとひとにににおさおさおされれれぬるぬるぬる宿世すくせ宿世すくせすくせににになむなむなん世よ世よよははは思おもひ思おもひおもいののの外ほか外ほかほかなるなるなるものものものととと思おも思おもおもひひい侍はべ侍はべはべりりりぬるぬるぬる。。。
  6. 6このこのこの君きみ君きみきみをををだにだにだにいかでいかでいかで思おも思おもおもふふうさまさまさまににに見み見みみなしなしなし侍はべ侍はべはべらららむむん。。。春宮とうぐう春宮とうぐうとうぐうののの御おん御おんおん元服げんぶく元服げんぶくげんぶく只たゞ只たゞただ今いま今いまいまのののことことことににになりなりなりぬるぬるぬるをををととと、、、人ひと人ひとひとしれしれしれずずず思おも思おもおもひひい給たま給たまたまへへえ心こころ心こころこころざしざしざしたるたるたるををを、、、かうかうこういふいふいうさいはひさいはひさいわい人ひと人ひとひとののの腹はら腹はらはらののの后きさき后きさききさきこそこそこそ又また又またまたおひおひおいすがひすがひすがいぬれぬれぬれ。。。立た立たたちちち出い出いいででで給たま給たまたまへへえらららむむんににに、、、ましてましてましてきしろふきしろふきしろう人ひと人ひとひとありがたくありがたくありがたくややや」」」とととうちうちうち歎なげ歎なげなげききき給たま給たまたまへへえばばば
  7. 7「「「などなどなどかかかさしもさしもさしもあらあらあらむむんこのこのこの家いへ家いへいえにににさるさるさるすぢすぢすじののの人ひと人ひとひといでいでいで物もの物ものものししし給たま給たまたまははわででで、、、止や止ややむむむやうやうようあらあらあらじじじととと故こ故ここ大臣おとゞ大臣おとゞおとどのののおもひおもひおもい給たま給たまたまひひいててて女御にようご女御にようごにようごののの御おん御おんおん事こと事ことことをををもももゐゐいたちたちたち急いそ急いそいそぎぎぎ給たま給たまたまひひいしししものものものをををおはせおはせおわせましかましかましかばばば、、、かくかくかくもてもてもて僻ひが僻ひがひがむるむるむる事こと事ことこともももなからなからなからましましまし」」」などなどなど、、、このこのこの御おん御おんおん事こと事ことことにてにてにてぞぞぞおほきおほきおおきおとゞおとゞおとどををを怨うら怨うらうらめしげめしげめしげににに思おも思おもおもひひい聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまへへえるるる。。。
  8. 8姫君ひめぎみ姫君ひめぎみひめぎみののの御おん御おんおんさまさまさまのののいといといときびはきびはきびわににに美うつく美うつくうつくしうしうしゅうててて箏さう箏さうそうののの御おん御おんおん琴こと琴ことこと彈ひ彈ひひききき給たま給たまたまふふうををを御おん御おんおんぐしぐしぐしのののさがりばさがりばさがりば、、、かんざしかんざしかんざしなどなどなどのののあてあてあてににになまめかしきなまめかしきなまめかしきをををうちうちうちまもりまもりまもり給たま給たまたまへへえばばば耻は耻ははぢぢじらひらひらいててて少すこ少すこすこしししそばめそばめそばめ給たま給たまたまへへえるるる、、、傍そば傍そばそばめめめつらつきつらつきつらつき美うつく美うつくうつくしげしげしげにてにてにてとりゆとりゆとりゆののの手て手ててつきつきつきいみじういみじういみじゅうつくりつくりつくりたるたるたるものものものゝゝの心ここ心ここここちちちするするするををを宮みや宮みやみやももも限かぎり限かぎりかぎりなくなくなく悲かな悲かなかなしししとととおぼしおぼしおぼしたりたりたり。。。
  9. 9掻か掻かかききき合あは合あはあわせせせなどなどなど彈ひ彈ひひきききすさびすさびすさび給たま給たまたまひひいててて押お押おおしししやりやりやり給たま給たまたまひひいつつつ。。。おとゞおとゞおとど和琴わごん和琴わごんわごんひきひきひき寄よ寄よよせせせ給たま給たまたまひひいてててりちりちりちのののしらべしらべしらべのののなかなかなかなかなかなか今いま今いまいまめきめきめきたるたるたるをををさるさるさる上手じやうず上手じやうずじょうずのののみだれみだれみだれてててかいかいかい彈ひ彈ひひききき給たま給たまたまへへえるるるいといといとおもしろしおもしろしおもしろし。。。おまへおまへおまえののの梢こずゑ梢こずゑこずえほろほろほろほろほろほろととと殘のこ殘のこのこらららぬぬぬににに老おい老おいおい御達ごたち御達ごたちごたちなどなどなどこゝかしここゝかしこここかしこののの御おん御おんおん几帳きちやう几帳きちやうきちょうののの後うしろ後うしろうしろににに頭かしら頭かしらかしらをををつどへつどへつどえたりたりたり。。。
  10. 10「「「風かぜ風かぜかぜののの力ちから力ちからちから盖けだ盖けだけだししし寡すくな寡すくなすくな」」」とととうちうちうちずじずじずじ給たま給たまたまひひいててて一いち一いちいちきんきんきんののの手て手ててならならならねねねどどど怪あや怪あやあやしくしくしく物もの物ものものあはれあはれあわれなるなるなる夕ゆふべ夕ゆふべゆうべかなかなかな。。。猶なほ猶なほなおあそばさあそばさあそばさむむんややや」」」とてとてとて秋風樂しうふうらく秋風樂しうふうらくしゅうふうらくにににかきかきかき合あは合あはあわせせせてててさうさうそう歌が歌ががししし給たま給たまたまへへえるるる聲こゑ聲こゑこえいといといとおもしろけれおもしろけれおもしろければばば、、、皆みな皆みなみなさまざまさまざまさまざまおとゞおとゞおとどをををもももいといといとうつくしうつくしうつくしととと思おも思おもおもひひい聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまふふうににに、、、いとゞいとゞいとどそへそへそえむむんとととにににやややあらあらあらむむん、、、くわざくわざかざののの君きみ君きみきみ參まゐ參まゐまいりりり給たま給たまたまへへえりりり。。。
