源氏物語 第18帖 松風(9)
紫の上と姫君の行く末
源氏は人々に禄を与えて帰京する。大堰の明石の君は、遠ざかる一行の響きを寂しく聞く。二条院に戻った源氏は、紫の上の機嫌をとりながら、明石の君に手紙を書く。紫の上は返事を見ないふりをするが、源氏は笑って、実はかわいい子がいるので、紫の上の手で育ててほしいと相談する。子ども好きの紫の上は、姫君を抱いて育てたいと思う。源氏は、月に二度ほどしか大堰に通えないことを思いながら、姫君を迎えるかどうか思い乱れる。

- 1けぢかうけぢかうけじこううちうちうちしづまりしづまりしずまりたるたるたる御御おん物語物語ものがたり少少すこしししうちうちうちみだれみだれみだれててて、、、千年千年ちとせももも見見み聞聞きかかかまほしきまほしきまほしき御御おん有樣有樣ありさまなれなれなればばば、、、斧斧おのののの柄柄えももも朽朽くちちちぬぬぬべけれべけれべけれどどど今日今日きょうさへさへさへはははとととててて急急いそぎぎぎ歸歸かえりりり給給たまふふう。。。物物ものどもどもどもしなじなしなじなしなじなにににかづきかづきかずきててて霧霧きりののの絕間絕間たえまににに立立たちちちまじりまじりまじりたるたるたるももも前栽前栽せんざいののの花花はなににに見見みえええまがひまがひまがいたるたるたる色色いろあひあひあいなどなどなど殊殊ことにににめでたしめでたしめでたし。。。
- 2近衛近衛このえづかさづかさずかさののの名名な高高だかききき舍人舍人とねり、、、物物もののののふしふしふしどもどもどもなどなどなどさぶらふさぶらふさぶらうににに、、、さうざうしけれさうざうしけれそうぞうしければばばそのそのその駒駒こまなどなどなど亂亂みだれれれ遊遊あそびびびてててぬぎぬぎぬぎかけかけかけ給給たまふふう色々色々いろいろ、、、秋秋あきののの錦錦にしきををを風風かぜののの吹吹ふきききおほふおほふおおうかかかととと見見みゆゆゆ。。。
- 3のゝしりのゝしりののしりててて歸歸かえらららせせせ給給たまふふう響響ひびきををを大井大井おおいにににははは物物もの隔隔へだてゝてゝてて聞聞ききききててて名殘名殘なごりさびしうさびしうさびしゅう詠詠ながめめめ給給たまふふう。。。御御おんせうそこせうそこしょうそこをををだにだにだにせせせでででとととおとゞおとゞおとどももも御心御心みこころにににかゝれかゝれかかれりりり。。。
- 4殿殿とのにににおはしおはしおわしてててとばかりとばかりとばかりうちうちうちやすみやすみやすみ給給たまふふう。。。山里山里やまざとののの御御おん物語物語ものがたりなどなどなど聞聞きこえええ給給たまふふう。。。「「「暇暇いとま聞聞きこえええししし程程ほど過過すぎぎぎつれつれつればばばいといといと苦苦くるしうしうしゅうこそこそこそ。。。このこのこのすきものすきものすきものどもどもどもののの尋尋たずねねね來來きててていといといと痛痛いとうううしひしひしいとゞめとゞめとどめしししにににひかひかひかされされされててて今朝今朝けさはははいといといとなやましなやましなやまし」」」とととててて大殿大殿おおとのごもれごもれごもれりりり、、、
- 5例例れいののの心心こころとけとけとけずずず見見みえええ給給たまへへえどどど見見み知知しらららぬぬぬやうやうようにてにてにて、、、「「「なずらひなずらひなずらいならならならぬぬぬ程程ほどをををおぼしおぼしおぼしくらぶるくらぶるくらぶるもももわろきわろきわろきわざわざわざなめりなめりなめり。。。我我わはははわれわれわれととと思思おもひひいなしなしなし給給たまへへえととと敎敎おしへへへ聞聞きこえええ給給たまふふう。。。
- 6暮暮くれれれかゝるかゝるかかる程程ほどにににうちうちうちににに參參まいりりり給給たまふふうにににひきひきひきそばめそばめそばめててて急急いそぎぎぎ書書かききき給給たまふふうはははかしこかしこかしこへへへなめりなめりなめり。。。そばめそばめそばめこまやかこまやかこまやかににに見見みゆゆゆ。。。うちうちうちさゞめきさゞめきさざめきてててつかはすつかはすつかわすををを御達御達ごたちなどなどなどにくみにくみにくみ聞聞きこゆゆゆ。。。
- 7そのそのその夜夜よははは內內うちにににももも侍侍さぶらひひい給給たまふふうべけれべけれべけれどどどとけとけとけざりざりざりつるつるつる御御おん氣色氣色けしきとりとりとりににに夜夜よ更更ふけけけぬれぬれぬれどどどまかでまかでまかで給給たまひひいぬぬぬ。。。ありありありつるつるつる御御おんかへりかへりかえりもてもてもて參參まいれれれりりり。。。えええひきひきひき隱隱かくししし給給たまははわででで御覽御覽ごらんずずず。。。
