源氏物語 第19帖 薄雲(2)
尼君の説得と雪の日
尼君は、源氏自身も母の身分が低かったために臣下となったことを例に引き、母方の身分が子の運命を左右すると説いて、姫君を源氏に託すよう明石の君を説得する。明石の君は思い弱り、源氏に袴着のことを任せると返事をする。乳母とも別れることになり、明石の君は泣く。十二月、雪の降り積もる朝、明石の君は姫君を撫でながら物思いにふけり、乳母と歌を交わす。

- 1尼君尼君あまぎみ思思おもひひいやりやりやり深深ふかききき人人ひとにてにてにて、、、「「「あじきなしあじきなしあじきなし。。。見見み奉奉たてまつらららざらざらざらむむんことことことはははいといといと胸胸むねいたかりいたかりいたかりぬぬぬべけれべけれべけれどどど遂遂ついにににこのこのこの御御おんためためためににによかるよかるよかるべからべからべからむむん事事ことをををこそこそこそ思思おもははわめめめ。。。淺淺あさくくくおぼしおぼしおぼしてててのののたまふたまふたまう事事ことにににはははあらあらあらじじじ。。。たゞたゞただうちうちうち賴賴たのみみみ聞聞きこえええててて渡渡わたししし奉奉たてまつりりり給給たまひひいてててよよよ。。。
- 2母方母方ははかたからからからこそこそこそ、、、帝帝みかどののの御子御子みこもももきはきはきはきはきわきわにににおはすおはすおわすめれめれめれ。。。このこのこのおとゞおとゞおとどののの君君きみののの世世よににに二二ふたつつつなきなきなき御御おん有樣有樣ありさまながらながらながら世世よににに仕仕つかへへえ給給たまへへえばばば故故こ大納言大納言だいなごんののの今今いまひとひとひときざみきざみきざみなりなりなり劣劣おとりりり給給たまひひいてててととといはいはいわれれれ給給たまひひいしししけぢめけぢめけじめにににこそこそこそおはすおはすおわすめれめれめれ。。。ましてましてましてたゞたゞただ人人ひとはははなずらふなずらふなずらうべきべきべき事事ことにににもももあらあらあらずずず。。。
- 3又又またみこみこみこだちだちだち大臣大臣だいじんののの御御おん腹腹はらととといへいへいえどどど猶猶なおさしさしさし向向むかひひいたるたるたるおとりおとりおとりののの所所ところにににははは人人ひとももも思思おもひひいおとしおとしおとし親親おやののの御御おんもてなしもてなしもてなしもももえええひとしからひとしからひとしからぬぬぬものものものなりなりなり。。。ましてましてましてこれこれこれはははやむごとなきやむごとなきやむごとなき御御おん方々方々かたがたにににかゝるかゝるかかる人人ひと出出いでででものものものししし給給たまははわゞゞばこよなくこよなくこよなくけたけたけたれれれ給給たまひひいなむなむなん。。。
- 4ほどほどほどほどほどほどにににつけつけつけててて親親おやにににもももひとひとひとふしふしふしもてもてもてかしづかかしづかかしずかれれれぬるぬるぬる人人ひとこそこそこそやがてやがてやがて貶貶おとしめしめしめられられられぬぬぬはじめはじめはじめとととはははなれなれなれ。。。御御おん袴着袴着はかまぎのののほどほどほどももも、、、いみじきいみじきいみじき心心こころをををつくすつくすつくすともともともかゝるかゝるかかる深山隱深山隱みやまがくれにてにてにてははは何何なにのののはえはえはえかかかあらあらあらむむん。。。唯唯ただ任任まかせせせ聞聞きこえええ給給たまひひいてててもてなしもてなしもてなし給給たまははわむむん有樣有樣ありさまをををももも聞聞きききき給給たまへへえ」」」ととと敎敎おしふふう。。。
- 5「「「さかしきさかしきさかしき人人ひとののの心心こころのののうらうらうらどもどもどもにににももも物物もの問問とはははせせせなどなどなどするするするにににももも猶猶なお渡渡わたりりり給給たまひひいてててはははまさるまさるまさるべしべしべし」」」とととのみのみのみいへいへいえばばば思思おもひひいよわりよわりよわりにににたりたりたり。。。殿殿とのもももしかしかしかおぼしおぼしおぼしながらながらながら思思おもははわむむん所所ところのののいとほしさいとほしさいとおしさににに强强しひひいてててえええのののたまはたまはたまわででで「「「御御おん袴着袴着はかまぎののの事事こといかやういかやういかようにににかかか」」」とととのののたまへたまへたまえるるる、、、
