源氏物語 第19帖 薄雲(10)
帝の譲位の意向と源氏の辞退
秋の司召で源氏を太政大臣にする内定の際、冷泉帝は譲位の意向をほのめかす。源氏は、故院も自分に位を譲ろうとはしなかったと言って固く辞退する。源氏は太政大臣への昇進もしばらく見合わせ、牛車の宣旨を受けるにとどめる。帝はなおも親王になるよう勧めるが、源氏は後見役がいないことを理由に応じない。源氏は、誰が秘密を漏らしたのかと不審に思い、王命婦に尋ねるが、王命婦は藤壺も帝に知られることを恐れていたと答え、源氏は藤壺を恋い慕う。

- 1秋秋あきののの司召司召つかさめしににに太政大臣太政大臣だいじょうだいじんににになりなりなり給給たまふふうべきべきべき事事ことうちうちうちうちうちうちににに定定さだめめめ申申もうししし給給たまふふうついでついでついでににになむなむなん帝帝みかどおぼしおぼしおぼしよするよするよするすぢすぢすじののの事事こと漏漏もらししし聞聞きこえええ給給たまひひいけるけるけるをををおとゞおとゞおとどいといといとまばゆくまばゆくまばゆく恐恐おそろしうしうしゅうおぼしおぼしおぼしててて更更さらにににあるあるあるまじきまじきまじきよしよしよしををを申申もうししし返返かえししし給給たまふふう。。。
- 2「「「故院故院こいんののの御御おん志志こころざしあまたあまたあまたののの御子御子みこたちたちたちののの御御おん中中なかににに取取とりりりわきわきわきててて思思おぼしししめしめしめしながらながらながら位位くらいををを讓讓ゆずらららせせせ給給たまははわむむん事事ことをををおぼしおぼしおぼしめしめしめしよらよらよらずずずなりなりなりにににけりけりけり。。。何何なにかかかそのそのその御心御心みこころ改改あらためめめててて及及およばばばぬぬぬきはきはきわにににはははのぼりのぼりのぼり侍侍はべらららむむん、、、唯唯ただもともともとののの御御おん掟掟おきてのののまゝまゝままにににおほやけおほやけおおやけににに仕仕つこうううまつりまつりまつりててて今今いま少少すこしししののの齡齡よわいかさなりかさなりかさなり侍侍はべりりりなななばばば長閑長閑のどかなるなるなる行行おこなひひいににに籠籠こもりりり侍侍はべりりりなむなむなんととと思思おもひひい給給たまふるふるうる」」」ととと常常つねののの御御おん言言ことののの葉葉はにににかはらかはらかわらずずず奏奏そうししし給給たまへへえばばば、、、いといといと口惜口惜くちおしうしうしゅうなむなむなんおぼしおぼしおぼしけるけるける。。。
- 3太政大臣太政大臣だいじょうだいじんににになりなりなり給給たまふふうべきべきべき定定さだめめめあれあれあれどどど暫暫しばしししとととおぼすおぼすおぼす所所ところありありありててて唯唯ただ御御おん位位くらいそひそひそいてててゆるさゆるさゆるされれれててて參參まいりりりまかでまかでまかでししし給給たまふふうををを、、、帝帝みかど飽飽あかかかずずず辱辱かたじけなきききものものものににに思思おもひひい聞聞きこえええ給給たまひひいててて猶猶なおみこみこみこににになりなりなり給給たまふふうべきべきべきよしよしよしをををおぼしおぼしおぼしのののたまはすれたまはすれたまわすれどどど、、、世世よののの中中なかののの御御おん後見後見うしろみししし給給たまふふうべきべきべき人人ひとなしなしなし。。。
- 4權中納言權中納言ごんちゅうなごん大納言大納言だいなごんににになりなりなりててて右大將右大將うだいしょうかけかけかけ給給たまへへえるるるををを、、、今今いまひときはひときはひときわあがりあがりあがりなななむむんににに何事何事なにごとももも讓讓ゆずりりりてててむむん。。。さてさてさて後後のちにににともかくもともかくもともかくも靜靜しずかなるなるなるさまさまさまにににとととぞぞぞおぼしおぼしおぼしけるけるける。。。
- 5猶猶なおおぼしおぼしおぼし廻廻めぐらすらすらすににに故故こ宮宮みやののの御御おんためためためにににもももいとほしういとほしういとおしゅう又又また上上うえのののかくかくかく思思おぼししし惱惱なやめめめるるるををを見見み奉奉たてまつりりり給給たまふふうもももかたじけなきかたじけなきかたじけなきにににたれたれたれかゝるかゝるかかる事事ことををを漏漏もらししし奏奏そうしししけむけむけんととと怪怪あやしうしうしゅうおぼさおぼさおぼさるるる。。。
