源氏物語 第20帖 朝顔(9)
藤壺の夢
寝所に入った源氏は藤壺を思いながら眠り、夢に藤壺が現れて、秘密を漏らさないと言ったのに浮き名が隠れなかったので、恥ずかしく苦しい目にあっていると恨む。源氏が答えようとしてうなされると、紫の上に起こされ、源氏は涙を流す。源氏は歌を詠み、翌朝早く、諸寺に誦経をさせる。藤壺が成仏できずに苦しんでいるのではないかと思い、阿弥陀仏に祈りながら、来世でも同じ蓮の上に生まれたいと願う。

- 1入入いりりり給給たまひひいてててももも宮宮みやののの御御おん事事ことををを思思おもひひいつゝつゝつつ大殿籠大殿籠おおとのごもれれれるるるににに夢夢ゆめととともももなくなくなくほのかほのかほのかににに見見み奉奉たてまつるるるをををいみじくいみじくいみじく怨怨うらみみみ給給たまへへえるるる御御おん氣色氣色けしきにてにてにて、、、もらさもらさもらさじじじとととのののたまひたまひたまいしかしかしかどどどうきうきうき名名なのののかくれかくれかくれなかりなかりなかりけれけれければばば耻耻はずかしうしうしゅう苦苦くるしきしきしきめめめををを見見みるるるにににつけつけつけてててもももつらくつらくつらくなむなむなん」」」とととののの給給たまふふう。。。
- 2御御おんいらへいらへいらえ聞聞きこゆゆゆとととおぼすおぼすおぼすにににおそはるゝおそはるゝおそわるる心地心地ここちしししてててをんなをんなおんな君君きみののの「「「こここはははなどなどなどかくかくかくははは」」」とととののの給給たまふふうににに、、、驚驚おどろきききててていみじくいみじくいみじく口惜口惜くちおしくしくしく胸胸むねのののおきおきおき所所ところなくなくなくさわげさわげさわげばばば、、、おさへおさへおさえててて淚淚なみだももも流流ながれれれ出出いでででにににけりけりけり。。。今今いまもももいみじくいみじくいみじくぬらしぬらしぬらしそへそへそえ給給たまふふう。。。
- 3をんなをんなおんな君君きみ、、、いかなるいかなるいかなることことことにににかかかとととおぼすおぼすおぼすににに、、、うちうちうちもももみじろかみじろかみじろかででで臥臥ふししし給給たまへへえりりり。。。「「「とけとけとけててて寢寢ねぬぬぬねざめねざめねざめさびしきさびしきさびしき冬冬ふゆののの夜夜よにににむすぼゝれむすぼゝれむすぼおれつるつるつる夢夢ゆめのののみじかさみじかさみじかさ」」」なかなかなかなかなかなか飽飽あかかかずずず悲悲かなしししとととおぼすおぼすおぼすににに、、、疾疾とくくく起起おききき給給たまひひいてててさささとととはははなくなくなくててて所々所々ところどころににに御御おんずずずなどなどなどせせせさせさせさせ給給たまふふう。。。
- 4苦苦くるしきしきしきめめめ見見みせせせ給給たまふふうととと恨恨うらみみみ給給たまへへえるるるもももさささぞぞぞおぼさるおぼさるおぼさるらむらむらんかしかしかし。。。おこなひおこなひおこないをををししし給給たまひひい萬萬よろずににに罪罪つみかろげかろげかろげなりなりなりししし御御おん有樣有樣ありさまながらながらながらこのこのこのひとつひとつひとつことことことにてにてにてぞぞぞこのこのこの世世よののの濁濁にごりをををすゝぎすゝぎすすぎ給給たまははわざらざらざらむむんととと、、、物物ものののの心心こころををを深深ふかくくくおぼしおぼしおぼしたどるたどるたどるににに、、、
- 5いみじくいみじくいみじく悲悲かなしけれしけれしければばば何何なにわざわざわざをををしししてててしるべしるべしるべなきなきなき世界世界せかいにににおはすおはすおわすらむらむらんをををとぶらひとぶらひとぶらい聞聞きこえええにににまうでまうでもうでゝゝて罪罪つみにににもももかはりかはりかわり聞聞きこえええばやばやばやなどなどなどつくづくつくづくつくづくとととおぼすおぼすおぼす。。。
- 6かのかのかの御御おんためためためにににとりとりとり立立たてゝてゝてて何何なにわざわざわざをををもももししし給給たまははわむむんははは人人ひととがめとがめとがめ聞聞きこえええつつつべしべしべし。。。內內うちにににももも御心御心みこころのののおにおにおにゝゝに、、、思思おぼすすす所所ところやややあらあらあらむむんとととおぼしおぼしおぼしつゝむつゝむつつむほどほどほどににに、、、阿彌陀阿彌陀あみだほとけほとけほとけををを心心こころにににかけかけかけててて念念ねんじじじ奉奉たてまつりりり給給たまふふう。。。