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- 8めのとめのとめのとももも「「「さるべきさるべきさるべきにににややや覺覺おぼえええぬぬぬさまさまさまにてにてにて見見み奉奉たてまつりりりそめそめそめててて年比年比としごろののの御心御心こころばへばへばえののの忘忘わすれれれ難難がとううう戀戀こいしうしうしゅう覺覺おぼえええ給給たまふふうべきべきべきをををうちうちうちたえたえたえ聞聞きこゆるゆるゆることことことはははよもよもよも侍侍はべらららじじじ。。。終終ついにににはははととと賴賴たのみみみながらながらながら暫暫しばしししにてにてにてもももよそよそよそよそよそよそににに思思おもいののの外外ほかのののまじらひまじらひまじらいししし侍侍はべらららむむんががが、、、安安やすからからからずずずももも侍侍はべるるるべきべきべきかなかなかな」」」などなどなど、、、うちうちうち泣泣なきききつゝつゝつつすぐすすぐすすぐす程程ほどににに十二月十二月しわすにもにもにもなりなりなりぬぬぬ。。。
- 9雪雪ゆき霰霰あられがちがちがちににに心心こころ細細ぼそさささまさりまさりまさりててて、、、怪怪あやしくしくしくさまざまさまざまさまざまににに物物もの思思おもふふうべかりべかりべかりけるけるける身身みかなかなかなとととうちうちうち歎歎なげきききててて常常つねよりよりよりもももこのこのこの君君きみををを撫撫なでででつくろひつくろひつくろいつゝつゝつつ居居いたりたりたり。。。
- 10雪雪ゆきかきかきかきくらしくらしくらし降降ふりりり積積つもるるるあしたあしたあしたきしきしきし方方かた行行ゆくくくさきさきさきののの事事こと殘殘のこらららずずず思思おもひひいつゞけつゞけつづけててて例例れいはははことことことにににはしはしはしぢかぢかじかなるなるなるいでいでいでゐゐいなどなどなどもももせせせぬぬぬををを、、、みぎはみぎはみぎわののの氷氷こおりなどなどなど見見みやりやりやりててて白白しろききききぬきぬきぬどもどもどものののなよゝかなよゝかなよよかなるなるなるあまたあまたあまた着着きてててながめながめながめたるたるたるやうだいやうだいようだい頭頭かしらつきつきつきうしろでうしろでうしろでなどなどなど、、、かぎりかぎりかぎりなきなきなき人人ひとととと聞聞きこゆゆゆともともともかうかうこうこそこそこそおはすおはすおわすらめらめらめととと見見みゆゆゆ。。。
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現代語訳
尼君は思慮深い人なので、「どうしようもないことです。姫君を見申し上げられなくなることは、たいそう胸が痛むでしょうけれど、結局はこの姫君のためによいことを考えるべきでしょう。殿は浅い考えでおっしゃることではないでしょう。ただお頼み申し上げて、お渡し申し上げなさい。母方の身分によってこそ、帝の御子も、それぞれの格差がおありになるようです。
この源氏の大臣が、世に二つとないご様子でありながら臣下としてお仕えになっているのは、故大納言が、もう一段位が劣っていらっしゃって、母君が更衣腹と言われなさった違いによるのでしょう。まして、臣下の子は比べものになりません。また、親王や大臣の御娘の腹といっても、やはり正妻に向き合って劣る方の腹の子は、人も軽んじ、親のお扱いも同等にはいかないものです。
まして、この姫君は、高貴な方々にこういうお子がお生まれになったら、すっかり圧倒されてしまうでしょう。身分相応に、親にも一際大切にされた人こそ、そのまま人に軽んじられないもとになるのです。御袴着のことも、どんなに心を尽くしても、このような深山の陰では何の見栄えがありましょう。ただお任せ申し上げて、どのようにお扱いになるかをお聞きなさい」と教える。
「賢い人の占いなどにお尋ねになっても、やはりお渡りになる方がよいと出るでしょう」とばかり言うので、明石の君は気持ちが弱ってしまった。殿(源氏)も、そうお思いになりながら、明石の君が悲しむだろうことがお気の毒で、強いておっしゃることができずに、「御袴着のことはどのようにしようか」とおっしゃった、そのお返事に、明石の君は「何もかもかいのない私の身に添えておいたのでは、本当に姫君の将来もお気の毒に思われますが、そちらに交じって、どんなに人の笑いものになることでしょう」と申し上げたのを、源氏はたいそう哀れにお思いになる。日取りなどを選ばせなさって、ひそやかに、しかるべきことなどをお指図なさる。
