源氏物語 第21帖 少女(6)
大宮邸の琴の夕べ
時雨の降る秋の夕暮れ、内大臣は大宮のもとを訪れ、娘の雲居雁に琴を弾かせる。内大臣は明石の君の琵琶の腕前を話題にし、弘徽殿の女御が立后できなかった無念を語って、せめて雲居雁を東宮に入内させたいと願う。夕霧も訪れて笛を吹き、内大臣は拍子をとって謡う。内大臣は、雲居雁を夕霧から遠ざけて奥へ移し、年老いた女房たちは、困ったことが起こりそうだとささやき合う。

- 1所々所々ところどころのののだいきやうだいきやうだいきょうどもどもどもゝゝもはてはてはてゝゝて世世よののの中中なかののの御御おんいそぎいそぎいそぎもももなくなくなくのどやかのどやかのどやかににになりなりなりぬるぬるぬる頃頃ころ時雨時雨しぐれうちうちうちしししててて荻荻おぎのののうはうはうわ風風かぜもももたゞたゞただならならならぬぬぬ夕暮夕暮ゆうぐれににに大宮大宮おおみやののの御御おん方方かたににに內內うちのののおとゞおとゞおとど參參まいりりり給給たまひひいててて姫君姫君ひめぎみわたしわたしわたし聞聞きこえええ給給たまひひいててて御御おん琴琴ことなどなどなど彈彈ひかかかせせせ奉奉たてまつりりり給給たまふふう。。。宮宮みやははは萬萬よろずののの物物ものののの上手上手じょうずにににおはすれおはすれおわすればばばいづれいづれいずれももも傳傳つたへへえ奉奉たてまつりりり給給たまふふう。。。
- 2「「「琵琶琵琶びわこそこそこそをんなをんなおんなのののしししたるたるたるににににくきにくきにくきやうやうようなれなれなれどどどらうらうじきらうらうじきろうろうじきものものものににに侍侍はべれれれ。。。今今いまののの世世よにににまことしうまことしうまことしゅう傳傳つたへへえたるたるたる人人ひとをさをさをさをさおさおさ侍侍はべらららずずずなりなりなりにににたりたりたり」」」何何なにのののみこみこみこくれくれくれののの源氏源氏げんじなどなどなど數數かぞへへへ給給たまひひいててて「「「をんなをんなおんなののの中中なかにににはははおほきおほきおおきおとゞおとゞおとどののの山里山里やまざとにににこめこめこめ置置おききき給給たまへへえるるる人人ひとこそこそこそいといといと上手上手じょうずととと聞聞きききき侍侍はべれれれ。。。
- 3物物ものののの上手上手じょうずののの後後のちにににははは侍侍はべれれれどどど末末すえににになりなりなりててて山賤山賤やまがつにてにてにて年年とし經經へたるたるたる人人ひといかでいかでいかでさしもさしもさしも引引ひききき勝勝すぐれれれけむけむけん、、、かのかのかのおとゞおとゞおとどいといといと心心こころことことことにににこそこそこそ思思おもひひいてててのたまふのたまふのたまう折々折々おりおりはべれはべれはべれ、、、異異こと事事ごとよりよりよりはははあそびあそびあそびののの方方かたのののさえさえさえははは猶猶なおひろうひろうひろうあはせあはせあわせ彼此彼此かれこれににに通通かよはしはしわし侍侍はべるるるこそこそこそかしこけれかしこけれかしこけれ。。。ひとりごとひとりごとひとりごとにてにてにて上手上手じょうずとととなりなりなりけむけむけんこそこそこそ珍珍めずらしきしきしきことことことなれなれなれ」」」などなどなどのたまひのたまひのたまいててて宮宮みやにににそゝのかしそゝのかしそそのかし聞聞きこえええ給給たまへへえばばば
- 4「「「ぢうぢうじゅうさすさすさすことことことうひうひしくうひうひしくういういしくなりなりなりにににけりけりけりややや」」」とととのたまへのたまへのたまえどどどおもしろうおもしろうおもしろう彈彈ひききき給給たまふふう。。。「「「幸幸さいわいにににうちうちうち添添そへへえててて猶猶なお怪怪あやしうしうしゅうめでたかりめでたかりめでたかりけるけるける人人ひとなりなりなりややや。。。をひをひおいののの世世よにににもももたまへたまへたまえらららぬぬぬをんなごをんなごおんなごををを設設もうけけけさせさせさせ奉奉たてまつりりりててて身身みににに添添そへへえてててもももやつしやつしやつし居居いたらたらたらずずず。。。やんごとなきやんごとなきやんごとなきににに讓讓ゆずれれれるるる心心こころおきておきておきて事事こともももなかるなかるなかるべきべきべき人人ひとなりなりなりとととぞぞぞ聞聞きききき侍侍はべるるる」」」などなどなどかつかつかつ御御おん物語物語ものがたり聞聞きこえええ給給たまふふう。。。
