源氏物語 第15帖 蓬生(8)
惟光の訪れ
惟光は荒れた邸に入り、ようやく人の気配のする所を見つけて案内を請う。応対した老女房は侍従の叔母の少将で、末摘花が昔と変わらず源氏を待ち続けていることを語る。惟光の報告を聞いた源氏は、自分の薄情さを思い知り、末摘花を訪ねることにする。惟光が蓬の露を鞭で払いながら源氏を導き、末摘花は叔母から贈られた装束に着替えて、すすけた几帳の陰で源氏を待つ。

- 1惟光惟光これみつ入入いりりりてててめぐるめぐるめぐるめぐるめぐるめぐる、、、人人ひとののの音音おとするするする方方かたやややととと見見みるるるににに、、、いさゝかいさゝかいささか人人ひとげげげもももせせせずずず。。。さればこそさればこそさればこそゆきゝゆきゝゆききののの道道みちににに見見み入入いるれるれるれどどど人人ひと住住すみみみげげげもももなきなきなきものものものをををととと思思おもひひいてててかへりかへりかえり參參まいるるる程程ほどににに、、、月月つきあかくあかくあかくさしさしさし出出いでででたるたるたるににに見見みれれればばば、、、格子格子こうしふたまふたまふたまばかりばかりばかりあげあげあげててて簾垂簾垂すだれ動動うごくくく氣色氣色けしきなりなりなり。。。
- 2僅僅わずかににに見見みつけつけつけたるたるたる心地心地ここち恐恐おそろしくしくしくさへさへさへおぼゆれおぼゆれおぼゆれどどど寄寄よりりりてててこわづくれこわづくれこわずくればばば、、、いといといと物物ものふりふりふりたるたるたる聲聲こえにてにてにてまづまづまずしはぶきしはぶきしわぶきをををさきさきさきににに立立たてゝてゝてて、、、「「「かれかれかれはははたれたれたれぞぞぞ何人何人なにびとぞぞぞ」」」ととと問問とふふう。。。名名なのりのりのりしししててて、、、「「「侍從侍從じじゅうののの君君きみととと聞聞きこえええししし人人ひとにににたいめんたいめんたいめん給給たまわらららむむん」」」ととといふいふいう。。。
- 3「「「それそれそれははは外外ほかににになむなむなん物物ものししし給給たまふふう。。。されどされどされどおぼしおぼしおぼしわくわくわくまじきまじきまじき女女おんななむなむなん侍侍はべるるる」」」ととといふいふいう聲聲こえいたういたういとうねびねびねび過過すぎぎぎたれたれたれどどど、、、聞聞ききききしししおいびとおいびとおいびとゝゝと聞聞きききき知知しりりりたりたりたり。。。
- 4內內うちにににははは思思おもひひい寄寄よらららずずず狩衣狩衣かりぎぬ姿姿すがたなるなるなる男男おとこののの忍忍しのびやかびやかびやかにににもてなしもてなしもてなしてててなごやかなごやかなごやかなれなれなればばば、、、見見みならはならはならわずずずなりなりなりにににけるけるけるめめめにてにてにて、、、もしもしもし狐狐きつねなどなどなどのののへんげへんげへんげにににやややととと覺覺おぼゆれゆれゆれどどど、、、近近ちこうううよりよりよりててて「「「たしかたしかたしかににになむなむなん承承うけたまわらららまほしきまほしきまほしき。。。
- 5變變かわらららぬぬぬ御御おん有樣有樣ありさまならならならばばば尋尋たずねねね聞聞きこえええさせさせさせ給給たまふふうべきべきべき御心御心こころざしざしざしももも足足たらららずずずなむなむなんおはしますおはしますおわしますめるめるめるかしかしかし。。。こよひこよひこよいももも行行ゆききき過過すぎぎぎがてがてがてにににとまらとまらとまらせせせ給給たまへへえるるるをををいかゞいかゞいかが聞聞きこえええさせさせさせむむん。。。後後うしろやすくやすくやすくををを」」」ととといへいへいえばばば
