源氏物語 第20帖 朝顔(5)
荒れた桃園宮と源典侍
桃園宮の西門は錆びついて、寒そうな門番がなかなか開けられない。源氏は、昨日今日と思っていたのに三十年も昔になったと世の移ろいを感じ、歌を口ずさむ。女五の宮は話の途中で寝入ってしまい、源氏が立ち上がろうとすると、咳払いをして老女が現れる。それは、かつて源氏と戯れた源典侍で、今は尼となって女五の宮の弟子になっていた。源典侍は今も若々しく振る舞い、歌を詠みかけ、源氏はあきれながらも世の無常を思う。

- 1宮宮みやにににははは北北きたおもておもておもてののの人人ひと繁繁しげききき方方かたなるなるなる御門御門みかどははは入入いりりり給給たまははわむむんもももかろがろしけれかろがろしけれかろがろしければばば、、、西西にしなるなるなるがががことごとしきことごとしきことごとしきををを人人ひと入入いれれれさせさせさせ給給たまひひいててて宮宮みやののの御御おん方方かたににに御御おんせうそこせうそこしょうそこあれあれあればばば今日今日きょうしもしもしも渡渡わたりりり給給たまははわじじじとととおぼしおぼしおぼしけるけるけるををを驚驚おどろきききてててあけあけあけさせさせさせ給給たまふふう。。。
- 2御門守御門守みかどもり寒寒さむげげげなるなるなるけはひけはひけわいうすゞきうすゞきうすずき出出いででで來來きてててとみとみとみにににもももえええあけあけあけやらやらやらずずず。。。これこれこれよりよりより外外ほかのののをのこをのこおのこはははたたたなきなきなきなるなるなるべしべしべし。。。ごほごほごほごほごおごおととと引引ひきききててて「「「錠錠じょうのののいといといといたくいたくいたくさびさびさびにににけれけれければばばあかあかあかずずず」」」とととうれふるうれふるうれうるををを哀哀あわれととと聞聞きこしししめすめすめす。。。
- 3昨日昨日きのう今日今日きょうとととおぼすおぼすおぼす程程ほどににに、、、三十年三十年みそとせのののあなたあなたあなたにににもももなりなりなりにににけるけるける世世よかなかなかな、、、かゝるかゝるかかるををを見見みつゝつゝつつかりそめかりそめかりそめのののやどりやどりやどりをををえええ思思おもひひいすてすてすてずずず、、、木木き草草くさののの色色いろにににももも心心こころをををうつすうつすうつすよよよとととおぼしおぼしおぼし知知しらららるるる。。。くちすさびくちすさびくちすさびににに、、、「「「いついついつのののまままににに蓬蓬よもぎがががもともともとゝゝとむすぼゝれむすぼゝれむすぼおれ雪雪ゆきふるふるふる里里さとととと荒荒あれれれしししかきかきかき根根ねぞぞぞ」」」。。。やゝやゝやや久久ひさしくしくしくひこしろひひこしろひひこしろいあけあけあけててて入入いりりり給給たまふふう。。。
- 4宮宮みやののの御御おん方方かたににに、、、例例れいののの御御おん物語物語ものがたり聞聞きこえええ給給たまふふうにににふることふることふることゞゞどももものののそこはかとなきそこはかとなきそこはかとなきうちうちうちはじめはじめはじめ聞聞きこえええ盡盡つくししし給給たまへへえどどど御御おん耳耳みみももも驚驚おどろかかかずずずねぶたきねぶたきねぶたきににに宮宮みやもももあくびあくびあくびうちうちうちししし給給たまひひいててて「「「よひまどひよひまどひよいまどいをををししし侍侍はべれれればばば、、、物物ものもももえええ聞聞きこえええやらやらやらずずず」」」とととのののたまふたまふたまうほどほどほどもももなくなくなく鼾鼾いびきとととかかか聞聞きききき知知しらららぬぬぬ音音おとすれすれすればばば喜喜よろこびびびながらながらながら立立たちちち出出いででで給給たまははわむむんとととするするするににに、、、
- 5又又またいといといと古古ふるめかしきめかしきめかしきしはぶきしはぶきしわぶきうちうちうちしししててて參參まいりりりたるたるたる人人ひとありありあり。。。「「「かしこけれかしこけれかしこけれどどど、、、聞聞きこしししめしめしめしたらたらたらむむんととと賴賴たのみみみ聞聞きこえええさするさするさするををを世世よにににあるあるあるものものものととともももかずまへかずまへかずまえさせさせさせ給給たまははわぬぬぬににになむなむなん。。。院院いんののの上上うえはははをばをばをばおとゞおとゞおとどととと笑笑わらははわせせせ給給たまひひいししし」」」などなどなど名名なのりのりのり出出いづるづるずるにににぞぞぞおぼしおぼしおぼし出出いづるづるずる