- 8殊殊ことににににくかるにくかるにくかるべきべきべきふしふしふしももも見見みえええねねねばばば「「「これこれこれやりやりやりかくしかくしかくし給給たまへへえ。。。むつかしむつかしむつかしやややかゝるかゝるかかるものものものゝゝのちらちらちらむむんももも、、、今今いまはははつきなきつきなきつきなき程程ほどににになりなりなりにににけりけりけり」」」とととててて御御おん脇息脇息きょうそくににによりよりより居居い給給たまひひいててて、、、御心御心みこころのののうちうちうちにににはははいといといと哀哀あわれににに戀戀こいしうしうしゅうおぼしおぼしおぼしやらやらやらるれるれるればばば火火ひをををうちうちうちながめながめながめててて殊殊ことににに物物ものももものののたまはたまはたまわずずず。。。
- 9文文ふみはははひろごりひろごりひろごりながらながらながらあれあれあれどどどをんなをんなおんな君君きみ見見み給給たまははわぬぬぬやうやうようなるなるなるををを「「「せめてせめてせめて見見み隱隱かくししし給給たまふふう御御おんまじりまじりまじりこそこそこそ煩煩わずらはしけれはしけれわしけれ」」」とととてててうちうちうち笑笑えみみみ給給たまへへえるるる御御おん愛敬愛敬あいぎょう所所ところせきせきせきまでまでまでこぼれこぼれこぼれぬぬぬべしべしべし。。。
- 10さしさしさしよりよりより給給たまひひいててて「「「誠誠まことはははらうたげらうたげろうたげなるなるなるものものものををを見見みしかしかしかばばば契契ちぎり淺淺あさくくくももも見見みえええぬぬぬをををさりとてさりとてさりとて物物ものめかさめかさめかさむむん程程ほどもももはゞかりはゞかりはばかり多多おおかるかるかるににに思思おもひひいなむなむなむわづらひわづらひわずらいぬるぬるぬる。。。同同おなじじじ心心こころににに思思おもひひいめぐらしめぐらしめぐらしててて御心御心みこころににに思思おもひひい定定さだめめめ給給たまへへえ。。。いかゞいかゞいかがすすすべきべきべき。。。こゝこゝここにてにてにてはぐゝみはぐゝみはぐくみ給給たまひひいてててむむんややや。。。
- 11ががが齡齡よわいにににもももなりなりなりにににけるけるけるををを罪罪つみなきなきなきさまさまさまなるなるなるももも思思おもひひいすてすてすてがたうがたうがとうこそこそこそ。。。いはけなげいはけなげいわけなげなるなるなる下下しもつつつかたかたかたももも紛紛まぎらはさはさわさむむんなどなどなど思思おもふふうををを、、、目目めざましざましざましととと思思おぼさささずずずはははひきひきひきゆひゆひゆい給給たまへへえかしかしかし」」」ととと聞聞きこえええ給給たまふふう。。。
- 12「「「思思おもははわずずずにににのみのみのみとりなしとりなしとりなし給給たまふふう御心御心みこころのののへだてへだてへだてをををせめてせめてせめて見見み知知しらららずずずうらなくうらなくうらなくやややはははとととてててこそこそこそ、、、いはけなからいはけなからいわけなからむむん御心御心みこころにににはははいといといとようようようかなひかなひかないぬぬぬべくべくべくなむなむなんいかにいかにいかに美美うつくしきしきしき程程ほどににに」」」とととててて少少すこしししうちうちうち笑笑えみみみ給給たまひひいぬぬぬ。。。
- 13ちごちごちごをををわりなうわりなうわりのうらうたきらうたきろうたきものものものにににししし給給たまふふう御心御心みこころなれなれなればばば、、、えええててていだきいだきいだきかしづかかしづかかしずかばやばやばやとととおぼすおぼすおぼす。。。いかにいかにいかにせせせましましまし、、、迎迎むかへへえやややせせせましましましとととおぼしおぼしおぼし亂亂みだるるる。。。渡渡わたりりり給給たまふふうことことこといといといとかたしかたしかたし。。。嵯峨野嵯峨野さがのののの御堂御堂みどうののの念佛念佛ねんぶつなどなどなど待待まちちち出出いでででゝゝて、、、月月つきにににこたびこたびこたびばかりばかりばかりののの御御おん契契ちぎりなめりなめりなめり。。。
- 14年年としのののわたりわたりわたりにににははは立立たちちちまさりまさりまさりぬぬぬべかべかべかめるめるめるををを、、、及及およびびびなきなきなきことことことゝゝと思思おもへへえどもどもども猶猶なおいかゞいかゞいかがものものものおもはしからおもはしからおもわしからぬぬぬ。。。
現代語訳
親しく打ち解けたお話に少し羽目を外して、千年も見聞きしていたいご様子なので、斧の柄も朽ちてしまいそうだけれど、今日まではいられないということで、急いでお帰りになる。人々がそれぞれの身分に応じた禄をいただいて、霧の絶え間に立ち交じっているのも、前栽の花に見まがうような色合いなど、格別にすばらしい。近衛府の名高い舎人や、楽の上手な者などがお仕えしているので、物足りないので、「その駒」などを歌い騒いで、お脱ぎになって禄としてお与えになる色とりどりの衣は、秋の錦を風が吹き覆うかと見える。