  11. 11「「「こなたこなたこなたににに」」」とてとてとて御おん御おんおん几帳きちやう几帳きちやうきちょう隔へだ隔へだへだてててゝゝて入い入いいれれれ奉たてまつ奉たてまつたてまつりりり給たま給たまたまへへえりりり。。。「「「をさをさをさをさおさおさ對面たいめん對面たいめんたいめんもももえええ給たま給たまたまはらはらわらぬぬぬかなかなかな、、、などなどなどかくかくかくこのこのこの御おん御おんおん學問がくもん學問がくもんがくもんのののあながちあながちあながちならならならむむん。。。ざえざえざえののの程々ほどほど程々ほどほどほどほどよりよりより餘あま餘あまあまりりりぬるぬるぬるもももあぢきなきあぢきなきあじきなきわざわざわざとととおとゞおとゞおとどもももおぼしおぼしおぼし、、、知し知ししれれれるるることことことなるなるなるををを、、、かくかくかくおきておきておきて聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまふふうやうやうようあらあらあらむむんとととははは思おも思おもおもううう給たま給たまたまへへえながらながらながら、、、かうかうこう籠こも籠こもこもりりりおはするおはするおわすることことことなむなむなん心苦こころぐる心苦こころぐるこころぐるしうしうしゅう侍はべ侍はべはべるるるととと聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまひひいててて
  12. 12「「「時々ときどき時々ときどきときどきはははことことことわざわざわざししし給たま給たまたまへへえ笛ふえ笛ふえふえののの音ね音ねねにににもももふるふるふることことことははは傳つた傳つたつたはるはるわるものものものなりなりなり」」」とてとてとて御おん御おんおん笛ふえ笛ふえふえ奉たてまつ奉たてまつたてまつりりり給たま給たまたまふふう。。。いといといと若わか若わかわこうううをかしげをかしげおかしげなるなるなる音ね音ねねににに吹ふ吹ふふきききたてたてたてゝゝていみじういみじういみじゅうおもしろけれおもしろけれおもしろければばば御おん御おんおん琴こと琴ことことどもどもどもをををばばばしばししばししばしとゞめとゞめとどめててておとゞおとゞおとどははははうしはうしほうしおどろおどろしからおどろおどろしからおどろおどろしからずずずうちうちうち鳴な鳴なならしらしらし給たま給たまたまひひいててて萩はぎ萩はぎはぎががが花はな花はなはななどなどなどうたひうたひうたいたまふたまふたまう。。。
  13. 13「「「大殿おほとの大殿おほとのおおとのもももかやうかやうかようののの御おん御おんおん遊あそび遊あそびあそびににに心こころ心こころこころとゞめとゞめとどめ給たま給たまたまひひいててていそがしきいそがしきいそがしき御おん御おんおん政まつりごと政まつりごとまつりごとどもどもどもをををばばば遁のが遁のがのがれれれ給たま給たまたまふふうなりなりなりけりけりけり。。。げにげにげにあぢきなきあぢきなきあじきなき世よ世よよににに心こころ心こころこころののの行ゆ行ゆゆくくくわざわざわざをををしししてててこそこそこそすぐしすぐしすぐし侍はべ侍はべはべりりりなななまほしけれまほしけれまほしけれ」」」などなどなどのたまひのたまひのたまいててて、、、御おん御おんおんかはらけかはらけかわらけ參まゐ參まゐまいりりり給たま給たまたまふふうににに暗くら暗くらくろうううなれなれなればばばおほとなぶらおほとなぶらおおとなぶらまゐりまゐりまいり、、、御おん御おんおん湯漬ゆづけ湯漬ゆづけゆずけくだものくだものくだものなどなどなど誰たれ誰たれたれももも誰たれ誰たれたれももも聞きこ聞きこきこしめすしめすしめす。。。
  14. 14姫君ひめぎみ姫君ひめぎみひめぎみはははあなたあなたあなたににに渡わた渡わたわたししし奉たてまつ奉たてまつたてまつりりり給たま給たまたまひひいつつつ。。。强し强ししいいいてててけどほくけどほくけどおくもてもてもてなしなしなし給たま給たまたまひひい御おん御おんおん琴こと琴ことことののの音ね音ねねばかりばかりばかりをををももも聞き聞ききかかかせせせ奉たてまつ奉たてまつたてまつらららじじじととと今いま今いまいまはははこよなくこよなくこよなくへだてへだてへだて聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまふふうををを「「「いとほしきいとほしきいとおしき事こと事ことことありありありぬぬぬべきべきべき世よ世よよなるなるなるにににこそこそこそ」」」ととと近ちか近ちかちこううう仕つか仕つかつかうまつるうまつるうまつる大宮おほみや大宮おほみやおおみやののの御おん御おんおん方かた方かたかたのののねびねびねび人びと人びとびとどもどもどもさゝめきさゝめきささめきけりけりけり。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