- 6女女おんなどもどもどもうちうちうち笑笑わらひひいててて、、、「「「變變かわらららせせせ給給たまふふう御御おん有樣有樣ありさまならならならばばばかゝるかゝるかかるあさぢあさぢあさじががが原原はらをををうつろひうつろひうつろい給給たまははわでででははは侍侍はべりりりなななむむんややや、、、たゞたゞただ推推おししし量量はかりりりててて聞聞きこえええさせさせさせ給給たまへへえかしかしかし。。。年年とし經經へたるたるたる人人ひとののの心心こころにににもももたぐひたぐひたぐいあらあらあらじじじとととのみのみのみ珍珍めずらからからかなるなるなる世世よをををこそこそこそははは見見み奉奉たてまつりりり過過すぐしぐしぐし侍侍はべれれれ」」」とととやゝやゝややくづしくづしくずし出出いでででゝゝて問問とはははずずず語語がたりりりもももしししつつつべきべきべきがががむつかしけれむつかしけれむつかしければばば、、、「「「よしよしよしよしよしよしまづまづまずかくかくかくなむなむなんととと聞聞きこえええさせさせさせむむん」」」とととててて參參まいりりりぬぬぬ。。。
- 7「「「などなどなどかかかいといといと久久ひさしかりしかりしかりつるつるつる。。。いかにいかにいかにぞぞぞ。。。昔昔むかしののの跡跡あとももも見見みえええぬぬぬ蓬蓬よもぎのののしげさしげさしげさかなかなかな」」」とととのののたまへたまへたまえばばば、、、「「「しかじかしかじかしかじかなむなむなんたどりたどりたどりよりよりよりててて侍侍はべりりりつるつるつる。。。侍從侍從じじゅうがががをばをばをばののの少將少將しょうしょうととといひいひいい侍侍はべりりりしししおいおいおい人人びとなむなむなん、、、變變かわらららぬぬぬ聲聲こえにてにてにて侍侍はべりりりつるつるつる」」」とととありさまありさまありさま聞聞きこゆゆゆ。。。
- 8いみじういみじういみじゅうあはれあはれあわれにににかゝるかゝるかかるしげきしげきしげき中中なかににに何何なに心地心地ここちしししてててすぐしすぐしすぐし給給たまふふうらむらむらん、、、今今いままでまでまでとはとはとはざりざりざりけるけるけるよよよととと我我わががが御心御心みこころのののなさけなさなさけなさなさけなさもももおぼしおぼしおぼし知知しらららるるる。。。「「「いかゞいかゞいかがすすすべきべきべき。。。かゝるかゝるかかるしのびありきしのびありきしのびありきももも難難かたかるかるかるべきべきべきををを、、、かゝるかゝるかかる序序ついでならならならででではははえええ立立たちちち寄寄よらららじじじ。。。變變かわらららぬぬぬありさまありさまありさまならならならばばばげにげにげにさささこそこそこそあらあらあらめめめととと推推おししし量量はからららるゝるゝるる人人ひとざまざまざまににになむなむなん」」」とととはははのののたまひたまひたまいながらながらながら、、、ふとふとふと入入いりりり給給たまははわむむんことことこと猶猶なおつゝましうつゝましうつつましゅうおぼさおぼさおぼさるるる。。。
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- 10惟光惟光これみつももも「「「更更さらにににえええ分分わけけけさせさせさせ給給たまふふうまじきまじきまじき蓬蓬よもぎののの露露つゆけさけさけさににになむなむなん侍侍はべるるる。。。露露つゆ少少すこししし拂拂はらははわせせせてててなむなむなん入入いらららせせせ給給たまふふうべきべきべき」」」ととと聞聞きこゆれゆれゆればばば、、、「「「尋尋たずねねねてててももも我我わこそこそこそとはとはとはめめめ道道みちもももなくなくなく深深ふかきききよもぎよもぎよもぎのののもともともとのののこゝろこゝろこころををを」」」とととひとりごちひとりごちひとりごちててて猶猶なおおりおりおり給給たまへへえばばば御御おんさきさきさきののの露露つゆををを馬馬うまののの鞭鞭むちしししててて拂拂はらひひいつゝつゝつつ入入いれれれ奉奉たてまつるるる。。。