- 6命婦命婦みょうぶははは御匣殿御匣殿みくしげどののののかはりかはりかわりたるたるたる所所ところにににうつりうつりうつりててて曹司曹司ぞうし賜賜たまはりはりわりててて參參まいりりりたりたりたり。。。おとゞおとゞおとどたいめんたいめんたいめんししし給給たまひひいててて「「「このこのこの事事ことをををもしもしもし物物もののののついでついでついでににに露露つゆばかりばかりばかりにてにてにてももも漏漏もらししし奏奏そうししし給給たまふふう事事ことやややありありありししし」」」とととあないあないあないししし給給たまへへえどどど
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現代語訳
秋の司召で、源氏が太政大臣におなりになるはずのことを内々に決定申し上げなさるついでに、帝は、お考えになっていることを漏らし申し上げなさったが、大臣はたいそうまばゆく恐ろしくお思いになって、まったくあってはならないことだと、お断り申し上げなさる。
「故院のお気持ちは、大勢の御子たちの中で、私をとりわけかわいがってくださりながら、位をお譲りになることはお考えにならなかったのです。どうしてそのご意志を改めて、及びもつかない地位に昇りましょうか。ただもとのお定めのままに朝廷にお仕えして、もう少し年を重ねましたら、のどかな勤行に籠もろうと存じます」と、いつものお言葉と変わらずに奏上なさるので、帝はたいそう残念にお思いになった。
太政大臣におなりになるべき決定があったけれど、源氏はしばらくはとお考えになるところがあって、ただ位階が上がり、牛車の宣旨を許されて参内や退出をなさるのを、帝は物足りなく畏れ多いことにお思い申し上げなさって、やはり親王におなりになるようにと仰せになるけれど、源氏は、世の中のご後見をなさるはずの人がいない、と思っていらっしゃる。権中納言が大納言になって右大将を兼ねていらっしゃるのを、もう一段昇進したら、何事も譲ってしまおう。その後で、ともかくも静かな暮らしをとお思いになった。
さらに思いめぐらしなさると、故宮のためにもお気の毒で、また帝がこのように思い悩んでいらっしゃるのを拝見なさるのも畏れ多いので、誰がこのようなことを漏らし申し上げたのだろうかと不審にお思いになる。王命婦は、御匣殿が替わった所に移って、曹司をいただいて参内していた。大臣は対面なさって、「このことを、もしや何かのついでに、少しでも漏らし申し上げなさったことがあったか」とお尋ねになるけれど、
命婦は「まったく、少しでも帝のお耳に入ることを、たいへんなことだとお思いになって、一方では、帝が罪を得ることになるのではないかと、帝のおためを、やはりお嘆きになっていました」と申し上げるにつけても、源氏は、並々でなく思慮深くていらっしゃった藤壺のご様子などを、尽きることなく恋しくお思い申し上げなさる。
意訳
冷泉帝は譲位の意向をほのめかすが、源氏は、故院も自分に位を譲ろうとはしなかったと言って固く辞退する。源氏は太政大臣への昇進もしばらく見合わせ、牛車の宣旨を受けるにとどめる。帝はなおも親王になるよう勧めるが、源氏は応じず、いずれ権中納言に政務を譲ろうと考える。
源氏は、誰が秘密を漏らしたのかと不審に思い、王命婦に尋ねる。王命婦は、藤壺も帝に知られることを恐れていたと答え、源氏は思慮深かった藤壺を恋い慕う。
語釈・文法注
- うしくるま
- 牛車の宣旨。宮中の門内まで牛車に乗ったまま出入りすることを許す宣旨。大臣や親王などに与えられた特別な待遇。
文法
- 反語の「何か…む」(何かその御心改めて…のぼり侍らむ)
- 「どうして及びもつかない地位に昇りましょうか、いや、昇りません」。
- 過去推量の「けむ」(漏し奏しけむ)
- 「漏らし申し上げたのだろうか」。
解説
源氏が帝の譲位の申し出を辞退するのは、故院の遺志を尊重するとともに、秘密が公になることを恐れるからである。源氏は、太政大臣への昇進さえしばらく見合わせ、栄華の頂点にありながら控えめな姿勢をとる。
王命婦の答えによって、源氏は藤壺が最後まで秘密を守ろうとしていたことを知る。藤壺の思慮深さを改めて思う源氏の心には、深い哀悼の念がこもっている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、362–365頁(コマ184–185)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日