源氏物語 第19帖 薄雲(5)
大堰への訪れ
正月の行事が一段落して、源氏は念入りに装いを整えて大堰へ出かける。姫君は源氏の指貫の裾にまとわりついて慕い、紫の上は女房を通して皮肉な歌を詠みかける。源氏はほほえんで返歌して出かける。紫の上は姫君のかわいらしさに、明石の君への嫉妬も和らいでいる。大堰の明石の君は、ますます美しく上品になり、源氏は琴を弾いて明石の夜を思い出す。明石の君は身の程をわきまえ、源氏の扱いにかなう慎み深い態度で暮らしている。

- 1山里山里やまざとののの徒然徒然つれずれをををももも絕絕たえええずずずおぼしおぼしおぼしやれやれやればばば公公おおやけ私私わたくし物物もの騷騷さわがしきしきしき程程ほど過過すぐしぐしぐしててて渡渡わたりりり給給たまふふうとととててて常常つねよりよりより殊殊ことにににうちうちうちけさうじけさうじけそうじ給給たまひひいててて櫻櫻さくらののの御御おん直衣直衣のうしにににえならぬえならぬえならぬ御御おんぞぞぞひきひきひき重重かさねねねてててたきたきたきしめしめしめさうぞきさうぞきそうぞき給給たまひひいてててまかりまかりまかり申申もうしししししし給給たまふふうさまさまさまくまなきくまなきくまなき夕日夕日ゆうひにににいとゞしくいとゞしくいとどしく淸淸きよらららににに見見みえええ給給たまふふうををを、、、をんなをんなおんな君君きみたゞたゞただならならならずずず見見み奉奉たてまつりりり送送おくりりり聞聞きこえええ給給たまふふう。。。
- 2姫君姫君ひめぎみはははいはけなくいはけなくいわけなく御御おん指貫指貫さしぬきののの裾裾すそにににかゝりかゝりかかりててて慕慕したひひい聞聞きこえええ給給たまふふうほどほどほどにににとととにににももも出出いででで給給たまひひいぬぬぬべけれべけれべければばば立立たちちちとまりとまりとまりててていといといと哀哀あわれとととおぼしおぼしおぼしたりたりたり。。。こしらへこしらへこしらえ置置おきききててて「「「あすあすあすかへりかへりかえりこここむむんととと口口くちずさびずさびずさびててて出出いででで給給たまふふうににに渡殿渡殿わたどのののの口口くちににに待待まちちちかけかけかけててて中將中將ちゅうじょうののの君君きみしししててて聞聞きこえええ給給たまふふう。。。
- 3「「「船船ふねとむるとむるとむるをちをちおち方人方人かたびとのののなくなくなくばばばこそこそこそあすあすあすかへりかへりかえりこここむむんせなせなせなとととまちまちまち見見みめめめ」」」。。。いたういたういとうなれなれなれててて聞聞きこゆれゆれゆればばばいといといとにほひやかにほひやかにおいやかにににほゝゑみほゝゑみほほえみててて「「「行行ゆきききててて見見みてててあすあすあすもももさねさねさねこここむむんなかなかなかなかなかなかにににをちかたをちかたおちかた人人ひとははは心心こころおくおくおくともともとも」」」。。。
- 4何事何事なにごととととももも聞聞ききききわかわかわかでででざれざれざれありきありきありき給給たまふふう人人ひとををを上上うえははは美美うつくしししととと見見み給給たまへへえばばば遠方人遠方人おちかたびとのののめざましきめざましきめざましきもももこよなくこよなくこよなくおぼしおぼしおぼしゆるさゆるさゆるされれれにににたりたりたり。。。いかにいかにいかに思思おもひひいおこすおこすおこすらむらむらんととと我我わにてにてにていみじういみじういみじゅう戀戀こいしかりしかりしかりぬぬぬべきべきべきさまさまさまをををとととうちうちうちまもりまもりまもりつゝつゝつつ懷懷ふところににに入入いれれれててて美美うつくしげしげしげなるなるなる御御おんちちちをををくゝめくゝめくくめ給給たまひひいつゝつゝつつ戯戯たわぶれぶれぶれ居居い給給たまへへえるるる御御おんさまさまさま見見み所所どころ多多おおかりかりかり。。。