- 11あまぞゝぎあまぞゝぎあまぞそぎももも猶猶なお秋秋あきののの時雨時雨しぐれめきめきめきてててうちうちうちそゝげそゝげそそげばばばみかさみかさみかささぶらふさぶらふさぶらう。。。「「「げにげにげにこのこのこの下露下露したつゆははは雨雨あめにににまさりまさりまさりてててととと聞聞きこゆゆゆ。。。御御おん指貫指貫さしぬきののの裾裾すそはははいたういたういとうそぼちそぼちそぼちぬぬぬめりめりめり。。。昔昔むかしだにだにだにあるあるあるかかかなきなきなきかかかなりなりなりししし中門中門ちゅうもんなどなどなどましてましてましてかたかたかたもももなくなくなくなりなりなりててて、、、入入いりりり給給たまふふうにににつけつけつけてててもももいといといとむとくむとくむとくなるなるなるををを立立たちちちまじりまじりまじり見見みるるる人人ひとなきなきなきぞぞぞ心心こころ安安やすかりかりかりけるけるける。。。
- 12姫君姫君ひめぎみはははさりともさりともさりともとととまちまちまちすぐしすぐしすぐし給給たまへへえるるる心心こころもももしるくしるくしるく嬉嬉うれしけれしけれしけれどどど、、、いといといと耻耻はずかしきしきしき御御おんありさまありさまありさまにてにてにてたいめんたいめんたいめんせせせむむんもももいといといとつゝましくつゝましくつつましくおぼしおぼしおぼしたりたりたり。。。
- 13大貳大貳だいにののの北北きたののの方方かたののの奉奉たてまつりりり置置おきききししし御御おんぞぞぞどもどもどもをををももも心心こころゆかゆかゆかずずずととと思思おぼささされれれしししゆかりゆかりゆかりににに見見み入入いれれれ給給たまははわざりざりざりけるけるけるをををこのこのこの人々人々びとのののかうかうこうののの御御おんからびつからびつからびつににに入入いれれれたりたりたりけるけるけるがががいといといとなつかしきなつかしきなつかしきかかかしししたるたるたるををを奉奉たてまつりりりけれけれければばば、、、いかゞいかゞいかがはははせせせむむんににに着着きかへかへかえ給給たまひひいててて、、、かのかのかの煤煤すすけけけたるたるたる御御おん几帳几帳きちょうひきひきひきよせよせよせててておはすおはすおわす。。。
現代語訳
惟光は邸の中に入って、あちこちと回りながら、人の声のする方はないかと見るが、少しも人の気配がしない。思ったとおりだ、行き来の道で中を見ていたが、人の住んでいる様子もないものをと思って、帰参しようとするうちに、月が明るく差し出てきたので見ると、格子を二間ほど上げて、簾が動く様子である。やっと見つけた気がして、恐ろしくさえ思われるけれど、近寄って咳払いをすると、たいそう年寄りじみた声で、まず咳をしてから、「そこにいるのは誰です。何者ですか」と尋ねる。惟光は名乗って、「侍従の君と申し上げた人にお目にかかりたい」と言う。
「その人はよそにおります。けれども、侍従と同じようにお思いいただいてよい女がおります」と言う声は、ひどく年老いているけれど、聞き覚えのある老女房だと、惟光は聞き分けた。中では思いもよらず、狩衣姿の男がひそやかに振る舞って、物腰が柔らかなので、見慣れなくなってしまった目には、もしや狐などの化けたものではないかと思われるけれど、惟光は近寄って、「はっきりと伺いたいのです。姫君が昔と変わらぬご様子ならば、主人にはお訪ね申し上げなさるお気持ちもないわけではないようです。今夜も通り過ぎかねて車をお止めになったのですが、どう申し上げましょう。ご安心ください」と言うと、
女房たちは笑って、「お変わりになったご様子なら、こんな浅茅が原から移らずにいられましょうか。ただ推し量って申し上げてくださいませ。年老いた者の心にも、またとないと思われるほどの珍しいご境遇を、見申し上げて過ごしてまいりました」と、少しずつ話し出して、問わず語りもしそうなのが面倒なので、惟光は「よしよし、まずはこうだと申し上げましょう」と言って帰参した。