- 6のののすけすけすけととといひいひいいししし人人ひとははは尼尼あまににになりなりなりてててこのこのこの宮宮みやののの御御おん弟子弟子でしにてにてにて行行おこなふふうととと聞聞ききききしかしかしかどどど、、、今今いままでまでまであらあらあらむむんとととももも尋尋たずねねね知知しりりり給給たまははわざりざりざりつるつるつるをををあさましうあさましうあさましゅうなりなりなりぬぬぬ。。。「「「そのそのその世世よののの事事ことははは皆皆みな昔昔むかしがたりがたりがたりににになりなりなり行行ゆくくくををを遙遙はるかににに思思おもひひい出出いづるづるずるももも心心こころ細細ぼそきききにににうれしきうれしきうれしき御御おん聲聲こえかなかなかな。。。親親おやなしなしなしにににふせふせふせるるる旅人旅人たびびととととはぐゝみはぐゝみはぐくみ給給たまへへえかしかしかし」」」とととててて寄寄よりりり居居い給給たまへへえるるる御御おんけはひけはひけわいににに
- 7いとゞいとゞいとど昔昔むかし思思おもひひい出出いでででつゝつゝつつ、、、ふりふりふりがたくがたくがたくなまめかしきなまめかしきなまめかしきさまさまさまにににもてなしもてなしもてなしててて、、、いたういたういとうすげみすげみすげみにににたるたるたる口口くちつきつきつき思思おもひひいやらやらやらるゝるゝるるこわづかひこわづかひこわずかいののの流石流石さすがにににしたしたしたつきつきつきにてにてにてうちうちうちざれざれざれむむんとととははは猶猶なお思思おもへへえりりり。。。云云いひひいこしこしこし程程ほどににになどなどなど聞聞きこえええかゝるかゝるかかるまばゆさまばゆさまばゆさよよよ。。。今今いましもしもしもきたるきたるきたる老老おいのののやうやうようににになどなどなどほゝゑまほゝゑまほほえまれれれ給給たまふふうものものものからからからひきひきひきかへかへかえこれこれこれももも哀哀あわれなりなりなり。。。
- 8このこのこのさかりさかりさかりにににいどみいどみいどみししし女御女御にょうご更衣更衣こうい、、、あるあるあるはははひたすらひたすらひたすらなくなくなくなりなりなり給給たまひひいあるあるあるはははかひかひかいなくなくなくてててはかなきはかなきはかなき世世よにににさすらへさすらへさすらえ給給たまふふうもももあああべかべかべかめりめりめり。。。入道入道にゅうどうののの宮宮みやなどなどなどののの御御おん齡齡よわいひひひよよよ、、、あさましあさましあさましとととのみのみのみおぼさるゝおぼさるゝおぼさるる世世よににに、、、
- 9年年としのののほどほどほど身身みののの殘殘のこり少少すくなげなげなげさささににに心心こころばへばへばえなどなどなどももも物物ものはかなくはかなくはかなく見見みえええししし人人ひとのののいきいきいきとまりとまりとまりてててのどやかのどやかのどやかににに行行おこなひひいをををもももうちうちうちしししててて過過すぐしぐしぐしけるけるけるははは猶猶なおすべてすべてすべて定定さだめめめなきなきなき世世よなりなりなりとととおぼすおぼすおぼすににに、、、物物もの哀哀あわれなるなるなる御御おん氣色氣色けしきををを心心こころときめきときめきときめきににに思思おもひひいてててわかやぐわかやぐわかやぐ。。。
- 10「「「年年とし經經ふれれれどどどこのこのこのちぎりちぎりちぎりこそこそこそわすらわすらわすられれれねねね親親おやのののおやおやおやとととかかかいひいひいいしししひとことひとことひとこと」」」ととと聞聞きこゆれゆれゆればばばうとましくうとましくうとましくててて「「「身身みをををかへかへかへててて後後のちももも待待まちちち見見みよよよこのこのこの世世よにてにてにて親親おやををを忘忘わするゝるゝるる例例ためしありありありやややととと。。。たのもしきたのもしきたのもしき契契ちぎりぞぞぞややや。。。今今いまのどかのどかのどかにににぞぞぞ聞聞きこえええさすさすさすべきべきべき」」」とととててて立立たちちち給給たまひひいぬぬぬ。。。
現代語訳
宮邸では、北面の人の出入りの多い方の御門からお入りになるのも軽々しいので、西の門が格式ばっているのを、供の者を入れさせなさって、宮の御方にお便りがあると、今日はまさかお越しにはなるまいとお思いになっていたので、驚いて門を開けさせなさる。門番が寒そうな様子で、慌てて出てきて、すぐには開けられない。このほかの下男は、いないのだろう。ごとごとと引いて、「錠がひどく錆びついてしまったので開きません」とこぼすのを、源氏はしみじみとお聞きになる。
昨日今日のことと思っていたうちに、三十年も昔になってしまった世の中よ、こういうことを見ながら、かりそめの宿りであるこの世を思い捨てることができず、木や草の色にも心を移すことよと、お思い知りになる。口ずさみに、「いつの間に蓬の根元に絡まれて、雪の降る古里となって荒れてしまった垣根なのだろう」。かなり長い時間をかけて、無理に引き開けてお入りになる。