- 5「「「をんなをんなおんなははは唯唯ただ心心こころばせばせばせよりよりよりこそこそこそ、、、世世よににに用用もちゐゐいらるゝらるゝらるるものものものににに侍侍はべりりりけれけれけれ」」」などなどなど人人ひとののの上上うえのたまひのたまひのたまい出出いでででゝゝて「「「女御女御にようごをををけしうけしうけしゅうはははあらあらあらずずず何事何事なにごとももも人人ひとににに劣劣おとりりりてててはははおひおひおい出出いでででずずずかしかしかしととと思思おもひひい給給たまひひいしかしかしかどどど、、、思思おもははわぬぬぬ人人ひとにににおさおさおされれれぬるぬるぬる宿世宿世すくせににになむなむなん世世よははは思思おもいののの外外ほかなるなるなるものものものととと思思おもひひい侍侍はべりりりぬるぬるぬる。。。
- 6このこのこの君君きみをををだにだにだにいかでいかでいかで思思おもふふうさまさまさまににに見見みなしなしなし侍侍はべらららむむん。。。春宮春宮とうぐうののの御御おん元服元服げんぶく只只ただ今今いまのののことことことににになりなりなりぬるぬるぬるをををととと、、、人人ひとしれしれしれずずず思思おもひひい給給たまへへえ心心こころざしざしざしたるたるたるををを、、、かうかうこういふいふいうさいはひさいはひさいわい人人ひとののの腹腹はらののの后后きさきこそこそこそ又又またおひおひおいすがひすがひすがいぬれぬれぬれ。。。立立たちちち出出いででで給給たまへへえらららむむんににに、、、ましてましてましてきしろふきしろふきしろう人人ひとありがたくありがたくありがたくややや」」」とととうちうちうち歎歎なげききき給給たまへへえばばば
- 7「「「などなどなどかかかさしもさしもさしもあらあらあらむむんこのこのこの家家いえにににさるさるさるすぢすぢすじののの人人ひといでいでいで物物ものししし給給たまははわででで、、、止止やむむむやうやうようあらあらあらじじじととと故故こ大臣大臣おとどのののおもひおもひおもい給給たまひひいててて女御女御にようごののの御御おん事事ことをををもももゐゐいたちたちたち急急いそぎぎぎ給給たまひひいしししものものものをををおはせおはせおわせましかましかましかばばば、、、かくかくかくもてもてもて僻僻ひがむるむるむる事事こともももなからなからなからましましまし」」」などなどなど、、、このこのこの御御おん事事ことにてにてにてぞぞぞおほきおほきおおきおとゞおとゞおとどををを怨怨うらめしげめしげめしげににに思思おもひひい聞聞きこえええ給給たまへへえるるる。。。
- 8姫君姫君ひめぎみののの御御おんさまさまさまのののいといといときびはきびはきびわににに美美うつくしうしうしゅうててて箏箏そうののの御御おん琴琴こと彈彈ひききき給給たまふふうををを御御おんぐしぐしぐしのののさがりばさがりばさがりば、、、かんざしかんざしかんざしなどなどなどのののあてあてあてににになまめかしきなまめかしきなまめかしきをををうちうちうちまもりまもりまもり給給たまへへえばばば耻耻はぢぢじらひらひらいててて少少すこしししそばめそばめそばめ給給たまへへえるるる、、、傍傍そばめめめつらつきつらつきつらつき美美うつくしげしげしげにてにてにてとりゆとりゆとりゆののの手手てつきつきつきいみじういみじういみじゅうつくりつくりつくりたるたるたるものものものゝゝの心心ここちちちするするするををを宮宮みやももも限限かぎりなくなくなく悲悲かなしししとととおぼしおぼしおぼしたりたりたり。。。