源氏は「どうしてこんなに長くかかったのか。どうであった。昔の跡も見えない蓬の茂りようだな」とおっしゃると、惟光は「これこれで、ようやくたどりつきました。侍従の叔母の少将と申しました老女房が、昔と変わらない声でおりました」と、様子を申し上げる。源氏はたいそうしみじみとして、こんな茂みの中でどんな気持ちで過ごしていらっしゃったのだろう、今まで訪ねなかったことよと、ご自分の薄情さを思い知りなさる。
「どうしたものか。こういうお忍び歩きも難しいだろうから、こういう機会でなければ立ち寄ることもできまい。昔と変わらぬ様子ならば、本当にそうだろうと推し量られる人柄なのだ」とはおっしゃりながら、すぐにお入りになることは、やはり気がひけるようにお思いになる。気の利いたお手紙もたいそう差し上げたいけれど、昔ご覧になった時の返事の遅さも変わっていないならば、使いが待ちあぐねるのも気の毒だとお思いとどまりになった。
惟光も、「まったくお分け入りになれそうもない蓬の露の深さでございます。露を少し払わせてからお入りになるべきでしょう」と申し上げると、源氏は「たとえ道もなく深い蓬の中であっても、私こそが訪ねていこう。昔と変わらぬあの人の心を」とひとり言をおっしゃって、やはり車をお降りになるので、惟光はお先の露を馬の鞭で払いながらお入れ申し上げる。
木々から落ちるしずくも、やはり秋の時雨のように降りかかるので、御傘を差しかける。惟光が「本当に、この木の下露は雨にまさって」と申し上げる。御指貫の裾はひどく濡れてしまったようだ。昔でさえあるかないかだった中門などは、まして跡形もなくなって、お入りになるにつけてもたいそう見苦しいのを、そばで見る人がいないのが気楽であった。
姫君は、いくら何でもと待ち続けていらっしゃった心のかいもあってうれしいけれど、たいそう恥ずかしいご様子で対面するのも、たいそう気がひけるとお思いになっている。大弐の北の方が差し上げておいたお召し物も、気に入らないとお思いになっていた縁の者からのものなので、見向きもなさらなかったのを、この女房たちが香の唐櫃に入れておいたのが、たいそう慕わしい香りがしているのを差し上げたので、仕方なくお着替えになって、あのすすけた御几帳を引き寄せていらっしゃる。
意訳
惟光は荒れた邸に入り、老女房の少将と対面して、末摘花が昔と変わらず源氏を待ち続けていることを知る。報告を聞いた源氏は、自分の薄情さを思い知り、末摘花を訪ねることにする。
源氏は、蓬の露を分けて訪ねる決意を歌に詠み、惟光が鞭で露を払いながら源氏を導く。末摘花は、叔母から贈られた装束に着替えて、すすけた几帳の陰で源氏を待つ。
語釈・文法注
- この下露は雨にまさりて
- 「みさぶらひ御笠と申せ宮城野の木の下露は雨にまされり」(古今集・東歌)による。源氏に傘を差しかける惟光が、この歌をふまえて言う。
文法
- 「こそ…め」(我こそとはめ)
- 「私こそ訪ねていこう」。「こそ」の結びで、意志の「む」が已然形「め」となる。
- 推定の「めり」(そぼちぬめり)
- 「濡れてしまったようだ」。語り手の目に映る様子を推定する。
和歌
尋ねても我こそとはめ道もなく深きよもぎのもとのこゝろを
- 詠者
- 光源氏
- 状況
- 蓬の生い茂る邸に入ろうとして詠んだ歌。たとえ道もなく深い蓬の中であっても、私こそが訪ねていこう。昔と変わらぬあの人の心を。
修辞
- 掛詞
- 「もと」に「(蓬の)根もと」と「もとの(昔の)」をかける。
解説
蓬の露を分けて訪れる源氏の姿は、巻名「蓬生」の象徴的な場面である。惟光が東歌をふまえて傘を差しかけるやりとりは、深刻な場面に軽妙な味わいを添えている。
末摘花が叔母の贈った装束に着替えるのは、叔母への反発よりも、源氏を迎える喜びが勝ったことを示す。かつての末摘花の巻での滑稽な装束の描写と比べると、彼女の心の変化がうかがえる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、314–317頁(コマ160–161)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日