- 7「「「おなじおなじおなじはちすはちすはちすにににとととこそこそこそははは、、、なきなきなき人人ひとをををしたふしたふしたう心心こころにににまかせまかせまかせてててもももかげかげかげ見見みぬぬぬ水水みずののの瀨瀨せにににやややまどはまどはまどわむむん」」」とととおぼすおぼすおぼすぞぞぞうかりうかりうかりけるけるけるとととややや。。。
現代語訳
寝所にお入りになっても、宮(藤壺)のことを思いながらお休みになっていると、夢ともなく、ほのかに宮をお見申し上げるが、たいそう恨んでいらっしゃるご様子で、「漏らすまいとおっしゃったけれど、浮き名が隠れなかったので、恥ずかしく苦しい目を見るにつけても、つらくて」とおっしゃる。
お返事を申し上げようとお思いになると、うなされる気がして、女君(紫の上)が「これは、どうしてこんなに」とおっしゃったので、目が覚めて、ひどく残念で、胸の置き所もないほど騒ぐので、押さえていても涙が流れ出てしまった。今もひどく袖を濡らし添えていらっしゃる。
女君は、どうしたことかとお思いになるけれど、身動きもせずに横になっていらっしゃる。「くつろいで眠れない寝覚めの寂しい冬の夜に、心の結ぼれるような夢の、何と短かったことか」。かえって名残惜しく悲しいとお思いになるので、早く起きなさって、それとはなしに、あちこちの寺に御誦経などをおさせになる。
苦しい目をお見せになったとお恨みになっていたのも、さぞそうお思いなのだろう。勤行をなさって、何事につけても罪の軽そうなご様子でありながら、このただ一つのことで、この世の濁りを洗い清めることがおできにならないのだろうと、物事の道理を深くたどってお考えになると、たいそう悲しいので、何をしてでも、知る人もない世界にいらっしゃるのをお見舞いしに参上して、罪にも代わり申し上げたいなどと、しみじみとお思いになる。
あの方のために、とりたてて何か法要をなさるのは、人が不審に思うに違いない。帝も、お心の咎めに、お思い当たることがあるのではと気がねなさるうちに、阿弥陀仏を心にかけてお祈り申し上げなさる。「同じ蓮の上に生まれたいと思うけれど、亡き人を慕う心のままに後を追っても、その姿も見えない三途の川の瀬で、迷うことになるのだろうか」とお思いになるのはつらいことであった、ということだ。
意訳
源氏の夢に藤壺が現れ、秘密が漏れて恥ずかしく苦しい目にあっていると恨む。源氏はうなされて紫の上に起こされ、涙を流して歌を詠む。
源氏は、藤壺が秘密の罪のために成仏できずに苦しんでいるのではないかと思い、諸寺に誦経をさせ、阿弥陀仏に祈る。源氏は、来世でも同じ蓮の上に生まれたいと願いながら、三途の川で迷うのではないかと嘆く。
語釈・文法注
- 御ず經
- 御誦経(みずきょう)。寺に布施をして経を読ませること。死者の冥福を祈るために行う。
文法
- 願望の「ばや」(かはり聞えばや)
- 「代わり申し上げたい」。
- 伝聞の「とや」(うかりけるとや)
- 「つらいことであった、ということだ」。物語を語り伝えの形で結ぶ。
和歌
とけて寢ぬねざめさびしき冬の夜にむすぼゝれつる夢のみじかさ
- 詠者
- 光源氏
- 状況
- 藤壺の夢から覚めて詠んだ歌。くつろいで眠れない寝覚めの寂しい冬の夜に、心の結ぼれるような夢の、何と短かったことか。
修辞
- 縁語
- 「とけ」「むすぼゝれ」は対になる縁語。氷が解けないことと、心が結ぼれることをかける。
なき人をしたふ心にまかせてもかげ見ぬ水の瀨にやまどはむ
- 詠者
- 光源氏
- 状況
- 藤壺を思って詠んだ歌。亡き人を慕う心のままに後を追っても、その姿も見えない三途の川の瀬で、迷うことになるのだろうか。
修辞
- 本説
- 「みつせ川」(三途の川)をふまえ、藤壺が成仏できずに迷っているのではないかという不安をこめる。
解説
藤壺が夢に現れて恨む場面は、薄雲の巻で冷泉帝が秘密を知ったことを受けている。藤壺は、秘密を守り通そうとしたにもかかわらず、それが漏れたことを恨み、成仏できずに苦しんでいる。
源氏は、朝顔の姫君への求愛や女性評を経て、最後に藤壺への思いに立ち返る。朝顔の巻は、源氏の生涯を貫く藤壺への思慕と罪の意識を、夢という形で鮮烈に描いて閉じられる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、380–381頁(コマ193)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日