源氏物語 第19帖 薄雲(12)
春秋の争い
源氏は、四季折々の花や紅葉を楽しみたいと語り、昔から論じられてきた春と秋のどちらを好むかを斎宮女御に問う。女御は、母が亡くなった秋の夕べに心ひかれると答える。源氏はこらえきれず、自分の思いを訴える歌を詠む。女御が当惑して奥へ引き下がるので、源氏は自分の振る舞いを恥じて退出する。女房たちは、源氏の残り香を褒めそやす。

- 1「「「はかばかしきはかばかしきはかばかしき方方かたののののぞみのぞみのぞみはははさるさるさるものものものにてにてにて年年としののの內內うちゆきゆきゆき更更かわるるる時々時々ときどきののの花花はな紅葉紅葉もみじ空空そらののの氣色氣色けしきにににつけつけつけてててももも心心こころののの行行ゆくくく事事こともももししし侍侍はべりりりにににしがなしがなしがな。。。ののの花花はなののの林林はやし秋秋あきののの野野ののののさかりさかりさかりをををとりどりとりどりとりどりににに人人ひとあらそひあらそひあらそい侍侍はべりりりけるけるけるそのそのその頃頃ころのののげにげにげにととと心心こころよるよるよるばかりばかりばかりあらはあらはあらわなるなるなる定定さだめこそこそこそ侍侍はべらららざざざなれなれなれ。。。
- 2唐土唐土もろこしにににははは春春はるののの花花はなののの錦錦にしきにににまくまくまくものものものなしなしなしととといひいひいいはべはべはべめりめりめり。。。やまとやまとやまと言言ことののの葉葉はにににははは秋秋あきののの哀哀あわれをををとりとりとり立立たてゝてゝてて思思おもへへえるるる、、、いづれいづれいずれももも時々時々ときどきにににつけつけつけててて見見み給給たまふふうににに目目めうつりうつりうつりてててえええこそこそこそ花花はな鳥鳥とりののの色色いろをををもももねねねをををももも辨辨わきまへへえ侍侍はべらららねねね。。。
- 3せばきせばきせばき垣根垣根かきねののの內內うちなりなりなりともともともそのそのその折々折々おりおりののの心心こころ見見みしるしるしるばかりばかりばかり春春はるののの花花はなののの木木きをををももも植植うゑゑえわたしわたしわたし秋秋あきののの草草くさをををももも堀堀ほりりりうつしうつしうつしててていたづらいたづらいたずらなるなるなる野邊野邊のべののの蟲蟲むしをををもももすませすませすませててて人人ひとににに御覽御覽ごらんぜぜぜさせさせさせむむんととと思思おもひひい給給たまふるふるうるをををいづかたいづかたいずかたにににかかか御心御心みこころよせよせよせ侍侍はべるるるべからべからべからむむん」」」ととと聞聞きこえええ給給たまふふうににに
- 4いといといと聞聞きこえええにくきにくきにくき事事こととととおぼせおぼせおぼせどどどむげにむげにむげに絕絕たえええててて御御おんいらへいらへいらえ聞聞きこえええ給給たまははわざらざらざらむむんもももうたてうたてうたてあれあれあればばば、、、「「「ましてましてましていかゞいかゞいかが思思おもひひいわきわきわき侍侍はべらららむむん。。。げにげにげにいついついつとととなきなきなきなかなかなかにににあやしあやしあやしととと聞聞ききききししし夕夕ゆうべこそこそこそはかなうはかなうはかのう消消きえええ給給たまひひいにににししし露露つゆのののよすがよすがよすがにににももも思思おもひひい給給たまへへえられられられぬぬぬべけれべけれべけれ」」」とととしどけなげしどけなげしどけなげにににのののたまひたまひたまいけつけつけつももも、、、いといといとらうたげらうたげろうたげなるなるなるにににえええ忍忍しのびびび給給たまははわででで、、、
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現代語訳
源氏は「はかばかしい方面の望みはさておき、一年の内に移り変わる四季折々の花や紅葉、空の様子につけても、心ゆくような楽しみもしたいものです。春の花の林と秋の野の盛りとを、それぞれ人々が争ってきましたが、その当時、なるほどと心から納得できるほどはっきりした結論は出ていないようです。