- 9掻掻かききき合合あわせせせなどなどなど彈彈ひきききすさびすさびすさび給給たまひひいててて押押おしししやりやりやり給給たまひひいつつつ。。。おとゞおとゞおとど和琴和琴わごんひきひきひき寄寄よせせせ給給たまひひいてててりちりちりちのののしらべしらべしらべのののなかなかなかなかなかなか今今いまめきめきめきたるたるたるをををさるさるさる上手上手じょうずのののみだれみだれみだれてててかいかいかい彈彈ひききき給給たまへへえるるるいといといとおもしろしおもしろしおもしろし。。。おまへおまへおまえののの梢梢こずえほろほろほろほろほろほろととと殘殘のこらららぬぬぬににに老老おい御達御達ごたちなどなどなどこゝかしここゝかしこここかしこののの御御おん几帳几帳きちょうののの後後うしろににに頭頭かしらをををつどへつどへつどえたりたりたり。。。
- 10「「「風風かぜののの力力ちから盖盖けだししし寡寡すくな」」」とととうちうちうちずじずじずじ給給たまひひいててて一一いちきんきんきんののの手手てならならならねねねどどど怪怪あやしくしくしく物物ものあはれあはれあわれなるなるなる夕夕ゆうべかなかなかな。。。猶猶なおあそばさあそばさあそばさむむんややや」」」とてとてとて秋風樂秋風樂しゅうふうらくにににかきかきかき合合あわせせせてててさうさうそう歌歌がししし給給たまへへえるるる聲聲こえいといといとおもしろけれおもしろけれおもしろければばば、、、皆皆みなさまざまさまざまさまざまおとゞおとゞおとどをををもももいといといとうつくしうつくしうつくしととと思思おもひひい聞聞きこえええ給給たまふふうににに、、、いとゞいとゞいとどそへそへそえむむんとととにににやややあらあらあらむむん、、、くわざくわざかざののの君君きみ參參まいりりり給給たまへへえりりり。。。
- 11「「「こなたこなたこなたににに」」」とてとてとて御御おん几帳几帳きちょう隔隔へだてててゝゝて入入いれれれ奉奉たてまつりりり給給たまへへえりりり。。。「「「をさをさをさをさおさおさ對面對面たいめんもももえええ給給たまはらはらわらぬぬぬかなかなかな、、、などなどなどかくかくかくこのこのこの御御おん學問學問がくもんのののあながちあながちあながちならならならむむん。。。ざえざえざえののの程々程々ほどほどよりよりより餘餘あまりりりぬるぬるぬるもももあぢきなきあぢきなきあじきなきわざわざわざとととおとゞおとゞおとどもももおぼしおぼしおぼし、、、知知しれれれるるることことことなるなるなるををを、、、かくかくかくおきておきておきて聞聞きこえええ給給たまふふうやうやうようあらあらあらむむんとととははは思思おもううう給給たまへへえながらながらながら、、、かうかうこう籠籠こもりりりおはするおはするおわすることことことなむなむなん心苦心苦こころぐるしうしうしゅう侍侍はべるるるととと聞聞きこえええ給給たまひひいててて
- 12「「「時々時々ときどきはははことことことわざわざわざししし給給たまへへえ笛笛ふえののの音音ねにににもももふるふるふることことことははは傳傳つたはるはるわるものものものなりなりなり」」」とてとてとて御御おん笛笛ふえ奉奉たてまつりりり給給たまふふう。。。いといといと若若わこうううをかしげをかしげおかしげなるなるなる音音ねににに吹吹ふきききたてたてたてゝゝていみじういみじういみじゅうおもしろけれおもしろけれおもしろければばば御御おん琴琴ことどもどもどもをををばばばしばししばししばしとゞめとゞめとどめててておとゞおとゞおとどははははうしはうしほうしおどろおどろしからおどろおどろしからおどろおどろしからずずずうちうちうち鳴鳴ならしらしらし給給たまひひいててて萩萩はぎががが花花はななどなどなどうたひうたひうたいたまふたまふたまう。。。
- 13「「「大殿大殿おおとのもももかやうかやうかようののの御御おん遊遊あそびににに心心こころとゞめとゞめとどめ給給たまひひいててていそがしきいそがしきいそがしき御御おん政政まつりごとどもどもどもをををばばば遁遁のがれれれ給給たまふふうなりなりなりけりけりけり。。。げにげにげにあぢきなきあぢきなきあじきなき世世よににに心心こころののの行行ゆくくくわざわざわざをををしししてててこそこそこそすぐしすぐしすぐし侍侍はべりりりなななまほしけれまほしけれまほしけれ」」」などなどなどのたまひのたまひのたまいててて、、、御御おんかはらけかはらけかわらけ參參まいりりり給給たまふふうににに暗暗くろうううなれなれなればばばおほとなぶらおほとなぶらおおとなぶらまゐりまゐりまいり、、、御御おん湯漬湯漬ゆずけくだものくだものくだものなどなどなど誰誰たれももも誰誰たれももも聞聞きこしめすしめすしめす。。。
