源氏物語 第14帖 澪標(10)
住吉の源氏と澪標の歌
源氏は住吉で夜通し神事や遊びを催す。惟光と歌を交わした後、明石の君の船が引き返したと聞いて哀れに思う。翌日、難波の堀江で「みをつくし」の歌を明石の君に届けさせる。明石の君は感激して返歌し、源氏も歌を詠む。翌日、明石の君は改めて住吉に参詣する。源氏は帰京後すぐに使いを送り、上京を促すが、明石の君と入道は決心がつかない。

- 1君君きみははは夢夢ゆめにににももも知知しりりり給給たまははわずずず、、、夜一夜夜一夜よひとよいろいろいろいろいろいろののの事事ことをををせせせさせさせさせ給給たまふふう。。。誠誠まことににに神神かみののの喜喜よろこびびび給給たまふふうべきべきべき事事ことをををしししつくしつくしつくしててて、、、きしきしきしかたかたかたののの御御おんぐわんぐわんがんにににもももうちうちうちそへそへそえありがたきありがたきありがたきまでまでまで遊遊あそびびびのゝしりのゝしりののしりあかしあかしあかし給給たまふふう。。。惟光惟光これみつやうやうようののの人人ひとははは心心こころのののうちうちうちににに神神かみののの御御おん德德とくををを哀哀あわれにににめでたしめでたしめでたしととと思思おもふふう。。。
- 2あからさまあからさまあからさまににに立立たちちち出出いででで給給たまへへえるるるににに侍侍さぶらひひいててて聞聞きこえええ出出いでででたりたりたり。。。「「「すみよしすみよしすみよしのののまつまつまつこそこそこそものものものははは悲悲かなしけれしけれしけれ神代神代かみよのののことことことをををかけかけかけててて思思おもへへえばばば」」」。。。
- 3げにげにげにとととおぼしおぼしおぼし出出いでででゝゝて「「「荒荒あらかりかりかりししし浪浪なみのののまよひまよひまよいににに住吉住吉すみよしののの神神かみをををばばばかけかけかけてててわすれわすれわすれやややはははするするする。。。しるししるししるしありありあり」」」などなどなどのののたまふたまふたまうもももいといといとめでたしめでたしめでたし。。。
- 4かのかのかの明石明石あかしののの船船ふね、、、このこのこの響響ひびきにににおさおさおされれれててて過過すぎぎぎぬるぬるぬる事事ことももも聞聞きこゆれゆれゆればばば知知しらららざりざりざりけるけるけるよよよととと哀哀あわれれれにににおぼすおぼすおぼす。。。神神かみののの御御おんしるべしるべしるべおぼしおぼしおぼし出出いづるづるずるももも愚愚おろかならならならねねねばばば聊聊いささかなるなるなる御御おん消消しょうそこそこそこをををだにだにだにしししててて心心こころ慰慰なぐさめめめばやばやばや、、、なかなかなかなかなかなかににに思思おもふふうらむらむらんかしかしかしとととおぼすおぼすおぼす。。。
- 5みやしろみやしろみやしろたちたちたち給給たまひひいてててところどころところどころところどころににに逍遙逍遙しょうようをををつくしつくしつくし給給たまふふう。。。難波難波なにわののの御御おんはらへはらへはらえなどなどなど殊殊ことににになゝなゝななににによそほしうよそほしうよそおしゅう仕仕つこうううまつるまつるまつる。。。
- 6堀江堀江ほりえのののわたりわたりわたりををを御覽御覽ごらんじじじててて「「「今今いまはたはたはた同同おなじじじ難波難波なにわなるなるなるととと御心御心みこころにににもももあらあらあらでででうちうちうちずじずじずじ給給たまへへえるるるををを、、、御御おん車車くるまのののもともともと近近ちかききき惟光惟光これみつうけたまはりうけたまはりうけたまわりやややしししつつつらむらむらん、、、さるさるさる召召めしししもももやややとととれいれいれいにににならひならひならいててて懷懷ふところににに設設もうけけけたるたるたるつかつかつか短短みじかききき筆筆ふでなどなどなど御御おん車車くるまとゞむるとゞむるとどむる所所ところにてにてにて奉奉たてまつれれれりりり。。。