中国では春の花の錦に勝るものはないと言っているようです。日本の和歌では、秋の情趣をとりわけ思っていますが、どちらも時々につけて見ると目移りして、とても花の色も鳥の音も、優劣をわきまえることができません。
狭い垣根の内であっても、その折々の情趣がわかるくらいに、春の花の木も植え並べ、秋の草も掘り移して、つまらない野辺の虫も住まわせて、人にご覧に入れようと思っておりますが、あなたはどちらにお心をお寄せになりますか」と申し上げなさると、
女御はたいそうお答えしにくいこととお思いになるけれど、まったく黙ってお返事なさらないのもいやな感じなので、「まして私などがどうして判断できましょう。本当に、いつと決まった季節はないけれど、不思議に心ひかれると聞いた秋の夕べこそ、はかなく露のように消えてしまわれた母のゆかりとも思われるのです」と、何気ないようにおっしゃって言葉を濁しなさるのも、たいそういじらしいので、源氏はこらえきれずに、
「あなたもそれならば、私と情を交わしてください。人知れず私の身にしみる秋の夕風のように、あなたを思う心を。堪えがたい折々もございましたが」と申し上げなさるのに、どのようなお返事ができようか。女御は理解できないとお思いのご様子である。
この機会に、源氏はこらえきれずに恨み言を申し上げなさることもあったのだろう。もう少しで、まちがいもしでかしそうだったけれど、女御がたいそういやだとお思いになっているのももっともで、ご自分のお心も若々しく不届きだとお思い返しになって、ため息をつきなさる様子が、物深く優美なのも、女御は不快にお思いになった。
女御がそっと少しずつ奥へお入りになってしまう様子なので、源氏は「ひどくお嫌いになってしまわれたのですね。本当に心の深い人は、こんなふうではないそうですよ。まあよい、これからはお憎みなさるな。つらいでしょうから」と言ってお帰りになった。しっとりとした香の匂いが残っているのさえ、女御はうとましくお思いになる。女房たちは御格子などをお下ろしして、「このお敷物の移り香は、言いようもないものですね。どうしてこうも、いろいろな美点を集めて、柳の枝に梅の花を咲かせたようなご様子なのでしょう。縁起でもないほどすばらしい」と申し合っている。
意訳
源氏は、昔から論じられてきた春と秋のどちらを好むかを斎宮女御に問う。女御は、母が亡くなった秋の夕べに心ひかれると答える。
源氏はこらえきれず、自分の思いを訴える歌を詠む。女御が当惑して奥へ引き下がるので、源氏は自分の振る舞いを恥じて退出する。女房たちは、源氏の残り香を褒めそやす。
語釈・文法注
- 春の花の林秋の野のさかり
- 春と秋の優劣を論じる「春秋優劣論」は、『万葉集』の額田王の歌以来、日本の文学で繰り返し取り上げられてきた主題。斎宮女御が秋を選んだことから、のちに「秋好中宮」と呼ばれる。
文法
- 願望の「にしがな」(心の行く事もし侍りにしがな)
- 「心ゆく楽しみもしたいものです」。
- 反語の「か…む」(いづこの御いらへかはあらむ)
- 「どのようなお返事ができようか、いや、できない」。
和歌
君もさはあはれをかはせ人知れず我身にしむる秋のゆふ風
- 詠者
- 光源氏
- 状況
- 斎宮女御が秋の夕べに心ひかれると答えたのを受けて詠んだ歌。あなたもそれならば、私と情を交わしてください。人知れず私の身にしみる秋の夕風のように、あなたを思う心を。
修辞
- 掛詞
- 「しむる」に「(風が)身にしみる」と「(思いが)心にしみる」をかける。
解説
春秋優劣の問答は、のちの少女の巻で、六条院の春の町(紫の上)と秋の町(秋好中宮)の造営につながる。斎宮女御が秋を選んだ理由は、母六条御息所が亡くなった季節だからであり、その答えには母への思いが込められている。
源氏は、藤壺の死の直後に斎宮女御に思いを訴えるが、女御に拒まれて自らを恥じる。源氏は、この後、自分の色好みの性分を改めて省みることになる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、364–367頁(コマ185–186)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日