源氏物語 第15帖 蓬生(7)
雪の冬と源氏の通りかかり
冬、雪に埋もれた邸で、末摘花は話し相手もなく寂しく過ごす。源氏は新しい人々に忙しく、末摘花を訪ねることもないまま年が明ける。四月、花散里を訪ねる途中の源氏は、藤の花が松にかかって香る荒れた邸の前を通りかかり、それが常陸宮邸だと気づく。源氏は惟光に様子を見てくるよう命じる。ちょうどそのころ、末摘花は昼寝の夢に父宮を見て、雨漏りのする廂で歌を詠んでいた。

- 1霜月霜月しもつきばかりばかりばかりににになりなりなりぬれぬれぬればばば雪雪ゆき霰霰あられがちがちがちにてにてにてほかほかほかにににははは消消きゆるゆるゆるまままもももあるあるあるををを、、、朝日朝日あさひ夕日夕日ゆうひをををふせぐふせぐふせぐよもぎよもぎよもぎむぐらむぐらむぐらのののかげかげかげににに深深ふこうううつもりつもりつもりてててののの白山白山しらやま思思おもひひいやらやらやらるゝるゝるる雪雪ゆきのののうちうちうちににに出出いででで入入いるるるしもびとしもびとしもびとだにだにだになくなくなくてててつれづれつれづれつれずれとととながめながめながめ給給たまふふう。。。
- 2はかなきはかなきはかなき事事ことををを聞聞きこえええなぐさめなぐさめなぐさめ泣泣なきききみみみ笑笑わらひひいみみみまぎらはしまぎらはしまぎらわしつるつるつる人人ひとさへさへさへなくなくなくててて、、、夜夜よるももも塵塵ちりがましきがましきがましき御御おん帳帳ちょうののの內內うちもももかたはらかたはらかたわら寂寂さびしくしくしく物物もの悲悲かなしくしくしくおぼさおぼさおぼさるるる。。。
- 3かのかのかの殿殿とのにににはははめづらしめづらしめずらし人人ひとにににいとゞいとゞいとど物物ものさわがしきさわがしきさわがしき御御おんありさまありさまありさまにてにてにていといといとやんごとなくやんごとなくやんごとなくおぼさおぼさおぼされれれぬぬぬところどころところどころところどころにににはははわざとわざとわざともももえええ音音おとづれづれずれ給給たまははわずずず。。。ましてましてましてそのそのその人人ひとはははまだまだまだ世世よにににやややおはすおはすおわすらむらむらんとととばかりばかりばかりおぼしおぼしおぼし出出いづるづるずる折折おりもももあれあれあれどどど、、、尋尋たずねねね給給たまふふうべきべきべき御御おんこゝろざしこゝろざしこころざしもももいそがいそがいそがでででありありありふるふるふるににに、、、年年としかはりかはりかわりぬぬぬ。。。
- 4卯月卯月うずきばかりばかりばかりににに花散里花散里はなちるさとををを思思おもひひい出出いででで聞聞きこえええ給給たまひひいててて忍忍しのびびびててて對對たいののの上上うえににに御御おんいとまいとまいとま聞聞きこえええててて出出いででで給給たまふふう。。。日日ひごろごろごろふりふりふりつるつるつる名殘名殘なごりののの雨雨あめ少少すこしししそゝぎそゝぎそそぎてててをかしきをかしきおかしきほどほどほどににに月月つきさしさしさし出出いでででたりたりたり。。。
- 5昔昔むかしののの御御おんありきありきありきおぼしおぼしおぼし出出いでででられられられててて艶艶えんなるなるなる程程ほどののの夕夕ゆうづくづくずく夜夜よににに、、、道道みちのののほどほどほどよろづよろづよろずののの事事ことおぼしおぼしおぼし出出いでででゝゝておはするおはするおわするにににかたかたかたもももなくなくなく荒荒あれれれたるたるたる家家いえののの木立木立こだちしげくしげくしげく森森もりのののやうやうようなるなるなるををを過過すぎぎぎ給給たまふふう。。。
- 6大大おおきなるきなるきなる松松まつににに藤藤ふじののの咲咲さきききかゝりかゝりかかりててて月月つきかげかげかげににに靡靡なびきききたるたるたる、、、風風かぜにににつきつきつきてててさとさとさと匂匂におふふうがががなつかしくなつかしくなつかしくそこはかとなきそこはかとなきそこはかとなきかをりかをりかおりなりなりなり。。。橘橘たちばなにににはははかはりかはりかわりてててをかしけれをかしけれおかしければばばさしさしさし出出いででで給給たまへへえるるるににに、、、柳柳やなぎもももいたういたういとうしだりしだりしだりててて、、、もももさはらさはらさわらねねねばばば亂亂みだれれれふしふしふしたりたりたり。。。
- 7見見みししし心地心地ここちするするする木立木立こだちかなかなかなとととおぼすおぼすおぼすははははやうはやうはようこのこのこの宮宮みやなりなりなりけりけりけり。。。いといといとあはれあはれあわれにてにてにておしおしおしとゞめとゞめとどめさせさせさせ給給たまふふう。。。例例れいののの惟光惟光これみつはははかゝるかゝるかかる御御おんしのびありきしのびありきしのびありきにににおくれおくれおくれねねねばばば侍侍さぶらひひいけりけりけり。。。召召めししし寄寄よせせせててて、、、「「「こゝこゝここははは故故こ常陸常陸ひたちののの宮宮みやぞぞぞかしかしかしななな」」」。。。「「「しかしかしか侍侍はべりりり」」」ととと聞聞きこゆゆゆ。。。