あちこちの大饗なども終わって、世の中のご準備事もなく、のどかになったころ、時雨がさっと降って、荻の上を吹く風もただならぬ夕暮れに、大宮の御方に内大臣が参上なさって、姫君(雲居雁)をお呼び寄せ申し上げなさって、御琴などをお弾かせ申し上げなさる。大宮はあらゆる楽器の名手でいらっしゃるので、どれも姫君にお伝え申し上げなさる。

「琵琶こそは、女が弾くのは見苦しいようだけれど、巧みな楽器でございます。今の世に、本格的に伝えている人はほとんどいなくなってしまいました」と、何々親王、何々源氏などと数え上げなさって、「女の中では、太政大臣が山里に籠めておいていらっしゃる人(明石の君)こそ、たいそう上手と聞いております。

名手の子孫ではございますが、末流になって、山里の田舎人として年を経た人が、どうしてそれほど抜きん出たのでしょう。あの大臣がたいそう格別に思っておっしゃる折々がございます。他のことよりは、音楽の方面の才は、やはり広く合奏して、あれこれの人に通じさせてこそすぐれるのです。独り稽古で上手になったというのは珍しいことです」などとおっしゃって、大宮にお勧め申し上げなさると、

大宮は「柱をさすことも、ぎこちなくなってしまいましたよ」とおっしゃるけれど、趣深くお弾きになる。「幸運に加えて、やはり不思議なほどすばらしい人なのですね。老いの世にお持ちでなかった女の子をお産み申し上げて、手元においても身分を落とさせず、高貴な方に譲った心構えは、非の打ちどころもない人だと聞いております」などと、一方ではお話を申し上げなさる。

「女はただ心がけによってこそ、世に重んじられるものでございますね」などと、人の身の上をおっしゃり出して、「女御を、悪くはなく、何事も人に劣っては育てまいと思っておりましたけれど、思いがけない人に押されてしまった宿縁で、世は思いのほかのものだと思い知りました。

せめてこの君だけでも、何とかして思いどおりにしたいものです。東宮の御元服がもうすぐのことになったのでと、人知れず志しておりましたのに、ああいう幸運な人の産んだ后候補が、また追いすがってきました。入内なさったら、まして競い合える人はなかなかいないでしょう」とため息をおつきになると、

大宮は「どうしてそんなことがありましょう。この家に、そうした后の筋の人が出ずに終わることはあるまいと、故大臣がお思いになって、女御のことも自ら奔走してお急ぎになったのに、生きていらっしゃったら、こんなふうにひがんだ扱いをすることもなかったでしょうに」などと、このことについては、太政大臣(源氏)を恨めしくお思い申し上げていらっしゃる。