- 5おおお前前まえなるなるなる人々人々びとははは「「「などなどなどかかか同同おなじくじくじくははは、、、いでいでいでややや」」」などなどなど語語かたらひらひらいあへあへあえりりり。。。
- 6彼所彼所かしこにににはははいといといとのどやかのどやかのどやかににに心心こころばせばせばせあるあるあるけはひけはひけわいににに住住すみみみなしなしなしててて家家いえののの有樣有樣ありさまもももやうやうようはなれはなれはなれててて珍珍めずらしきしきしきにににみづからみづからみずからのののけはひけはひけわいなどなどなどははは見見みるるる度度たびごとごとごとにににやんごとなきやんごとなきやんごとなき人々人々びとににに劣劣おとるるるけぢめけぢめけじめこよなからこよなからこよなからずずず。。。かたちかたちかたち用意用意よういあらまほしうあらまほしうあらまほしゅうねびねびねびまさりまさりまさり行行ゆくくく。。。
- 7唯唯ただよよよののの常常つねのののおぼえおぼえおぼえにににかきかきかきまぎれまぎれまぎれたらたらたらばばばさるさるさる類類たぐひひいなくなくなくやややはははととと思思おもふふうべきべきべきををを世世よににに似似にぬぬぬひがものひがものひがものなるなるなる親親おやののの聞聞きこえええなどなどなどこそこそこそ苦苦くるしけれしけれしけれ、、、人人ひとののの程程ほどなどなどなどはははさてさてさてもももあああべきべきべきものものものをををなどなどなどおぼすおぼすおぼす。。。
- 8はつかはつかはつかににに飽飽あかかかぬぬぬ程程ほどにににのみのみのみあれあれあればばばにににややや心心こころのどかのどかのどかならならならずずず、、、立立たちちちかへりかへりかえり給給たまふふうももも苦苦くるしくしくしくててて夢夢ゆめのののわたりわたりわたりののの浮橋浮橋うきわしかかかとととのみのみのみうちうちうち歎歎なげかかかれれれててて箏箏そうののの琴琴ことのののあるあるあるををを引引ひききき寄寄よせせせててて、、、かのかのかの明石明石あかしにてにてにて小夜小夜さよふけふけふけたりたりたりしししねねねももも例例れいのののおぼしおぼしおぼし出出いでででらるれらるれらるればばば、、、
- 9琵琶琵琶びわをををわりなくわりなくわりなくせめせめせめ給給たまへへえばばば、、、少少すこしししかきかきかき合合あわせせせたるたるたる、、、いかでいかでいかでかうかうこうのみのみのみひきひきひきすぐしすぐしすぐしけむけむけんとととおぼさおぼさおぼさるるる。。。若君若君わかぎみののの御御おんことことことなどなどなどこまやかこまやかこまやかににに語語かたりりり給給たまひひいつゝつゝつつおはすおはすおわす。。。
- 10こゝこゝここはははかゝるかゝるかかる所所ところなれなれなれどどどかやうかやうかようににに立立たちちちとまりとまりとまり給給たまふふう折々折々おりおりあれあれあればばばはかなきはかなきはかなきくだものくだものくだものこはいひこはいひこわいいばかりばかりばかりははは聞聞きこしししめすめすめす時時ときもももありありあり。。。近近ちかききき御寺御寺みてら桂殿桂殿かつらどのなどなどなどにににおはしおはしおわしまぎらはしまぎらはしまぎらわしつゝつゝつついといといとまほまほまほにににははは亂亂みだれれれ給給たまははわねねねどどど又又またいといといとけざやかけざやかけざやかにににはしたなくはしたなくはしたなくおしなべておしなべておしなべてのののさまさまさまにににはははもてなしもてなしもてなし給給たまははわぬぬぬなどなどなどこそこそこそはははいといといと覺覺おぼえええことことことにににははは見見みゆゆゆめれめれめれ。。。
- 11女女おんなもももかゝるかゝるかかる御心御心みこころののの程程ほどををを見見み知知しりりり聞聞きこえええててて過過すぎぎぎたりたりたりととと覺覺おぼすすすばかりばかりばかりののの事事ことはははしししいでいでいでずずず。。。又又またいたくいたくいたくひげひげひげせせせずずずなどなどなどしししててて御御おん心心こころおきておきておきてにににもてもてもて違違たがふふうことことことなくなくなくいといといとめやすくめやすくめやすくぞぞぞありありありけるけるける。。。