- 8「「「こゝこゝここにににありありありししし人人ひとはははまだまだまだやややながむながむながむらむらむらん。。。とぶらふとぶらふとぶらうべきべきべきをををわざとわざとわざと物物ものせせせむむんもももところせしところせしところせし。。。かゝるかゝるかかるついでついでついでににに入入いりりりてててせうそこせうそこしょうそこせよせよせよ、、、能能よくくく尋尋たずねねねよりよりよりてててをををうちうちうち出出いでででよよよ人人ひと違違たがへへえしししてててはははをこをこおこならならならむむん」」」とととのののたまふたまふたまう。。。
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- 10「「「なきなきなき人人ひとををを戀戀こふるふるうる袂袂たもとのののひまひまひまなきなきなきににに荒荒あれれれたるたるたる軒軒のきのののしづくしづくしずくさへさへさへそふそふそう」」」ももも心苦心苦こころぐるしきしきしき程程ほどににになむなむなんあめりあめりあめりけるけるける。。。
現代語訳
十一月ごろになると、雪や霰が多くなって、ほかの所では消える間もあるのに、ここでは朝日や夕日をさえぎる蓬や葎の陰に深く積もって、越の白山が思いやられるほどの雪の中で、出入りする下人さえいなくて、末摘花は所在なく物思いにふけっていらっしゃる。ちょっとしたことを申し上げてお慰めし、泣いたり笑ったりして気をまぎらわせてくれた人さえいなくなって、夜も塵っぽい御帳台の中も、かたわらが寂しく、何となく悲しくお思いになる。
あちらの源氏の殿では、新しく心を寄せる人々のことで、いっそう何かと忙しいご様子で、それほど大切にお思いにならない所々には、わざわざお便りもなさらない。まして、あの人はまだ生きていらっしゃるだろうかとくらいに思い出しなさる折もあるけれど、訪ねようというお気持ちも急がずに過ごしているうちに、年が改まった。
四月ごろに、花散里を思い出し申し上げなさって、こっそりと対の上(紫の上)にお暇を申し上げてお出かけになる。何日か降り続いた名残の雨が少し降って、趣のあるころに、月が出てきた。昔のお忍び歩きを思い出しなさって、優美な夕月夜に、道すがらさまざまなことを思い出しながらいらっしゃると、跡形もなく荒れた家で、木立が茂って森のようになっている所をお通りになる。
大きな松に藤が咲きかかって月の光になびいているのが、風に乗ってさっと匂うのが慕わしく、どこからともない香りである。橘の香りとはまた違って趣があるので、身を乗り出してご覧になると、柳もひどく垂れ下がって、築地も邪魔にならないほど崩れているので、乱れ伏している。見たことのある気がする木立だなとお思いになるのは、もとからこの宮であったのだ。たいそうしみじみとして、車を止めさせなさる。
いつものように惟光は、こういうお忍び歩きにはお供を欠かさないので、お仕えしていた。お呼び寄せになって、「ここは故常陸の宮の邸だったな」。「さようでございます」と申し上げる。「ここにいた人は、まだ物思いに沈んでいるだろうか。見舞うべきだが、わざわざ出向くのも大げさだ。こういうついでに、入って案内を請え。よく確かめてから口に出せ。人違いをしてはばかげたことになろう」とおっしゃる。
こちらでは、いっそう物思いのまさるころで、しみじみと物思いにふけっていらっしゃったが、昼寝の夢に故宮がお見えになったので、目が覚めて、たいそう名残惜しく悲しくお思いになって、雨漏りで濡れた廂の端の方を拭かせて、あちこちのお座席を整えさせなどしながら、いつになく人並みのお振る舞いをなさって、「亡き人を恋い慕って袂の涙の乾く間もないのに、荒れた軒の雨のしずくまでが加わることです」というのも、心苦しいほどの様子であったようだ。
意訳
雪に埋もれた冬の邸で、末摘花は話し相手もなく寂しく過ごす。源氏は末摘花を訪ねることもないまま年が明ける。
四月、花散里を訪ねる途中の源氏は、藤の花が香る荒れた邸に気づき、それが常陸宮邸だと知って、惟光に様子を見てくるよう命じる。そのころ末摘花は、昼寝の夢に父宮を見て、雨漏りのする廂で歌を詠んでいた。
語釈・文法注
- 越の白山
- 加賀の国(今の石川県)の白山。雪深い山として和歌に詠まれた。
- ついひぢ
- 築地(ついじ)。土を突き固めて造った塀で、上に屋根をかけたもの。
文法
- 現在推量の「らむ」(まだ世にやおはすらむ)
- 「まだ生きていらっしゃるだろうか」。
- 推定の「めり」(心苦しき程になむあめりける)
- 「心苦しいほどの様子であったようだ」。「あるめり」の撥音便「あんめり」の撥音を表記しない形。
和歌
なき人を戀ふる袂のひまなきに荒れたる軒のしづくさへそふ
- 詠者
- 末摘花
- 状況
- 昼寝の夢に父宮を見て、雨漏りのする廂で詠んだ歌。亡き人を恋い慕って袂の涙の乾く間もないのに、荒れた軒の雨のしずくまでが加わることです。
解説
源氏が末摘花を再発見する場面は、松にかかる藤の花の香りによって導かれる。藤は「待つ」に通じる「松」にかかる花として、末摘花が源氏を待ち続けていたことを象徴している。
源氏が通りかかったその時、末摘花は夢に父宮を見ていた。父宮の霊が二人を結びつけたかのような偶然は、物語の運命的な展開を感じさせる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、312–315頁(コマ159–160)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日