- 7をかしをかしをかしとととおぼしおぼしおぼしてててたゝうがみたゝうがみたとうがみににに「「「みをつくしみをつくしみおつくし戀戀こふるふるうるしるししるししるしにににこゝこゝここまでまでまでもももめぐりめぐりめぐり逢逢あひひいけるけるけるえにえにえにはははふかしふかしふかしななな」」」とととててて賜賜たまへへえれれればばば、、、かしこかしこかしこののの心心こころしれしれしれるるるしもびとしもびとしもびとしししてててやりやりやりけりけりけり。。。
- 8駒駒こまなべてなべてなべてうちうちうち過過すぎぎぎ給給たまふふうにににももも心心こころのみのみのみ動動うごくくくににに、、、露露つゆばかりばかりばかりなれなれなれどどどいといといとあはれあはれあわれにににかたじけなくかたじけなくかたじけなくおぼえおぼえおぼえてててうちうちうちなきなきなきぬぬぬ。。。「「「數數かずならならならででで難波難波なにわのののことことこともももかひかひかいなきなきなきににになどなどなどみをつくしみをつくしみおつくし思思おもひひいそめそめそめけむけむけん」」」。。。たみのたみのたみのゝゝの島島しまにににみそぎみそぎみそぎ仕仕つこうううまつるまつるまつる御御おんはらへはらへはらえのののものものものにににつけつけつけててて奉奉たてまつるるる。。。
- 9日日ひ暮暮ぐれがたがたがたににになりなりなりゆくゆくゆく。。。夕汐夕汐ゆうしお滿滿みちちち來來きててて入江入江いりえのののたづたづたずもももをしまをしまおしまぬぬぬほどほどほどのののあはれあはれあわれなるなるなるをりをりおりからからからなれなれなればばばにににややや、、、人人ひとめめめもももつゝまつゝまつつまずずずあひあひあい見見みまほしくまほしくまほしくさへさへさへおぼさおぼさおぼさるるる。。。「「「つゆけさつゆけさつゆけさのののむかしむかしむかしににに似似にたるたるたる旅衣旅衣たびごろもたみのたみのたみのゝゝの島島しまのののなななにににはははかくれかくれかくれずずず」」」。。。
- 10道道みちのののまゝまゝままにににかひかひかいあるあるある逍遙逍遙しょうよう遊遊あそびびびのゝしりのゝしりののしり給給たまへへえどどど御心御心みこころにににはははなほなほなおかゝりかゝりかかりててておぼしおぼしおぼしやるやるやる。。。あそびあそびあそびどもどもどもののの集集つどひひい參參まいれれれるるるももも上達部上達部かんだちめととと聞聞きこゆれゆれゆれどどど若若わかやかやかやかににに事事こと好好このましげましげましげなるなるなるははは皆皆みな目目めとゞめとゞめとどめ給給たまふふうべかべかべかめりめりめり。。。
- 11されどされどされどいでいでいでやややをかしきをかしきおかしき事事ことももも物物もののののあはれあはれあわれももも人人ひとがらがらがらこそこそこそあべけれあべけれあべけれ。。。なのめなのめなのめなるなるなる事事ことをををだにだにだに少少すこしししあはきあはきあわきかたかたかたににによりよりよりぬるぬるぬるははは心心こころとゞむるとゞむるとどむるたよりたよりたよりもももなきなきなきものものものをををとととおぼすおぼすおぼすににに、、、おのがおのがおのが心心こころをををやりやりやりてててよしめきよしめきよしめきあへあへあえるるるももも疎疎うとましうましうましゅうおぼしおぼしおぼしけりけりけり。。。
- 12かのかのかの人人ひとははは過過すぐしぐしぐし聞聞きこえええててて又又またののの日日ひぞぞぞよろしかりよろしかりよろしかりけれけれければばばみてぐらみてぐらみてぐら奉奉たてまつるるる。。。ほどほどほどにににつけつけつけたるたるたる願願がんどもどもどもなどなどなどかつがつかつがつかつがつはたしはたしはたしけるけるける。。。又又またなかなかなかなかなかなか物思物思ものおもひひいそはりそはりそわりてててあけくれあけくれあけくれくちをしきくちをしきくちおしき身身みををを思思おもひひい歎歎なげくくく。。。
