源氏物語 第15帖 蓬生(9)
源氏との再会
源氏は几帳の帷子を少しかき上げて、長い無沙汰を詫び、杉ならぬ木立のしるしに過ぎかねたと語る。末摘花は、源氏が蓬を分けて訪ねてくれたことに心を動かされ、ほのかに返事をする。源氏は、松にかかる藤にことよせて歌を詠み、末摘花も待ち続けたかいもないと返す。月の光に照らされた部屋は、昔と変わらぬしつらいで、源氏は、ひたすら自分を待ち続けた末摘花をいじらしく思う。

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- 9昔物語昔物語むかしものがたりにににだうだうどうこぼちこぼちこぼちたるたるたるもももありありありけるけるけるをををおぼしおぼしおぼしあはするあはするあわするににに、、、同同おなじじじさまさまさまにてにてにて年年としふりふりふりにににけるけるけるもももあはれあはれあわれなりなりなり。。。ひたぶるひたぶるひたぶるににに物物ものづゝみづゝみずつみしししたるたるたるけはひけはひけわいのののさすがさすがさすがにににあてやかあてやかあてやかなるなるなるももも心心こころにくゝにくゝにくくおぼさおぼさおぼされれれててて、、、さるさるさるかたかたかたにてにてにて忘忘わすれれれじじじととと心苦心苦こころぐるしくしくしく思思おもひひいしししををを、、、年比年比としごろさまざまさまざまさまざまののの物思物思ものおもひひいにににほれぼれしくほれぼれしくほれぼれしくててて隔隔へだてててつるつるつる程程ほどつらしつらしつらしととと思思おもははわれれれつつつらむらむらんととといとほしくいとほしくいとおしくおぼすおぼすおぼす。。。
現代語訳
源氏はお入りになって、「長年のご無沙汰の間も、心だけは変わらずにお思いやり申し上げていたのですが、あなたがそれほどお便りもくださらない恨めしさに、今まで様子をうかがっておりましたのに、杉ではないけれど、この木立の目印がはっきりしていたので、素通りしかねて根負けしてしまいました」と言って、几帳の帷子を少しかきやりなさると、末摘花は例によってたいそう恥ずかしそうに、すぐにはお返事も申し上げなさらない。これほどまでに分け入っていらっしゃったのが浅くないお心だと、気を取り直して、ほのかにお答え申し上げなさった。
源氏は「このような草に隠れて過ごしていらっしゃった年月の哀れさも並々ではなく、また変わらない心の習いで、あなたのお心の内もわからないまま、分け入ってまいりました露けさなどを、どうお思いですか。長年の怠りは、また世間並みのことと許してくださるでしょう。これから後、あなたのお心にかなわないようなことがあれば、約束に背いた罪も負いましょう」などと、それほどお思いでもないことも、情け深く申し上げなさることもあったようだ。
泊まっていかれるのも、場所の様子をはじめとして、気恥ずかしいほどのご様子なので、うまく言いつくろってお帰りになろうとする。自分で植えたわけではないけれど、松が高くなった年月のほども哀れで、夢のようなご自身の身の上も、続けて思い出される。
「藤の花が素通りしにくく見えたのは、松がこの宿の目印だったからです。数えてみると、ずいぶん年月が積もったことでしょう。都で変わってしまったことが多かったのも、さまざまに感慨深くて。そのうちゆっくりと、都を離れて田舎に別れていた間の、落ちぶれた世の話も申し上げ尽くしましょう。また、年月を過ごしていらっしゃった春秋の暮らしにくさなども、ほかの誰に訴えなさるだろうかと、心から思われるのも、一方では不思議なことで」などと申し上げなさると、
末摘花は「長い年月を待ち続けたかいもない我が宿を、藤の花を見るついでに、ただ立ち寄られただけなのでしょうか」と、ひそやかに身動きなさる気配も、袖の香も、昔よりは大人びていらっしゃるのだろうかとお思いになる。
月が沈みかけるころになって、西の妻戸が開いている所から、遮るはずの渡殿のような建物もなく、軒の端も残っていないので、たいそう明るく差し込んでいるので、あたりのあちこちが見えるが、昔と変わらないお部屋のしつらえの様子などが、しのぶ草に荒れはてた外の見た目よりは優雅に見えるのを、昔物語に、塔を壊した人もあったことを思い合わせなさると、同じ様子で年を経てきたのも哀れである。
ひたすら遠慮している気配が、さすがに上品なのも奥ゆかしくお思いになって、そういう人として忘れまいと気の毒に思っていたのに、長年さまざまの物思いにぼんやりして、疎遠にしていた間、つらいと思われていたことだろうと、気の毒にお思いになる。
意訳
源氏は几帳の帷子をかき上げて、長い無沙汰を詫びる。末摘花は、源氏が蓬を分けて訪ねてくれたことに心を動かされ、ほのかに返事をする。
源氏は、松にかかる藤にことよせて、待っていてくれたことを喜ぶ歌を詠む。末摘花は、待ち続けたかいもないと返す。月の光に照らされた部屋は昔と変わらぬしつらいで、源氏は、ひたすら待ち続けた末摘花をいじらしく思う。
語釈・文法注
- 杉ならぬ木立のしるさ
- 「我が庵は三輪の山もと恋しくはとぶらひ来ませ杉立てる門」(古今集)による。杉ではないが、松にかかる藤の木立が目印になったという。
- だうこぼちたる人
- 昔物語で、塔を壊した人の話。どのような物語か未詳。古いものを壊さずに守った末摘花と対比する。
文法
- 打消の接続助詞「で」(え過ぎでなむ)
- 「素通りできずに」。「え…で」で不可能を表す。
- 「こそ…けれ」(松こそ宿のしるしなりけれ)
- 「松がこの宿の目印だったのだ」。気づきを表す「けり」が「こそ」の結びで已然形となる。
和歌
ふぢなみのうち過ぎがたく見えつるは松こそ宿のしるしなりけれ
- 詠者
- 光源氏
- 状況
- 末摘花に詠みかけた歌。藤の花が素通りしにくく見えたのは、松がこの宿の目印だったからです(あなたが待っていてくれたしるしだったのです)。
修辞
- 掛詞
- 「松」に「待つ」をかける。
年を經てまつしるしなき我が宿を花のたよりにすぎぬばかりか
- 詠者
- 末摘花
- 状況
- 源氏への返歌。長い年月を待ち続けたかいもない我が宿を、藤の花を見るついでに、ただ立ち寄られただけなのでしょうか。
修辞
- 掛詞
- 「まつ」に「待つ」と「松」をかける。
解説
再会の場面で交わされる歌は、「松」と「待つ」の掛詞を軸にしている。藤の花に導かれた源氏の訪れは、末摘花が待ち続けたことへの報いとして描かれる。
末摘花の返歌は、待ち続けたかいもないと恨みを込めつつ、控えめに源氏の心を確かめるものである。昔より大人びたと源氏が感じるのは、苦難の年月が末摘花を成長させたことを示している。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、316–319頁(コマ161–162)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日