手放し申し上げることは、やはりたいそう悲しく思われるけれど、姫君のためによいことをと我慢する。明石の君は「乳母とも別れることになるのは、明け暮れの物思いや所在なさも、語り合って慰めてきたのに、いっそう頼りないことまで加わって、たいそうつらく思われるでしょう」と言って泣く。
乳母も「そうなる運命だったのでしょうか、思いがけない形でお会いしはじめて、長年のお心づかいが忘れがたく恋しく思われるでしょうから、お便りを絶やし申し上げることはまさかございません。最後にはと頼みにしながらも、しばらくでも離れて思いがけない宮仕えをいたしますのは、落ち着かないことでございましょう」などと、泣きながら過ごすうちに、十二月にもなった。
雪や霰が多くなって心細さがまさって、明石の君は、不思議にさまざまな物思いをしなければならない身であることよと嘆いて、いつもよりもこの姫君を撫でたり身なりを整えたりしていた。雪が空を暗くして降り積もる朝、過去や将来のことを残らず思い続けて、いつもは特に端近に出て座ることなどもしないのに、水際の氷などを見やって、白い衣のしなやかなのを何枚も重ねて着て物思いにふけっている姿や、頭の形、後ろ姿などは、この上ない身分の人と申し上げても、きっとこのようでいらっしゃるだろうと見える。
落ちる涙を払って、「このような日には、ましてどんなに気がかりでしょう」と、かわいらしく嘆いて、「雪深い山道は晴れなくとも、やはり手紙を通わせておくれ。足跡を絶やさないで」とおっしゃると、乳母は泣いて、「雪の絶え間もない吉野の山を訪ねてでも、心の通う足跡を絶やすことがありましょうか」と言って慰める。
意訳
尼君は、源氏自身も母の身分が低かったために臣下となったことを例に引き、母方の身分が子の運命を左右すると説いて、姫君を源氏に託すよう明石の君を説得する。明石の君は思い弱り、源氏に袴着のことを任せると返事をする。
乳母とも別れることになり、明石の君は泣く。十二月、雪の降り積もる朝、明石の君は姫君を撫でながら物思いにふけり、乳母と、文を絶やさぬよう誓う歌を交わす。
語釈・文法注
- 更衣腹
- 更衣を母とする子。源氏の母桐壺更衣は、父が大納言どまりで後見がなかったため、更衣の身分にとどまった。そのため源氏は、帝に愛されながらも臣籍に下された。
文法
- 「こそ…め」(事をこそ思はめ)
- 「ことを考えるべきでしょう」。「こそ」の結びで推量の「む」が已然形「め」となり、適当・勧誘を表す。
- 反語の「やは」(跡たえめやは)
- 「絶やすことがありましょうか、いや、ない」。
和歌
雪ふかき深山のみちははれずともなほふみかよへ跡たえずして
- 詠者
- 明石の君
- 状況
- 雪の朝、乳母に詠みかけた歌。雪深い山道は晴れなくとも、やはり手紙を通わせておくれ。足跡を絶やさないで。
修辞
- 掛詞
- 「ふみ」に「踏み」と「文(手紙)」をかける。
ゆきまなきよしのゝ山を尋ねてもこゝろの通ふ跡たえめやは
- 詠者
- 乳母
- 状況
- 明石の君への返歌。雪の絶え間もない吉野の山を訪ねてでも、心の通う足跡を絶やすことがありましょうか。
修辞
- 掛詞
- 「ゆき」に「雪」と「行き」をかける。
解説
尼君の説得は、平安時代の貴族社会で母方の身分がいかに重要であったかを、源氏自身を例に挙げて明快に語っている。源氏が臣籍に下ったのは母が更衣であったためで、姫君が后となるためには、高貴な紫の上の養女となる必要があった。
雪の朝の明石の君の姿は、「かぎりなき人と聞ゆともかうこそおはすらめ」と、高貴な女性にも劣らない気品として描かれる。身分の低さと人柄の高貴さの対比が、明石の君の悲劇を際立たせている。
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出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、350–351頁(コマ178)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日