女五の宮の御方で、例によってお話を申し上げなさると、古いことなど、取り留めもないことから話し始めて、すべて申し上げ尽くしなさるけれど、宮はお耳にもとまらず眠そうで、宮もあくびをなさって、「宵のうちから眠くなりますので、何もお話しできなくて」とおっしゃるうちに、いびきとかいう聞き慣れない音がするので、源氏は喜んでお立ちになろうとすると、
また、たいそう古めかしい咳払いをして参上した人がいる。「畏れ多いことですが、ご存じでいらっしゃるだろうと頼みにしておりますのに、この世にいる者とも数えてくださらないので。院の上は、私を『祖母殿』とおっしゃってお笑いになりました」などと名乗り出るので、源氏は思い出しなさる。源典侍といった人は、尼になってこの宮の御弟子として勤行していると聞いていたけれど、今まで生きていようとも知らず、尋ねもなさらなかったので、あきれてしまった。
「その当時のことは皆昔話になってゆくのを、遠く思い出すのも心細いのに、うれしいお声ですね。親のない、伏せる旅人と思って、お世話してください」と言って、源氏が物に寄りかかっていらっしゃるご様子に、典侍はいっそう昔を思い出しながら、相変わらず色っぽい様子に振る舞って、ひどく歯の抜けた口もとが想像される声づかいで、それでもやはり甘ったれた舌つきで、戯れかかろうとはなおも思っている。
「言ひこしほどに」などと言い寄るまぶしさよ。今になって老いがやって来たように、などとほほえまれなさるものの、打って変わって、これもまた哀れである。この人が盛りのころに競い合った女御や更衣は、あるいはすっかり亡くなってしまわれ、あるいはかいもなくはかない世にさすらっていらっしゃる方もあるようだ。入道の宮(藤壺)などのご寿命の短さよと、あきれるほどにばかりお思いになる世の中に、
年のほどからいっても、残り少なそうで、心ばえなども頼りなく見えた人が生き残って、のんびりと勤行もして過ごしてきたのは、やはりすべてが定めない世の中だとお思いになるので、源氏のしみじみとしたご様子を、典侍は自分への好意と心をときめかせて、若やいでいる。
「年月が経っても、このご縁だけは忘れられません。院の上が私を『親の親』とおっしゃった一言を」と申し上げるので、源氏はうとましくて、「来世に生まれ変わった後も、待って見ていなさい。この世で親を忘れる例などあるものかと。頼もしい縁ですよ。いずれゆっくりとお話ししましょう」と言ってお立ちになった。
意訳
桃園宮の西門は錆びついて、寒そうな門番がなかなか開けられない。源氏は世の移ろいを感じて歌を口ずさむ。女五の宮は話の途中で寝入ってしまう。
源氏が立ち上がろうとすると、かつて源氏と戯れた源典侍が現れる。尼となった今も若々しく振る舞い、歌を詠みかける典侍に、源氏はあきれながらも、藤壺が早く亡くなりこの人が生き残っている世の無常を思う。
語釈・文法注
- 源內侍のすけ
- 源典侍(げんのないしのすけ)。紅葉賀の巻で、五十七、八歳でありながら若い源氏や頭中将と戯れた好色な老女房。
文法
- 推定の「なり」(なきなるべし)
- 「いないのだろう」。「なきなる」は「なかんなる」の撥音を表記しない形で、推定を表す。
- 「こそ…ね」(わすられね)
- 「忘れられません」。打消の「ず」が「こそ」の結びで已然形「ね」となる。
和歌
いつのまに蓬がもとゝむすぼゝれ雪ふる里と荒れしかき根ぞ
- 詠者
- 光源氏
- 状況
- 錆びた門が開くのを待ちながら口ずさんだ歌。いつの間に蓬の根元に絡まれて、雪の降る古里となって荒れてしまった垣根なのだろう。
修辞
- 掛詞
- 「ふる」に「降る」と「古」をかける。
年經れどこのちぎりこそわすられね親のおやとかいひしひとこと
- 詠者
- 源典侍
- 状況
- 源氏に詠みかけた歌。年月が経っても、このご縁だけは忘れられません。院の上が私を「親の親」とおっしゃった一言を。
身をかへて後も待ち見よこの世にて親を忘るゝ例ありやと
- 詠者
- 光源氏
- 状況
- 源典侍への返歌。来世に生まれ変わった後も、待って見ていなさい。この世で親を忘れる例などあるものかと。
解説
錆びついた門や雪の積もる荒れた垣根は、桃園宮の衰退を象徴している。源氏は「三十年のあなた」と時の流れを感じ、自らの人生を振り返る。
源典侍の再登場は、ユーモラスでありながら、世の無常を感じさせる。藤壺のような高貴な人が早く亡くなり、源典侍のような人が長生きする世の不思議さを、源氏は改めて思い知る。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、374–375頁(コマ190)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日