- 14姫君姫君ひめぎみはははあなたあなたあなたににに渡渡わたししし奉奉たてまつりりり給給たまひひいつつつ。。。强强しいいいてててけどほくけどほくけどおくもてもてもてなしなしなし給給たまひひい御御おん琴琴ことののの音音ねばかりばかりばかりをををももも聞聞きかかかせせせ奉奉たてまつらららじじじととと今今いまはははこよなくこよなくこよなくへだてへだてへだて聞聞きこえええ給給たまふふうををを「「「いとほしきいとほしきいとおしき事事ことありありありぬぬぬべきべきべき世世よなるなるなるにににこそこそこそ」」」ととと近近ちこううう仕仕つかうまつるうまつるうまつる大宮大宮おおみやののの御御おん方方かたのののねびねびねび人人びとどもどもどもさゝめきさゝめきささめきけりけりけり。。。
現代語訳
あちこちの大饗なども終わって、世の中のご準備事もなく、のどかになったころ、時雨がさっと降って、荻の上を吹く風もただならぬ夕暮れに、大宮の御方に内大臣が参上なさって、姫君(雲居雁)をお呼び寄せ申し上げなさって、御琴などをお弾かせ申し上げなさる。大宮はあらゆる楽器の名手でいらっしゃるので、どれも姫君にお伝え申し上げなさる。
「琵琶こそは、女が弾くのは見苦しいようだけれど、巧みな楽器でございます。今の世に、本格的に伝えている人はほとんどいなくなってしまいました」と、何々親王、何々源氏などと数え上げなさって、「女の中では、太政大臣が山里に籠めておいていらっしゃる人(明石の君)こそ、たいそう上手と聞いております。
名手の子孫ではございますが、末流になって、山里の田舎人として年を経た人が、どうしてそれほど抜きん出たのでしょう。あの大臣がたいそう格別に思っておっしゃる折々がございます。他のことよりは、音楽の方面の才は、やはり広く合奏して、あれこれの人に通じさせてこそすぐれるのです。独り稽古で上手になったというのは珍しいことです」などとおっしゃって、大宮にお勧め申し上げなさると、
大宮は「柱をさすことも、ぎこちなくなってしまいましたよ」とおっしゃるけれど、趣深くお弾きになる。「幸運に加えて、やはり不思議なほどすばらしい人なのですね。老いの世にお持ちでなかった女の子をお産み申し上げて、手元においても身分を落とさせず、高貴な方に譲った心構えは、非の打ちどころもない人だと聞いております」などと、一方ではお話を申し上げなさる。
「女はただ心がけによってこそ、世に重んじられるものでございますね」などと、人の身の上をおっしゃり出して、「女御を、悪くはなく、何事も人に劣っては育てまいと思っておりましたけれど、思いがけない人に押されてしまった宿縁で、世は思いのほかのものだと思い知りました。
せめてこの君だけでも、何とかして思いどおりにしたいものです。東宮の御元服がもうすぐのことになったのでと、人知れず志しておりましたのに、ああいう幸運な人の産んだ后候補が、また追いすがってきました。入内なさったら、まして競い合える人はなかなかいないでしょう」とため息をおつきになると、
大宮は「どうしてそんなことがありましょう。この家に、そうした后の筋の人が出ずに終わることはあるまいと、故大臣がお思いになって、女御のことも自ら奔走してお急ぎになったのに、生きていらっしゃったら、こんなふうにひがんだ扱いをすることもなかったでしょうに」などと、このことについては、太政大臣(源氏)を恨めしくお思い申し上げていらっしゃる。
姫君のご様子がたいそう幼く、かわいらしくて、箏の御琴をお弾きになるのを、御髪の下がり端や髪の生え際などが上品で優美なのを、内大臣がじっと見つめていらっしゃると、恥じらって少し横を向いていらっしゃる横顔や頬つきがかわいらしくて、弦を押さえる左手の手つきが、たいそう精巧に作った人形のような感じがするのを、大宮もこの上なくかわいいとお思いになっている。