大騒ぎしてお帰りになる響きを、大堰では物を隔てて聞いて、名残寂しく物思いにふけっていらっしゃる。お便りさえしないでと、大臣(源氏)もお心にかかっていた。源氏は二条院にお帰りになって、しばらく休みなさる。紫の上に山里のお話などを申し上げなさる。「お暇をいただいた期間が過ぎてしまったので、たいそうつらいことでした。あの物好きな連中が訪ねてきて、ひどく引き止めたのに引かれて、今朝はたいそう気分が悪い」と言って、お休みになった。
紫の上は、例によって打ち解けないご様子にお見えになるけれど、源氏は気づかないふりをして、「比べものにならない身分の人を、張り合ってお考えになるのもよくないことのようです。私は私と思っていなさい」と教え申し上げなさる。日が暮れかかるころに参内なさる時、人目を避けて急いでお書きになるのは、あちら(大堰)へのお便りなのだろう。横顔が細やかに見える。小声で何か言って遣わすのを、女房たちは憎らしく思い申し上げる。
その夜は宮中に宿直なさるはずだったけれど、打ち解けなかった紫の上のご機嫌をとりに、夜が更けたけれど退出なさった。先ほどのお返事を持って参った。隠しきれずにご覧になる。特に憎らしく思われるような節も見えないので、「これを破って隠してください。わずらわしいことです。こういうものが散らかっているのも、今はふさわしくない年になってしまった」と言って、御脇息に寄りかかりなさって、お心の中ではたいそうしみじみと恋しく思いやられるので、灯火を眺めて、特に何もおっしゃらない。
手紙は広げたままになっているけれど、女君(紫の上)が見ないふりをしていらっしゃるのを、源氏は「無理に見ないようにしていらっしゃる目つきこそ、気になります」と言ってほほえみなさる、その愛嬌は、あふれこぼれるほどである。源氏は近くに寄りなさって、「実は、かわいい子を見たので、縁も浅くないと思われるのですが、そうかといって、人並みに扱うのも遠慮が多いので、思い悩んでいるのです。同じ心で考えをめぐらして、あなたのお心で決めてください。どうしたらよいでしょう。ここでお育てになってくださいませんか。
蛭子の三つの齢にもなったのに、罪のない様子なのも、見捨てがたくて。幼げな下半身の袴着のことも、人目を紛らわしてと思っているのですが、気に入らないとお思いでなければ、腰結いの役をしてください」と申し上げなさる。紫の上は「思いがけないことばかりにお取りになるお心の隔てを、強いて知らないふりをして、無邪気にはしていられないと思っておりましたが、幼い方のお心には、きっとよく合うでしょう。どんなにかわいい年ごろでしょう」と言って、少しほほえみなさった。
紫の上は幼子をむやみにかわいがるご性分なので、引き取って抱いて大切に育てたいとお思いになる。源氏は、どうしたものか、迎えようかと思い乱れなさる。大堰にお渡りになることはたいそう難しい。嵯峨野の御堂の念仏などを待って、月に二度ほどのご縁のようだ。年に一度の七夕の逢瀬よりはまさっているだろうけれど、明石の君は、及びもつかないことと思うものの、やはりどうして物思いをしないでいられようか。
意訳
源氏は人々に禄を与えて帰京し、大堰の明石の君は、遠ざかる一行の響きを寂しく聞く。二条院に戻った源氏は、紫の上の機嫌をとりながら、明石の君に手紙を書き、その返事を紫の上の前で広げる。
源氏は紫の上に、実はかわいい子がいるので、紫の上の手で育て、袴着の腰結いもしてほしいと相談する。子ども好きの紫の上は、姫君を抱いて育てたいと思う。源氏は、迎えるかどうか思い乱れ、明石の君は月に二度ほどの訪れを待つ身となる。
語釈・文法注
- ひるのこ
- 蛭子(ひるこ)。伊弉諾・伊弉冉の神が生んだ子で、三歳になっても足が立たなかったという。ここでは、姫君が三歳になったことをいう。明石の巻の源氏の歌にも詠まれている。
文法
- 願望の「ばや」(いだきかしづかばや)
- 「抱いて大切に育てたい」。
- 反語の「いかゞ…ぬ」(いかゞものおもはしからぬ)
- 「どうして物思いをしないでいられようか」。
解説
源氏が紫の上に姫君の養育を頼む場面は、松風の巻の結末であり、次の薄雲の巻への橋渡しとなる。子のない紫の上が、明石の君の娘を養女とすることで、源氏の家庭は新たな形をとっていく。
紫の上は、嫉妬を見せながらも、子どもへの愛情から姫君の養育を引き受けようとする。紫の上の複雑な心情と、母から子を奪うことになる明石の君の悲しみが、物語の新たな主題となる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、346–349頁(コマ176–177)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日