姫君のご様子がたいそう幼く、かわいらしくて、箏の御琴をお弾きになるのを、御髪の下がり端や髪の生え際などが上品で優美なのを、内大臣がじっと見つめていらっしゃると、恥じらって少し横を向いていらっしゃる横顔や頬つきがかわいらしくて、弦を押さえる左手の手つきが、たいそう精巧に作った人形のような感じがするのを、大宮もこの上なくかわいいとお思いになっている。

掻き合わせなどを弾き興じなさって、押しやりなさった。大臣は和琴を引き寄せなさって、律の調べの、かえって今風なのを、あれほどの名手がくつろいで弾き鳴らしなさるのは、たいそう趣深い。御前の梢の葉がはらはらと散り残らないので、年老いた女房たちが、あちらこちらの御几帳の後ろに頭を寄せ集めている。

「風の力はけだし少なし」と口ずさみなさって、「琴の手並みというわけではないけれど、不思議なほどしみじみとした夕べですね。もっとお弾きになりませんか」と言って、秋風楽に合わせて唱歌をなさる声がたいそう趣深いので、皆さまざまに、大臣をもたいそうすばらしいとお思い申し上げなさるところに、いっそう興を添えようというのであろうか、冠者の君(夕霧)が参上なさった。

「こちらに」と言って、御几帳を隔ててお入れ申し上げなさった。「ほとんどお目にかかることもできませんね。どうしてこんなに、このご学問に熱心なのでしょう。学才が身分より過ぎるのもつまらないことだと、大臣(源氏)もお思いになって、ご存じのことなのに、こうしてお決め申し上げなさるわけがあるのだろうとは存じながら、こうして籠もっていらっしゃるのがお気の毒でございます」と申し上げなさって、

「時々は他のこともなさい。笛の音にも、昔の聖賢の教えは伝わるものです」と言って、御笛を差し上げなさる。たいそう若々しく美しい音で吹き立てて、たいそう趣深いので、御琴などはしばらく止めて、大臣は拍子を大げさでなく打ち鳴らしなさって、「萩が花摺り」などをお謡いになる。

「大殿(源氏)も、このような管弦の遊びに心をとめなさって、忙しい政務などはお避けになるのでした。本当に、つまらない世の中では、心の満ちることをして過ごしたいものです」などとおっしゃって、杯をお召し上がりになるうちに、暗くなったので、灯火をおともしし、御湯漬けや果物などを、誰も誰も召し上がる。

姫君はあちらにお移し申し上げなさった。強いてよそよそしく扱いなさって、御琴の音だけでもお聞かせ申し上げまいと、今はこの上なく隔てを置き申し上げなさるのを、「お気の毒なことが起こりそうな仲なのでしょう」と、近くにお仕えする大宮の御方の年老いた女房たちがささやき合った。

意訳

時雨の降る秋の夕暮れ、内大臣は大宮のもとで雲居雁に琴を弾かせる。内大臣は明石の君の琵琶の腕前を話題にし、弘徽殿の女御が立后できなかった無念を語って、せめて雲居雁を東宮に入内させたいと願う。大宮は、亡き夫が生きていればと源氏を恨む。

夕霧も訪れて笛を吹き、内大臣は拍子をとって謡う。内大臣は、雲居雁を夕霧から遠ざけて奥へ移し、年老いた女房たちは、困ったことが起こりそうだとささやき合う。

語釈・文法注

后がね
后の候補。ここでは、明石の君が産んだ明石の姫君のこと。源氏はこの姫君を東宮に入内させるつもりでいる。
風の力盖し寡し
『文選』の「洞庭の波は木の葉を落とす。風の力けだし少なし」による。木の葉がはらはらと散る情景に合わせて口ずさんだもの。
萩が花ずり
催馬楽「更衣(ころもがへ)」の一節。「衣がへせむや、我がきぬは野原篠原萩の花ずりや」。

文法

反実仮想の「ましかば…まし」(おはせましかば…なからまし)
「生きていらっしゃったら、…なかっただろうに」。
強意の「ぬべし」(ありぬべき)
「きっと…しそうな」。

解説

内大臣は、源氏が後見する梅壺に娘の立后を阻まれ、さらに明石の姫君が東宮妃の有力候補であることを意識している。雲居雁を東宮に入内させたいという内大臣の願いが、この後の夕霧と雲居雁の恋の障害となる。

内大臣が明石の君を褒めながらも、その娘が自分の娘の競争相手になることを嘆く言葉には、源氏への対抗意識がにじんでいる。

関連

出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、390–393頁(コマ198–199)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日