掻き合わせなどを弾き興じなさって、押しやりなさった。大臣は和琴を引き寄せなさって、律の調べの、かえって今風なのを、あれほどの名手がくつろいで弾き鳴らしなさるのは、たいそう趣深い。御前の梢の葉がはらはらと散り残らないので、年老いた女房たちが、あちらこちらの御几帳の後ろに頭を寄せ集めている。
「風の力はけだし少なし」と口ずさみなさって、「琴の手並みというわけではないけれど、不思議なほどしみじみとした夕べですね。もっとお弾きになりませんか」と言って、秋風楽に合わせて唱歌をなさる声がたいそう趣深いので、皆さまざまに、大臣をもたいそうすばらしいとお思い申し上げなさるところに、いっそう興を添えようというのであろうか、冠者の君(夕霧)が参上なさった。
「こちらに」と言って、御几帳を隔ててお入れ申し上げなさった。「ほとんどお目にかかることもできませんね。どうしてこんなに、このご学問に熱心なのでしょう。学才が身分より過ぎるのもつまらないことだと、大臣(源氏)もお思いになって、ご存じのことなのに、こうしてお決め申し上げなさるわけがあるのだろうとは存じながら、こうして籠もっていらっしゃるのがお気の毒でございます」と申し上げなさって、
「時々は他のこともなさい。笛の音にも、昔の聖賢の教えは伝わるものです」と言って、御笛を差し上げなさる。たいそう若々しく美しい音で吹き立てて、たいそう趣深いので、御琴などはしばらく止めて、大臣は拍子を大げさでなく打ち鳴らしなさって、「萩が花摺り」などをお謡いになる。
「大殿(源氏)も、このような管弦の遊びに心をとめなさって、忙しい政務などはお避けになるのでした。本当に、つまらない世の中では、心の満ちることをして過ごしたいものです」などとおっしゃって、杯をお召し上がりになるうちに、暗くなったので、灯火をおともしし、御湯漬けや果物などを、誰も誰も召し上がる。
姫君はあちらにお移し申し上げなさった。強いてよそよそしく扱いなさって、御琴の音だけでもお聞かせ申し上げまいと、今はこの上なく隔てを置き申し上げなさるのを、「お気の毒なことが起こりそうな仲なのでしょう」と、近くにお仕えする大宮の御方の年老いた女房たちがささやき合った。
意訳
時雨の降る秋の夕暮れ、内大臣は大宮のもとで雲居雁に琴を弾かせる。内大臣は明石の君の琵琶の腕前を話題にし、弘徽殿の女御が立后できなかった無念を語って、せめて雲居雁を東宮に入内させたいと願う。大宮は、亡き夫が生きていればと源氏を恨む。
夕霧も訪れて笛を吹き、内大臣は拍子をとって謡う。内大臣は、雲居雁を夕霧から遠ざけて奥へ移し、年老いた女房たちは、困ったことが起こりそうだとささやき合う。
語釈・文法注
- 后がね
- 后の候補。ここでは、明石の君が産んだ明石の姫君のこと。源氏はこの姫君を東宮に入内させるつもりでいる。
- 風の力盖し寡し
- 『文選』の「洞庭の波は木の葉を落とす。風の力けだし少なし」による。木の葉がはらはらと散る情景に合わせて口ずさんだもの。
- 萩が花ずり
- 催馬楽「更衣(ころもがへ)」の一節。「衣がへせむや、我がきぬは野原篠原萩の花ずりや」。
文法
- 反実仮想の「ましかば…まし」(おはせましかば…なからまし)
- 「生きていらっしゃったら、…なかっただろうに」。
- 強意の「ぬべし」(ありぬべき)
- 「きっと…しそうな」。
解説
内大臣は、源氏が後見する梅壺に娘の立后を阻まれ、さらに明石の姫君が東宮妃の有力候補であることを意識している。雲居雁を東宮に入内させたいという内大臣の願いが、この後の夕霧と雲居雁の恋の障害となる。
内大臣が明石の君を褒めながらも、その娘が自分の娘の競争相手になることを嘆く言葉には、源氏への対抗意識がにじんでいる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、390–393頁(コマ198–199)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日