- 12おぼろげおぼろげおぼろげにににやんごとなきやんごとなきやんごとなき所所ところにてにてにてだにだにだに、、、かばかりかばかりかばかりもももうちうちうち解解とけけけ給給たまふふうことことことなくなくなくけだかきけだかきけだかき御御おんもてなしもてなしもてなしををを聞聞きききき置置おきききたれたれたればばば近近ちかききき程程ほどにににまじらひまじらひまじらいてててはははなかなかなかなかなかなかいといといとめなれめなれめなれててて人人ひとあなづらあなづらあなずられれれなるなるなる事事ことどもどもどもぞぞぞあらあらあらましましまし、、、たまさかたまさかたまさかにてにてにてかやうかやうかようにににふりはへふりはへふりはえ給給たまへへえるるるこそこそこそたけきたけきたけき心地心地ここちすれすれすれととと思思おもふふうべしべしべし。。。
- 13明石明石あかしにににもももさささこそこそこそいひいひいいしかしかしか。。。このこのこの御御おん心心こころおきておきておきてありさまありさまありさまをををゆかしがりゆかしがりゆかしがりててておぼつかなからおぼつかなからおぼつかなからずずず人人ひとははは通通かよはしはしわしつゝつゝつつ胸胸むねつぶるゝつぶるゝつぶるることことこともももありありあり又又またおもだゝしくおもだゝしくおもだたしく嬉嬉うれしししととと思思おもふふうことことことももも多多おおくくくなむなむなんありありありけるけるける。。。
現代語訳
源氏は、山里の所在なさも絶えず思いやっていらっしゃるので、公私ともに忙しい時期を過ごしてからお出かけになるというので、いつもより格別に化粧をなさって、桜襲の御直衣に、何とも言えない美しいお召し物を重ねて、香をたきしめて装いなさって、紫の上にお暇乞いをなさる様子は、隈なく照らす夕日に、いっそう美しくお見えになるのを、女君(紫の上)は穏やかでない気持ちでお見送り申し上げなさる。
姫君は、あどけなく御指貫の裾にまとわりついてお慕い申し上げなさるうちに、御簾の外にまで出てしまいそうなので、源氏は立ち止まって、たいそういとしいとお思いになった。なだめておいて、「明日帰り来む」と口ずさんでお出になると、紫の上は渡殿の戸口に待ち構えて、中将の君を通して申し上げなさる。
「あなたの船を引き止める向こう岸の人がいなければこそ、明日帰ってくるあなたを待ちもしましょうが」。物慣れた様子で申し上げるので、源氏はたいそう艶やかにほほえんで、「行って会って、明日は必ず帰ってこよう。向こう岸の人は、かえって気を悪くするとしても」。
何のことともわからずにはしゃぎ回っていらっしゃる姫君を、上(紫の上)はかわいいとご覧になるので、遠くの人(明石の君)の目障りなことも、すっかりお許しになっていた。母君はどんなに思いやっていることだろう、自分であっても、ひどく恋しくてたまらないに違いない様子だと、じっと見つめながら、懐に入れて、かわいらしい乳房を含ませなさりながら戯れていらっしゃるご様子は、見どころが多い。お前に仕える女房たちは、「どうして同じことなら、ご自分のお子でいらっしゃれば。いえまあ」などと語り合っている。
あちら(大堰)では、たいそうのんびりと、教養のある雰囲気で暮らしていて、家の有様も世間離れして珍しいうえに、明石の君ご自身の様子などは、会うたびごとに、高貴な方々に劣る差もない。容貌や心づかいも、理想的に美しさを増していく。源氏は、ただ世間並みの評判に紛れているのなら、そういう例もないことはないと思うはずなのに、世に似ない変わり者の父親の評判などこそ苦しいけれど、人柄などは、このままで十分なものをとお思いになる。