- 13今今いまややや京京きょうにににおはしおはしおわしつくつくつくらむらむらんととと思思おもふふう日數日數ひかずももも經經へずずず御御おん使使つかいありありあり。。。このこのこのごろごろごろののの程程ほどににに迎迎むかへへえむむんことことことをををぞぞぞのののたまへたまへたまえるるる。。。いといといとたのもしげたのもしげたのもしげにににかずまへかずまへかずまえのののたまふたまふたまうめれめれめれどどど、、、いざいざいざややや又又また島島しま漕漕こぎぎぎ離離はなれれれ中中なかぞらぞらぞらににに心心こころ細細ぼそきききことことことやややあらあらあらむむんととと思思おもひひいわづらふわづらふわずらう。。。
- 14入道入道にゅうどうもももさてさてさて出出いだししし放放はなたたたむむんはははいといといと後後うしろめたうめたうめとう、、、さりとてさりとてさりとてかくかくかくうづもれうづもれうずもれててて過過すぐさぐさぐさむむんををを思思おもははわむむんもももなかなかなかなかなかなかきしきしきしかたかたかたののの年比年比としごろよりよりよりももも心心こころづくしづくしづくしなりなりなり。。。よろづよろづよろずにににつゝましうつゝましうつつましゅう思思おもひひい立立たちちち難難がたきききことことことををを聞聞きこゆゆゆ。。。
現代語訳
源氏は夢にもご存じなく、一晩中さまざまな神事をおさせになる。本当に神がお喜びになるに違いないことをし尽くして、これまでの御願にも加えて、めったにないほどに管絃の遊びをして夜を明かしなさる。惟光のような人は、心の中で神のご加護をしみじみとありがたいと思う。源氏がちょっと外にお出になった時に、お側に控えて申し上げた。「住吉の松を見ると、何よりも悲しく思われます。神代の昔のような日々を心にかけて思うと」。源氏は、なるほどと思い出しなさって、「荒かった波に迷った時に、住吉の神にお願いしたことを、決して忘れはしない。霊験があったのだ」などとおっしゃるのも、たいそうすばらしい。
あの明石の船が、この騒ぎに圧倒されて通り過ぎてしまったことも耳に入ったので、知らなかったことよと気の毒にお思いになる。神のお導きをお思い出しになるのも並々ではないので、ちょっとしたお手紙だけでもやって心を慰めたい、かえってつらく思っているだろうよとお思いになる。住吉の社をお立ちになって、あちこちで遊覧の限りを尽くしなさる。難波の御祓なども、とりわけ七瀬の祓として、厳かにお仕えする。
堀江のあたりをご覧になって、「今はた同じ難波なる」と、思わず口ずさみなさったのを、お車の近くにいた惟光が聞きつけたのだろうか、そういうお召しもあろうかと、いつものように懐に用意していた柄の短い筆などを、お車を止めた所で差し上げた。源氏はおもしろいとお思いになって、畳紙に、「身を尽くして恋い慕うしるしに、ここ難波でもめぐり会えたとは、二人の縁は深いのだなあ」と書いてお渡しになると、惟光は、あちらの事情を知っている下人を使いにしてやった。
明石の君は、源氏が駒を並べて通り過ぎなさるにつけても、心ばかりが乱れるのに、ほんのわずかなお手紙だけれど、たいそうしみじみと畏れ多く思われて泣いた。「人数にも入らない身で、何事もかいのない私なのに、どうして身を尽くしてあなたを思い始めてしまったのでしょう」。田蓑の島で禊をする御祓の幣に付けて差し上げる。
日暮れ方になってゆく。夕潮が満ちてきて、入江の鶴も声を惜しまずに鳴くほどのしみじみとした折だからだろうか、源氏は人目もはばからず会いたいとまでお思いになる。「涙で露っぽいことは、昔の旅と同じ旅衣だ。田蓑の島という名に隠れることもなく、袖は濡れている」。道すがら、かいのある遊覧や管絃の遊びで騒ぎなさるけれど、お心にはやはり明石の君のことがかかって、思いやっていらっしゃる。遊女たちが集まって参上したのにも、上達部と申し上げても、若々しく色好みの者は、皆目をおとめになるようだ。
けれども、さあ、おもしろいことも、しみじみとした情趣も、人柄によってこそあるものだろう。並一通りの恋でさえ、少し軽々しい方に寄ってしまうと、心をとめるよすがもないものなのにとお思いになるので、遊女たちが自分勝手に気取り合っているのも、うとましくお思いになった。
あの人(明石の君)は、源氏の一行をやり過ごして、翌日が日柄もよかったので、幣を奉納する。身分相応の願なども、どうにか果たした。またかえって物思いが加わって、明け暮れ、取るに足りない我が身を思い嘆く。今ごろは京にお着きになったろうかと思う日数もたたないうちに、お使いがある。近いうちに迎えようということをおっしゃっている。たいそう頼もしげに人並みに扱っておっしゃるようだけれど、さあ、また島を漕ぎ離れて、中途半端に心細いことになりはしないかと、思い悩む。
入道も、そのまま手放すのはたいそう心配で、かといって、このように埋もれて過ごすことを思うのも、かえってこれまでの年月よりも気苦労である。何かと気がひけて、決心しがたいことを申し上げる。
意訳
源氏は住吉で夜通し神事や遊びを催し、惟光と住吉の神への感謝の歌を交わす。明石の君の船が引き返したと知った源氏は、難波で「みをつくし」の歌を贈る。明石の君は感激して返歌する。
源氏は遊女たちにも心を動かされず、明石の君を思い続ける。明石の君は翌日改めて参詣する。帰京した源氏はすぐに使いを送って上京を促すが、明石の君と入道は決心がつかない。
語釈・文法注
- なゝ瀨
- 七瀬の祓。七か所の瀬で行う祓。難波の七瀬が名高い。
- 今はた同じ難波なる
- 「わびぬれば今はた同じ難波なる身をつくしても逢はむとぞ思ふ」(後撰集・元良親王)の一節。この歌が、源氏の「みをつくし」の歌の発想のもとになっている。
文法
- 願望の「ばや」(心慰めばや)
- 「心を慰めたい」。
- 過去推量の「けむ」(など…思ひそめけむ)
- 「どうして思い始めてしまったのだろう」。過去の事実の原因を推量する。
和歌
すみよしのまつこそものは悲しけれ神代のことをかけて思へば
- 詠者
- 惟光
- 状況
- 住吉で源氏に詠みかけた歌。住吉の松を見ると、何よりも悲しく思われます。神代の昔のような須磨・明石での日々を心にかけて思うと。
修辞
- 掛詞
- 「まつ」に「松」と「先づ」をかける。
荒かりし浪のまよひに住吉の神をばかけてわすれやはする
- 詠者
- 光源氏
- 状況
- 惟光への返歌。荒かった波に迷った時に、住吉の神にお願いしたことを、決して忘れはしない。
みをつくし戀ふるしるしにこゝまでもめぐり逢ひけるえにはふかしな
- 詠者
- 光源氏
- 状況
- 明石の君の船が引き返したと知って、難波から贈った歌。身を尽くして恋い慕うしるしに、ここ難波でもめぐり会えたとは、二人の縁は深いのだなあ。
修辞
- 掛詞
- 「みをつくし」に「澪標(水路の標識)」と「身を尽くし」、「えに」に「江に」と「縁(えに)」をかける。
- 縁語
- 「みをつくし」「え」「ふかし」は難波の海の縁語。
數ならで難波のこともかひなきになどみをつくし思ひそめけむ
- 詠者
- 明石の君
- 状況
- 源氏への返歌。人数にも入らない身で、何事もかいのない私なのに、どうして身を尽くしてあなたを思い始めてしまったのでしょう。
修辞
- 掛詞
- 「難波」に「何は」、「かひ」に「甲斐」と「貝」、「みをつくし」に「澪標」と「身を尽くし」をかける。
つゆけさのむかしに似たる旅衣たみのゝ島のなにはかくれず
- 詠者
- 光源氏
- 状況
- 明石の君を思って詠んだ歌。涙で露っぽいことは、昔の須磨・明石の旅と同じ旅衣だ。田蓑の島という名に隠れることもなく、袖は濡れている。
修辞
- 掛詞
- 「たみの」に「田蓑」と「蓑」、「なには」に「名には」と「難波」をかける。蓑という名がありながら、雨(涙)から隠れられない、という機知。
解説
巻名「澪標」は、源氏と明石の君が交わした歌に由来する。澪標は難波の海の水路を示す杭で、「身を尽くし」との掛詞として古来詠まれてきた。身分違いの恋に身を尽くす明石の君の思いが、この巻名に込められている。
住吉の神は、明石の巻以来、源氏と明石の君を結びつける存在として描かれている。明石の君が源氏の参詣にはばかって引き返しながらも、翌日改めて参詣するのは、住吉の神への深い信仰と、身の程をわきまえた慎み深さを示している。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、296–297頁(コマ151)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日