わずかな、名残惜しいほどの短い逢瀬ばかりだからだろうか、心がのどかでなく、帰りなさるのもつらくて、「夢のわたりの浮橋か」とばかり嘆かれて、箏の琴があるのを引き寄せて、あの明石で夜更けに聞いた琴の音も、いつものように思い出されるので、琵琶を無理にお勧めになると、少し合奏したのが、どうしてこうも上手に弾きこなしたのだろうとお思いになる。若君のことなどを細やかにお話しになりながらいらっしゃる。
ここはこのような所だけれど、このように泊まっていかれる折々があるので、ちょっとした果物や強飯ぐらいは召し上がる時もある。近くの御寺や桂殿などにおいでになることに紛らわしながら、すっかり打ち解けて乱れたりはなさらないけれど、また、ひどくきっぱりと、そっけなく、並一通りの扱いはなさらないことなどこそ、たいそう格別のご寵愛と見えるようだ。
女(明石の君)も、このようなお心のほどを見知り申し上げて、出過ぎているとお思いになるようなことはしない。また、ひどく卑下することもなくて、源氏のお心づもりに背くこともなく、たいそう感じよく振る舞っていた。並々でなく高貴な所でさえ、これほど打ち解けなさることもなく、気高いお扱いをなさると聞いていたので、近い所に交じっていたら、かえってひどく見慣れてしまって、軽んじられるようなこともあったろう、たまにこうしてわざわざおいでくださるのこそ、立派な気持ちがすると思うのだろう。
明石の入道も、あのように言ってはいたが、源氏のお心づかいやご様子を知りたがって、気がかりでないように人を通わせながら、胸がつぶれることもあり、また面目があってうれしいと思うことも多かった。
意訳
源氏は念入りに装いを整えて大堰へ出かける。姫君は源氏にまとわりついて慕い、紫の上は女房を通して皮肉な歌を詠みかけ、源氏もほほえんで返歌する。紫の上は姫君のかわいらしさに、明石の君への嫉妬も和らいでいる。
大堰の明石の君は、ますます美しく上品になり、源氏は琴を合奏して明石の夜を思い出す。明石の君は身の程をわきまえ、源氏の扱いにかなう慎み深い態度で暮らしている。
語釈・文法注
- あすかへりこむ
- 催馬楽「桜人」の一節。「桜人その舟止め島つ田を十町作れる見て帰り来むやそよや明日帰り来む」。源氏はこれを口ずさみ、紫の上はそれを受けて歌を詠む。
文法
- 「ばこそ…め」(なくばこそ…まち見め)
- 「いなければこそ、待ちもしましょうが」。逆接の余韻を残し、実際には引き止める人がいることをほのめかす。
- 反語の「やは」(さる類ひなくやは)
- 「そういう例もないことがあろうか、いや、ある」。
和歌
船とむるをち方人のなくばこそあすかへりこむせなとまち見め
- 詠者
- 紫の上
- 状況
- 大堰へ出かける源氏に、女房を通して詠みかけた歌。あなたの船を引き止める向こう岸の人がいなければこそ、明日帰ってくるあなたを待ちもしましょうが。
修辞
- 引歌
- 源氏が口ずさんだ催馬楽「桜人」の「明日帰り来む」をふまえる。「をち方人」は大堰の明石の君を指す。
行きて見てあすもさねこむなかなかにをちかた人は心おくとも
- 詠者
- 光源氏
- 状況
- 紫の上への返歌。行って会って、明日は必ず帰ってこよう。向こう岸の人は、かえって気を悪くするとしても。
解説
紫の上の「船とむる」の歌は、源氏が口ずさんだ催馬楽を受けて機転を利かせたもので、嫉妬をユーモアに包んで表している。源氏はそれに応じながらも、大堰へ出かけていく。
紫の上が姫君に乳を含ませる場面は、子のない紫の上が母になろうとする姿を描いて印象的である。女房たちの「などか同じくは」というささやきは、紫の上自身の子であればという思いを代弁している。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、354–357頁(コマ180–181)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日